29.お披露目会⑥
<はあ…貴殿からの婚約の申し込みは、既にキッチリと断わったはずだ。災害時の援助の見返りにと、最初はカルロに。それを断わればパオロでも良い、なんて馬鹿げた内容の婚約申し込みだったがな…。>
(パオロ義兄様が『えー、僕ついでみたいに申し込まれてるじゃん。これでも侯爵家の嫡男なのに…。』って小声でぼやくのが聞こえて、噴き出しそうになっちゃったわ!)
周囲の人達も、なんだ正式に断わられているんじゃないか、と改めて親子の正当性の無い主張に呆れていると。
<え!?『二人には自分で好きな相手を見つけさせるので、申し込みは受けない』とのお返事は頂きましたが、これはタチアナが見初められれば良いということでしょう?だから、お二人と仲睦まじい時間を共有したタチアナは、選ばれたのだと思ったのです。>
<<<<< はあ!!?? >>>>>
はい、更なるナゾ理論が展開され、良識のある皆様の頭上には『?』が大量に踊っております。
まあ、素直に読めばそう読めないこともない…かもしれない?内容ですが、貴族同士のやり取りでそれは有り得ません。
裏に隠された意味を読み取り、正しく解釈することは貴族としての必須スキルですから。
普通は、婚約の申し込みをしてあの返答が帰ってきたら、『貴方の娘は息子達のお眼鏡にかなわなかったので断わる』という意味に取るだろう。
貴族からの婚約申し込みへの返答としては、かなり乱暴に感じる内容だけど、さきほどお義父様が『馬鹿げた内容の婚約申し込み』と表したように、相手からの申し込みがすでに失礼な内容だったのであれば、この返答にも納得がいく。
周囲の人達も、そういった経緯ならそのくらい言って当たり前だな、という雰囲気のようだ。
まあ、流石にこの内容でも相手に意図が通じていないとは、お義父様も思っていなかったでしょうけど…。
<はあ…。どこをどう解釈して、貴殿の娘と息子達が仲睦まじかったと言っているのかも全く分からん。貴殿から婚約の申し込みがあった時点で、一応本人達と、交流の様子を見守っていた使用人達に話を聞いている。しかし、仲睦まじい要素が一つも無かっただけではなく、貴殿の娘の四歳とは思えぬ傍若無人ぶりに驚いたぐらいだ。息子達も絶対に嫌だと言っていたしな。>
(うわあ…。普通は四歳なら少しくらいは我が儘だったりしても、ある程度は子供には良くあることだと理解して貰えるけど、この感じだとそんなものでは無かったみたいね…。あら?でも婚約についてお義父様に確認されたのに、カルロは覚えてなかったのかしら?)
<[小声]ねえ、カルロ。婚約の申し込みを断わったこと覚えてなかったの?>
<[小声]うーん、彼女の場合は嫌悪感が先に来てしまっていたからね。それに婚約の申し込みだけならたくさんあったし、そっち方面は興味が無くて父上に任せていたしね。口頭で一言確認するだけとかだと、全部は流石に覚えてないなぁ。(それに、マリーナに会うまでは誰にも興味を持てなかったからね…)>
あらあら、さすが私の婚約者様はおモテになるわ。
まあ、確かに彼女のあの様子だと、行動や言動の方が衝撃が強そうだし、嫌悪感だけが焼き付いちゃった感じなのかもしれないわね。
そんなやり取りをカルロと小声で話していると、さらに大声親子は独自の解釈で話し始めた。
<それは…きっと、令息方は照れておられたのでしょう!タチアナは小さい頃から可愛らしさが飛び抜けておりましたからな~!!>
<やだわ、お父様ったら!本当のことだけど、皆さんの前でなんて恥ずかしいわ!!>
((((( いやいやいや、お前の恥ずかしいところはソコじゃない!!! )))))
あまりにも理解不能な事が続いたせいか、謎の連帯感が生まれた会場内の、心の声が一致した瞬間だった。
◇
異次元の存在に感じつつある大声親子に、会場内にはすっかり疲弊した空気が漂ってしまっていた。
せっかくのカルロとのお披露目会なのにな…と少し残念な気持ちになった、その時。
これまではお義父様に任せて黙っていたお義母様が穏やかに、しかし凛とした響きを持って声を発した。
<ベルトリーニ子爵、令嬢。貴方方の下らない妄想にこれ以上、私たちを巻き込むことは許せません。大事な息子と、可愛い義娘の大事なお披露目の場を台無しにした貴方方とは、今後一切の取引・交流は致しません。特に、義娘に暴言を吐き、私が贈ったピンクパールのアクセサリーを、平気で寄越せというような卑しい性根の方は、未成年と言えど見過ごせません。二度と顔を見たくありませんので、今すぐにご退場願います。>
あぁ…やっぱりお義母様もピンクパールの件をご存じだったのね。
社交の場で発言力のある方に、『二度と顔を見たく無い』と言われることは、社交界における追放宣言に等しい。
マナーとタブーによって絶妙なバランスで成り立っている社交界では、本来は未成年であれば多少の粗相は受け流してもらえる。
だから、まだ許されるうちに経験を積んで、成人後の社交で失敗しないように導くのが、同性の家族や近しい立場のものの役割となるのが一般的だ。
今回の件は、未成年だからと許してもらえる範囲を完全に逸脱している。
これは当然の措置と言えるわね…。
そして、我が家の対応を知った他の貴族家でも、同様の措置をとる可能性が高いので、結果的にどこの家からもお誘いが来なくなってしまい、社交界から締め出されることになる。(事実上の社交界追放)
お義母様の宣言に大声親子が揃って焦りの表情を浮かべ、何やら弁解のために口を開こうとしたが、
<もういい。これ以上、お前達の声は聞きたくないから喋るな。たった今より、ベルトリーニ子爵領からの人・物資は、フェレーリ侯爵領への立ち入り・通行を禁止とする。また、コスタ伯爵家への一切の接触も禁止とする。正式な通達は追って書面で送るが、貴殿ら親子は速やかに退領してもらう。>
お義父様がそう宣言し、警備の騎士達に大声親子を連れ出すよう指示を出した。
騎士達はすぐに動いて、有無を言わさずに彼らを会場外に誘導していく。
<お待ちくだされ、フェレーリ侯爵!誤解なのです!話を聞いてくだされ~>
<ちょっと、わたくしに触らないで!ケーキのお土産はくれるんでしょうね!!>
最後まで大声で騒ぎながら去って行った大声親子…。
会場のドアが閉まり、彼らの声が聞こえなくなると、みんなが一斉に大きなため息を吐いた。
<みなさま、招待客の中に貴族の振りをした貴族もどきがいたようです。当方の確認不足により、大変ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。しかし、本日はカルロとマリーナの婚約のお披露目という喜ばしい場です。メーア王国の珍しい料理やスイーツも新しくお出ししましたので、いま一度楽しい時間を共有出来たら幸いです!>
お義父様が仕切り直しの挨拶をすると、会場内は珍しい料理やスイーツの大盤振る舞いに『わぁ!!』と一気に盛り上がった。
貴族であっても、簡単には外国に行けないこの時代。
外国の料理やスイーツを食べる機会は、自分でその国に行くか、国境に近い貿易都市などで食べるくらいしか方法が無いので、こういった趣向のパーティーは喜ばれるらしい。
こんなに喜んでもらえるなら、もっとレシピをたくさん提供しなくちゃね!
(え?私が食べたいだけじゃないのかって?……そ、そんなこと、ないよ?)
その後は、お義母様とスイーツビュッフェを堪能しつつ、ご婦人方とスイーツ談義をしたり。
カルロと2人で同じ年頃の令息・令嬢方に囲まれて、婚約者との関係を維持する秘訣を教えて欲しいと熱心に訪ねられたり…。
(やっぱり、貴族や裕福な商人の家は政略的な結びつきも多いから、婚約者との関係に悩む令息・令嬢は多いんでしょうね。)
カルロも私も、もっと敵意を向けられることを覚悟していたんだけど、最初のお義父様の挨拶の時に感じていた『隙あらば』みたいな感じは、不思議なことに無くなっているみたい。
これはあの大声親子のお陰と言って良いのか…。
あの親子とフェレーリ家の対応を見ていて、入り込む余地無しとの判断になったってことらしい。
まあ、近隣の領地の貴族家(ベルトリーニ家以外)や、商人たちとは仲良くするに限るので、敵意が無くなったのは結果オーライって事ね。
お話した令息・令嬢たちとは、今度は婚約者を交えた交流会をしようということにもなったので、お義母様に色々と教えて貰いながら、準備をするのがとっても楽しみだわ!
こうして、大声親子に振り回されたお披露目会は、最終的にとっても和やかな雰囲気と、妙な連帯感を生み出して終了した。
ムリーノ王国の残り滞在期間二ヶ月。
自分の新しい居場所が出来たような安心感と、お友達が出来るかもしれない期待で、心地よい高揚感に包まれていた。
大声親子がなかなか退場してくれなくて、思ったより長くなってしまったお披露目会終了です。
次回からはムリーノ王国後半戦に突入致します。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




