7.海の愛し子『ネロ』①
船大工の資材置き場 兼 待機場にやってきたマリーナです。
今回、バイエルン領で引き取った『海の愛し子』のギフト持ちの男の子は『ネロ』という名前で、一年ほど前にうちの領にやってきた。
領に着たばかりの頃は、ガリガリに痩せて周囲の人々に怯える様子だったみたい。
かなり酷い目にあったみたいね…。
だけど、我が領では『海の愛し子』は大事にされる存在。
しかもまだ少年とも言える年齢の男の子がそんな状態なのを、黙って見ていられる訳もなく。
(うちの領に来た時のネロは14歳。でも、慢性的に栄養が足りていなかったせいか、10歳くらいにしか見えなかったらしいから、同年代の子供を持つ親御さん達にはかなりの衝撃だったんでしょうね。)
まずは、心と体の健康を取り戻すことが先決!と船乗りの奥さん達が一致団結して、彼の面倒をみた。
あの当時の事を振り返ったお父様が、海の女の愛情深さと強さを、遠い目で語って居たのが印象的だったわね。
面倒をみたいとの希望者が多すぎたので、あちこちたらい回しにしてはかえって落ち着かないだろうと、アンカーの港で船乗りや職人達のまとめ役をしている船大工の親方の所に預けることになった。
船大工の親方は、弟子をたくさん抱えており、アンカーの港にある船はほとんどが親方のお世話になっている。
船大工としての腕も超一流。
最近は弟子達が育ってきたので、大きな仕事は弟子達に任せて、のんびり過ごしていたみたい。
それでも、まだまだ弟子達では対処が難しい場面では、親方がキッチリと仕上げてくれるので、船乗り達からの信頼は絶大だ。
親方の奥さんも大変愛情深い方で、たくさん居る弟子達の面倒だけじゃなく、その奥さんや恋人達のお世話までしちゃうような女性で、みんなからは愛情を込めて「女将さん」と呼ばれている。
そんな親方と女将さんのところで、愛情たっぷりに過ごしたネロは、半年も経つ頃には自然と笑えるようになっていた。
これには、ネロに関わるみんながホッとしたものだ。
しかも、足りて居なかった栄養がいき渡った影響か、身体も急成長し、年齢相当と言えるくらいまでになった。
(しばらくは成長痛で苦しんだみたいだけどね。前世でもずっと小柄だった男の子が、高校生になって急成長した時に、めちゃくちゃ痛かったって言ってたから、ネロもかなり痛かったでしょうね…。)
心身共に落ち着いた頃、ネロには『海の愛し子』というギフトについての詳しい説明をすると共に、モントリヒトに乗って色々な国への旅に同行して欲しいという話をしたそうだ。
ネロも自分が『水に呪われた子』という訳ではなく、海に愛されているが為に、他の水辺との相性が悪かっただけだと知ってとても驚いていた。
それでも、自分のギフトが活かせるのであれば、船に乗りたいと言ってくれた。
それからは、ネロの希望の職種があれば、その見習いとして船に乗ることになるので、少しずつ色々な職種を経験することになった。
本人の希望が一番大事なので、今回船で同行するメンバーの職種を一通り体験してもらったが、ネロが最終的に選んだ仕事は、船大工だった。
親方はネロが気を遣っているのだと思って、「俺に気を遣う必要はないぞ!船大工じゃなくてもお前を放り出したりなんかせん。好きな仕事を選びなさい。」と言ったんだけど。
「違います!確かに親方や女将さんには大切にしていただきましたし、恩返しをしたいとも思っています。でも、船大工を選んだのは本当にこの仕事をしたいと思ったからです!」
そう言って、親方への弟子入りを志願したのだ。
「船は乗る者全員の命を預かる物だ。船大工が手を抜けば、大事な場面で全員の命が奪われるだろう。今回は特に長期の船旅に同行する船大工だ。港で修理するのとは訳が違う。道具や資材が限られる中で最善を尽くす必要がある。お前は『海の愛し子』だ。船に居るだけで恩恵がある。何も大変な仕事に就かなくても良いんじゃないか?」
色々と体験した中で船大工を選んでくれたことは嬉しい。
でも、船大工の厳しさも知っている親方としては、これまで苦労してきたネロには穏やかに過ごして欲しいと願っていた。
「確かに、『海の愛し子』というギフトの恩恵だけを考えるのであれば、きっと危険も大変さも必要無いんだと思います。でも、船の一員として旅に出るのであれば、みんなのために何か出来る自分でありたいと思うんです。ギフトの力は漁師さんや海兵さんに同行させて貰ったことでちゃんと理解しました。もちろん凄い力だし、役立てたいとも思います。でも僕自身の力でも何かを成し遂げてみたい…。そう思った時に、真っ先に思いついたのが船大工でした。親方にお世話になったことで、皆さんの仕事ぶりを目にする機会が多かったことも理由の一つかもしれません。でも、決してそれだけで決めた訳じゃありません!他の仕事だって真剣に考えた結果なんです。きっと、僕はこれからたくさん船の上で過ごすことになります。だからこそ、自分の居場所を、みんなの居場所を守る事が出来る船大工になりたいと思います。」
こんなに自分の意見を言うネロは親方も見たことがなかった。
これまで得られなかった自分の居場所が、船の上に出来るであろうことを感じ、それを守る手段が欲しいと切実に望むネロの思いが、とても強いものであることは親方にも伝わった。
「お前の覚悟は分かった。出港まで半年しかない…明日から早速始めるぞ!しっかりついてこい!」
「はい、親方!」
こうして、ネロは船大工見習いとしてこの船に乗ることになった。
(正式に船大工見習いとなった時点で、奴隷契約は解除済。バイエルン商会専属の船大工見習いとして新たに契約している)
ちなみに、この船に船大工として乗っているのは、親方だったりする。
本当は、お弟子さんの中でも優秀な方を推薦してくれて居たんだけど、ネロを一人前に育てる!という熱意が溢れて、お弟子さんを押しのけて本人が来てしまったらしい…。
いや、モントリヒト的には最強の船大工が乗船してるんだから、文句なんか全くないんだけどね。
でも、親方がいなくてアンカーの港は大丈夫かしら?って少しだけ心配になっちゃうわよね。
まあ、そこはお父様と親方が何とか調整してくれていると思っておきましょう…。
無理矢理自分を納得させながらも、後を急に任されることになったお弟子さん達のことを考えてしまい、乾いた笑いが漏れてしまった。
もう1話だけ『ネロ』のお話が続きます。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




