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言の葉の家へようこそ ~異世界の言葉がわかる転生令嬢、各国を巡る~  作者: 菖蒲月
第二章 邂逅編 ーひらかれる世界 ー

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15.愛しの婚約者② 【Side カルロ】

 無事にマリーナと手を繋ぐ権利を勝ち取った。


 しかも、それだけじゃなく恥ずかしがっていたハグも、積極的にしてくれるようになったんだ。


 これには、両親も巻き込んで事あるごとにハグをして貰って、それが当たり前なんだと刷り込んでいった。


 母上も嬉々としてハグしてたから、マリーナもだんだん楽しくなってきたようだ。

 笑顔でハグしている様子をよく見かけるようになった。


 僕とのハグはまだ少しだけ恥ずかしそうだけど、かなり慣れてきたみたい。


 父上とのハグは本当は嫌だけど、慣れるためだし仕方ない…と割り切っている。

 何かを得る為には、多少の犠牲は仕方ないからね…すごく、すご~く嫌だけど。


 兄上とのハグだけは()()()ダメだと、マリーナにも侍女達にも強めに伝えた。


 最初は、<パオロ様も家族だし…>ってマリーナも戸惑っていたんだけど、<マリーナが年の近い異性とハグをするのは嫌だな…。マリーナは僕が女性とハグするの嫌じゃない?>って聞いたら、<確かに…カルロが女性とハグしているのは、なんか嫌かも???そうね…自分がされて嫌なことは相手にもしちゃいけないわ。カルロが嫌ならパオロ様とはハグしないわ!」って言ってくれた。


 うん、マリーナは無自覚っぽいけど、『僕が女性とハグするのが嫌かも』っていうのは、少し僕への気持ちが育ってきている証拠じゃないかな?


 びっくりして思わず、フリオに視線を向けたら、フリオも少し驚いたような表情でこちらを見ていて、僕と視線が合うと、自分もそう思うというように深く頷いた。


 フリオの目線でもそう判断出来るって事は、間違いなさそうだな。

 僕には嬉しい兆候だけど、ここで先を急いでしまうと、きっと失敗する…。


 今は、僕とマリーナとの間にハグや手つなぎみたいな『当たり前』をたくさん増やして、僕と一緒にいる未来を自然と想像して貰えるようにしないとね。



 さて、マリーナとの仲を深めるために用意したお出掛けプランを、もう一度フリオと一緒に確認しないと。



◇◇◇



 結論から言うと…。

 僕が用意したお出掛けプランは、最初から躓いた。


 理由は、王家の我が儘姫が視察と称して、『言の葉の家(ハウス)』を見に来ているからだ。


 王子が三人生まれた後の、待望のお姫様ということもあり、王家では大層可愛がられているらしい。

 生まれた時から甘やかされていて、とんでもない我が儘姫だというのは有名な話だ。



 そんな姫と僕との婚約の話が最初に持ち上がったのが、五年程前(カルロ当時7歳)。


 『食事療法』の情報公開と、メーア王国・ムリーノ王国両国からの『三家に帰属し王家は干渉しない』という誓約を得た直後のこと。


 ほとんど海との関わりのないメーア王国とは違って、広く海に面しているムリーノ王国では『食事療法』がもたらす利権は、喉から手が出るほど欲しいものだったのだろうね。


 だけど、先に三家中の二家が属するメーア王国が、三家への権利の帰属を誓約してしまったことで、ムリーノ王国も同様の内容をのまざるを得ず、苦い思いをしていたのだ。


 そして誓約を掻い潜って『食事療法』の利権に食い込む方法として、王家が考えたのが僕と姫との婚約話だった。


 姫は僕の一歳年上なので、当時は8歳。

 すでにその時から、我が儘姫との噂は王都から遠く離れたリモーネにまで聞こえてきており、フェレーリ家としても、僕個人としても『お断り』一択だった。


 まあ、当時はまだ7歳と8歳の子供同士だったし、王家としても可愛がっている末姫を、王都から離れたリモーネに嫁に出すのはあまり乗り気では無かったのか、そこまで本気の申し込みでは無かったのが幸いし、こちらからの『お断り』は受け入れて貰えた。


 ただ、次に申し出があった場合は、断れないだろうと父上も言っていたので、それを回避する意味でもバイエルン家と協議のうえで、マリーナと条件付きの婚約をすることになったんだ。


 もちろん、政略的な意味合いだけじゃ無く、僕がマリーナ以外との婚約・結婚はあり得ないと気付いたからでもあるんだけどね。


 でも、マリーナ自身は『お互いに正式な相手が見つかるまでの虫除け』くらいの感覚だったから、学園の卒業までにお互いに別な相手が出来れば、婚約は解消するという条件付きになったんだ。


 でも、その条件を適用させる気は僕には毛頭無い。

 今回の旅で、それが当たり前になるくらいマリーナと常に一緒にいて、それは将来においても変わらない事だと思って貰う予定だからね。


 だから、旅の始まりとなるムリーノ王国でのマリーナとの行動は、この先の当たり前に続く道を作る意味でも大事な予定となるはずだったんだ…。


 それを邪魔するなんて…。


 父上に調べて貰ったら、我が儘姫への甘やかしのせいで王家の財政が逼迫しているとかで、『食事療法』の利権にまた手を伸ばしてきたらしい。


 でも、我が家や他の二家もガードが堅く、つけいる隙が無いので、姫を焚き付けて僕と結ばせようと画策しているらしい。


 

 いや、バカなんだろうか。

 僕は既に婚約しているし、王家にもその旨は報告済だ。

 今更何を言っているのか…と呆れていると、父上も全く同感だと深く同意を示しつつも、王家の思惑とやらを教えてくれた。

 

 どうも相手がマリーナだから、国内外からの『食事療法』の利権への干渉を避けるための政略的な婚約で、然るべきタイミングで解消となるだろうと予想しているのだとか。


 その根拠として、僕とマリーナが婚約者としての交流をほとんどしていないことが挙げられるらしい。


 ん???交流かなりの頻度でしてるよね?

 流石に船では片道一ヶ月は掛かるから、直接は年に一回会えれば良い方だけど、ラオ便があるから手紙は通常よりも高頻度でやり取りしている。


 あ…そっか、ラオ便でのやり取りは他家には秘密にしているから、外から見たらたまにしか会わない、手紙のやり取りもしない、政略だから必要最低限の交流にとどめているように見えるのか。


 だから、今回マリーナがムリーノ王国にやってくると聞いて、その前に姫と仲良くさせてしまえば、婚約を解消させられると思ったんだな。


 姫の方も、どうやら今回はかなり乗り気だったらしい。

 可笑しいな?リモーネは田舎だから嫌だって言ってたはずだけど…?



 前回婚約を断るにあたって、王家から直接謁見することを求められたから、仕方なく僕も父上と一緒に王城に出向いたんだけど…。


 実際は、大人が謁見している間は子供達は交流を兼ねてお茶でもしていなさいとばかりに、姫と二人でお茶をさせられたんだよね。


 もちろん、給仕のメイドや姫の側付きの侍女、護衛もいたから厳密には二人ではないけれど、彼らは僕たちと同席する訳にもいかないし、なんなら言葉を発することすらほとんどないからね。


 いやあ…女の子とのお茶っていえば、マリーナやフラン姉さんくらいとしかしたこと無かったから、あんなに苦痛な時間があるなんて知らなかったよ…。


 最初はちゃんと聞いていたんだよ?

 だけど、何度も同じ話をするし、中身は無いし、途中からは完全に聞き流してた。


『私はみんなに愛されているの。』

『私とお茶が出来るなんて幸せなことよ。』

『リモーネなんて田舎には行きたくないわ。』

『でもあなたの顔は気に入ったから、王都に来るのなら近くに侍るのを許すわ。』

『お金はあるようだから、私に相応しいものを用意なさいね。』


 こんな話の繰り返しで、後は今のドレスや装飾品の流行を一方的に話してた。

 ちなみに、僕はその間『ええ…』『はい…』『そうですか…』しか言ってない。


 まあ、流行の物をプレゼントしろっていう事なんだろうね…。

 

 あまりにも露骨で品のない要求に、本当に王家の姫なのか疑ってしまったよ。

 チラッと側付きの侍女に視線をやると、申し訳なさそうにこちらを見ていた。


 思わず『この人本当にお姫様?間違えてない?』って目で問いかけると、ごく小さな動きで首を振り、静かに視線を伏せた。

 

 うん、間違いないみたいだね。

 それにしてもコレは酷い…。


 マリーナとフラン姉さんくらいしか近い年代の女性の比較対象はいないけど、彼女たちとはちゃんと会話も通じるし、話していても疲れることなんかなかった。 


 王家の姫って国で最高の教育を受けてるんじゃないの?

 国民から集めた税で暮らし、学んでいる王族がコレとは…頭が痛いね。


 婚約、断って本当に良かった。

 コレと一緒にいなきゃいけないなんて、どんな拷問かと思うよ。



 当時の様子を思い返してみても、姫が乗り気になる要素が分からない…。


 まあ、王家がなんと言って姫を焚き付けたのかは知らないけど、ハウスの視察に来るって言うんだから、勝手に視察させておいて、その間にマリーナとは別な所を回るようにプランを変更しないと。


 ハウスの運営は、旅の準備の段階ですでに責任者に引き継いでいるし、姫を僕が案内する必要はないのが不幸中の幸いだった。


 だけど、ここまで頑張ったのはマリーナに見て貰うためだったのに、先に我が儘姫に見せなければならないとは、本当に腹立たしい…。



 父上が得た情報では、姫の滞在は4日ほどらしい。


 マリーナの入国に際して、一ヶ月ほど前に王家にも報告をしたのだけど、それを受けて急遽、姫によるハウスの視察を決めたらしく、数日しか日程が確保出来なかったのだとか。


 あまりの計画性の無さに呆れるしかないな。


 しかも、リモーネへの滞在に際して、我が家への宿泊を希望していたのだそうだ。

 でも、マリーナの入国によってメーア王国のメンバーが滞在することがすでに決まっており、その旨を王家に知らせたところ、外国人が泊まる邸に姫を一人で滞在させる訳にはいかないと、王家側が引いたらしい。


 結局、リモーネで一番の宿を強引に貸し切っての滞在となるとか。

 無理矢理貸し切りにしたことで、事前に予約していた客へのフォローは我が家に丸投げでね…。

 

 もう早く帰ってくれないかな。

 我が家も面倒ごとしか起こさない姫の対応にピリピリしており、マリーナと過ごす時間を癒やしに家族総出で頑張っている。


 マリーナにリモーネでの素敵な思い出を作って貰いたいという思いは、僕だけじゃなく家族の総意なので、両親や普段は飄々とした態度でいることが多い兄上も、素晴らしい情報操作で相手を攪乱してくれた。


 どうも、姫付の従者や護衛がこちらの動向を探っていたみたいだけど、商家を営み、様々な国の人間を相手にしている我が家が、たかだか姫付の従者や護衛に情報操作で負けることなどあり得ないからね。


 お陰で、マリーナと手を繋いでリモーネのあちこちに顔を出し、自慢の婚約者なんだと惚気て回ることが出来たので、順番は狂って締まったけれど、これはこれで良かったとも思う。


 姫のお陰とは絶対に思わないけどね!

 

 

 そんな風に、姫との遭遇をことごとく回避していたら、とうとう時間切れらしく、姫が王都に帰っていった。


 何やら、最後まで喚き散らしていたみたいだけど、護衛達に<これ以上は無理です!>と馬車に詰め込まれて帰っていったらしい。


 フェレーリ領の領境にある関所を、姫が乗った馬車が通過したとの知らせも早馬で届いた。

 その知らせを受けてやっと、張り詰めた空気が漂っていた我が家の緊張の糸が、静かに緩んだのだった。 

  

最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)

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