3.月光への誓い
【言の葉の家 世界観】に、船の内部構造や仕様についてのまとめを、このお話の少し前に投稿しています。
AI生成なので、少し違っている部分もありますが、イメージは分かって貰えると思うので、気になる方は是非のぞいて見て下さい。
はい、船着場にやってきましたマリーナです。
目に入ってきたのは、一際大きな船。
ガレオン船…。
この世界は、中世ヨーロッパに近い文化水準をしていて、その中でも貿易船としての主流は『キャラック船』だった。
これは、前世でもコロンブスの旗艦として有名で、長距離航行が可能な耐久性と積載量を兼ね備えた船なので、長らく貿易船として活用されてきた。
だが、キャラック船は防衛力(武力)に乏しく、複数の護衛船を同行する必要があるのが難点だった。
商船団として動くならまだしも、個人的に動く為の船なので、機動力や武力、積載量、居住空間などの面から考えても、キャラック船では限界があった。
そのため、お父様に今後のことも考え、ガレオン船の概要を伝えて、武力と積載量を兼ね備えた船を提案していた。
造船の技術に優れているアズリア王国との共同開発に着手するとは聞いていたのだけど…。
まさか、こんなに早く形になるとは!!
これまでに無かった船を作るのだから、時間が掛かるのは当然で。
時代的に考えてももう少し後に開発される船なのだから、少なくともあと数年はかかると思っていた。
だから、いま目の前にある船に驚きと興奮が隠しきれない!!
それにしても……大きい!!
青黒い船体は、朝の光を受けて鈍く艶めいている。
ただ黒いのではなく、夜の海を思わせるような、わずかに青を含んだ黒。
そこに、船縁や船尾楼を飾る金の装飾が細く走り、派手すぎないのに、目を離せないほどの存在感を放っている。
「船名は『モントリヒト』。月光という意味だ。」
隣に立ったお父様が、少しだけ誇らしげに言った。
「夜の海でも、進むべき先を照らすように…。そして、どれほど遠くへ行っても、帰る道を見失わぬように、と名付けた。」
「……お父様。」
「船首の海鳥は、アズリアの船大工たちからの提案だ。海鳥は陸を知る。船乗りにとっては、道を示すものだからな。」
波を切るように前へ伸びる船首には、白金色の海鳥が像が据えられている。
翼を大きく広げて威圧する姿ではない。
むしろ、これから向かう先を知っているかのように、すっと首を伸ばし、静かに前方を見据えている。
その胸には、小さな三日月の意匠があり、抱かれた三日月が、光を受けて淡く輝いているのが見える。
船乗りたちが、陸を示す海鳥を吉兆として尊ぶことは、もちろん知っていた。
海の上で迷わないための道先案内人であり、帰るべき場所を忘れないための、祈りにも似た象徴。
その意味を思うと、この船がただの新型船ではないのだと分かって……心が震えた。
これは、私を遠くへ運ぶためだけの船じゃないんだわ…。
知らない国へ向かい、知らない言葉に出会い、それでも必ず帰ってくることを願って造られた船だ。
「……モントリヒト」
船尾に刻まれた名を、私は小さく読み上げた。
『月光』
夜の海でも、進む先を照らす光。
あぁ、もう…。
そんな名前をつけられたら、文句なんて言えるはずがないわ!
私は慌てて口元を押さえた。
だって、にやける。勝手に口元がにやけてしまう…。
ここまで本気で造られた船を前にして、冷静でいられるわけがないわよ!
しかも、見れば見るほど分かってしまうんだもの。
砲門は必要十分に備えられているから、武力としては文句なし。
だけど、船体そのものは無骨な軍船とは違い、重すぎないようになっている。
船尾楼は大きく取られているが、背が高すぎず、風を受け流すように整えられている。
長距離航海のための居住性と、単船行動に必要な防衛力、その両方を、できる限り詰め込んだ形になっている。
安全に、快適に。
でも、いざというときには逃げ切れるだけの速さと、最低限の武力を。
私が、お父様に話したことが形になって目の前にある。
まるで夢みたいに…。
「中を見てみるか?」
あまりにも大きな感動で呆然と船を見ていた私だが、お父様のその一言に、勢いよく頷いた。
◇◇◇
案内された船内は、私がお祖父様と鍛錬のために乗っていた海兵達の乗る軍用船とも、バイエルン商会が持っているこれまでの商船とも全く違っていた。
もちろん、帆船である以上、木材とロープ、油と潮の匂いがあるのは変わらない。
けれど、この船に漂っているのは雑然とした窮屈さではなく、限られた空間をどう使うかを徹底的に考え抜いた、機能的な落ち着きに満ちた雰囲気だった。
船尾側には、私用の個室が用意されているらしい。
さらに、ムリーノ王国で合流予定のカルロの部屋もちゃんとあるという。
この船の造船にあたって、技術的な面はアズリア王国の力を借りたけど、資金的にはうちがメインで、一部をフェレーリ侯爵家が負担したのだとか。
長い航海になるし、私たちの安全と快適の為にお父様達が頑張ってくれたみたい。
「10歳と12歳の子供には贅沢すぎるよ!」と言いたいところだけれど、長期航海となれば話は別なのよね…。
着替えたり、寛いだりするだけではなく、各国の資料や言語の記録など、そういったものをまとめたりすることもある。
だから、私の場合は寝る場所というより、移動する書斎にもなるので、個室の方がありがたいのだ。
そのうえ、驚いたことに、船内には水場がきちんと整えられていた。
最近エルフの国から伝わったばかりの最新技術を応用した、魔石による循環式の給湯・排水設備。
詳しい仕組みはまだ分からないけれど、長期航海中に身体を清潔に保てるだけでも、前世の記憶を持つ私としては拝みたいほどありがたい。
食堂は二つ。
一つは来客を迎えるための、こぢんまりとした上品な食堂。
もう一つは、船員も護衛も商会の職員も、身分に関係なく交代で使う大きな食堂らしい。
この船では、食事の場を職位の差で分けすぎないらしい。
中世ヨーロッパでは、士官(船長や上級船員)と下級船員、船主などはそれぞれの食堂で、違うグレードの食事をするのがスタンダードだったらしいから、このスタイルはかなり珍しいと思うわ。
日々の体調、船内の空気、些細な異変。
そういうものは、同じ場所で顔を合わせてこそ気づけるものだっていうのが、お父様の持論らしく、うちの商船ではこのスタイルにしているんですって。
その考え方が、なんだかとてもお父様らしいし、娘として誇らしいわ!
砲門もあるし、武器庫もあるけれど、基本的にこの船は戦うための船ではない。
襲われそうになった時に、安全に逃げるため。
それでも、いざというときには全力で守るため。
そして何より、長い旅の中で人が人らしく過ごすため。
そのために造られた船なのだと、船内を歩くほどに伝わってきた。
私は目を閉じて、壁にそっと手を当てる。
青黒い船体の内側で、この船は静かに息づいている。
「モントリヒト…これからよろしくね。お父様が名付けたのなら、貴方は私の弟ね。何度旅に出ても、必ずここに一緒に帰ってきましょうね。」
私の言葉を黙って聞いていたお父様は、とても満足そうに笑った。
たぶん、お父様には必ず帰ってくるという私の決意が伝わったのだろう。
お父様のこの大きな愛に報いるためにも、『モントリヒト』に誓うわ。
新しい出会いを求めて何度旅立とうとも、家族の元に必ず帰ってくることを。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




