19.閉じた瞳で、見えた気持ち
カルロから見せたい場所があるとのお誘いを受けて、目的地への移動中の馬車の中にいるマリーナです。
馬車内には、私とメイ、カルロとフリオ、それぞれが隣同士で座っている。
向かいに座っているカルロは終始にこやかな表情でこちらを見ているが、見られている私としては恥ずかしくて仕方がない。
カルロは馬車に乗ってからずーっとこんな感じだ…。
◇◇◇
出掛ける支度が出来たので、全身がカルロ色である気恥ずかしさを堪えて玄関へ向かった私。
先に来ていたカルロは、私の姿を目にして息をのんだまま…動かなくなってしまった。
似合わないって思われたかな…?
カルロのイメージと違っていたのかもしれない…。
そんなネガティブな感情に支配されそうになって、少し沈んだ表情になってしまった。
それに気付いたフリオが、固まって動かないカルロを見て<んんっ!!>と、少し態とらしい咳払いをした。
その音に、カルロは自分が固まっていたことに気付いて、少し慌てた様子で近づいてきた。
<…マリーナ。想像していた以上に素敵でびっくりした…。誰にも見せたくないくらいだ!!(本当に誰にも見せたくないよ…僕の色を全身に纏ったマリーナが可愛すぎる!!)>
そういって、いつもより強めのハグをしてくれたので、少しホッとして力を抜いた。
<カルロ、ワンピースとアクセサリーをありがとう!すごく素敵で嬉しいんだけど、素敵すぎて私が着こなせるか心配だったの。…似合っているかしら?>
<もちろん!マリーナをイメージして作らせたんだから、マリーナ以外に似合う人なんていないよ。さあ、誰よりも素敵なレディ。僕と一緒にお出掛けして頂けますか?>
私以外に似合う人がいないって言うのは言い過ぎだと思うけど、カルロにそう言って貰えてすごく嬉しい。
過剰な程の賛辞と、気取った様子でのお誘いに、少しだけ強張っていたマリーナの顔に穏やかな笑みが戻った。
<ふふふ。ええ、素敵な紳士様。ご一緒致しますわ。>
こちらも合わせて気取った貴婦人のように答えると、カルロが破顔して手を差し出した。
そのまま、馬車まで丁寧にエスコートしてくれて、お姫様のように馬車に乗せてくれた。
それからずっと、カルロは私の姿を眺めながらニコニコしている。
<カルロ、今日はどこに連れて行ってくれるの?>
恥ずかしさに耐えきれ無かった私は、そういえば今日の目的地を聞いていなかったと思って訪ねてみた。
<着いてからのお楽しみだよ。とっておきの場所だから楽しみにしていてね!>
だけど、そう言って悪戯っ子のように笑ったまま教えて貰えなかった。
まあ、カルロが変なところに連れていく訳がないし、楽しみにしてって言うなら楽しみに待ちましょうか。
◇◇◇
リモーネから馬車に揺られること約一時間。
馬車が着いたのは、リモーネから北東に位置する小高い丘の上。
夏の暑さが厳しいフェレーリだけど、少し標高が高いせいか涼しい風が吹き抜けている。
馬車からカルロのエスコートで降りると、まず目に入ってきたのは一面のひまわり畑。
<素敵…。>
風に揺れる一面のひまわり。
どこまでも続く青い空。
この場に自分が立っていることが信じられないくらいの景色に、何も言葉が出てこなかった。
カルロはそんな私を急かすことなく、側にいてくれた。
言葉も無く、一面のひまわりに見入っていた私だったが、少し気持ちが落ち着いてほぅと息を吐いた。
<マリーナ、気に入ってくれた?今が一番の見頃なんだ。>
<ええ、素晴らしいわ…。この場に自分が立っているのが信じられないくらい素敵な景色ね。>
<気に入ってくれて良かった。絶対にマリーナと一緒に見に来たかったんだ。>
<カルロ、連れてきてくれてありがとう!一緒に見られてとても嬉しいわ。>
そう言うと、カルロは本当に嬉しそうに微笑んだ。
<実は、もう一つ見せたいものがあるんだ。少しだけ歩くけど大丈夫?>
<ええ、大丈夫よ。>
カルロがエスコートしてくれながら話してくれた説明によると。
この丘はフェレーリ家で管理している丘で、普段は誰も立ち入らない。
フェレーリ家が特定のタイミングで利用するので、管理人が丘の麓に常駐して管理している。
先ほど馬車を降りた場所は、丘の八分目あたりで、馬車が入れるのがあそこまでとなっている。
その先は、フェレーリ家のものが同行していないと入れない場所で、徒歩でしかいけない。
そして、丘の頂上こそが今回の目的地となるらしい。
ここから先はフェレーリ家のものと、その同伴者のみが赴ける場所ということで、双子やフリオ、護衛達も連れず、カルロと私の二人だけで向かう。
双子や護衛達は難色を示したが、バイエルン・フェレーリ両家の当主から了解を得ていると言われてしまえば、引き下がらざるを得ない。
<マリーナ、足元が不安定だから慌てずにゆっくり行こう。転びそうになっても僕が支えるから、しっかり掴まっていてね。>
<ええ、ありがとう。このためにいつもより踵の低い靴だったのね。カルロ、色々と配慮してくれてありがとう。>
<どういたしまして。でも、マリーナはそうやって小さなことでも気付いて、ちゃんとお礼を言ってくれる。それが嬉しくて何でもやってあげたくなっちゃうんだ。>
<まあ!これ以上、カルロが何でもやってくれたら、何にも出来ないお姫様になってしまうわ!私は、カルロと一緒に何でもやりたいから、あんまり甘やかさないでちょうだいね!>
<ふふふ。それはどうだろう。普段はしっかりしているマリーナを甘やかすのは、婚約者である僕だけの特権だと思ってるからね。(マリーナが何も出来ないお姫様になることはあり得ないけど、僕に依存してくれるのは大歓迎だもの、もっと甘やかさないとね…)>
カルロなら本当にやりそうよね…。
これ以上、カルロに甘やかされたら、カルロがいないとダメになりそうで怖い。
カルロが私たちの婚約についてどう思っているのか。
今後どうしたいのか。
そろそろちゃんと確認しないとダメかもしれないわね。
そうすることで、私たちの関係が変わってしまうかもしれないけど…。
<もう!程々でお願いします。それにしても…風が気持ち良いし、ひまわりも綺麗だし、すごく贅沢な散歩をしている気分ね!>
<…そうだね。僕たちはどうしても護衛や従者を連れての行動が当たり前だから、二人だけでの散歩なんてほぼあり得ないからね。屋敷内の庭園を散歩するにしても、使用人や各所に配置された護衛の視線は必ずあるものだしね。>
<うん、貴族として必要な事だと分かってはいるんだけどね。>
<さあ、もうすぐ頂上に着くよ。ここからは僕がマリーナの身体を支えていくから、少し怖いかもしれないけど目を瞑ってほしい。>
カルロが少し心配そうな表情をしている。
私が嫌じゃないか心配なのね。
カルロが私の嫌がることや、怪我をするようなことをさせるはずが無いのは、誰よりも私が良く知っている。
だから、私は少しも迷うこと無く、目を閉じて、身体をカルロに委ねた。
カルロが少し息をのんだ気配がしたが、すぐに私の身体を支えるように移動した。
<マリーナ、身体に触れるから驚かないでね。>
(マリーナ…。目を瞑って身体を委ねることに全く躊躇が無かった。もちろん、僕を信じてくれているだろうし、少しは躊躇しても最終的には身体を委ねてくれるとは思っていた。だけど…マリーナは一瞬も迷わなかった。これが何を意味することなのか…都合良く考えてしまいそうだよ。まったく、いつも僕を自然と喜ばせるんだから…敵わないよね)
<うん、大丈夫よ。>
そう言うと、カルロは私の左後方に立ち、右手で後ろから腰を支えるように支えてくれた。
互いの左手は、指を絡めたつなぎ方(いわゆる恋人つなぎ)でしっかりと繋がれた。
抱きかかえられるような体勢に、全体的に安定感はあるものの、思わぬ密着度に驚いて目を開けそうになってしまったわ。
だけど、そのままカルロに促されて歩き出してしまったので、転ばないことに集中していたら、いつの間にか気にならなくなっていた。
視界を閉じている状況は、歩き出した時は足元が確認できなくて少し怖かった。
でも、それも安定感のあるカルロのエスコートによって、あっという間に払拭されて、いまは少しも恐さを感じていない。
かえって、五感の一つを閉じているいま、風の音、ひまわりの匂い、そしてカルロの体温、それらを強く感じる。
そっか…。
分かったかもしれない。
なぜ、見えない状況で歩いているのに怖くないのか…。
だってカルロが隣にいるんだもの。
私って、見えない状況でもカルロがいれば怖くないんだわ。
やっと分かったわ、自分でも良く分かって無かったこの気持ちが何なのか。
___カルロが好き。




