24.お披露目会①
お披露目会のお話は6話あります。
もうすぐ最初のお客様が到着されるというタイミングで、お義父様とお義母様がいらした。
お二人とも今日の私の装いを、こちらが照れてしまうくらい褒めて下さった。
特にお義母様は、社交に慣れていない私を気遣う言葉をかけて下さって、実の娘のような扱いに心がくすぐったくなるような喜びを感じた。
父や母がいない場での社交は初めてなので少し緊張していたが、両親といるのと変わらない安心感を与えて下さるお義父様とお義母様には深く感謝した。
そういった様々な感謝や喜びの思いと共に、アクセサリーのお礼を丁寧に伝えたのだけど、
<やっと、娘にアクセサリーを贈る夢が叶ったわ。マリーナ、私の夢を叶えてくれてありがとう!>
と、逆にお礼を言われてしまった。
相手に気を遣わせない、押し付けがましくない、そんな優しさを自然と表すことの出来る女性として、心から尊敬すると共に、自分もそう言う女性になれるように努力したいと改めて感じた瞬間だった。
この人を「義母」と呼べる幸せで胸が一杯になった。
さあ、今日はカルロの婚約者として、正式にムリーノ王国内で認知される日になるわ。
カルロはモテそうだから、トラブルがあるかもしれないし、気を引き締めていかないとね!
本格的な社交は初めてだけど、両親と変わらない愛情を向けてくれる義父と義母、見守ってくれる義兄、そして何より隣で支えてくれるカルロがいれば、恐い物なんてないわ。
ドレスやアクセサリー、学んだマナーも私の武器となっている。
カルロの婚約者として、正々堂々と受けて立ちましょう!
◇◇◇
日中の暑さも和らぎ、夕方の穏やかな空気に包まれて、お披露目会が始まった。
全ての招待客が会場に入ってからしばらく、招待客はそれぞれ談笑をしていたが、フェレーリ家一同が壇上に上がると、一斉に静まった。
<本日は、当家の次男であるカルロ・ド・フェレーリと、マリーナ・フォン・バイエルンの婚約披露のための場に、ご参席いただきありがとうございます。幼い時から仲睦まじく、この先も共にいる覚悟をしっかりと持っている二人です。これからは、世界を舞台に活躍することになる二人の門出を、温かく見守っていただければと心から願います。>
お父様が開会の挨拶をしたことで、会場からは大きな拍手が響いた。
壇上からその光景を見ていると、様々な思惑が見えてくる。
実は、パーティーが始まる前に、お義父様から少しだけアドバイスを貰っていた。
<マリーナ。私が開会の挨拶をした後の招待客達の表情をよく見ておきなさい。礼儀として全員が拍手をするだろうが、その思惑は様々だ。素直に祝福しているもの、苦い思いを隠しているもの、邪な企みを抱えているもの…。それらが垣間見えるだろう。>
<表情ですか…。でも、貴族や商人はあまり相手に感情を悟らせないように、表情管理は出来ているのではないですか?>
<その通りだ。でもね、人は大勢の中の一人でいるとき、直接対峙しているときほどの緊張感を持っていない事が多い。開会の挨拶は全体へ向けたものだからね。まさか、大勢の中の一人である自分が見られているとは誰も思っていない。だから、表面に思いが滲んでしまうのだよ。そういう表情を自然に会場全体を見渡しながら、記憶に留めていくんだ。その時に、名前が分からなくても気にしなくて良い。その後の個人との挨拶で自ずと分かるからね。>
なるほど…。
確かに、大勢の中の一人である場合は、警戒心が緩む可能性が高い。
直接対峙する前に、ある程度の振り分けが出来るのならば、それに越したことはないわよね。
<お義父様。分かりました。上手く出来るかわかりませんが、頑張ってみます!!>
<ははは。我々がちゃんとフォローするから、練習だと思ってやってごらん。最初から完璧に出来てしまったら、親としての私たちの立場が無くなってしまう。もう少し頼れる親でいさせておくれ。>
<ふふふ。もちろん、とっても頼りにしていますわ、お義父様。>
そんなやり取りを思い出しながら会場を見渡すと、手前の方にいるフェレーリ家に近しい親族達や、領地内で要職に就いている者達など、私がこれまで交流した事がある方々は、概ね好意的な感情を表してくれているみたい。
その後方に位置する近隣の領地の貴族家は、特に大きな反応がないもの(何だか呆然としている?)と、苦い表情をしているものに別れているようね。
特に大きな反応がない家は、年頃の娘さんがいない家が多そうね。
ご子息と両親、もしくは夫妻のみだから、自分たちにはあまり関係ないって感じかもしれないわね。(それにしても、ご子息がボンヤリしている気がするけど…大丈夫かしら?)
逆に苦い表情の家は、カルロと年の近い女性を連れている家がほとんどだわ。
うん、娘さん自身が睨んでくる家と、家族揃ってキツイ視線を向けてくる家があるわね。
娘さんの個人的な思いか、家全体の意向かの違いってところかしらね。
なるほどね~。
ムリーノ王国の王家ですら私とカルロが不仲で、解消する前提の婚約だと思っていたようだから、近隣の領地の貴族家でも同様に思っていたのかもしれないわね。。
だから、不仲な様子を実際に確認して、隙あらば学園の入学前に自分の娘を近づけるチャンスだとでも思ったのかな?
お義父様のアドバイスのお陰で、どの家に気をつければ良いのかが、これである程度は分かったわね。
一通り確認して、隣にいるカルロを見ると、カルロもこちらを少し心配そうに見ていた。
<[小声]マリーナ、大丈夫?やっぱり変な家がいくつか紛れ込んでいるみたいだ。マリーナの事を邪な目でみるやつらは近づけないから安心してね。>
ん?私??カルロでしょう???
なぜか私が狙われているような事を言っているけど、狙われているのはあなたよ!?
もう!私がしっかり守らないとダメだわ!!
<[小声]私は大丈夫よ。心配なのはカルロじゃない。今日はずっと手を繋いでいましょうね!>
([カルロ心の声]ああ…マリーナは、そっちだけ拾ったのか…。確かに、僕とマリーナの不仲説を信じて不相応な事を考えていた家がいくつかあるみたいだけど、そんなのは僕も家族も相手にしないから問題じゃない。本当の問題は、年頃の令息を連れてきている家だ。王家に婚約の報告する際に、マリーナのギフトについても報告しているから、不仲ならギフト持ちを横取り出来るとでも考えたんだろうね。しかも、実際にマリーナを見た令息達が、マリーナの美しく可憐な姿に興味を示してしまった。誰が近づけるものか…マリーナが気付いて居ないなら、最後まで気付かせずに排除すれば良いだけだからね。うん、うちの家族も気付いてるね。フェレーリ家の至宝に簡単に触れられると思わないことだ…。それにしても、マリーナは僕を守ろうとしてくれてるんだね。ふふふ、協力して余計な虫たちを追い払おうね。)
<[小声]うん、ずっと手を繋いでいれば安心だね!(余計な虫が近寄る隙も与えないようにね…)>
そう言って手を繋ぎ、小声で話すために顔を近づけて、仲が良さそうに話している二人の姿は、どこからどう見ても仲睦まじい婚約者同士で、好意的に見ているもの達からは微笑ましいと見守られた。
そうでは無い者達は、聞いていた話と違うことで、様子見に転じるものと、変わらずに邪な思いを抱くものに別れたようだ。
いち早く様子見に転じたもの達は、まだ状況を読む力がありそうだが、ここに来るまで正しい情報を得られなかったことを考えると、貴族として情報の収集能力が低いと言わざるを得ない。
カルロとマリーナはこれまで特に隠すことなく、領内を仲良く回っていたし、ちゃんと調べれば不仲説が誤りであることは事前に知ることが出来たのだ。
こういった貴族としてのあらゆる能力が試されるのが、社交界。
改めて、社交界の奥深さと、自在に情報を操るフェレーリ家の能力の高さに、感服するマリーナだった。
はあ…私ってば伯爵夫人としてやっていけるかしら…。
お母様やお義母様みたいに出来る気がしないわ。
それでも、カルロとずっと一緒にいるって決めたんだから、努力は続けないとね!
まだ、甘えさせて貰える内にたくさん勉強させて貰おう。
そう、新たに決意を固めて、まっすぐに前を見据えるマリーナは、ドレスアップの影響もあって、とても輝いていた。
それによって、余計な虫が増えたような気がするのは、気のせいではないかもしれない…。
([パオロの心の声]ちょ…義妹よ!これ以上、カルロを刺激するのは危ないって…。うわぁ、カルロの目が据わってるよ。父上もあちゃぁ…って顔してるし…。うーん、カルロもマリーナも狙われるのはある程度想定してたけど、これは予想以上に多くなりそうだな。まあ、我が家が総力をあげて守るし、マリーナ自身も決して守られるだけの存在じゃないから問題にはならないだろうけどね。あとは、頼むからカルロの手を離さないでくれよー。カルロを制御出来るのはマリーナだけだからね!)
そんなパオロの心の叫びはマリーナには全く届かないのだが、幸運なことにパーティーの間、二人の手が離れることは無かったのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




