44.試す価値はあると思います
はい、お父様から思うようにやって良いとの許可を得て、『航海病』対策に乗り出したマリーナです。
まず集会所へ行き、元食堂の料理人や、元商船の料理人、料理上手な主婦などに多数集まってもらい、さらに今後のために料理人を目指したい孤児院の子供達にも参加して貰う事にした。
そして、まずは集まったみんなに『薬食同源』の考えについて学んで貰った。
料理人経験のある人達は何となく理解してくれているようだけど、子供達はあまりピンと来ていないみたいだったので、少し趣向を変えて「病気などの特別な理由が無く、太っている人ってどういう人だと思う?」と質問してみた。
子供達は「「「たっくさん食べる人!」」」と答えた。
「そうね。たくさん食べる人は太る。これは何故かしら?」
そう質問すると、1人の子どもがハッとした顔をして「食べたものが身体を太らせた?」と言った。
「そう。さっき説明したように、食べ物をバランス良く食べることは、身体を健康に保つ上で大切なことなの。でも、身体が必要とする以上に食べてしまうと、身体が食べ物を処理しきれなくなってしまう。そして、処理仕切れなくなったものや身体が不要だと思うものは、尿や便として外に出してしまうの。それでも処理仕切れない分は、身体に溜まっていってしまうから、たくさん食べている人は太っている人が多いのよ。」
逆の例として、病気で弱っている人や、ご飯があまり食べられない人が痩せてしまうのは、食べ物から得る必要のある物が補給できないので、身体を維持するために残っているものを使ってしまうから、どんどん身体が痩せてしまうと説明すると、子ども達も理解出来たようだった。
何となくの感覚で理解していた元料理人達も、ちゃんと説明されることでしっかりと理解出来たようで、食事の重要性に気付いてくれた。
そしてここからが本題で、ここまでを理解して貰ったみんなに作って貰いたい物があると説明する。
『航海病』という船上で長期間に亘って、バランスの良い食事が出来ないことで発症する病があり、それを予防したり、発症してしまった人でも不足している物を補充してあげることで、症状が改善する可能性がある事が西大陸からの知識で分かったので、近くで調達できる物の中でどの食材が効果的なのかの確認と、長く保存が出来る加工方法の考案をしたいので、手伝って欲しいとお願いした。
その時、参加者の40代くらいの主婦が少し怒ったような様子で話し始めた。
「あたしの祖父さんが船乗りで、『航海病』で死んだんです。移るといけないからって、最期の時にも会わせて貰えずに船の上で死にました。ホントに食べ物でそれが良くなるんですか!?たかが食べ物で!!!」
他にも、元商船の料理人や家族・知人を『航海病』で亡くしたことがある人は、似たような表情をしている。
確かに、これまで治療法が無いと忌避されていた病気が、特定の物を食べることで良くなるなんて信じられないよね。
「うん、信じられないよね。でも、これは『たかが』じゃないんだよ。だって、船に積める荷物の量は限られていて、当然載せるのは商品が優先される。乗組員の食材や飲み水なんかは、途中の寄港地で補給することも考えて、あまり余分には詰まないよね?」
私の問いかけに元商船の料理人だったお爺さんが「確かに、天候で遅れたりすることを加味しても、食材は次の寄港地までの日数より少しだけ多めに載せる位で、時化が続いた時なんかは食材を節約して何とか乗り切るしかない。」と補足してくれた。
「そうよね。でもそうなると、少ない食材を無駄にしないように、日持ちのする食材に偏って積むことになるから、普通に生活していれば『たかが』食事と軽く考えてしまうことでも、船上では長期間に亘って満足に出来ないのよ。だから、身体に必要な物が足りなくなって病気になっちゃうの。でもその不足している部分が、保存が利くように加工した食材を追加することで補えるかもしれないのなら、試してみても良いと思わない?」
私がそう言うと、さっき補足してくれた元商船の料理人のお爺さんが、「そうだな。俺も船に長く居たから『航海病』で死んでった奴らをたくさん見てきた。それがどうにか出来るかもしれないなんてすげー事だ。過去はどうにもならんが、これからそういう奴らが少しでも減らせるなら、俺は喜んで手伝わせて貰うぜ!」と力強く頷いてくれた。
お爺さんの言葉に、他の渋い表情をしていた人達も「そうだな。それで何とか出来るかもしれないなら、試さない手は無いよな!」とやる気になってくれた。
「みなさん、ありがとう。西大陸からの知識の中から、こちらでも使えそうな食材を集めてみるので、皆さんにはそれの加工について知恵を貸して貰う事になります。加工場と食材の用意が出来次第、取り掛かりますのでご協力お願いします!」
(本当は、具体的な食材については『ホンスー』の本には何も書いてなかったんだけど、細かい栄養素についての説明はこの世界では通用しないので、西大陸からの知識って事にしておいて、まずは目星を付けていた食材で試して見よう。)
後は、加工場と食材の確保について、お父様に相談しないとね。
◇◇◇
邸に戻った私は、出迎えた執事に着替えたらお父様の執務室に伺いたいと伝えに行って貰った。
室内用のドレスに着替えた私は、メアリーにお茶を入れて貰って一息ついていたところへ執事が戻り、今なら話が出来るとの返答だったので、丁度お茶を飲み終わったタイミングで執務室へ向かうことにした。
執務室には、お父様とお父様の専属執事であるクラウスが居て、書類仕事をしているところのようだった。
「マリーナ、お帰り。今書いている書類だけ仕上げてしまうから、少しだけ待っておくれ。」
「お父様、ただいま戻りました。お忙しいのにごめんなさい。」
クラウスが応接セットのソファに諏訪って待つようにと誘導してくれて、凄く香りの良いお茶を入れてくれたので、それを飲みながら待つことにした。
数分程度でお父様がお仕事を一旦切り上げて、応接ソファに来て下さった。
クラウスがすかさずお茶を差し出したので、出来る執事は違うな~と感心してしまった。
「我が天使マリーナ、待たせてごめんね。さて、今日はどのように動いたのか、今後どう動こうと思っているのか、その辺りが決まったのかな?」
うん、その枕詞はいらないと思う・・・。
でも、慣れてきてしまった自分もいるのが、ちょっと嫌よね⤵
「はい。昨日お話したように、食材として何が『航海病』に有効なのかを確認したいので、食材を調達し、日持ちするように加工しなくてはなりません。それを実際の『航海病』の方に食事療法として試していただき、経過を見ていくことになると思います。」
そのために、今日は集会所に集めた元商船や食堂の料理人、料理上手な主婦達、料理人を目指したい孤児院の子ども達にも参加して貰って、『薬食同源』の考えを理解して貰うことから始めたこと。
その際に、身内や知人を『航海病』で亡くした人達からの反発が少しあったが、長期に亘る航海でバランスの良い食事を取ることが、どれだけ困難であるかを具体的に説明したことで、元商船の料理人を中心に「可能性があるのなら、やってみる価値はある」と協力を約束してくれたことを話した。
「そうだね・・・。元商船の料理人であれば、助けられずに亡くなった仲間もたくさん居ただろうからね。料理という自分の得意な分野で助けることが出来る可能性があるなら、試す価値があると思って貰えたんだろう。人手が確保出来たのは有り難いよ。さすが我が家の天使だ。」
うん、最後が締まらないけど、褒めて貰えたのは素直に嬉しいな。
「ちゃんとした結果が出るまでは、半信半疑なのは仕方ないと思っています。とりあえず人手は確保できたので、お父様には加工場所の確保と、食材の確保をお願いします。」
加工場所については清潔でそれなりのスペースが必要となること、食材加工と入れ物の煮沸で加熱の処理をするために、複数の竈と大きな作業台が必要だと説明。
食材については、バランスの良い食事が取れるようにするために、『複数の食用キノコ』『芽キャベツ』『レモン』『豚肉』の調達をお願いした。
キノコと芽キャベツ、豚肉については、バイエルン領の市場でも普通に出回っているので、すぐに入手出来ると思うが、『レモン』についてはフェレーリ領の特産品なので、お土産で何度か頂いているが、加工用に形が悪い物などを大量に仕入れて欲しいとお願いした。
お父様はすぐに承知してくれ、メモを取っていたクラウスにバイエルン領で調達可能な食材についてはすぐに手配するよう指示をしていた。
フェレーリ家にはまだ詳細は伏せたまま、『レモン』を大量に仕入れたいこと、加工用なので形が悪い物などが中心で問題無いことを、すぐに連絡してくれるとのこと。
まだ何も結果が出ていないから、フェレーリ家には詳細を話せないけど、もし効果がちゃんと出るようなら『レモン』を特産品とし、なおかつ貿易港も有している領地なので、『レモン』の加工についてはフェレーリ家にお願いしても良いかもしれない。
その点もお父様と相談しつつ、加工場と食材の調達の目処が立ったら知らせて貰えるようお願いして、お父様の執務室を退室した。
その語は昼食を食べた後、具体的な加工方法について考えている間に強制お昼寝タイムに落ちてしまい、気付いたらベッドの中でした。
『薬食同源』の考え方については、独自の解釈となっていますのでご理解をお願い致します。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




