38.【 守の一族 Side 大工見習い ニック】
今日のも長い・・・です*(╥﹏╥)
孤児に対するネガティブな表現があります。
あくまでも創作上の設定ですが、そういった話題に感度が高い方はこの話を飛ばしていただく事をお勧め致します。
俺はニック、15歳の準成人を迎えて、最近大工見習いになったばかりだ。
親父は隣領の領都とアンカーを往復する乗合馬車の御者をしており、お袋は天気が良い日は農作業の手伝いに行き、天気が悪い日は家で繕い物などをして過ごしており、月の半分以上を留守にしている親父の代わりに家を守ってくれている。
俺は親父の弟である叔父さんの伝手で12歳から大工工房に雑用として弟子入りし、やっと見習いになれたので、お袋にもう少し楽をさせてやれるように頑張らないとな!
◇◇◇
見習い大工として少しずつ木材の見極めや、壊れにくい組み方など技術的な面での指導をして貰えるようになって、充実した毎日を過ごしていたある日。
親方に呼ばれたので行ってみると、俺よりも早く見習いになった兄弟子達が全員いた。
みんな何故呼ばれたのかは分かっておらず、ザワザワと落ち着かない様子を見せていたが、俺も兄弟子達の誰かが悪さしたんだろう、位にしか思って無かった。
「おう、お前達集まったな。領主様からのお達しで、各大工工房の見習い達に『コレ』を作成して貰うことになった。」
『コレ』と言って見せられたのは、硬貨か?いや、木で出来てるし、サイズも硬貨より少し大きいみたいだ。何だあれ???
兄弟子達も見た目は硬貨だが、木で出来た『ソレ』が何なのか分からずに困惑しているようだ。
「親方、『ソレ』は何ですか?俺達が『ソレ』を作るんですかい?」
「そうだ。お前達には『コレ』をたくさん作って貰う事になる。」
そう言うと、木で出来た硬貨はこれから始まるバイエルン家主導のプロジェクトとやらで、孤児達が勉強するための教材の一部として使われると説明された。
木の硬貨を作る条件として、
■各大工工房の見習いが作成すること。
■本来の業務が疎かにならない程度の作業に止めること。
■本物の硬貨との混同を避けるため、金属での制作は禁止し、木材で作成すること。
■さらに本物との違いとして、本物よりも必ず一回り大きめに作成すること。
(見本として各工房に渡している木の硬貨と同じ規格で作れば問題なし)
これらの条件を守って作成された物は、領主様が運営しているバイエルン商会が買い取ってくれるので、その成果によっては見習達の臨時収入になるらしい。
そんなことで臨時収入ゲット出来るなんて楽勝だな♪
俺は単純にそう思って厚みや大きさをササッと見ただけだったが、兄弟子達は実際に硬貨の見本を手に取って色々な角度から眺めてみては、「これは結構大変そうだぞ。凄く丁寧に仕上げてある。」と話し合っていた。
俺はさっさとその場を離れて、自分の作業スペースに戻り、硬貨と似たようなサイズの角材を持ってきて、適当にヤスリで太さを整えたあと、硬貨ぐらいの厚さに切っていった。
兄弟子達は大げさなんだよ。見習いになったばかりの俺が誰よりもたくさん作って、兄弟子達より早く一人前の職人になってやる!!
しっかし、こんな玩具の金で勉強するなんて、親無しは可哀想な奴らだな。
でも、叔父さんが言ってたけど、親無しどもは俺たちが領主様に納めた金で、タダで飯を食って生きてるんだってよ。
そんなずうずうしい奴らのために俺の時間を使わなくちゃならないのは腹立たしいが、臨時収入があればお袋の助けにもなるし、仕方ないからやってやるよ。
弟子達のそんな様子を親方や職人達は、静かに見つめていた。
◇◇◇
それから数日が経って、現在までに出来ている分を、それぞれ自分の名前が書かれた袋に詰めて持ってこいと親方からの指示があり、俺は意気揚々と結構な大きさがある袋にパンパンになるほど詰め込んで持っていった。
兄弟子達も持ってきていたが、見る限りみんな袋には大して入っていない事が分かる状態で、俺の袋を見てびっくりしていた。
「ニック、お前もうそんなに作ったのか。仕事の合間に作業するのは大変だっただろう。凄いな。」
「ええ、まあ、それなりに大変でしたけど大したこと無かったですよ。」
鼻高々で大したことじゃ無いと言えば、兄弟子達の中には気を悪くした者も居たようだが、みんな何も言わずに親方に袋を提出していた。
「買い取りの結果は、バイエルン商会で商品を精査してから出るので数日掛かるだろう。その間は、一旦制作をやめて通常の仕事に戻ってくれ。では、解散。」
親方と職人達が集まって、バイエルン商会からの回収の人に渡す前の確認をするらしい、と兄弟子達が緊張していたが、臨時収入がいくらになるかな~♪と浮かれていた俺は気付いてもいなかった。
◇◇◇
木の硬貨を提出してから数日が経った。
その日は親方から、資材屋に発注していた資材が届いているから、取りに行くようにとお使いに出された。
雑用のガキどもに頼めば良いのに、何で見習いになった俺が行かなきゃならないんだ!とふて腐れながら歩いていると、肉串の良い匂いがしてきて、ふらふらと屋台に寄っていってしまった。
まあ近々、臨時収入もありそうだし、ちょっとくらい買い食いしてもいいだろ♪
肉串を食べながら、たまには息抜きにお使いに出るのも良いかもな~、と気分も上向きになったとき、金物屋の店先に新しいナイフが飾られているのが目に入った。
いま仕事で使ってるナイフは、両親が大工工房への弟子入りを祝って12歳の時にプレゼントしてくれたもので、大事に使ってはいたが毎日研いでいるので刃が摩耗してきてしまっていたのだ。
値段を見ると、いまの所持金ならギリギリ買える値段だったので、悩んだが臨時収入が入るだろうし、と思い切って買うことにした。
金物屋で店先にあるナイフを買うことを伝えて、持ってきて貰う。
手に馴染む形状で、重さも良い感じだと上機嫌で金を払った。
店主は「細かい金額はおまけしといたぜ!」と言って、お釣りをくれたので、「やった、ありがとう♪」とお礼を言って、商品とお釣りを受け取ったのだが、その時俺の横から小さな子供が、「それ、お釣り間違ってるよ。」と言ってきた。
足下を見ると、俺の腰くらいの大きさの子供が、俺がお釣りを持っている手元を覗いていた。
店主が「おい、いい加減なことを言うな!間違えてねーよ。あっち行け!!」とすぐに追い払おうとした。
「でも、孤児院で習ったもん。お釣り間違えてるよ!」
何だよ、親無しかよ。お前らなんか信じられるかよ!叔父さんが親無しはすぐに嘘をつくし、物を盗むから信用ならないと言ってたしな!ちょっと脅してやれば泣いて帰るだろう。
「おい、親無し!いい加減なこと言ってると警備隊を呼ぶぞ!」
「いい加減じゃ無いよ!見ててよ。」
そう言って、親無しのちびはポケットから、俺たちが作っている木の硬貨を取り出して計算し始めた。
「お兄さんはナイフを買うのに銀貨を5枚出したよね。」と俺に確認しながら銀貨のマークの木の硬貨を5枚並べる。
間違って無いので俺が頷くと、
「ナイフの値段は4750レネ[※]だけど、お店のおじさんが細かい金額はおまけするって言ってたから、4700レネってことだよね?」と店主にも確認する。
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[※]通貨の単位:レネ
硬貨:鉄貨(1レネ)、銅貨(100レネ)、銀貨(1000レネ)、金貨(10000レネ)
それ以上の金額は、硬貨では無く『金のプレート(主に商人間の取引)』や『延べ棒(主に国家間の取引)』を使用する。
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ちびの確認に、店内の他の客の注目も集めてしまっているためか、金物屋の店主もしぶしぶ頷くと、
「それなら、お釣りは300レネで銅貨が3枚のはずなのに、お兄ちゃんの手には銅貨が2枚しかないよ。」と、木の硬貨を使って計算が間違っていることを証明した。
そこまで言われてやっと俺も、怪訝そうにこちらを見ていた他の客達も「あ!」と気付いた。
確かにそう言われて見れば、本来のお釣りは250レネだから銅貨2枚と鉄貨5枚になるところを、細かい金額をおまけしてくれて銅貨3枚のお釣りになるはずなのに、俺が持ってるのは銅貨2枚・・・おまけどころか損してるじゃ無いか!!
店主にどういうことか!と詰め寄ると、「間違えただけだ。」と慌てる様子も無く、追加で銅貨を1枚渡してきて、用が済んだら帰れ!と店を追い出されてしまった。
くそー!!!おまけするって言葉に浮かれちまって、騙されるところだった。絶対にあれはワザとだな。他の客にも同じようにやって、ばれた時だけ間違えたって正しい金額を渡して終わりにしてるんだと思うと、騙されかけた自分にイライラした。
親無しのちびのお陰で騙されずに済んだな・・・。軽く礼でも言っといた方がいいか?とちびの姿を探すがもういなかったので、お礼を言いそびれてしまい、後味の悪いまま親方のお使いを済ませて工房に戻った。
◇◇◇
工房に戻るのが遅かったうえ、俺の様子がおかしかったらしく、親方に事情を聞かれたので、金物屋での出来事を全部親方に話した。このモヤモヤを誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
親方は最後まで黙って話を聞いてくれたが、
「そうか、孤児院の子供に助けられてお礼が言えなかった事を気にしているんだな。まあ、それはその場ですぐにお礼が言えなかったのは、お前の気持ちの問題だろうな。ニック、お前はなぜすぐにお礼が言えなかったと思う。」と聞いてきた。
すぐにお礼が言えなかった理由?そんなの騙された事でイライラしていたからだよな。だから、他に気が回らなかったんだよ。
そう親方に言うと、
「いや、お前は孤児院の子供にお礼を言うのが嫌だったんだろうよ。自分より下だと思っている人間に助けられたって事が嫌だったんだ。だから未だにモヤモヤしているんだ。」と言われた。
そんなことは無い!と否定するも、やっぱりどこかで俺たちが納めている金で生きている厚かましい奴らだという意識があるのか、いま目の前にあの子がいても、素直にお礼が言える自信は俺には無かった。
親方はそんな俺の考えも当然分かっていて、
「孤児院の子供達に何故親がいないのかを考えたことがあるか?あの子達だって好きで親がいないわけじゃない。病気や怪我で死んでしまったり、子供を虐待する親から保護されている子もいる。お前の親父さんだって乗合馬車の御者をしているんだ、事故に巻き込まれることもあるかもしれない。想像して見ろ。突然親が死んでしまって、明日からは自分ひとりで生きていかなければならなくなる状況を。」と静かに問いかけてきた。
俺は愕然とした。そうだ俺には両親が揃っているが、それは決して当たり前の事ではないんだ。
金物屋で会ったあの子は5歳くらいに見えた。
あの年で両親がいないなら、どうやって生きていけばいいんだ・・・。
そんな当たり前の事も俺は分かってなかったのか。
「少しは想像出来たか?自分で生きていく事が難しい子供達を領主様が手厚く保護して下さっていることは、我々大人としても本当に有り難いことなんだ。明日のことなんて誰にも分からないんだから、自分に何かあって子供が1人残されちまう自体になっても、領主様がちゃんと手を差し伸べてくれると分かってるんだからな。だから俺たちが納めた金で、当たり前のように子供達を支援してくれる領主様を尊敬しているんだ。俺はそういう大人であれる自分がとても誇らしく思っている。」
俺はいつの間にか涙を流していた。
叔父さんの言葉を鵜呑みにして、守られるべき存在に不要な敵意や、謂われの無い蔑みを向けていた自分がとても恥ずかしかった。
「親方、俺はどうしたらいいかな。」
少し考え込んだ親方は、
「そうだな・・・いま各大工工房の見習い達に作らせている木の硬貨があるだろう?実際に使っている所をみてどう思った。」と聞いてきた。
「頭で計算するだけより、実際に物を動かして計算するから分かりやすかった。」
俺の答えをウンウンと頷いて聞いていた親方だったが、
「孤児院の子供達は、外に出ればさっきまでのお前のような考えの者達に、言葉や態度で傷つけられることも多い、だからあの子達は自分たちが領主様の支援に甘えてばかりいてはいけないんだと、小さい子でも思っているんだ。今回のプロジェクトは孤児院の子供達にも勉強の機会をあげて、孤児院を出た後の人生を自分で切り開けるようにしたい、という領主家のお考えで行われている。子供達はそれに応えるために言葉や計算を必死に学んで、お世話になっている領主家のお役に立とうと頑張っているんだ。そんな勉強を助けるための道具の1つが、お前達が作っている木の硬貨だ。お前が作った物と兄弟子の物を見比べて見ろ。」
そういって、親方が俺の名前が書かれた袋と兄弟子の名前が書かれた袋から、同じ種類の硬貨を一枚ずつ出して手渡してきた。
これは・・・。
両方を手のひらに載せて見てみるが、よく見るまでも無く、その出来映えは一目瞭然だった。
俺が作ったのは、いい加減に作ったのがすぐに分かる出来で、ヤスリがけが甘くて、表面が滑らかになっていないし、手に持つとザラザラとした引っかかりを感じる。
兄弟子のは、丁寧にヤスリが掛けてあるので、表面がとても滑らかで、引っかかりも一切無い。
「どうだ。」
「はい、俺のは全然ダメです。使う人の事を何も考えていませんでした。」
「そうだな。これを使う人の中には、今日お前が会ったような小さい子も多いだろう。ヤスリがけが甘ければ手に棘が刺さって怪我をするかもしれない。俺たち大工は物作りの職人だ。使う人の事を考えて物作りをしなくちゃならん。」
俺は、こんな物を自信満々に出した自分がとんでもなく恥ずかしく思えた。
ひたすら自分の行いを恥じていた俺に、親方はなぜ木の硬貨を職人では無く見習いに任せたのかを話してくれた。
領主家からのお達しがあったことはもちろんだが、一人前の職人ともなると同じ品質で、同じ規格の物を毎回作れることが職人・工房としての信用にも繋がるのだ。
そういった同じクオリティの物を量産する練習も兼ねていると同時に、見習いが作った物なら、技術が未熟な事を理由に単価を安く卸すことが出来るので、子供達の教育のために少しでも手助けがしたいという親方連中の意見が一致して、各工房の見習いに任せることになったのだと言う。
俺の作った硬貨は親方や職人たちが確認して、工房の作品として出せないと判断されて、買い取りには出さなかったと言われた。
袋ごと戻された硬貨を全部丁寧に仕上げ直すことを決めて、作業スペースに戻った。
それからの俺は、あの子にお礼を言う気持ちで一つ一つ丁寧にヤスリを掛けていった。
仕上げた物を親方に見せた時は緊張したが、親方が「これなら、お前を助けてくれたあの子も喜んでくれるだろう。」と言ってくれたのが、凄く嬉しかった。
◇◇◇
俺は、助けてくれたあの子にお礼を言いに孤児院に行き、失礼な事を言ってしまったことを詫びるとともに、お礼の気持ちとして俺が丹精込めて作った木の硬貨を、それを綺麗にしまえる専用のケースと共にプレゼントした。
あの子は「一生の宝物にするね!」と凄く喜んでくれて、俺も物作りの職人になって良かったと心の底から思えた。
それからも、もっと工夫が出来ないかとこまめに孤児院に顔を出しては、改良を加えていたがある時、
他所の孤児院から目が見えない女の子が、こちらの孤児院に移ってきた。
前の孤児院では、目が見えないことで酷いいじめに遭っていたようで、酷く怯えた様子だったのが気に掛かった。
アンカーの孤児院では穏やかに暮らせている影響か、彼女の様子も落ち着いてきたので、他の子達と一緒に勉強したいと言っているのを聞いて、自分の意見が言えるようになった様子にみんなホッとした。
ただ、目が見えないことでの弊害があり、文字に関しては布絵本は刺繍の文字を指でなぞることが出来るので、問題無く勉強を進められたが、計算だけは思うように進まなかった。
木の硬貨は丁寧にヤスリがけされているので、全部滑らかな表面で大きさくらいしか違いが無く、いくつかを触り比べれば大きさの違いも分かるが、パッと単独で渡されてしまうと判別が難しいのだ。
あの子から「お兄ちゃんなんとか出来ない?」と相談を受けたので、同じように触って違いが分かるような工夫をしてみた。
硬貨の種類によって、周りにギザギザを付けて、目が見えない人でも感触で硬貨の判別が出来るようにしたのだ。(鉄貨は周囲にグルッと縦に真っ直ぐな線、銅貨は周囲に斜めの線、銀貨は周囲に×の線)
これが大当たりで女の子もこれなら分かる!、とさらに意欲的に勉強するようになったと聞いて、俺の物作りで誰かの助けになれることが、本当に嬉しかったんだ。
そしてなんと!この工夫は本物の硬貨にまで波及したんだ。
領主様がこの工夫を気に入って下さって、実際の硬貨にも同様の処理を施すことで、目が見えない人でも使えるようにしたいと国に掛け合ったことで、それが実現してしまったのだ。
しかも、この方法を考えた俺の権利をちゃんと登録してくれて、この手法を使う限りは俺や俺の子孫に使用料が入るようにしてくれたんだ。
国中に出回っている硬貨に対して使われる物なので、俺には莫大な金がずっと入ってくることになったが、その金は必要な分以外は孤児院の子供達や、本人にはどうしようも無い状況で困っている人への支援に使うようにと遺言を残したので、子孫達もニックの遺志をしっかりと受け継いでいったことで、ニックの一族は『守りの一族』として長く子供達への支援を続けたのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます(ღ˘⌣˘ღ)




