51.5 婚約のあれこれ 【複数視点あり】
【バイエルン家の婚約あれこれ Side ライナー】
『食事療法』の情報を公開して以降、近隣国と取引のある貴族家からの接触が絶えない。
王家から正式な宣誓書を貰っているから強引な手を使ってくることは無いが、最近は子ども達への婚約の打診という形でこちらを取り込もうとしてくる動きが目立っている。
うちの国は海と接しているのが我が領だけだが、近隣国は貿易港を持っている国も多く、そう言った国と取引を行っている貴族家にしてみれば、自分たちが優位に立てる可能性のある情報なのだから、喉から手が出るほど欲しいのだろうね。
まあそれは予想出来ていたし、そのための王家の宣誓書なのだが・・・。
情報の取扱に関して取引を持ちかけてきたり、脅しを賭けてくるような奴らには宣誓書は有効だし、こちらも強硬な姿勢を取ることが出来るが、これが婚約の打診となると話が違ってくる。
本当に欲しいのは『食事療法』の情報に関する権利なのに、そこには触れずに「子供達の年も近いし婚約者にどうだろう」という打診をしてくるので、いちいち断りを出すのも面倒になってきている。
中には、我が家より上位の貴族家からの打診もあるので、一度も合わずに断るのが難しいものもあり、頭を悩ませる事態となっている。
アイヒベルク家やフェレーリ家も似たような状況らしいが、どうしたものか・・・。
まあ、うちのヴォルフラムとアイヒベルク家のフランツィスカ嬢は相性も良さそうだし、内々で婚約予定としても良いのではと両家で話し合っている。
まだヴォルフもフランツィスカ嬢もお互いに好意はあっても、恋心とは自覚していないような所はあるので、あくまでも内々の婚約ということにしておいて、学園を卒業するまでにはどうするか決めようとクリストフとも相談済だ。
まあ、普段は手紙なんて書かないヴォルフがラオ便で、フランツィスカ嬢と手紙のやり取りをしているらしいから、時間の問題だとは思っているがね。
フランツィスカ嬢の方が2歳年上だから、先に学園に入ったフランツィスカ嬢がたくさんの令息からアプローチされる様子に、ヴォルフが耐えられないとクリストフと私は予想しているからね。
本人達には伝えずに、外部にはそれぞれ内々の婚約予定者がいるのでと断りをしておけば、貴族社会では珍しいことではないし問題無いだろう。
あとは、3家の嫡男達だな・・・。
他の貴族家では、嫡男の結婚は家の繋がりを重視して、親同士が決めることも多いが、我が家も他の2家も次期当主としての重圧に耐える嫡男ほど、自分が一生を共に出来ると思える伴侶を見つけて欲しいと望んでいる。
特に他の貴族家との繋がりを求めていないというのもあるが、余程問題のある相手じゃ無い限りは、自分が心から望んだ相手と添い遂げて欲しいので、学園卒業までは自由にさせてやりたいと思っている。
ギルベルトならバイエルン家はもちろんだが、ヴォルフラムやマリーナに害のある相手は絶対に選ばないだろうから、そういった面でも心配はしていない。
外部には、「ギルベルトが次期当主として婚約者は自分で選ぶので、その時にご縁があればよろしくお願いいたします。」とでも伝えて、選ぶのはギルベルト本人だと宣言しておこう。
夜会などで周りが騒がしくなるだろうが、ギルベルトなら自分であしらえるし、排除すべき家の判別にもなるから問題無いだろう。
さて・・・我が家最大の問題はマリーナの婚約問題だな。
あの子は神様にスキルを賜った特別な子だし、そのお陰かとても賢くて優しい天使のような存在だ。
まだお披露目会に参加していた親しい貴族家にしか可愛らしい容姿は知られていないが、スキルについては王家にも報告されているので、多くの貴族家に知られているだろう。
スキル持ちはスキルの内容が有益であれば、王城や中央貴族が囲い込んでしまうし、それが貴族家の子息令嬢だった場合は婚約という手段で、自家に取り込もうとしてくるのだ。
貴族家は新たなスキル持ちの情報には、とても敏感に反応する。
マリーナの洗礼の儀の後にも、スキルの内容や婚約に関してかなりの問合せが来たのだ。
それが『食事療法』の情報を公開して以降は、さらに加速した状態になっている。
さてどうしたものか・・・。
ん?何やら専属執事のクラウスからジトーっとした視線を感じるな。
現実逃避をするな?早くその手紙を開けて読めって?
そう、いま手元にはフェレーリ侯爵家のアレッシオからの手紙とカルロからの手紙がある。
カルロからの手紙はマリーナ宛てでは無く、私宛なのだが・・・どうにも手紙から冷気を感じる。
マリーナから『カルロに婚約の申し込みが殺到していて、私が一番の友達だから全部断るから安心して、ってこちらを心配する手紙を送ってきたから、「一番の友達なのは、お互いが誰かと婚約しても一緒だよ!」って返したのです!』と言われて、嫌な予感はしていたんだが・・・。
あーー、やっぱり見なくちゃダメか? はぁぁ・・・何となく予想はつくが見たく無いな。
仕方ない、諦めて読んでみるか。
◇◇◇
【遡ってマリーナからの手紙が届いたフェレーリ家 Side カルロ】
マリーナから手紙が届いた!
前回送った手紙には婚約の問題が出ているけど心配いらないって書いたから、それに対しての返事だよね。
マリーナも僕を一番の友達だって絶対言ってくれるはず。
ウキウキしながら手紙の開封したが、読み進める毎にカルロの雰囲気が凍り付いていく。
は???確かに、一番の友達だって言ってくれてるけど・・・。
「お互いが誰かと婚約しても一緒だよ!」ってどういうこと?
マリーナが誰かと婚約する?え?誰と???
マリーナは僕とずっと一緒に居るんだから、誰かと婚約とか無理だよね。
あれ?一番の友達じゃ、ずっと一緒には居られないの?
父上に確認しなくちゃ!!
◇
父上の執務室まで急いで向かい、到着するや否や、ノック音とほぼ同時に入室した。
「父上!確認したいことがあるのです。」
「おおぅ!・・・ビックリした。そんなに慌ててどうしたんだ、カルロ。」
いつもはそんな無作法なことはしないので父上を驚かせてしまったようだが、いまは緊急事態なので許して貰おう。
そう思いつつ、少し呼吸を落ち着かせてから、マリーナから手紙が来たことから順を追って、いま疑問に思っている事までを一気に話した。
全部聞き終わった父上は、しばらく頭が痛そうに額を押さえて「うむぅ」と唸っていたけれど、そのうち何かを吹っ切ったかのように顔を上げて話し始めた。
(アレッシオの心情:おいおい、マリーナ嬢・・・。それはカルロに言っちゃダメなヤツだって。只でさえ拗らせてるのに、そこを突っ込んじゃったら取り返しが付かない方向に向かっちゃうよ。・・・あーどうするかな。カルロは賢いから誤魔化しても通じないだろうし、もう正直に言うしか無いか!ライナーすまん!)
「あーー、なるほど。確かにマリーナ嬢とカルロの関係だと、一番の友達という関係ではずっと一緒には居られないかな。」
「どうしてですか?僕はマリーナと一番の友達だと、ずっと一緒だと約束しました。」
「ああ。確かに友達として一緒に居ることは出来る。俺とマリーナ嬢の父であるライナーだって友達で、離れていてもそれは変わらない。それは相手が結婚していても変わらないって事は分かるだろう?」
「はい。確かにそうですね。でも、僕は離れていることも嫌なのです。マリーナと一緒に色々な国を回るために、他国の言葉や文化もたくさん勉強していますから。ずっと一緒に居たいのです。」
「そうだな。カルロが勉強を頑張っていることは良く分かっている。だが、カルロとマリーナ嬢がずっと一緒に居られない理由はそれとは関係ないんだ。」
「では、何が問題なのですか???」
「性別の問題だな。カルロは男の子で、マリーナ嬢は女の子だ。子どものうちや仕事としてなら、一緒に行動することもあるだろうが、女の子はある程度の年齢を越えると婚約者や恋人が出来るし、そういった関係以外の異性とずっと一緒に居ることは「はしたないこと」と貴族社会では捉えられてしまうんだ。」
「え?恋人や婚約者以外はずっと一緒に居ちゃいけないの?」
「そういうことだな。」
一番の友達でも、僕が男だからずっと一緒にいたらマリーナが「はしたない」って言われちゃうの?
しかも、マリーナに恋人か婚約者出来る???
そいつのせいで僕はマリーナとずっと一緒に居られないってこと?
それは許せないな。僕とマリーナの仲を裂こうとするヤツは排除しなければ・・・。
全部排除したら一緒に居られるよね!
(おいおい、カルロからヤバイ雰囲気出てるんだが。我が息子ながら怖すぎるだろ。何か物騒なことを考えてそうだから、ちょっと矛先を逸らすとするか。うまく仕掛けに掛かってくれよ~)
「あー、カルロ。ちなみに、お前にも我が国の王女から婚約の打診が来「断って下さい!!」まだ言い終わって無いんだが・・・。まあ、断るとは思ってたから既に断っている。今回は軽めの打診だったから断れたが、うちより上位の貴族家や王家から本気の打診が来たら、断り切れないこともあるのは理解しておけ。そして、それはバイエルン伯爵家も同じだ。あちらにも様々な打診が来ているそうだからな。」
「マリーナにも婚約の話が来ているのですか?」
「ああ、マリーナ嬢は特にスキル持ちだからな。断れない所からの打診が入るのも時間の問題だろうな。」
「父上!そんなのマリーナが可哀想です。何か方法は無いのですか?」
(お、掛かった掛かった。勉強ばかりしているから男女の違いや、色恋沙汰に疎いのも問題だな。)
「断れない話が来る前に、内々にでも婚約してしまうのが一番確実だろうな。もう婚約を約束している相手がいるって理由で断れるからな。でも、婚約の約束をするって事は、将来的に結婚する可能性が高いって事だ。一生を共に生きる覚悟がある相手とじゃないと無理だな。」
「先に婚約・・・。将来的に結婚・・・?一生を共に生きる・・・。」
(ぶつぶつと俺が言った言葉を呟きながら何かを考えているな。さて、答えに辿り着くかな。)
父上と母上は結婚していて、取引で一緒に船に乗ることもある。
それはこれからもずっと変わらない事だ。
そうか!マリーナとずっと一緒に居るには結婚すれば良いんだ!
そしたらマリーナと一緒に色々な国にも行けるし、誰かに「はしたない」何て言われることもない!
でも、結婚は大人にならないと出来ないって聞いたから、まずは婚約者になってマリーナを誰にも摂られないようにしないといけない!
「父上、僕はずっと一緒に居たいのでマリーナと結婚します!マリーナに婚約を申し込んで下さい!」
(おっと、いきなり最終段階までぶっ飛んだか・・・。ちょっとブレーキ掛けとかないと、マリーナ嬢との温度感が違いすぎるからな。)
「カルロ。確かにマリーナ嬢と婚約すれば、いずれは結婚することになるだろう。だがその理由が一緒に居たいからというのはダメだ。一生を共にする相手なんだから、お互いの気持ちが伴っていないと一緒には居られない。カルロがどうしてもマリーナ嬢と結婚したいのであれば、カルロもマリーナ嬢を特別に大好きになって、マリーナ嬢からも特別な大好きを返して貰えるようにならなければならないんだ。」
「特別な大好き・・・。」
「そうだ。これからカルロも学園に通うようになればたくさんの令嬢と出会うだろう。その中にマリーナ嬢以上に大好きになる子がいるかもしれないじゃないか。そして、それはマリーナ嬢だって同じだ。」
え?マリーナが僕以上に大好きな子と出会うの???それは嫌だな・・・。
それに僕がマリーナ以上に大好きな子に出会う?・・・無いな。
どう考えてもそれはあり得ないと思う。マリーナ以上に賢くて、優しくて、可愛い子なんて居るわけないもの。
ってことは、僕はマリーナ以上に大好きな子は居ないんだから特別な大好きって事だよね。
あとは、僕がマリーナからも特別な大好きを返して貰えるように頑張れば、何も問題ないって事だ。
「父上。マリーナ以上に好きになれる子は居ないし、マリーナが特別に大好きなので問題ありません。マリーナにも大好きになって貰う努力もするので、すぐに婚約を申し込んでください!」
「わはは、分かった。婚約の申し込みはしてやろう。ただし、学園の卒業までにマリーナ嬢がお前を友達以上には思えない時は、グズグズ言わずに婚約を解消するのが条件だ。それまではお互いに婚約していた方が、煩い婚約話が来なくていいし、虫除けにもなるからな。その条件でも申し込むか?」
要は、僕がマリーナに大好きって言って貰えるように努力すれば良いだけでしょう?
そんなの迷うことはないね。だって、僕はマリーナが、マリーナだけが特別に大好きだもの!
マリーナに集る虫も堂々と排除出来るし、僕に寄ってくる虫も追い払えるしね・・・。ふふふ。
「それで大丈夫です。僕からもマリーナの父上様にお手紙を書きますので、婚約の申し込みと一緒に出して下さい。」
「分かった。手紙が用意出来たら持ってきなさい。婚約の申し込みと一緒に出してやろう。恐らく、向こうも断れない婚約が来ることを警戒しているだろうから、この申し込みは断られないと思う。だがカルロ、友達で終わるのか、結婚出来るのかは、お前の努力次第だぞ。しっかりやりなさい。」
「はい、父上。すぐに手紙を書いてきます。」
そう言って、そそくさと退室していったカルロの背中を見送りながら、
(ライナー、すまんな。とうとうカルロが本気になったぞ。一応条件を付けてブレーキは掛けておいたが、何処まで効果があるか・・・。お前も覚悟を決めてくれ。)
と、遠くにいる友人に詫びながらも、厄介な婚約問題が片付きそうだと、少し気持ちが軽くなったアレッシオだった。
◇◇◇
【再びバイエルン家 Side ライナー】
フェレーリ侯爵家からの正式な書状を開封し、中身が予想通りの婚約の申し込みであることを確認しつつ、同封されていたアレッシオからの手紙を読み始めた。
******<手紙>*****
ライナー、マジですまん。
マリーナ嬢からの手紙にカルロが爆発して、とうとう本気になった。
一応、婚約の申し込みについては条件を付けてブレーキを掛けたが、
どこまで効果があるかは正直分からん。
まぁ、お互いに厄介な筋からの婚約が持ち込まれる前に、
婚約しておくのが最善の手であることも分かってるだろう?
(一度婚約したらマリーナ嬢を手放すとは思えないけど・・・)
諦めてくれ。
アレッシオ。
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想定内とはいえ、不穏すぎるだろう・・・。
確かにこの条件なら、マリーナとの間が友情で終わった場合でも、解消可能なので問題無いように見えるが、カルロがマリーナを諦めるとは思えないというのは共通の認識だろう。
アレッシオの中で最終的に諦めるのは私なのか・・・。
まあ、何故か私自身もそんな気がしているのだから、もうどうしようもないのかもしれない。
はあぁ・・・。大きなため息が出るが、アレッシオの言うとおり厄介な筋から婚約の申し込みがある前に、カルロと婚約をしておくことはメリットしかない。
念のためカルロからの手紙も読んだが、「自分と婚約をするメリット」「マリーナを特別大好きなこと」「将来は結婚してずっと一緒にいたい」「マリーナに大好きになって貰う努力をする」など、もの凄い熱い熱量で書いてある。
しかも、その後には「婚約出来なかったらどうなるのか」ということが、先ほどとは真逆の冷え冷えとした圧力を伴って淡々と書かれていた。
マリーナのお披露目で初めて会ったのはカルロが5歳の時で、いまはあれから2年ほど経っているから7歳か・・・。
これが7歳の書く手紙なのか・・・。末恐ろしいな。
あー、たまに敵に回すと厄介なヤツというのは居るが、まさにカルロみたいなタイプは敵に回したくないヤツの典型みたいなものだな。
はあ・・・仕方ない。一応マリーナにも確認して、問題無いようなら受けるか。
確認されたマリーナは、「カルロと婚約?学園の卒業までにお互いに好きな人が出来たら解消出来るの?それならいいよ。カルロも学園で好きな子が出来るかもしれないし、それまでの虫除けになりますとも!」と快諾したので、まあ後はカルロの頑張り次第だろうと婚約を受けることにした。
こうなると、ヴォルフラムとフランツィスカの婚約を内々で済ませてしまうと、内々なら付け込めると思われてしつこくされそうなので、こちらもマリーナ達と同じような条件付きの正式な婚約をすることになった。
こうして、各家の嫡男は自分で相手を見つけることになり、ヴォルフラムとフランツィスカ、マリーナとカルロは正式な婚約(条件付き)をすることになり、過剰な婚約の申し込みは終息したのだった。
ヴォルフラムの初期年齢を7歳→8歳に修正しています。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




