2.賑やかな見送りと約束のハグ
遠足の前日のように、ワクワクしすぎて眠れない!
なんてことは一切なく…。
グッスリ眠って、気力体力ともに満タンのマリーナです!
お祖父様の教えなのよね。
『寝れるときにちゃんと寝て気力と体力を回復すること。それが出来ないと、いざという時に頭も身体も動かない。』って。
だから、基礎体力がついた後は、実際に船での巡回に連れ回されて、船上での危機回避方法とか、守られる者が取るべき行動などを徹底的に教え込まれたわ。
お陰で大抵の状況下では、しっかり寝られるようになったわね…。
貴族子女としてはナシ要素なのかもしれないけど、船上や他国では思わぬトラブルに見舞われることも想定される。
その時に、私がもたついて邪魔になれば、周りの人間が危険にさらされることになる。
お祖父様からは守られていることをちゃんと理解して、その上で自分を守れるように動くのが私の仕事だとキツく教えられた。
もちろん、みんなを危険にさらすことは絶対にしたくないので、みんなのために『自分の身の安全を第一に確保する』ことを改めて誓ったのだった。
さて、そんなことを思い出しているうちに、少しボンヤリしていた寝起きの頭もスッキリししてきたし、この日のために作った冒険者風の服に着替えましょうか!
◇◇◇
家族とゆっくり朝食を摂った後、アンカーの港に向かう馬車に乗り込んだ。
港に着くと、特に私の出発を告知したわけでもないのに、
言の葉の家のみんな
バイエルン商会の者達
布絵本の工房の女性達
集会所のご老人達
管理事務所の職員達
私がこれまでに関わってきたみんなが出迎えてくれた。
馬車を降りて、船まで歩く間にみんなから
「戻ってきたら新しい言語、教えて下さいね!」
「商品になりそうな物をチェックしてきてくださいね!」
「珍しい刺繍や織物があったら、技術を見て盗んできてくださいよ~」
「ヘラヘラした男が近寄ってきたら蹴飛ばしてやるんじゃぞ!」
「他国であったトラブルは記録しておいてくださいね!」
たくさんの声が掛かった。
うん、なんか…。
みんな…もう少し心配してくれても良いんじゃない?と苦笑が漏れた。
……まあ、しんみり送り出されるよりはいっか!
「うん。みんな任せてちょうだい!折角の機会だもの。バッチリ知識も物も、色々と仕入れてくるわ!」
と、気合い十分にみんなに答えた。
この二年、両親との約束を守るための勉強や鍛錬だけしていた訳ではない。
私自身が関わった事業に関する引き継ぎや、後任の育成にも全力で取り組んできたのだ。
だから、みんなは心配してないわけではなくて、私がどれだけ外の世界を見て回ることを楽しみにしているかを知っているの。
そのために必死に努力していたのも見ていたからこそ、激励してくれているんだろう。
みんなの気持ちを嬉しく感じながら、たくさんのお土産を『約束』して、しばしの別れを告げた。
◇◇◇
見送りのみんなとの挨拶を終えると、その先にはお父様とお母様が待っていてくれた。
「マリーナ。この二年間、とても頑張ったね。こちらが提示した以上の結果に驚いているよ。」
うん、ちょっと勉強に気合いを入れ過ぎちゃったみたいで、すでに学園卒業程度の範囲まで終わっちゃってるのよね。
だって、前世では社会人まで経験しているのよ?
効率よく勉強する方法を知ってるのに、わざわざ遠回りする気になれなくて、うっかり先生に勧められるままに、勉強していたの。
そして、気付いたら学園卒業程度の範囲まで終わってるっていうじゃない?
そりゃあ、私だってビックリしたわよ!?
だって、先生ったら今がどの程度の学力なのかなんて言わずに、どんどん進めるんですもの!!
そのレベルも前世で言えば、せいぜい中学校レベルだし、そんなに進んでるなんて思わなかったのよね…。
先生も教えたら教えただけ吸収していくのが楽しくて、『ついついやっちゃいました、てへ☆』的なノリだったものだから、怒ってたはずなのに何だか気が抜けちゃったのよね…。
すでに必要範囲は終わってるってことで、あとは14歳で戻ってきてから、一年掛けて入学前に復習すれば大丈夫との判断で、勉強は一旦終わった。
ただ、10歳で学園卒業程度の範囲まで学習が進んでるなんてバレたら、厄介なところから目をつけられる可能性もあるし、先生には黙っていて貰えるように改めて守秘契約を結んでいる。
王家とか出てくると面倒だからね…。
「お父様とお母様とのお約束ですから当然です。お父様達が私のことを心配してくれていることは分かっています。でも、ルクス様から賜ったこのギフトには意味があると思うんです。それを確かめに行ってきます!お父様、お母様、私の我が儘を聞いて下さってありがとうございます。必ず、無事に戻って参ります。」
お父様もお母様も、本当は止めたかったんだと思う。
それでも、私が『言語理解(人・亜人種)』のギフトを賜ったことで、異なる言語や文化・人との交流を望んでいることを、誰よりも理解してくれていて尊重してくれている。
だからこそ、お父様達が出した条件を全てのんで、少しでも安心して貰えるようにしたかったのだ。
その気持ちはお父様達にも伝わっているのだろう。
お母様が少し涙ぐみながらも、気丈な様子で声を掛けてくれた。
「マリーナ。本当に貴方は今日まで頑張ったわ。ヘレーネも言っていたけれど、これまでに身に着けた淑女としての作法は、貴方の武器です。他国で高位の人とお話する機会があっても、堂々と自分らしく在りなさい。」
「はい、お母様。いつでも自分らしい振る舞いを心がけます。」
そういって、お父様・お母様と順番にハグをする。
お母様が背中をトントンと優しく叩いてくれる優しいリズムに少し泣きそうになった。
「年に二回の帰国を忘れてはいけませんよ。」
「はい。ラオ便(※)で帰国の目安や滞在地など、こまめに連絡するようにします。」
そう、今回は新たにうちに来て貰った『テイマー(魔物)』のギフト持ちの男性と、テイムした『ラオプフォーゲル(鳥型の魔物)』を船に乗せて行くことになっている。
バイエルン領とフェレーリ領に常駐しているテイマーの固有魔石も持っていくので、この固有魔石を目印に両親やフェレーリ家からの連絡を受けることも可能だ。
もちろん、クルトの固有魔石もバイエルン領とフェレーリ領のテイマーに預けてあるので、こちらからも定期的に連絡を入れようと思っている。
「さて、父さんとヴォルフが船で待ちくたびれているだろうから、移動しようか。」
お父様の言葉に頷き、船つき場の方へと移動を始める。
そっか、お祖父様とヴォルフ兄様が居ないと思ったら、船で待っていてくれているのね。
今回同行する海兵や商会の職員達は、そちらで家族との挨拶をすると聞いた。
それなら、ゆっくり話が出来るようにと思って、敢えて港の入口で馬車を降りて、歩いてゆっくり船まで向かうことにしたの。
でも、みんなが見送りに来てくれているとは思って無かったから、船に向かうまでに思ったより時間が掛かっちゃった。
お父様が言うとおり、お祖父様達が待ちくたびれて居そうだわ。
そういえば、私が乗る船はメンテナンス中とかで、事前に見せて貰えなかったから、初めて見るのよね~。
どんな船なのか楽しみだわ!!
※ラオ便の詳細に関しては、「第一章 48.5 閑話 通信手段についてのちょっとだけ長い補足」をご参照ください。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




