6.5 閑話 声にならない返事 【Side メイ】
「6.カール料理長と海の愛し子」の中で、メイがポカンとしてしまった時のお話です。
【】は、双子がギフトを使用して会話している内容です。
「何度も説明しなくて良いし助かるわ!でも、お互いの苦しさとか痛みも伝わってしまうと思うと、喜んでばかりもいられないわよね。そんな思いを2人にさせないように気をつけるわね。」
マリーナ様の言葉を聞いた直後、自分でも分からない衝撃に身体が動かなかった。
そして、離れた船室にいたレイもまた、同じように立ち尽くしていた。
私たち双子は、二人であることを祝福されたことはなかった。
同じ顔、同じ声、そして心を共有することも、周囲からは気味の悪いものに見えていたのだから。
「…メイ?」
マリーナ様が心配そうにこちらを見ている。
「…え?…あ!申し訳ありません、マリーナ様!」
そこで始めて、自分が衝撃のあまりに思考が停止してしまっていたことに気付き、慌てて取り繕ったがかなり不審な言動になってしまったことだろう。
マリーナ様は少し考えていたけれど、ひとまず用事を済ませることにしたようで、再び止めていた歩みを再開させた。
その後ろ姿を見ながら、先ほどの衝撃について考えていると、レイからの感応があった。
【メイ?】
【……レイ】
【どうしたの】
【分からない】
【怪我?】
【違う】
【怖いの?】
【…たぶん、違う】
私の返事にレイからも困惑している感情が伝わってくる。
そうはそうだろう。
衝撃だけが感応で伝わっているのに、その原因や理由が全く分からないんだもの…。
逆の立場なら私でも困惑していると思うわ。
だけど、いまの私には先ほどの衝撃を表す言葉が見つからないの…。
その事を分かって貰うために、レイには簡単に先ほどの出来事をマリーナ様の言葉と共に伝えた。
そうしたら、やっぱりレイの感情が動いた事が感応を通して伝わってきた。
【レイ?】
【…すこし、胸の奥が温かい…?】
【…そうね、そうかもしれない】
生まれた時から存在が認められなかった二人にとって、お互いだけが唯一、何も考えずに過ごせる相手だった。
≪双心感応≫というギフトに関しても、自分たちだけにしか効果を発揮しない。
だから、役に立たないものだと思われており、ずっとそう言われ続けてきた。
誰かに聞かれることなく、二人で会話が出来ることは嬉しい。
でも、それが誰かの役に立つことなどないのだと、自分たちですらそう思っていた。
(一緒にいたわけでもないのに、言われたことやされた事を共有していたりするから、私たちを愛してくれていた両親ですら、この能力に関しては気持ち悪いそうにしていたものね…)
でも、先ほどのマリーナ様のお言葉は…。
何度も説明しなくても、知識を共有してくれるから助かると言ってくれた。
でも、お互いの苦しさや痛みも共有するのは、喜べないわよねと言ってくれた…。
そして何より、そんな思いをさせないように気をつけると言ってくれた……。
確かに、話さなくなくても伝わるのは便利だと言われたことは、過去にも何度かある。
それでも、苦しみや痛みが伝わることを気に掛けてくれた人は一人もいなかった。
私もレイも、この感情をどう表して良いのかが分からない。
ただ、これまでにない衝撃だけが心を強く揺り動かしていた。
この二年間はマリーナ様専属の侍女兼護衛となるため、勉強と鍛錬に費やしてきた。
その中で、マリーナ様が成し遂げてきたことや言動に関するエピソードをたくさんお聞きしていたので、仕えるに値するお嬢様だという尊敬はもちろんあった。
それでも、この件を切っ掛けに、それ以上の敬愛を捧げる存在となるのかもしれないという予感を…私もレイも感じている。
まだ、この感情を表す言葉は見つからないけれど。
マリーナ様と旅を続けていれば、きっと見つかるだろうという確信にも近い思いがあるのも不思議よね。
まだ、自分たち以外の誰かを信じることは怖い…。
でも、私たちの苦しみや痛みに気付いてくれた人を信じたいと、そう思えた自分に少しだけ嬉しさも感じている。
【レイ…。楽しい旅になりそうね】
【ええ。…きっとそうなるわ】
お互いに、感じているこの胸の奥の温かさ。
私たちの中で胸の奥に秘めていた何かがゆっくりと目を覚ますのだった。
それは、自分が変わってしまうという恐さ以上の嬉しさを運んでくることを、この時の双子はまだ知らない。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




