23.『はは』からの大いなる愛
あとはアクセサリーをつければ完成というところで、ノックの音が響いた。
エスコートの為に迎えに来たカルロだろうと、メイに視線を送って対応に出て貰う。
案の定、部屋に入ってきたのはカルロだった。
部屋に入ってすぐに、息をのんで動きを止めてしまったカルロ。
どうしたのかと心配したのも束の間、キラキラした笑顔になって足早にこちらにやってきた。
<マリーナ…。なんて素敵なんだ!このデザインにして良かった。(母上のデザインも悪くなかったけど、可愛すぎるデザインだったからなぁ。もちろんマリーナは何を着ても似合うんだけど、控えめなデザインを好むマリーナには、こっちの方が落ち着いた雰囲気とも合っていると思ったんだ)>
<ありがとう。カルロも正装がとっても似合ってる!すごく格好いいわ…。そ…それにこのドレス、カルロがデザインしてくれたって聞いたわ。すごく素敵なドレスをありがとう!>
いつもと違うビシッと決めた服装のカルロもすごく素敵で、何だか気恥ずかしくなってしまう。
そんな照れくささを隠すように、カルロの前でくるりと全身を見せるように回転して見せた。
カルロは眩しいものを見るように目を細めて、満足そうにその様子を眺めていた。
<マリーナ。本当は全部僕が用意したかったんだけど…。ドレスのデザインは僕に譲る代わりに、アクセサリー類は母上が用意するって聞いてくれなくてね。確認したら、ドレスにも合うものだったから、悔しいけど今回は母上に譲ることにしたんだ。今日はこれをつけてほしい。>
そう言って、カルロは手に持っていたアクセサリーボックスを開けて見せてくれた。
アクセサリーボックスには、ピンクパールのネックレスとピアスのセットが入っていた。
繊細なゴールドのチェーンと小粒ながら粒の揃った真珠のアクセサリー。
<まあ…なんて素敵なの…。>
<気に入ってくれて良かった。これは、母上がマリーナのために作らせたんだ。母上の実家の慣習で、娘が社交活動を始める頃に、フォーマルなアクセサリーを母親から娘に贈るらしいんだ。でも、我が家には娘がいないだろう?だから、僕と兄上のお嫁さんに贈りたいと思っていたみたい。>
ステフお義母様…。
カルロの婚約者となってから、第二の母のように接してくれていることは分かっていた。
実際に、婚約したのだから『お義母様』と呼んでと言われたこともあった。
それでも、正式な婚約者ではないと思い込んでいたので、踏み込みすぎないように『小母様』という呼び方でブレーキを掛けていたのは私だ。
きっとお義母様も分かっていて、見守って下さっていたんだわ。
このアクセサリーを見れば、どれほどの愛情を向けて下さっているのか一目瞭然だもの…。
前世では、真珠の養殖で粒や色の揃った真珠のネックレスやピアスは珍しく無かった。
でも、この中世ヨーロッパに近い時代背景のいま、粒や色が揃った真珠のアクセサリーはとてつもなく貴重なものだ。
<こんな貴重なものを…。お義母様にたくさんお礼を言わなくちゃ!!>
あまりにも大きな愛情に泣きそうになるけれど、せっかく綺麗にお化粧をして貰ったし、お義母様にも綺麗な姿を見て貰いたいので、グッと堪えて満面の笑みで答える。
<うん、母上もきっと喜ぶよ。さあ、仕上げて貰っておいで。>
そう言って、近くにいたレイにアクセサリーボックスを渡してくれた。
<ええ。少しだけ待っていてね。>
メイに促されてドレッサーの前に座り、髪型やメイクなどの最終調整をするとともに、レイの手によってアクセサリーが一つずつ私に飾られていく。
その様子を見ていたカルロは、
(はあ…悔しいけどすごく似合ってる。さすが母上だな。ずっと娘がいたら贈りたかったって言ってたから、今回ばかりは仕方ない…。これから贈る機会はたくさんあるしね。)
と、表面的にはにこやかに婚約者を見守っていたが、内心ではいかに遠慮させずに、マリーナにアクセサリーを受け取って貰うかの策略を練るので忙しいカルロであった。
◇◇◇
カルロのエスコートで、お客様をホスト側としてお迎えするためにエントランスに向かった。
エントランスにはパオロ様が先にいらしていた。
<うわぁ~マリーナ嬢、とっても素敵なレディになったね!(でも、この色は…。間違い無くカルロの仕業だな。はぁ…とんでもない独占欲だな。)>
パオロ様が褒めてくれたので、お礼を言おうとしたら、先にカルロが変なことを言い始めてしまった。
<兄上。マリーナはもともと素敵なレディですよ。こうやって着飾ることで、その魅力は何倍にもなりますけどね。(本当は勿体ないから兄上にも、誰にも見せたくないんだけど…今回は念入りに周囲を牽制しておかなくちゃいけないからね。我慢しなければ…。)>
<もう、カルロ!身内贔屓が過ぎるわよ…。パオロ様、ドレスもアクセサリーも素敵でしょう♪カルロとお義母様が贈ってくださったの!>
<あはは。ドレスもアクセサリーももちろん素敵だけど、マリーナ嬢自身もすごく素敵なレディだよ。カルロの隣に立てるのはマリーナ嬢だけだから、婚約者として堂々としていてね。(いやほんとに、比喩でも何でも無く、カルロの隣にいられるのはマリーナ嬢だけだよ…。離れたらカルロが何するか分からないし、頼むからカルロから離れないでね!!うわ…カルロがそれ以上余計な事を言うなって顔してるな…うちの弟、こわっ!)>
ん?褒めてくれてるのに、何だか必死そうなのは何でかしら???
よく分からないけど、つまりはカルロの婚約者として堂々としててってことよね。
<はい!正式な婚約者として堂々と隣に立てるように頑張ります。>
<うん、そのままでも大丈夫だと思うけどね…。そういえば、父上と母上は『お義父様・お義母様』呼びになったのに、僕だけ『パオロ様』なのは家族として寂しいよ…『兄様』って呼んで欲しいな!(うわ!カルロが睨んでる。でも僕だけハグも仲間外れなんだし、呼び方くらい良いじゃないか!)>
<!?…確かにそうですね。パオロ様のままじゃ他人行儀ですものね。じゃあ、『パオロ義兄様』ってお呼びしますね。私の事もマリーナって呼び捨てにしてください。>
そう言うとパオロ義兄様の表情がパアァと明るくなって、満面の笑みが広がった。
こんなに喜んでくれるなら、もっと早く呼んであげれば良かったな~なんて、マリーナが暢気に考えて居る裏では…。
<兄上。何を勝手なことを言ってるんですか!?>
<だって、僕だけ仲間外れはズルいじゃないか。ハグは我慢したんだから、呼び方くらい良いだろう?>
<どっちも嫌に決まってるじゃないですか!兄上はずっと他人行儀にされていれば良いんです。>
<なにそれ、酷い!!うぅ…うちの弟が兄を苛める…。>
<嘘泣きは止めてください!まあ、もう呼び方はマリーナが納得しちゃったみたいだから我慢しますけど…もう余計な事は言わないでくださいね!>
<全く…心が狭いねぇ。家族として、義兄として見守りたいだけなんだから、そう警戒するなよ。何はともあれ、マリーナと確かな関係が結べたようで良かったよ。おめでとう、カルロ。>
<ふぅ…兄上の事は信頼してますけど、男という生き物がマリーナに近付くと、拒否反応が出てしまうのは止められないし、そもそも止めるつもりもないので諦めてください。でもまあ……ありがとうございます。>
パオロとカルロの兄弟間でコソコソと、そんなやり取りがあったのだった。
今話のタイトルの『はは』は『義母』のことでした。
ピンクパールの石言葉は「辛抱強い愛」で、愛情や優しさ、女性的な魅力を象徴します。
母性や出産の象徴としても知られ、妊娠や安産のお守りとしての意味も持っているそうです。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




