9.《ムリーノ王国》港町リモーネへ
メーア王国を出港して早くも二週間が経過しました。
この二週間で、乗船しているメンバーとの顔合わせも済ませ、楽しく過ごしていたマリーナです。
海兵隊のみんなとは、船内での襲撃に備えた疑似訓練。
料理長人達とは、保存食の調理や試食。
商会職員達とは、これから訪問予定の国の特産品や見るべき場所の調整。
等々…。
この二週間は交代で全メンバーと食事を共にしたので、それなりにコミュニケーションも取れたし、船内の雰囲気も出港したてのぎこちなさは抜けてきたと思うわ。
そしてとうとう本日の昼過ぎに、最初の訪問国となるムリーノ王国に到着する予定となっている。
(ネロのお陰で、適度な潮風と導くような潮流によって、通常の半分の日程で到着出来るのは本当にありがたいわね。揺れもほとんど無いから船酔いもしないし、とても快適だったわね)
船にはこれまでのゆったりとした空気から、他国の港に入港する前の緊張した空気が漂っている。
同じ北大陸の国とはいえ、大陸の端と端。
船での交易が活発になるまでは、ほとんど交流も無かった国だ。
自国とは勝手が違うことも当然あるだろうしね。
何が相手を不快にさせるかは、国が違えば全く異なるというのは、船のクルー達も『言の葉の家(通称ハウス)』の活動や、自身が他国で遭遇した出来事などで良く知っている。
だからこそ、上陸前に今回の旅の目的や、諸外国へ出向くにあたって、みんなに守って貰いたいことなどを私から話をする機会を作っておこうと思ったのだった。
◇◇◇
昼過ぎには、フェレーリ侯爵領の港リモーネに到着した。
でも、すぐに接岸出来るわけじゃ無い。
ラオ便でフェレーリ侯爵家やカルロとは連絡を取っていたので、モントリヒトの入港については事前に手続きをしてくれて居るらしい。
それでも、疫病などのリスクがあるのでリモーネ沖での三日間の停泊が必要となる。
その間に『臨検』と呼ばれる入港前の審査を受けるのだ。
リモーネから派遣される検疫官が船内の病人の有無を確かめ、入港審査官が船籍や目的、積荷、武装の有無を確認するらしい。
本来はここで、1~2週間ほど掛かることもあるらしいので、フェレーリ家の配慮には感謝しかないわね。
逆を言えば、全く交流の無い他国に初めて出向いた場合、そういう対応を取られる可能性があるってことも認識出来て良かったと思う。
ちなみにリモーネでは、何度も入港したことがある船であれば、さらに簡略化された手続きでの入港も可能らしいけど、モントリヒトは今回が初入港なので、最低限は規定に則った手続きが必要となるみたい。
さて、リモーネ側から指定されたポイントで臨検が終わるのを待つ間に、みんなに話をしましょうか。
◇◇◇
指定されたポイントで錨を降ろした所で、全クルーに甲板に集まって貰った。
「みんな、お疲れ様。みんなのお陰で無事にムリーノ王国まで到着出来ました。手続きの関係で、上陸までは三日間の待機となりますが、上陸に向けてみんなに話しておきたいことがあります。」
みんなは何を言われるのかとザワザワしている。
「んんっ!!」
船長が咳払いで、みんなを静めてくれた。
まあ、10歳の貴族令嬢が急に話し始めたら困惑するわよね…と少し苦笑が浮かんだが、すぐに気持ちを切り替えた。
「今回の旅の目的は、ルクス様より賜った『言語理解(人・亜人種)』のギフトを活かしたいという、私の我が儘から始まっています。だけど、私はこの旅をただの令嬢の我が儘旅で終えるつもりは全くありません。これまで交流が無かった新しい文化や言語に触れることで、『言の葉の家』プロジェクトや、新しい技術・食材の発掘なども積極的にやっていこうと思うわ。」
まだ、これがただの令嬢の我が儘旅だと思っているクルーがいるのは知っていた。
それは、これからの旅の中で私の行いを見て貰うしか、彼らの認識を変えることは出来ないと分かっている。
それでも、こうして言葉にして伝えようと思ったのは、行動を見て判断をして貰うことと、自分の考えを言葉にして伝えないのはイコールにはならないと思から。
どういう行動理念の元に私が動いているのかをちゃんと知ってもらいたい。
そして、彼らにも近い認識で行動して貰う事で、全員が同じ方向を向いて進むことが出来ると思っている。
だけど、彼らも人間で、生まれた環境も考え方も異なっている。
だからこそ、伝えておかなくてはならない事があるのだ。
「これから、様々な国に向かいます。あまり事前の情報が無い国もあるでしょう。私たちの常識では考えられないことが、まかり通っている事だって考えられます。だから、これだけは守って欲しいということを伝えたいと思います。」
今度はノーランも含めて、みんなが何を言われるのかとザワついているが、そのまま話を続けた。
「自分と違うということを否定的に捉えないで下さい。同じ国の人間だって性格や育った環境で、分かり合えない人がいるのに、国が違えば考え方や常識、慣習が違って当たり前なんです。中にはこちらの常識では考えられないこともあるでしょう。でも、それにもそうなった歴史的な背景や理由があるはずなんです。だから最初から否定するのは止めて下さい。違うことは悪いことではありません。かといって、それら全てを許容する必要もありません。ただ、そういう人も居るんだと理解だけはしてください。」
そこまで話して一呼吸を置いた。
そこで、何か考えるように話を聞いていた料理長のカールが疑問を投げかけた。
「お嬢、虫を食べる国があるって聞いた事があるんだ。本当か?」
「ええ、そういう国もあるみたいね。その国は、標高の高い山にある小国で平らな土地がなく、農耕や牧畜に向かない。だから、野草や木の実からは得られない栄養を補うために、虫を食べるようになったと聞いた事があるわ。」
流石、カールね…かなりマニアックな国を知っていたものだわ。
多分、昔は商船の料理長をしていたオジイから聞いたのね。
「なるほど、理由があるって言うのはそういうことか。虫を食べるって聞けばオエッって思っちまうが、他に選択肢が無いんじゃ仕方ないことなんだな…。」
この話で、みんな理解してくれたみたいね。
カールってば、ナイスアシストだわ!
「ええ、そうね。でも、どうしても理解や許容が出来ないことがあったら、決して無理はしないでください。無理をしてそのまま対応を続けてしまうと、態度のどこかに嫌悪感や忌避感が滲んで、相手に不快な思いをさせてしまいます。それなら、その問題に嫌悪感や忌避感の少ない人が変わって対応した方がお互いに気持ちよく過ごせると思います。お互いに人間ですから、どうしても合わないという事も当然あると思います。そこで決して無理はしないで、お互いが気持ちよく過ごせる環境を大事することを、この船の約束事としたいと思います。この先、これまで交流の無い国を訪れる予定になっています。この約束は全ての国に適用されることだと肝に銘じて行動してください。」
最後まで聞いてくれたみんなの顔を見る。
ちゃんと理解してくれたようで、それぞれが深い頷きをもって返答してくれたので、ホッと息を吐くと共に、肩に入っていた力を緩めた。
「さて…臨検が終わったらいよいよリモーネに上陸よ!船を無人には出来ないから交代にはなっちゃうけど、リモーネを管轄しているフェレーリ侯爵家のご好意で、全クルーに下船の許可が貰えたわ!みんな何をしたいかちゃんと考えておくのよ~。」
「「「「「 おう!!!! 」」」」」
特に下級船員からの歓喜の声が大きくて、思わず笑ってしまった。
通常は、身元の確かな者じゃないと、他国での下船許可は下りないことが多いから、必然的に平民が多い下級船員は船に留守番となる確率が高いものね。
モントリヒトにおいては、私とカルロも乗るということで、バイエルン家はもちろんのこと、フェレーリ家にも事前に乗員リストは共有されていて、全クルーの情報が分かっているので、特例的に全クルーの下船許可を出してくれたらしい。
他の国ではそうはいかないだろうけど、楽しい思い出になると良いなと思いつつ、喜びに沸くみんなの様子をみて小さく笑った。
すみません…リモーネに着いたのに上陸できませんでした…。
次回こそ、リモーネに上陸します!!
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




