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言の葉の家へようこそ ~異世界の言葉がわかる転生令嬢、各国を巡る~  作者: 菖蒲月
第二章 邂逅編 ーひらかれる世界 ー

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32.ホンスーと双子

主人公の自国語は「」、は外国語は<>で表記しています。

さらに別の言語が出てくるときは{}で表記しています。

 狐と狸の化かし合いのような会話から始まったティータイム。


 ワン氏もひとまず『配膳用昇降機』について詳しく聞くことが出来たことで、船に乗ってから続いていた興奮が少し治まったようだった。


<いや、大変お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ない。本日はホンスーのことをお話するために呼んで頂いたというのに、私の我が儘を先に叶えてもらってしまった…。普段は商人として、自分の感情を優先するようなことはないのですが、この船に乗ってからというもの好奇心を抑えきれませんでした。>


 落ち着きを取り戻したワン氏が、申し訳なさそうにそう言うと、お義父様がニヤリと悪戯っぽく笑いながら返した。


<ワン氏よ、気持ちは十分に分かるぞ!俺もこの船に初めて乗ったときは、子供のようにはしゃいで船内をくまなく歩き回ったからな。それにたまに仕事でこの船を使わせて貰うんだが、数日乗るとより快適さが分かる。この船を知ってしまうと、知らなかった頃には戻れなくなってしまうのだ。ワン氏も覚悟した方がよいぞ。ちなみに、俺はすでに自分用の船をオーダーしてしまった!!>


 お義父様のその言葉にワン氏は驚いた顔をしたあと、くすりと小さく笑みを溢した。


<ははは。それは楽しみなような恐いような…。しかし、本来は知識を求めて招かれた立場で、目的を果たさないというのは許されるはずがないことなのに、マリーナ様は少しも嫌な顔をせずに、こちらの好奇心を先に満たして下さった。そのお心に報いるべく、これよりホンスーに関してのご質問には、誠意をもって答えさせて頂きます。何なりとお聞き下さい。>


 ワン氏は私が一般的なホンスーの知識だけではなく、より深い部分の何かを知りたがっていると気付いているようだ。


 さすが、世界を股に掛ける大商人ね。

 こちらが口にする前に、あらゆる情報からこちらが欲している物をちゃんと把握しているだもの。


 彼はそれに誠意をもって答えると言ってくれた。

 自身の利害に敏感な商人がそういってくれることは、大変珍しいことだ。


<ワン氏…。ありがとうございます。すでにご存じかと思いますが、私の元にはホンスー出身の双子の姉妹が仕えてくれております。これからホンスーへ赴く予定もあり、彼女たちの主人として知っておくべき知識があるのではないかと、お尋ねしたくお時間を取っていただいたのです。>


 私がそう言うと、いつもは気配を感じないほどに静かに控えているレイが、僅かに息をのむ音が聞こえた。

 

 まさか、自分たちに関する知識を欲しての場だとは思いもしなかったのだろう。

 彼女たちはこれまでの環境から、蔑ろにされることになれてしまっており、自分たちのために何かをしてもらえるなんて考えもしていないのだ。


 まあ、これは私の我が儘だ。

 自分の周囲にいる人間が、理不尽な理由で蔑ろにされているのを黙って見ている気はない、というだけなのだ。


 そう決意を込めてワン氏を見つめるが、一切表情を変えないワン氏とは異なり、ワン氏の後方に控えている護衛の表情が一瞬険しくなったのを視界の端に捉えた。



<ホンスー出身の双子の姉妹が、マリーナ様のお側で仕えていることは存じております。確かに、これからホンスーに向かわれるのであれば、知っておいた方がよい事もありましょうな。>


 そう前置きをして、ホンスーの双子に関する歴史と因習を教えてくれた。


 ホンスーで双子が不吉な象徴とされたのは、三百年前に双子の王子が王位を競って、国内を二分する泥沼の継承争いをしたことに起因している。

 

 国も民も疲弊し、国内情勢が乱れに乱れたことで、その原因となった双子の存在が、彼ら共通の『悪』となったのだった。


 それ以来、双子は生まれてすぐに引き離して、別な家庭で他人として育てるのが一般的となった。

 もちろん、隠して一緒に育てている家もあったが、長く隠しておける事ではなく、周囲からの心ない言葉や行いによって家庭が壊れてしまうことが多かった。


 そういう事が続いたことで、『双子=疫病神』のようなイメージが定着しているのだという。


 しかし、それも百年ほど前に王室に再び双子の王子が誕生したことで、流れが大きく変わることとなった。


 時の王様は『賢王』と呼ばれた人で、二百年ぶりに王室に生まれた双子の王子には意味があると考えた。

 『過去の出来事を悪い物として避けるのでは無く、繰り返してはならない歴史として学ばねばならない』と、双子に関しての因習を廃すると声明を出した。


 これにより双子だからというだけで、不当に虐げる行為は徐々に衰退していったかに見えた。


 でもこれはあくまでも表面的なことで、人々の中に二百年に渡って植え付けられた負の感情は、そう簡単に消える物では無かった。


 人は悪いことが起こると、何かのせいにしたがる生き物だ。

 これまでは、その矛先が双子という公に害しても咎められない存在に向けられてきた。


 しかし、王室からの声明によって急に不当な貶め行為を禁じられたことで、一体何が起こったのか。


 王室の目が届く、王都やその近郊の町や村では、王室からの叱責を恐れて、双子への忌避は少しずつ減っていき、現在では気にするものはほとんどいないのが現状だ。

 

 しかし、目が届かない地方では、都市部とは真逆の現象が起きていた。

 表には見せない裏側で、より凄惨な双子忌避が行われるようになってしまったのだ。


 王室も何とかしようと色々と模索しているが、地方には地方の強固な社会が形成されており、なかなか是正出来ずに頭を抱えているのだそうだ。



<なるほど…。確かに、二百年掛けて浸透した因習を、取り除くのは容易ではないでしょうね。ちなみに、私に仕える双子の実家にご挨拶に行きたいと思っていたのですが、ワン氏はどう思われますか?>


 ワン氏であれば、双子の素性もきっと調べているだろうという確信があったので、今回の大きな目的の一つである双子の生家について思い切って聞いて見た。

 


 私もメイとレイから生家について、少しは話を聞いている。

 場所は分からないが、双子の生家は割と裕福な地方の武家らしく、両親と跡継ぎの兄がいるそうだ。


 ワン氏の説明の通り、地方には双子の古い因習が残っており、当然双子の生家もその渦中にあった。


 しかし双子の両親や兄は、地方の武家には珍しく、周囲から隠して双子を大事に育て、とても可愛がってくれたのだという。


 双子の双心感応のギフトについてだけは、受け入れがたい恐さを感じていたようだけどね…。

(私だったら、自分の子供にそんな能力があったらワクワクしちゃうけどなぁ)


 だが、隠して育てるのも限界があり、双子が14歳の時に存在が明るみに出てしまった。

 双子に危害が加えられることを恐れた両親や兄が、懇意にしていた都市部の商人に双子を託して、ムリーノ王国に逃がしたのだそうだ。


(14歳ともなれば、美しく成長している頃だものね。女性としての尊厳を穢されるような恐れがきっとあったのでしょうね…)


 その後は、商人の手引きでリモーネとは別のホンスーとの交易が盛んな港に辿り着いた。

 武家の出身らしく武術の心得があった二人は、海兵へ志願するも女性であることがネックとなり、まともに相手をして貰えない日々が続いた。


 とりあえず、生きていくために様々な仕事をしたというが、女性というだけで侮られ、危険な目に遭うことも多かったと言う。

 

(二人が感情をあまり表に出さないのは、こういった経験も強く影響しているのかもしれないわね。まあ、目をみればある程度分かるから困ることは無いけどね。目は口ほどにものを言うって本当だもの)


  

 ワン氏も双子の生家の情報について思い出しているのか、少し考えた様子のあと、落ち着いた口調で話し始めた。

 

最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)

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