42.勿体ないので拝借します。
一定の効果が感じられたお試し『言の葉の家』から数日が経ち、静かな朝を迎えて物寂しい気分のマリーナです。
アイヒベルク家もフェレーリ家も、次の定例会に会おうと約束して、颯爽とそれぞれの領地に帰って行ったので、ここ数日の賑やかさが嘘のように邸は静けさを取り戻しています。
窓辺にあるカルロとお揃いのサンキャッチャーが、励ますようにキラリと日差しを反射させている様子をみて、「うん、今日も頑張ろう♪」と気合いを入れた。
◇◇◇
今回の定例会は、各家の当主達もこの4ヶ月の成果に大変驚き、今後のプロジェクトに大いに期待が膨らませられる内容に満足したみたい。
でもこれは、あくまでもバイエルン領でのケースなので、バイエルン領とは状況が違う各領地では、そのままではなく、それぞれの領地に合った内容への落とし込みが必要となるの。
そこをどう工夫するかは両家の采配に掛かってくる訳なんだけど・・・。
そこで当主達がお互いに「うちの方が絶対凄いのにする!」と張り合い初めてしまったのよ。
まあ、最終決定は当主の仕事としても、実際に動くことになるのは次期当主達(子供達)な訳で・・・。
その次期当主達はというと・・・。
子供のように言い合っている当主達を、我が儘な子供を見るような呆れた視線でチラッと見た後、すぐにお互いに「そっちの場合はこうした方がいい」とか、「このパターンに適応させるにはどうしたら・・・」とか、凄く建設的な話し合いを始めて、各領地の次世代は安泰だ!と使用人達からキラキラした視線が向けられてたのが面白かったな~。
それにしても、父様達・・・母様達が目が笑ってない笑顔で、扇子を握りしめてるのに全然気付かないのは不味かったよね[汗]
(母様達の扇子がギシギシ音を立てていて、悲鳴の様に聞こえたとか聞こえなかったとか・・・。)
どうやら父様達ったら、子供達が真剣に議論してる横で、「うちの方が凄いの出来る!」から発展して、「うちの子の方が凄いんですぅ~」っていうくだらない遣り取りを続けていたらしく・・・。
『子供達の邪魔をしない!』と母様達に3人纏めて叱られてたのは、みんな気付いてたんだけど、ちょっと当主としては情けない状態だったので、父様達の威厳を守るために、優しい私たちは気付かない振りをしてあげました♪
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さて、寂しがってばかりも居られません。
きっと、エル従兄様やパオロ様も、今回の定例会の内容を上手く自領に落とし込んで、さらに凄い内容にしてくるに決まってるから、こっちだって負けていられませんよ~。
実は、プロジェクトの趣旨とはちょっと違うんだけど、やってみたいことがあるんだよね~。
今回のプロジェクトを進める中で、本当に偶然で発掘したスペシャルな人材(刺繍の達人ダナおばあちゃん!)を見てて、現役の様には作業が出来ないからと仕事自体は引退しているものの、五体満足で暇と技術を持て余しているご老人達が、町にはたっくさんいるのではないかと思ったのよ。
一度そう考えちゃったら、その人材を活かさないのは勿体ないじゃない!!
ダナに聞いたら仕事をしていない元気な老人は、只管に若い家族の負担にならないようにと息を潜めて暮らすしかないのが現状なんですって。
そんな気持ちで暮らしてたら、折角健康なのに病気になっちゃうよ。
『病は気から』って昔の人は表現が的確だよね。意欲や気力が無いと、気持ちにつられて身体(免疫とかね)が弱っていって、最終的には本当に病気になっちゃうんだと思うんだよね。
それなら、誰もが気軽に集まれる集会所みたいな物を作って、そこで思い思いに過ごして貰おうと思うのよ。
編み物をしたり、刺繍をしたり、物作りをしてもいいし、もちろん何もしないでお茶を飲みながらおしゃべりだけしたっていいよね♪
そうして気力を回復したご老人達の知恵と技を少しだけ拝借して、『職業体験』のような事が出来ないかと思ってるの。
どういうことかっていうと、この前パオロ様にもアドバイスしたけど、子供達の興味がある物や適正ってそれぞれで全然違うから、それを早い段階で見つけてあげられれば、効率よく能力を伸ばせるし、興味や適正が無いものをやらせた時よりも、学びや上達のスピードが全然違うと思うのよね~。
一度工房に弟子入りしちゃうと『やってみたけど合わないからやめま~す』は通用しない世界だし、かといって自分の適性を知る機会なんてほとんど無いから、親や親戚の仕事を継いだり、人手を探している工房に弟子入りしたりするしか無いんだよね。
だから、ご老人達が自由に作業している横で少しだけ同じ事をやらせて貰ったり、若い頃の話や失敗談なんかを聞かせて貰ったりすることで、子供達が色々体験出来る場所としても活かせるんじゃないかと思って。
後は逆に、後継者が見つからずに廃れかけている技術なんかも、ここで誰かに興味を持って貰えたら継承されていくかもしれないし、一石二鳥どころか四鳥くらいはいけるんじゃないかと目論んでるのよ・・・ふっふっふ。
ご老人達も子供達とふれあう事で元気を分けて貰えるし、自分達の経験や技術が誰かの糧になるかもしれないって思えることは、生きる意欲や気力にも繋がるだろうしね。
もちろん技術指導をしてくれた人には報酬も出すつもりだから、家や孫にお金を使うなり、新たな趣味を開拓するなり好きに使って欲しい。
女性やご老人が元気な町は活気が溢れていて良いよね~って、単純な考えからの取り組みだったんだけど・・・。
実際に女性やご老人達が元気に活躍を始めると、生活にメリハリが出て家庭の雰囲気も明るくなったみたい。
これまでは仕事帰りに外で飲み歩いていた男性達も積極的に家に帰るようになり、その雰囲気は明るい家庭環境で育つ子供達の情操教育にも大いに貢献する、好循環を生み出してくれたのだった。
これには、集会所の設置を許可してくれたお父様もビックリしていた。
そうだよね~、私もここまでの好循環になるとは思ってなかったけど、考えてみたら当たり前だったのかも・・・とも思うのよね。
昏いことや嫌なことばかり考えていると、普段なら気にならない程度の不快感(躓いたり、指をぶつけたり)が余計に気になって、悪いことばかりをカウントしてしまうようになっちゃうものだし、楽しい気分でいれば、些細な不快感なんて人間気にならないものなのよ。
そして、前向きな気持ちとか明るい雰囲気自体が、更に良いものを引き寄せるているんじゃないかと思うんだ。
だって誰かが楽しそうに何かをやっていたら、『何か楽しそうだな~。一緒にやってみようかな♪』って思うでしょう?
私なら参加したくなっちゃうもの[笑]
そんなこんなで気軽に始めた集会所だけど、思った以上に技術と人の交流の場として、長く愛される場所になったのであった。
◇◇◇
集会所が出来てから3ヶ月が経ったある日。
今日も賑わっているね~♪と視察という名目で、面白い技術が無いかとちょくちょく見に来ている私だが、船乗りになりたい子達が元商船の船長や船員のお爺ちゃん達の話を聞いている側を通ったときに、それが耳に入った。
それは我が家が船での貿易をやっているということを聞いて以来、密かに気になっていた事でもあったので、「長期の航海」「航海病」などと言ったワードが聞こえてきた段階である程度の想像は付いていたが、「やっぱりあったか・・・」と確信を得てしまったという気持ちに心が重たくなった。
その時点で、私もその話の輪に入れてもらって詳しく聞いたところ、造船の技術や航海術が飛躍的に上昇した昨今では、遠くの大陸との貿易も珍しく無くなって来て、その分長期間(数ヶ月~半年)に亘る航海も増えたのだとか。
そうなってくると、どうしても食料や飲み水が不足したり、長く風呂に入れないことで衛生環境が悪くなることで、船内で病気が発生してしまうことが問題になるらしい。
まずは倦怠感や食欲不振、気分の落ち込みなどの症状から始まるのだそうだ。
大抵は風邪かと思い安静にして過ごすが、そもそもの環境が良くないのであまり改善しない事が多く、そのまま症状が悪化すると皮膚に発疹や黄変が出たり、歯茎からの出血や節々の痛み、動悸・息切れや手足の感覚の麻痺と言った症状へ進行していく。
航海の途中で発症してしまった者達の末路は大変悲惨で、他のものに移らないように隔離され、最低限の看護で寄港地まで過ごすことになるが、寄港地に着いても病人を上陸させる事を拒む国も多いため、そのまま船上で儚くなる事がほとんどなのだという。
お爺ちゃん達は、船乗りになりたいのならそういったリスクもちゃんと知ってなきゃいかん、と敢えて子供達にも話す事にしたようだ。
子供達も強張った表情で話を聞いていたが、実際の現場は我々の想像の数倍は上をいく凄惨さなのだと思う。
話をしてくれたお爺ちゃん達にありがとうとお礼を言いつつその場を離れ、邸に戻るための馬車へと乗り込む。
乗り込むと一緒に乗っているメアリーに、「少し考え事をしたい」と声を書けてから自分の考えに深く沈んだ。
この世界は、一部でスキルなどファンタジーな部分があるものの、一般の人達の生活は前世で言う中世ヨーロッパの様な文化水準だと思う。
そんな時代背景においての船関連あるあるといえば、『壊血病』ではないだろうか。
前世でも大航海時代に長期の航海が可能となったことで、航海中に果物や野菜の摂取が出来ないことで起きるビタミン不足によって発症する病で、この時代では原因や解決方法が無い病として、多くの人の命を脅かしたのだ。
先ほど、お爺ちゃん達から聞いた症状がほとんど当て嵌まることから、ほぼ間違いないとは思うが、邸に戻ってお父様やお祖父様にもお話を聞いてみないといけないだろう。
解決法に繋がるものについては、実は市場で目を付けているものがあるので、これが私の知る『壊血病』なのであれば、試して見る価値はあると思う。
さて、まずはちゃんと確認しないとね。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




