30.大商人との会談
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あの、何とも言えない和やかさと、不思議な連帯感を生み出したお披露目会から、早くも一ヶ月が経過した。
その間に、カルロと一緒に領地内の視察を繰り返し、お披露目会で知り合った令息・令嬢方と少しずつ交流を進めている。
気の合うお友達も数人出来て、リモーネでの滞在がますます楽しくなっていた。
◇◇◇
そんな充実した毎日を送っていたある日。
かねてより調整中だったホンスーの大商人との会談が三日後に正式に決定した。
ホンスーの裏も表も知り尽くしているというホンスーの大商人、ワン・インリー。
彼はフェレーリ家と長い付き合いのあるホンスーの大商人で、彼からホンスーの事を聞くための機会を設けて貰ったのだ。
彼は商人として世界中を飛び回っており、今回もタイミングが合わなければ、次にいつお互いのタイミングが合うか分からなかったので、ホンスーに向かう前のタイミングで彼から話を聞けるというのは非常にラッキーだった。
今後の予定として、来月には一度メーア王国に戻って、カルロとの婚約披露の社交を一ヶ月程こなし、その後は初航海を終えたモントリヒトのメンテナンスのために、一度アズリア王国に向かう予定だ。
そして、アズリア王国でのメンテナンスが終了したら、ホンスーへ。
ちなみに、私がリモーネに滞在中のモントリヒトは、船長ノーランとバイエルン商会代表のオットーを中心としたメンバーで、ムリーノ王国の港を回っている。
大型船なので停泊出来る港は限られるものの、新しい技術を搭載した船はどこの港でも注目の的で、間近で見られる機会という事もあって、大歓迎で迎えられているらしいわ。
その土地の特産品を買い漁っては、自国に取り入れられる要素は無いかと、みんなで熱心に研究しているので、たまに戻ってきたモントリヒトで寝泊まりすると、新しい技術や料理などがあって大変面白い。
まあ…正直な話、トイレとシャワーはモントリヒトの船室の方が現代日本の様式に近いので、すごく快適なのよね。
カルロの船室もあるから一緒に居られるしね!
カルロもこれから船の仲間になるので、船室に滞在するときは積極的に船員達とコミュニケーションを取っていて、もうすっかり馴染んでしまって凄いと思うわ。
小さい頃から実家の商船に乗っていたし、船員との接し方がとても自然で嫌みが無いので、みんなにも好印象を与えているみたいだ。
まあ、最初は私の婚約者ってことで、足手纏いのお坊ちゃんが来るのでは?と、みんなから厳しめに見られていたようだけど、心配するまでも無くあっという間に実力を証明して、みんなと打ち解けてしまったので、私の方が呆気に取られてしまったくらいよ。
カルロ自身も楽しそうに過ごしているから、もしかしたら柵の多い陸上での生活より、船での生活が好きなのかもしれないわね。
と、まあこんな風に、陸上での視察と社交、船上での滞在とみんなが仕入れてきてくれた新しい技術や品物の研究を繰り返している。
本当は私も一緒に船で港を回りたいところなんだけどね…。
それは今後いつでも出来ると涙をのんで我慢して、今回は自分のホームとなるリモーネでの地盤作りに専念している。
◇◇◇
ワン・インリーとの会談の日。
ワン氏からの希望で、モントリヒトの応接室が会談場となった。
仲介者としてお義父様が立ち会って下さることになっている。
フェレーリ家の家族は何度もモントリヒトに乗っているから、内部のことはとても良くご存じだ。
お義父様やパオロ義兄様なんかは、近場(数日~一週間程度)でのお仕事での移動に利用することがあるくらいで、その快適さに自分たち用にもう一隻造りたい!と騒いでいた。
まあ、バイエルン家でも男性陣が自分も欲しいって騒いでいたので、男子が新しい乗り物ではしゃいでしまうのは、時代も年齢も世界すら関係ない不変の真理なのかもしれない、と思わず感心してしまったわ。
もしかしたら、ワン氏もそんな感情からモントリヒトでの会談を希望したのかもしれないと考えると、少しだけ世界を股に掛ける大商人との会談に緊張していた気持ちが和らいだ気がした。
(もちろん、新しい技術に興味があるとか、商人らしい思惑もあるのでしょうけどね…)
◇
モントリヒトの甲板で、私とカルロ、お義父様が待機していると、タラップの近くに派手では無いが仕立ての良い馬車が一台横付けされたのが見えた。
馬車から降りてきたのは、大柄な40代くらいの男性だった。
燃えるようなと形容するのが相応しい鮮やかな紅色の髪が、獅子の鬣のように海風に遊んでいるのが、離れたここからでもよく分かる。
男性は一度眩しそうに船を見上げた後、堂々とした足取りでタラップを上がってきた。
貴族男性としては、割と体格の良いお義父様よりもさらに一回り全体的に大きい。
中国の伝統服である『漢服』に似たデザインの衣服を纏い、ガタイの良い護衛を二人従えてこちらに歩み寄ってくるその姿は、中国マフィアのボスにしか見えない…。
でも髪が紅いし、顔立ちはアジア人っぽい訳では無く、西洋人風の我々と目鼻立ちはあまり変わらないみたいだ。
西洋人の見た目で、漢服を着た大柄な男性…ちょっと前世の感覚で見ようとすると、脳が誤作動を起こしそうになるわね…。
ヤバイ…中国に観光に来て、現地の伝統服を着てはしゃいでいる西洋人に見えてきた…。
<ワン氏、お久しぶりです。今日は貴重な時間を割いて貰って感謝するよ。>
<フェレーリ侯爵様、ご無沙汰しております。こちらこそ、話題の最新船に乗せてもらえるなら、時間などいくらでも作りますとも!>
私が下らない妄想をしている間に、お義父様とワン氏が握手をしながら親しげにホンスー語で挨拶を交わしていた。
おっと、いけない!
こちらがお願いして機会を作って貰ったんだもの、少しの時間も無駄には出来ないわ…気を引き締めないと!!
<うちのカルロとは何度か会っているから知っているとは思うが、隣に居るのがカルロの婚約者で、メーア王国のバイエルン伯爵家長女マリーナ嬢だ。>
お義父様が、カルロと私を紹介してくれた。
今日は、なるべく言語による錯誤が出ないように、ホンスー語での会話をお願いしている。
<ワン氏、お久しぶりです。ようやく僕も船での旅に出ることが出来るようになるんです。貴方が話してくれた外の国の話を、今度は僕が自分で確かめてきますよ。>
<カルロ殿、ご無沙汰しております。少し会わないうちに、すっかり男性として成長されましたな。今度は、私がカルロ殿に色々と教えて貰うことになるかもしれませんな!!わっはっは。>
カルロとワン氏は面識があるため、親しげな挨拶を交わしていた。
カルロとの挨拶が一段落した頃を見計らって、私からも挨拶のために声を掛ける。
<ワン氏、お初にお目にかかります。カルロ様の婚約者で、メーア王国から参りましたマリーナ・フォン・バイエルンと申しますわ。マリーナとお呼びください。本日は、私の我が儘によりホンスーに関しての正しい知識を得る機会として、お時間を作っていただく事になりました。ご多忙の中とは存じますが、こんな機会はもう無いかもしれませんので、可能な限りお話をお聞かせくださいませ!>
現地の方から新しい知識を得られる機会こそワクワクするものはない。
言葉遣いは限りなく丁寧で、自分の我が儘で時間を取らせて申し訳ない…という気持ちは相手に伝わっているものの、それを上回るワクワク感で目がキラッキラしてしまっている。
そんなマリーナの様子にワン・インリーは、『噂には聞いていたが、何とも面白いお嬢さんだな』と、思っていたよりもこの会談は楽しめそうだと期待するのだった。
<マリーナ様、船へのご招待ありがとうございます。我がホンスーの事を知りたいと言って下さるその気持ち、大変嬉しく思います。このくらいは可愛い我が儘ですよ。私も話題の船を見せて欲しいと我が儘を言いましたからお相子でしょう。私自身も我が儘のために、一日たっぷり時間を取っておりますのでご安心ください。>
<まあ!ふふふ。お相子と言って下さるのね。この船の技術は特に秘匿しているものではありませんから、後でご覧になりたいところは全て見て頂いて構いませんわ。では、お互いの我が儘を満たすために、応接室に移動いたしましょうか。>
(さすが一流の商人ね。相手を不快にさせずに、警戒を緩めさせるのが上手だわ。もしかしたら人によっては、他からも知ることが可能なホンスーの知識と、現時点でこの船でしか使われていない最新技術を見聞きすることは、同等に語れないというかもしれない。でも、そんなのその人の価値観だし、私はお相子と言って貰えたことで、遠慮無くお話が聞けるから全然不快に思わない。必要なのはお互いが不快にならないってことだから、これが私たちにとっては正解ってことよね。)
私の楽しそうな様子に、お義父様とカルロは視線を合わせて苦笑していたが、そんなことには気付くことなく、意気揚々とワン氏を応接室に案内するのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




