20.あなただけを見つめる
___カルロが好き。
そう気付くと、隣に感じるカルロの体温が、息づかいが、この世の全てのように感じる。
自身の全てを委ねられる人だという事実に、心よりも先に身体が理解していたのだわ。
私ったら、恋愛方面は全然ダメね…。
カルロが他の女性とハグするのが嫌だなんて、好きだって宣言しているようなものじゃない!
本人に向かって言っちゃうあたり、中身がお子ちゃまだって思われてるかもしれないわね…。
そんなことにも気付かずに、自分の気持ちが分からない~なんてカルロを避けてみたり、カルロの色を纏うことを恥ずかしく感じたり…。
思い返してみても、穴があったら入りたいくらい恥ずかしいわ…。
カルロはいつだって紳士的だから、こんな内面お子ちゃまな私でもレディ扱いしてくれる。
だけど、いつか嫌になっちゃうかもしれないわ。
だってカルロは優しくて、気配りも出来るハイスペック男子だもの。
(恋する乙女マリーナは、先日パオロに言われた『カルロはマリーナだけが特別。身内や親しいもの以外には無表情。』という話をすっかり忘れている模様…。恋する乙女の内面はジェットコースター。by天の声)
私より二年先に学園に入学するカルロは、きっと学園でもモテモテよね。
あの王女様だって、カルロの一歳年上らしいから、同じ学園に通うことになるだろうし、可愛らしい王女様からの猛アタックに負けちゃうかも…。
そんなのは嫌だわ。
カルロの婚約者は私だもの!
そんなことを悶々と考えながらカルロの誘導で歩いていたので、かなり長い時間歩いていたように感じたけれど、ほとんど疲れも感じていないので、実際は五分くらいだったのかもしれない。
<マリーナ、着いたよ。ゆっくりと目を開けてごらん。>
カルロに促されて目を開けた私。
俯き気味に立っていたので、目を開けてまず視界に飛び込んで来たのは、足元に広がる一面のひまわり。
少し目線をあげると、丘を下った先に広がるリモーネの町と港。
そして、その先に大きく広がる海。
今日は良く晴れているので海の向こうには、西大陸がうっすらと見えている。
<なんて美しいの…。>
<リモーネが一望出来るこの丘は、フェレーリ家の直系とその同伴者のみが立ち入りを許可されているんだ。>
<ええ、この眺望ならそうなるのも納得だわ。>
恐らく、港も含めて町を一望出来てしまうから、防衛の意味でも他者が立ち入れないようにしているのでしょうね。
ここからは町の重要な施設も、港に停泊している船の数も、何もかも見えてしまう。
戦いに勝つためには、相手の情報をより早く、より正しく知る必要がある。
攻めるにしても、守るにしても相手の情報をより知っているものが勝つのだから。
<やっぱり、マリーナならすぐに分かってくれると思ってた。でも、この場所にはそういった意味以外にも、一族のものにとって大切な場所なんだ。>
そう言うと、カルロは私の前で静かに片膝をついた。
そして、私の両手を宝物のように掬い上げて持ち、まっすぐにこちらを見上げてきた。
こちらを見上げるカルロの瞳が、いつになく真剣で、私は息をのんだ。
<カルロ…?>
<マリーナ。君は僕の一番の友達で、勉強においては追いつきたい人で、あらゆるものから守ってあげたい婚約者だ。>
<うん…。>
<だけど僕は欲張りだから、他の立場も全部欲しいと思ってしまうんだ。>
<全部?>
(一番の友達で、勉強の良きライバルで、婚約者なだけではなく…???)
<そう、全部。恋人になってデートしたい、離れる心配のない本当の婚約者になりたい、結婚して夫婦で世界中を旅したい、死が別つその時まで一緒にいたい…。そう君の最期の時間まで共にいられる権利を望んでしまうくらい、マリーナのことを愛している…。>
<愛してる…?カルロが私を?でも…。>
カルロの瞳は真剣で、とても嘘を言っているようにはみえない。
でも…ほんとうに?
カルロはまだ12歳だし、これから世界を回る旅にも出る。
さらに3年後には学園に入学するから、理想の女性に出会う可能性だってある。
そう思って、嬉しいはずのカルロの言葉を素直に受け入れられない私がいる…。
<マリーナが何を心配しているのかは分かっているつもりだよ。これから出会う女性の中に心惹かれる人がいるかもしれないと思っているんじゃない?>
<!?……なぜ、分かったの?>
<僕も同じことを考えたからだよ。マリーナだってまだ10歳だ。これから世界で、学園で素晴らしい出会いがたくさんあると思う。もしかしたら、マリーナが心を奪われてしまう人が現れるかもしれない…。でもね、僕はこれから出会う誰にもマリーナと一緒にいる権利を渡したくないし、誰に対してもマリーナの人生のパートナーであると主張したいんだよ。僕は欲張りだからね。マリーナに関することでは、一欠片も譲りたくないんだ。>
カルロも同じことを考えたの?
そっか、私だけじゃ無かったんだ…。
私も一応伯爵令嬢だし、ギフト持ちだから、確かに目をつけられることはあるかもしれないわよね。
だけど、私がカルロ以外の誰かと一緒に居るようになる?
……ダメだわ、全く想像が出来ない。
だって、カルロより優しくて、私のことを理解してくれて、やりたいことを一緒にやってくれる人なんて…いると思う?
カルロと恋人になる…考えただけで、すごく恥ずかしいけど、でも嬉しい…。
カルロと夫婦になって世界を旅をする…絶対に、楽しいわ!!
死が別つまで側にいたい…ええ、そうね。その時まで手を繋いでいたいわ。
そっか…。
カルロも同じように考えて、想像して、悩んで、それでも譲れない思いがあった。
そして、カルロは覚悟を決めてくれたんだね。
それなら、私も譲れないもののために覚悟を決めないとね!
<ありがとう、カルロ。きっと、私が最近悩んでいたことにも気付いていたんでしょう?私ったら言語や文化以外のことになると、まだまだお子ちゃまで…自分でも自分の気持ちが分からなかったの。だから、カルロを避けるような行動をしちゃったんだけど、その時点でもうほとんど答えは出ていたんだわ…。>
<うん。僕を異性として意識してくれたんだよね?でもそれは、僕がそうアプローチした結果でもあったから嬉しかったよ。でも、まだマリーナは自覚していないようだったから、今回は僕の覚悟だけでも正式なお披露目の前に、ちゃんと伝えたいと思ったんだ。でも…マリーナ…期待しても良い?>
さっきまでの強い決意を込めた視線とは違う。
自信なさげで、でも少し期待しているような複雑な色を宿した瞳で、こちらを見上げているカルロ。
ふふふ。あんなに強気だったのに、何だか可愛いわ。
<ええ、私もカルロ以外のパートナーは考えられないって、ハッキリと分かったわ。未来のことを含めて一緒に居たいと思えるのはカルロだけだもの。最期の時まで手を繋いでいてね。大好きよ、カルロ!>
<!?……マリーナ!!!>
<…きゃっ!>
私の言葉を聞いたカルロは、弾かれたように立ち上がり、私を思いっきり抱きしめた。
いつものハグのような軽いものではなく、しっかりと抱き込まれていて、驚いて見上げた先に、カルロの蕩けそうな笑顔があった。
カルロの喜び溢れる抱擁に、私も心が浮き立つような喜びを感じて、だけど同時になぜか少しだけ泣きそうになってしまった。
<マリーナ、僕も大好きだよ。最期まで手を放さないと約束する!これからは、結婚前提の恋人兼婚約者だね。>
<ふふ。急に肩書きが増えたわね!>
<はは。僕たちには一生分の肩書きが必要だからね。結婚したら違う肩書きになるし、その時その時の二人の関係を楽しんで行こう。>
<そうね。とっても楽しそうだわ!>
お互いを大切なもののように抱きしめて未来の話をする二人を、一面のひまわりだけが見守っていた。
今話のタイトルの「あなただけを見つめる」は、ひまわりの代表的な花言葉です。
他にも「情熱・愛慕・憧れ・あなたを幸せにします」という花言葉も素敵ですよね。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




