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言の葉の家へようこそ ~異世界の言葉がわかる転生令嬢、各国を巡る~  作者: 菖蒲月
第二章 邂逅編 ーひらかれる世界 ー

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16.愛しの婚約者③ 【Side カルロ】

 マリーナがリモーネに到着してから10日。


 やっと厄介な姫が王都に帰ったので、本当は一番最初に見せる予定だったハウスに、やっと案内出来るようになった。


 フェレーリ家・バイエルン家・アイヒベルク家の三家で行っている『言の葉の家プロジェクト』は、お互いに定期報告をしているから、それぞれが進めている学習の内容も把握はしている。

それでも、現場でしか分からない事もあり、やっと直接見られる~!とすごく楽しみにしているようだ。


 僕自身もメーア王国でのプロジェクトの立ち上げを見ていたし、父上がメーア王国に行くときは必ず付いていったので、何度もメーア王国のハウスを見学している。

 それでもやっぱり、リモーネのハウスとの違いは毎回感じている。


 まあ、こちらは学習の基礎がないところからのスタートだったっていうハンデがもともとあった。

 でもそれはマリーナ曰く、乾いたスポンジのような状態だったんだ。


 学習に飢えた状態の彼らが、とてつもない吸収力によって学びを得ることで、予想を上回る効果を発揮して関係者一同を大いに驚かせたのだ。

 人間の可能性の凄さを感じる出来事だったよ。


 そういった学習環境の違いの他にも、港に出入りしている船の国籍がかなり違うので、必要となる言語やマナーが違うし、依頼の内容も『おつかい』などの基本的なこと以外では、相手国によって特色のあるものも多い。


 僕がそういったリモーネのハウスとの違いに驚いたことを毎回マリーナに話すので、マリーナも自分で感じてみたいと思ったんだろうね。



 マリーナは、神様に言語理解のギフトを貰うくらい異なる言語や文化・風習を学ぶことを愛している。


 常にマリーナの一番でありたい僕だけど…マリーナの言語愛に関してだけは、完全に白旗を掲げざるを得ないだろうね。


 非常に悔しいけど…そんなマリーナが誇らしく、愛おしいと思えてしまうのだから、もう諦めるしかないよね。


 だけど、それ以外で負けるつもりは毛頭無いので、人に向けられる愛は僕だけに向けてほしいな。

 もちろん、僕の愛はマリーナだけに捧げるよ。


 もしマリーナの愛が他の人に向いてしまったら?

 うーん、自分でもどうなってしまうか分からないな…。


 まあ、まずはその相手をマリーナに知られずに排除しなくちゃね。


 でも、可能性でもそんなことは考えたくないから、そうならないように普段から虫は寄せ付けないように気をつけるけどね…。

 

(フリオの心情:あー、またなんか物騒なこと考えてるな主。マリーナ様が関わった時だけ人が変わるんだよなあ、この人。かなり物騒なこともよく考えてるっぽいけど、本人は表に出さなきゃいいと思ってるみたいだから、言っても無駄だろうな…。でもたまに物騒な雰囲気が漏れてるんだよ…それでマリーナ様に怯えられて逃げられたら、この人どうなるか分からんしなぁ。ほら、いまも…漏れてる漏れてる!!マリーナ様が不思議そうに見てますよ!)


 隣に座るフリオが、靴のつま先を軽くぶつけてきた。


 その衝撃で考え事に没頭していたことに気付いて、ハッと顔を上げるとマリーナが心配そうにこちらを見ていた。


 どうやら考えに没頭するあまり、マリーナに心配を掛けてしまったようだ。

 マリーナが <忙しいのに無理をしているのではないか> と心配するのを、大丈夫だと宥めつつ、フリオにもありがとうと目配せした。


 主人の靴先を蹴るなど、本来は従者としてはあり得ない行為ではあるけど、いまはハウスへの移動中の馬車内。


 向かいに座るマリーナと双子の片割れに気付かれずに、意思を伝える手段としては最適だったと思う。

(まあ、双子は海兵あがりで護衛も兼ねているらしいから、気付いてるかもしれないけどね)

 咳払いだとちょっと態とらしいしね…。

 

 こういう常識に囚われずに臨機応変に判断が出来るところが、フリオを専属に決めた理由でもあるからね。


 旅の中でも重宝しそうだな、とカルロは楽しげに目を細めた。


(フリオの心情:ヒッ!なんだか嫌な予感が…。目立たずに平穏な日々を過ごす予定だったのに、何でこんな事になったんだか…)


 

◇◇◇



 リモーネのハウスに到着し、マリーナと手を繋ぎながら、施設内を順に案内していく。


 建物の構造はメーア王国のハウスを参考にしているので、あまり違いは無いと思うけど、やっぱり装飾や調度品などで国柄は多少現れており、そういった点に目を輝かせているマリーナがひたすら可愛い。


 大型の外国船は今朝方で全て出港しているので、一階にはほとんど人がおらず、みんな二階で依頼後の反省や、新しい言語の学習を進めているようだ。


 マリーナを連れて二階に上がると、ハウスのメンバーの大半が勉強していた。


<みんな、いつもお疲れ様。勉強中に申し訳ないが、少しだけ耳を傾けてほしい。こちらの方は私の婚約者で、メーア王国バイエルン伯爵家のマリーナ嬢だ。この『言の葉の家(リングア・ハウス)』プロジェクトの発案者で、メーア王国のハウスの陣頭指揮を執っている素晴らしい方だ。>


<ちょっと…カルロ!そんなことまで言わなくても良いのに…。>


 これまでに訪れた場所と同様にマリーナを自慢の婚約者として、みんなに紹介する。

 事実しか言ってないのに顔を赤くして恥ずかしがるマリーナは、本当に可愛い。


<えー、ご紹介にあずかりました、カルロの婚約者のマリーナ・フォン・バイエルンと申します。メーア王国のハウスの子達もとっても頑張ってくれて、素晴らしいハウスになっていると思っています。こちらのハウスも負けないくらい素晴らしいと聞いていますので、ぜひ皆さんの勉強の様子を少しだけ見させてください。分からないことがあれば、どんどん聞いて下さいね!> 


 そう言って、貴族令嬢としての気取った挨拶ではなく、親しみと優しさに溢れる挨拶をしてくれた。


 だが、それに対するハウスのメンバーの反応がおかしい…。

 パラパラとした気のない拍手に、冷ややかな眼差し。


 なんだ?いつもの様子と違うな…。

 ここしばらくは、責任者となったハウスの施設長に業務を引き継いでおり、旅に出る準備に忙しかったから、ほとんど顔を出していなかった。

 それにしてもこの雰囲気はなんだ?

 

 マリーナは<勉強の邪魔しちゃったから仕方ない>と、あまり気にしていないようだが、双子や護衛達は不快そうな表情をしている。


 まあ、僕も自慢の婚約者に冷ややかな態度を取られて、かなり気分を害してはいるけどね。

 くだらない理由だったら、ただじゃおかないよ…。


 気にはなりつつも、一旦その場を離れ、マリーナとともに最近の依頼の傾向なんかの説明を受ける。




 あらかたの説明が終わり、あとは施設内を自由にご覧になってくださいという流れになった。


 僕は、どうにもハウス内の空気が悪いのが気になり、双子や護衛にマリーナを任せ、施設長に話を聞くことにした。

 

<施設長、学習室での様子はどういうことだ?>


 施設長に厳しい視線とともに問いかける。


<はい…マリーナ様には大変なご無礼を致しまして申し訳ございません!先ほどの彼らの反応は、先日視察に訪れた王家の姫君の影響かと思います。>


<あの我が儘姫の影響?何でまた…ただの視察だったんだろう?>


<はい、ただの視察でした。マリーナ様と同様に施設内を見学され、どのような依頼をこなしているのか確認したり、学習者の様子を見学されたりしました。その際に…>


 施設長から聞いた話は、あまりにもくだらない内容だった。

 自分から何でも聞けと言っておいて、聞かれたら『そんなの知るか。分かる質問してこい。』なんて、どこの無法者の理論だよ…。


 側で控えていたフリオも『嘘だろ!?』と目を見開いている。

 まあ、普通は王家の姫がそんなこと言うなんて信じられないだろうね。


 だけど、あの姫なら言いかねないよ。

 なるほどね…前回の視察と今回の視察が似ているから、また同じように非常識なヤツが見に来たんじゃないかって疑っているのか。


 まあ、理由は分かったけど、それが我が婚約者に対する態度を許容することにはならないよね。


 少し引き締めが必要かな?

 とりあえず理由も分かったし、一人にしてしまったマリーナが心配だから戻ろうか。



◇◇◇


 

 マリーナは二階の学習室にいるらしい。

 

 もう少しで学習室というところで、開いたドアから青年の大きな声が聞こえてきた。


<分かってるのに、分からない振りをしたのか!!意地が悪いところは、やっぱりあの姫様と一緒だな!>

 

 どういう状況だ?

 姫と一緒という言葉が出るということは、相手はマリーナで間違いなさそうだが…。


 フリオが中に入りますか?と仕草で問いかけてきたので、そのままでと指示をだす。

 双子と護衛達がいるのでそこまで危険な状況ではないだろうと判断し、一旦このまま様子を窺うことにした。


<私がいつ分からない振りをしたの?私は知らないとも、分からないとも一言も言っていないわ。あなたの質問が抽象的だったから、どう答えるのがいいか考えていただけよ。それをあなたが思い込みで判断したのでしょう?>


 うん、マリーナは落ち着いて対応しているね。

 さすが我が婚約者殿だ。


<そんなの言い訳だ!これ以上無いくらい分かりやすい質問だっただろう。>


<あなたは{ホンスー語を勉強していますが、男性優位社会について答えてください。}こう聞いたわよね?>


 なるほどね…。これは確かに答えに少し迷う問いだね。

 しかもまだ習得が未熟なのか、問いかけ方がかなり上から目線だ。


<ああ、そうだ。簡単じゃ無いか!なあ、みんな!!>


 淡々と正論で返されて動揺しているね。

 周囲を仲間につけようとは卑怯な…。


<確かに質問としては簡単よね。でも、この聞き方だと一般的な男性優位社会の考え方が知りたいのか、男性優位社会に対する私の考えが知りたいのか分からなかったのよ。だからどちらで答えるべきか悩んだの。>


 うん、マリーナの言うとおりだね。

 先ほどの問いかけでは、答えに迷って当然だ。

 それも分からないようでは、質問をした彼もまだまだ勉強不足だね。


 だけど、感情的にならずに話をするマリーナのお陰で、室内に漂っていた攻撃的な空気が和らいでいた。

 


 その後は、僕が施設長から聞いた姫様の話と同様の内容が、ハウスのメンバーから話されていった。


 それを聞いているマリーナからも呆れたような、何とも言えない空気を感じる。

 まあ、この話を聞いた常識ある人間なら、みんな同じ反応をするよね。


 そう思っていると、室内から双子の片割れ(僕にはどちらか判断出来ないんだ)が静かに出てきて、これまでの経緯を簡潔に説明してくれた。


 なんとまあ、マリーナにそんなことを言ったのか…。

 それは彼女の逆鱗にも近い部分に触れる行為だな。


 そろそろ、口を出そうかと思ったけど、ここはマリーナに任せた方が良さそうだ。

 双子の片割れもそう思ったから、僕の所に来たのだろうしね。


 マリーナのことを良く理解している…軽く嫉妬してしまうレベルだよ。

(僕から不穏な気配を感じたのか、双子の片割れはさっと礼をしてマリーナの元に戻っていった。ふむ、危機管理も出来ているみたいだね…)



<なるほどね。その後で同じように視察に来た私に対して不信感があったのは理解したわ。だけど、それを差し引いてもあなたの先ほどの発言は、言語を学ぶ者として決して許せるものではありません。> 

 

 マリーナは、姫被害による不信感からの対応については理解を示したが、彼女が愛してやまない言語に対する不誠実には目を瞑るつもりはないようだ。

 

 彼はやっぱり男性優位社会について間違った解釈でいたようだね。


 確かに、ホンスーについて学び始めたばかりの人や、直接ホンスー人と話したことのない人の中には、『男性だけが優遇されている社会=女性の立場の弱い社会』という間違った解釈をしていることが多いと思う。


 これは、ホンスー語を習う際にきちんと教えなくてはいけないね。

 曖昧なままにしてしまうと、今回の様なトラブルになってしまう。


 今回はまだハウス内の出来事で、相手がマリーナだったから大きな問題にならなかっただけで、他の貴族や他国の人間に向けられてしまったら、国際問題になってしまう可能性すらあるからね。



 さて、これで『男性優位社会』についての解釈違いは正せたけど、マリーナにとって許せなかったことはきっとそこじゃない。


 彼らには、言語を愛する彼女に向けた愚かな行為の代償を払ってもらいましょうか。


<そうね。せっかく勉強の機会を得ているのだから、正しい知識を正しく使って欲しい。あなたの先ほどの発言、もちろん間違った解釈で女性を侮辱したことも問題だけど、それ以上に大きな問題は『相手が理解していないと思って外国語で悪口を言ったこと』よ。>


 そう、彼女が一番許せなかったのは、外国の船員達を助け、弱い立場のものたちを救済するために与えた知識を、人をバカにする行為に使用したことだ。


 彼女がハウスを作った意味、誰を救いたかったのか。

 淡々と話される彼女の言葉には、若い彼女から発せられたとは思えないほどの重みがあった。


 彼らも馬鹿ではない。

 マリーナの言葉に、自分たちの取った行動がいかに愚かな行為だったのか気付き、真摯に謝った。


 マリーナは彼らの謝罪を受け入れ、今後の学習についても今の気持ちを忘れないようアドバイスを残している。


 僕の婚約者殿はすごいだろう、とフリオに視線を向けると、感心したように話を聞いていたフリオは、胸に手をあてて、最大限の敬意を示すように礼を執った。


 マリーナは、フリオにも認められたようだね。

 フリオは単純に見えて、仕える人間に対しての視線が厳しいところがある。

 だから、まだ10歳という年齢で、彼のお眼鏡にかなったというのは凄いことなんだよ。


 さて、そろそろ部屋からマリーナが出てくるね。

 一旦、廊下の先の曲がり角まで下がろうか。


 フリオ連れて曲がり角を曲がったところで、部屋からマリーナ達が出てきた気配がした。

 労いの意味を込めて、マリーナに声を掛ける。


<マリーナ!>


 少し疲れている様子だけど、言うべきことが言えて満足げなマリーナに、僕も嬉しくなる。


<お疲れ様。途中から話は聞こえていたんだけど、僕が出て行くまでもなく見事に解決してくれたね。流石は僕の婚約者殿だ!>


 我が儘姫のせいで色々と予定が狂ってしまったのは誤算だったけど、彼らには良い薬となっただろうね。

 

 マリーナとの仲も少し前進した手応えはあったし、これからはさらに本気で行かせてもらうよ。

 もう、僕はマリーナ以外を愛せないし、誰かに渡すこともあり得ない。


 昔から真っ直ぐなところが変わらないマリーナ。

 どれだけ歳を重ねても、たくさんの言語や文化を学んでも、マリーナの根本は変わらないだろう。


 だからね、マリーナ。

 その真っ直ぐな眼差しが僕に向いた時、僕は君を離さないよ。


 いまは少しずつで良い、旅の間に僕との確かな未来を思い描いていこう。

 覚悟してね。

 

 僕の愛しの婚約者、マリーナ。

 

はい、ムリーノ王国に入ってからのカルロ視点、三部作でした。

ヤンデレ感は控えめにしたつもり…です(~_~;)

次回は、マリーナ視点に戻ります!


最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)

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