21.シロツメクサの約束
リモーネの町と港が一望出来るひまわりの丘で、カルロと『結婚前提の恋人兼婚約者』になったマリーナです。
もちろん、これまでだって婚約者だったんだけどね。
私は、お互いに正式な相手が見つかるまでの虫除けだと思っていたから、解消前提って感じだったものね。
だから『結婚前提の恋人兼婚約者』っていうのが、カルロの中で重要みたい。
いま思えば、無意識に気持ちにブレーキを掛けていたんじゃ無いかと思うのよね…。
カルロには相応しい相手がいつか現れるんだから、その時までは信頼出来るパートナーでいなきゃって強く思い込むことで、その時が来ても自分の心を守れるようにガードしていたんだわ。
だけど、ムリーノ王国に来てからのカルロの態度や行動から、自分に向けられる好意を感じる度に、そのガードは徐々に壊れていった。
そして、剥き出しの心で受け取ったカルロの言葉は、私にこれ以上の誤魔化しを許してくれなかった。
カルロに相応しい相手がいつか現れる?
それまでは信頼出来るパートナーでいたい?
これがいかに詭弁であったか…。
本当は誰にもカルロを渡したくない!
カルロが別な誰かを大事にしている所なんて見たくない!
そうどこかで思っていたくせに…。
ええ、そうね。
いまなら分かるわ。
カルロが誰より大切で、大好きで、誰にも渡したくないんだってこと。
前世で大人だった筈なのに、自分の気持ちに気付くのが遅いのよ…。
でも、カルロが素敵な告白をしてくれたから、ちゃんと気持ちと向き合えたしハッキリと自覚もできた。
これからは、『結婚前提の恋人兼婚約者』だもの。
最期のその時まで、素敵な旅をしましょうね!
◇◇◇
時間にして30分くらいかな。
カルロと丘の頂上で色々な話をした。
この丘はリモーネの町と港の防衛上の意味で、領主の直系家族とその同伴者以外は、立ち入りが禁止されている場所だということ。
その他に、このリモーネの町と港が一望出来る場所で、領主の直系家族が生涯の伴侶となる相手に、愛を告白する場所になっているみたい。
アレッシ小父様も、ここでステフ小母様にプロポーズしたんですって!
『この素晴らしい場所を一緒に守って欲しい』
っていう意味を込めてここでプロポーズする方が多いんだとか…素敵よね。
カルロは、私と婚約する前は自分には関係のない慣習だと思っていたみたい。
でも、私と婚約して生涯の伴侶として定めた時に、自然とここでのプロポーズを想像したんですって。
そんな自分に驚きつつも、『ああ、自分もちゃんとフェレーリ家の直系なんだな』って感じて嬉しくなったって。
それに、お披露目の前にここで私と過ごしたいって小父様と小母様に相談したら、すごく喜ばれたらしい…。
帰ったら間違い無くからかわれるわね。
特にいつもカルロにお小言を言われているパオロ様は嬉々としてからかってきそうね。
まあ、きっと私の鈍さ具合に周りにも心配を掛けたと思うし、すごく照れくさいけど甘んじて受け入れましょう…カルロと一緒にね!
それにしても…カルロは婚約した当初から、私を生涯の伴侶と決めてくれていたのね。
でも、決してそれを私に強要してきたことは無いし、私の気持ちが整うまで静かに隣で見守ってくれていた。
こうやって、後から気付く優しさや気遣いが多くて、それに気付く度に降り積もる雪のように、私の中に好きが満たされていった。
あぁ…私、カルロがほんとうに大好きだわ…。
あまりにも静かに、だけどこんなにしっかりと降り積もった気持ちに、気付かないなんて私もダメね。
これからは、カルロにもたくさんの好きとありがとうを返していかないとね!
そう改めて決意を固めていると、左手に違和感を感じた。
見てみると、左手の薬指にシロツメクサで作った可愛らしい指輪がはまっている。
<マリーナ。シロツメクサには『約束』って花言葉があるんだ。本当は婚約指輪を用意したかったんだけど、母上にこれからまだサイズが変わるから、もう少し大人になってからにしなさいって言われてしまって、用意出来なかったんだ…。ちゃんとしたのはもう少しだけ待ってくれる?>
しゅんと落ち込んだ様子でカルロが言った。
<もちろん!シロツメクサの約束ね…素敵だわ。確かにまだ子供だから、指輪はサイズが変わっちゃうものね。今度お揃いで、いつもつけていられる婚約アクセサリーを考えましょう?>
そう言うと、カルロの表情がパアァと明るくなった。
<それは素敵なアイディアだね。お揃いで、いつもつけられるアクセサリーか…。一緒に考えてみよう!>
<<ええ[うん]、誰が見てもカルロ[マリーナ]は私[僕]のパートナーだって分かるのが良いわ[ね]。>>
<<!?>>
お互いに同じことを考えていたことに驚いた表情をしたが、すぐにどちらからともなく笑い出した。
<ふふふ。>
<あはは。>
しばらくお互いの顔をみて笑っていたけど、ふとカルロが真剣な表情でこちらを見つめた。
<ねえ、マリーナ。もし…いや万が一、僕以外の誰かを好きになってしまったら、隠さずに教えて欲しい。耐えがたいことだし、あって欲しくはないけど、この世に絶対は無いと思うから…。手を放してあげられるかは、その時になってみないと分からない…。でも、僕は誰よりもマリーナの幸せを祈っているから、最終的な決断は何となく分かる気がしているんだ。もちろん、僕以外が目に入らないくらい一緒にいるし、大切にするつもりだからそれも覚悟してね。>
<ふふ。分かったわ。でも、それはカルロにも言えることよ?もしも…カルロが私以外の女性に惹かれたなら、ちゃんと教えて欲しい。すごく悲しいし、辛いと思うけど、私はお互いの幸せのためにきっと最良の選択をするわ。だけど、そうならないようにカルロに大好きっていつも伝えるわ。カルロこそ覚悟していてね。>
<はは。楽しみにしてるよ。さて、そろそろみんなが心配しているだろうから戻ろうか。お手をどうぞ、結婚前提の恋人兼婚約者さん。>
<そうね、きっとみんな心配してるわ。いつも手を繋いでいてね、結婚前提の恋人兼婚約者さん。>
二人で同じ景色を見ながら、手を繋いで歩く。
この先の未来へと、この道がずっと続くと信じて。
◇◇◇
思ったよりも時間は掛からずに、馬車の所まで戻ってきた。
行きは途中から目を閉じて歩いていたので、時間が掛かっていたのかもしれないわね。
案の定、みんなが心配していた。
事前の確認で危険は無いと分かっていても、普段から側にいる従者や護衛達は落ち着かなかったんでしょうね。
私たちが無事に戻ってホッとした様子を見せていた。
それに、私たちの様子から今までと雰囲気が違うことも感じたのか、どうもみんながニヤニヤしている気がする…。
そっか、みんなも気付いていたのね。
まあ、仕える主人の恋愛模様なんて、口出しできないでしょうし、さぞかし気を揉んだことでしょう。
申し訳ないことをしたと思うけど、きっと私には必要な時間だったと思うから、許してちょうだいね。
こうして、周囲をやきもきさせた私とカルロの関係は、将来を約束した恋人兼婚約者という形に収まった。
明日のお披露目会では、正式な婚約者として紹介される。
これからカルロの隣に立つための第一歩。
今朝までとは違った意味で、お披露目会が楽しみになったわ。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




