33.リン家の双子
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ワン氏が、少しだけ私の後方に控えるメイに視線を向けた後、落ち着いた口調で話し始めた。
<リン家。ホンスー東部の歴史ある武家の家門ですな。ホンスーは楕円形の形をしており、王都は中央から北部寄りにあります。そのため、王室の影響力の強い都市部と呼ばれる地域は、中央から北部に偏っており、西部と東部には古い因習が残っている状況です。これらの状況から考えると、東部のリン家を双子同伴で訪ねるのは危険を伴うと思われます。>
やっぱり双子の素性は調査済だったわね。
確かに、二人の名前は『リン・メイ』『リン・レイ』だと聞いているわ。
ワン氏の言うとおりなら、リン家にご挨拶に向かうなら双子の同伴はしない方がいいかもしれない。
でも、それでは双子を預かる身として、大切にしていることを確認して貰えないし、ご両親やお兄さんにも安心して貰えないだろう。
異国に娘二人だけで送り出した事だけでも、多大な心配をしているであろう方々に、安心して貰うにはどうするのが良いのか…。
それにしても、ワン氏の後ろの護衛…。
リン家の名前に反応したわね。
双子に対しての反応も良い物では無かったし、何か行動を起こす可能性があるわね。
カルロとお義父様にそっと目線を送ると、二人も気付いて居るようで、瞬きで理解していると示してきた。
<そうですか。大事な娘さん達を預かっているので、元気にしている様子を見て貰うのと、ご挨拶を兼ねて伺いたいと思っていたんですが…。お会いするのに、何か良い方法はありますか?>
そう聞くと、ワン氏が少し考えてから
<王都や都市部では偏見がありませんから、リン家の方々をそちらにご招待するというのは如何ですかな?宜しければ、王都や都市部に私が所有している別邸を滞在先としてお貸しいたしますぞ。>
素晴らしい提案だけど、商人がタダで所有物を貸してくれるわけがないわよね。
何を要求されるのか…うーん、いっそこちらから出せるカードを切ってみようかしらね。
<まあ!それは有り難いことですわね。我々には船がありますけど、ご家族をお招きするのであれば宿泊場所は必須ですもの。ホンスーにはまだ伝手がございませんから、お手を貸して頂けるならこんなに有り難いことはありません。>
<では、そのように致しましょうか。今後の連絡方法や具体的な日程についてはどうしますか。お互いに船で動き回っておりますからな。今回、この会談のお話もたまたまムリーノ王国の別の港の商人組合で、フェレーリ侯爵様からの伝言を受け取れて、さらにリモーネに寄港する予定があったから成立しましたが、こんな機会は本当に稀です。そのお陰で、話題の船に乗れた私はかなりラッキーでした!>
来た、来た!船の情報もだけど、大商人であるワン氏ならあの情報、欲しいと思うんだよね~。
ワン氏の大商人としての知識や経験は本物だ。
新しい知識や技術を偏見無く受け入れている様子も。
私が女性で子供であるということも関係なく、対等に話をしてくれる人柄も。
全てが今後もお付き合いを継続したい、するべきだと私に示してきている。
<ワン氏。より早く、確実に、連絡や情報のやり取りが出来る手段があると言ったらどうします?>
少し試すような言い方にはなるが、遠くに手紙を送るのに何ヶ月も掛かったり、人や場所に託した言伝が本人に伝わるのをひたすら待つ、そんな状況が当たり前のこの時代に、より早く、確実に連絡や情報がやり取り出来る方法あると言われたら…商人なら無視できないでしょうね。
実際、こう言われたワン氏は、珍しくキョトンとした表情をしている。
だが、そこはさすが大商人。
言葉を飲み込んで、それが意味することの重要性を理解したのか、大商人としての厳しい顔つきになり、こちらを鋭い目つきで見据えつつ質問してきた。
<より早く、確実に、ですか…。具体的にはどのくらい?>
<そうですね。ムリーノ王国のリモーネから、メーア王国のアンカーまで3~4日ってところでしょうか。>
<な!?……3~4日だって!!!?>
驚きのあまり立ち上がってしまったワン氏。
うんうん、わかるよ~。
<ふふふ。驚くのも無理はありません。ですがこの連絡手段は、現時点でメーア王国のバイエルン家とアイヒベルグ家、ムリーノ王国のフェレーリ家の三家で秘密保持契約の元で、秘匿している連絡手段になります。もし、お知りになりたい場合は、秘密保持契約を結んでいただくことが前提となります。>
秘密保持契約が必要な秘匿情報と聞いて、一気に頭が冷えたのか、驚き立ち上がっていた身体をゆっくりとソファに戻した。
<三家での秘匿情報。しかも秘密保持契約の元でとなると、王家に知られると権利を奪われかねない内容ということですな…。>
うん、さすがワン氏。すぐにそこに気付くのは凄いね。
そして、そんな貴重な情報を何故自分に開示しようとするのか、きっと分からなくて困惑しているね。
<ええ。仰る通りです。この情報を貴方に開示しようと思った理由はいくつかあります。一つ、貴方とは今後もたくさんの情報を交換して、交流を続けたいと思ったからです。旅の先達として話が聞きたいのはもちろんですが、これから旅を始める新米の私たちにとって、どの海域で海賊に襲われた、どの国で内乱が起きている、など欲しい情報がたくさんあります。お互いに別の場所にいる船同士が情報交換出来るとしたら、それぞれの安全性が飛躍的に向上すると思いませんか?>
<確かにそうだが…。その言い方だとまさか、その連絡手段は船上でも利用可能なのか…!?>
<ふふふ。その通りです。船から船への連絡が可能なのです。そして、もう一つ。いくつかお願いを聞いて欲しいことがあるからです。>
まあ、一つ目の理由がメインで、鮮度の高い情報を得たいという気持ちだったんだけど。
きっとワン氏にとっては、『欲しいものがあるから情報と交換ね』という形式の方が、商人として受け入れやすいだろうと、本当は別に伝えようと思っていたお願いも理由に含めてみた。
<なるほど、情報交換に関してはどちらにも利があることで、情報を開示して貰う対価にはなり得ない。お願いの方がメインでしたか…。この情報に見合うお願いとなると、聞くのも恐いですが、ここまで聞いて手を引いては大商人の名が廃ります!さあ、どんなお願いかお聞かせください。>
あら???大商人との繋がりと鮮度の高い情報だけでも、情報の対価になり得ると思ってたんだけど…。
なんか逆の解釈になっちゃってる?
まあ、確かに情報は相互のものだから、お互いに利があると言えば、そう…かな?
カルロに視線をチラッと向けると、私の言いたいことが分かるのか深く頷いている。
あ!!そっか、ワン氏からしたら最新技術の船を所有する貴族との繋がりと、自分には無い情報が得られるってことでメリットしかないから、これでは対価にはなり得ないってことか。
ん~、じゃあメインはお願いの方ってことで、頼みやすくなるかも!
ちょっとこちらからの要望が多すぎかと思ってたから、遠慮無くお願いしちゃお~っと!!
どんなお願いが出るのかと戦々恐々とするワン氏。
いくつお願いしようかな~とワクワクするマリーナ。
そんな二人を微笑ましく見守るメンバーと、険しい表情で俯く護衛。
なかなかにカオスなモントリヒトの応接室。
一体今度はなにが飛び出すのか…。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




