14.愛しの婚約者① 【Side カルロ】
マリーナがリモーネに着いてからのカルロ視点。
思ったより量がかさんでしまい、三話連続でのカルロ視点となります(o_ _)o
やあ、マリーナの婚約者のカルロ・ド・フェレーリだよ。
とうとう今日、マリーナが乗る『モントリヒト』がリモーネに入港する。
ずっと手紙のやり取りはしていたから、お互いの近況は分かっているけど、直接会うのは久しぶりだから少し緊張するな…。
二年前に、マリーナから世界を巡る旅に出ると手紙を貰ってから、僕なりに準備を進めてきた。
まずは、関わっていた事業において責任者となれる人材の教育を開始。
平行して基礎体力の向上と、陸上での体術・剣術の基礎訓練。
(船に乗れる人員は限られるから、護衛が十分じゃない可能性もあるし、僕自身でマリーナを守れる位にはならなくては…)
合間にマリーナと手紙でこまめに連絡をとり、現在までに習得している言語をリサーチ。
(マリーナが習得した言語は全て網羅しないと!マリーナが話す言葉は全部理解したいからね)
人材の育成がある程度落ち着くと、時間が出来たので船上で過ごす時間を増やした。
マリーナに船上で不便な思いをさせたくないから、船上生活を豊かにするための道具や設備を考案して、父上やバイエルン伯爵に共有した。
(うちとバイエルン家の合同で新しい船を造ると聞いていたから、取り入れられそうな工夫や新技術を片っ端から調べたのは懐かしい思い出だ。お陰で素晴らしい船が出来たし、僕も乗船するのが楽しみだよ!ちなみに、マリーナの船室の内装は、全て僕がデザインしたんだ。費用も自分が事業で稼いだお金を使ったし、マリーナが一番長く過ごす空間は僕で満たされていて欲しいからね。)
そして、船上での戦闘訓練。
陸上とは違って限られたスペース、揺れる船内など戦いの難易度が格段に高い。
効率的な動線、いざという時にマリーナをどう逃がすかなど、ありとあらゆる事態を想定した訓練を、旅への同行者である専属侍従のフリオとともにこなした。
◇◇◇
専属侍従のフリオは、子爵家の三男で三年前(当時14歳)からフェレーリ家に出仕している。
当初は侍従見習いだった。
最初は可もなく、不可もなくといった評価だったが、一緒に居る時間が増えるにつれて、その評価自体がフリオの印象操作によるものであることに気付いた。
それもかなり自然に行われているので、自分が印象操作されているとは全く誰も思っていない。
それって相当凄いことだ。
実際、周りからのフリオの評価は、『何でもそつなくこなすが、あまり目立たない存在。仕事はそれないに出来る。』くらいの認識だった。
だけど、僕はその『そつのなさ』に隠している彼の有用性を感じ取っていた。
まあ、おそらくフリオは目立たずにそこそこの働きで、面倒なことを避けて生きていこうと思っていたんだろうね。
そんな目論見は、僕が旅の同行者に指名したことで潰えたわけだけれど…。
目立たずにこちらが望む仕事をこなせる人間というのは、なかなか貴重だ。
思いがけず良い人材を見つけたと思って歓喜したよ。
だって、旅に連れて行くだけの侍従ならフリオじゃなくても良かったんだ。
でも、どうしても今回の旅ではそれでは足りなかった。
常に僕に同行し、目立たずに、聞き、覚え、僕の耳目となって、必要な時に動ける者が必要だった。
そう言う意味では、フリオの役割は侍従というよりは側近に近いかもしれない。
それでも敢えてフリオを側近としないのは、その方が都合が良いからだ。
側近としてしまうと、どうしても政治的な面での参謀という側面が出てきてしまい、相手に無駄に警戒心を与えてしまう。
だから、フリオには敢えて専属侍従のまま、柔軟に動くことを求めた。
フリオも僕が求める役割を理解して、今日まで何でも無い顔でこなしてくれているので、僕の目に狂いは無かったってことだろうね。
マリーナのための旅なんだから、僕が人選で妥協するわけがないんだよ。
有用な人間にはしっかり適所で働いて貰わないと…ね。
こうして、一年前に正式に専属侍従として旅に同行することに決めてからは、常にフリオと一緒に語学学習や戦闘・船上訓練を受けている。
僕に見つかったフリオには災難だったかもしれないけど、思ったより楽しそうに訓練してる様子をみると、自分の力を試せる状況も悪くないと思ってるのかもね。
◇◇◇
リモーネの港に入ってきた『モントリヒト』の姿に圧倒される。
フェレーリ・バイエルン両家合同での造船なので、もちろんどんな船なのか、中も外も知り尽くしている。
だけど、設計図から想像していたより何倍も迫力がある。
まず、大きい…とにかく大きい。
マリーナ考案の大型ガレオン船。
武力と積載量を兼ね備えた船として、今後主流となるであろう船だ。
造船に優れているアズリア王国の協力のもと作られたと聞いていたけど、とんでもない船が出来てしまったものだ。
この船に乗って、マリーナとともに世界を旅することを想像して、思わず全身に震えが走った。
これが武者震いってヤツか…。
相変わらず、僕の婚約者殿はスケールが大きい。
この二年間で随分と君に追いついたように思っていたけど、全然そんなことなかったみたいだ…。
僕はもっともっと、マリーナの婚約者として努力しなくちゃいけない。
そう、改めて『モントリヒト』に誓ったのだった。
◇
タラップから降りてきたマリーナは、10歳という年齢に見合わない落ち着いた様子で、家族と挨拶をしている。
流石に、領主夫妻である両親との挨拶を邪魔するわけにも行かず、早く話しかけたいのを我慢して待つ。
<マリーナ嬢、久しぶりだね。あんなに小さかったのに、すっかり素敵なレディになったな!>
(当たり前じゃないか、マリーナなんだから。マリーナは昔からずっと素敵なレディだったからね。)
<ご無沙汰しております、アレッシ小父様。この旅の権利を獲得するために、厳しい淑女教育を頑張りましたわ。>
(流石マリーナ。何て素敵な挨拶だろう。比べるのも烏滸がましいけど、この間、無理矢理謁見させられた王女は酷かったからな…。マリーナを誰にも取られないように僕がしっかりエスコートしないと!)
<まあ、マリーナ嬢!素敵なカーテシーだわ!我が家には息子しかいないし、やっぱり女の子は可愛いわね~!早くお嫁に来て欲しいわ。>
(さすが母上!よく分かってらっしゃる。早くお嫁に来て貰えるように、色々と手伝って貰えそうだな…)
<[小声]ちょっとカルロ様!なんか駄々漏れちゃってますって!早くしまってください!!>
フリオが小声で話しかけてきたので、マリーナをどうやって囲い込もうかという考えは一旦置いておくことにした。
フリオが横で小さくため息をついているが、無視してマリーナの話を聞くことに集中した。
いつの間にか、母上の事を『ステフ小母様』と呼ぶことになったみたいだな。
母上のことだから、いずれは『お義母様』って呼ばせたいとか絶対思ってそうだけどね。
僕はどちらかというと母上似(腹黒)だから、お互いに言葉の裏に隠した意味に気付いちゃうんだよね。
その点、父上と兄上は真っ直ぐな性格で、裏表が無いところがソックリだよね。
貴族的な駆け引きが出来ない訳じゃ無いけど、そういうのが得意なのは断然母上と僕なんだ。
あ!母上との挨拶が終わったね。
兄上が話し始めたけど、これ以上は待てない!!
<マリーナ!久しぶり、会いたかったよ!!>
兄上の言葉を遮って、思いっきりハグをしながら挨拶をする。
兄上がブツブツ言ってるけど、無視無視。
婚約者との久しぶりの逢瀬を邪魔するなんて無粋だよね。
手紙でも言っていたけど、ムリーノ王国で一般的な挨拶のハグに慣れなくて、凄く恥ずかしいらしい。
耳を赤らめて、恥ずかしそうにしつつもちゃんとハグを返してくれるマリーナ。
ああ、幸せだな…。
ハグしてるからマリーナに顔を見られなくて良かった…。
今の僕はかなりだらしない顔をしているだろうしね。
でも、相手の文化や慣習を尊重するマリーナらしく、恥ずかしがりながらもムリーノ王国の慣習だと受け入れてくれるところが凄く可愛い…。
それに最近は手紙のやり取りだけで、一年以上会えてなかったけど…すごく綺麗になった…。
もともと天使のように可愛かったのに、少し大人っぽさも出てきてとても綺麗だ。
これは…余計な虫が付かないように気をつけないとね!
そんなことを考えながら、だらしない顔で愛しの婚約者をハグしている僕を見て、いつもの僕との違いにフリオが遠い目をしていたけれど、幸せの絶頂にいる僕は全く気付いても居なかった。
だって、久しぶりに会えた婚約者を愛でるのに忙しいからね。
その後は、事前に聞いていたけどマリーナの専属侍女 兼 護衛となった双子を紹介された。
ホンスー出身の双子ということで、マリーナは気にしているんだろうね。
確かにリモーネは、別な大陸とはいえホンスーとの距離が近いから、あちらの文化や風習には馴染みがある。
でも、双子に関してはホンスーでもかなり古い因習で、現在では昔ほどの迫害はないらしく、こちらには何も伝わって来ていない。
ムリーノ王国にも双子を忌避するような因習はないので、マリーナの専属侍女が双子であることに関しては全く抵抗はない。
そういったことも含めて歓迎の意を示したフェレーリ家に対して、マリーナはホッと息をついて、少し身体の力を抜いたように見えた。
うん、双子が受け入れられるか心配だったんだね。
手紙でも大丈夫だとは伝えてあったけど、実際に会ってみたら拒否反応が出るってことも想像していたのかもしれないね。
文化的な背景が関係しているから否定もしづらいけど、自分の側近くに居る人間が、理不尽な理由で否定されるのは見たくないだろうしね。
挨拶と双子の紹介が終わって気が緩んだのかな?
何やら考え事をしているのか、ぼんやりしているね。
これはチャンスだな…。
<マリーナ、うちの本邸に移動するために、馬車に案内するね。足元が危ないから手を繋ごうね。>
<…うん。>
よし、返事は返ってきたから大丈夫。
まずは手を繋いでゆっくり歩きだすと、考え事をしながらマリーナがついてくる。
マリーナの専属侍女達やフリオ、そして兄上からも物言いたげな空気を感じるけど、僕は何も気付いていませんとも。
婚約者を安全にエスコートすることに集中しなくちゃいけないからね。
馬車が動き出してからマリーナが考えごとから戻ってきた。
僕と手を繋いでいることに気付いて、顔を真っ赤にして恥ずかしがって手を放そうとした。
でも、そこで引いては千載一遇のチャンスを逃してしまうので、説得を試みる。
ムリーノ王国では恋人や婚約者ならこれは当たり前だし、逆にしていないと仲が悪いと思われて、他の人に付け込まれてしまう…と少し哀れっぽい声で説明した。
フリオからは、信じられないものを見る目で見られているけど、そんなことに構っては居られない。
『フリオの心情:嘘でしょう!?いつも女性には冷淡な態度しか取らない主が、哀れっぽい声色で婚約者の同情を引こうとするなんて…。うわ、鳥肌が立った…!!』
マリーナは自分との婚約が虫除けの意味を持っていると思っているから、こう言えば手を繋ぐことを了承してくれると思っていた。
案の定、マリーナは『そういうことなら、恥ずかしいけど…』と言いつつ、手を繋ぐことに同意してくれた。
マリーナの侍女とフリオからは、『大きく間違ってはいないけど、自分の都合の良いように言いやがって』的な呆れた空気を感じるが、『余計な事は言うなよ…』という強い視線を送り黙らせておく。
大事なのは、このままなし崩しに僕と手を繋ぐことが、当たり前だとマリーナに思わせることなんだからね。
何か言いたげな兄上も、絶対に邪魔しないでくださいね。
邪魔したら、兄上の秘密をバラしちゃうかもしれませんよ…ふふふ。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




