↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見るアリスと白兎アイホート  作者: 潮田しお
第6章『夢見るアリスと白兎アイホート』
32/35

Dream.32『ドッペルの懺悔』

「ルルちゃん、無事……だったの?」


 アリスの問いかけにルルに似た少女は首を横に振る。


「ルルはルルであって、ルルではありませんぞ」

 少女はしゃがみ、石の笛をアリスに握らせて続ける。


「どういうことなの……?」


「ルルは偽物だってことですぞ。クトゥルフの人柱であるルルの強大な力は人々にとって危険で、ずっと水牢に囚われていた。でも、出して出してと泣いていたら人柱の力を完全に封じ人と同等のものになるという条件で外に出してもらえることになった。そうしてアリスどのとイヴどのが出会ったのか本物のルルだったんですぞ」


「そう、だったんだ。でもどうしてコピーなんか……」


 牢から解放されて、力も失ってるというのにわざわざ偽のルルを牢に閉じ込めるなんて……。


「秘密の約束だったから、身代わりが牢の中に居なきゃいけなかったんですぞ。それが今アリスどのの前にいるルルですぞ。あいつは本当に意地悪で、記憶も丸ごとコピーして、おかげで今の今まで自分が本物のルルだと勘違いして、偽物だと思ってた本物が幸せそうにしているのを妬んで憎んで怨んでいた」


 そう語るルルの声色はどこか怒りと寂しさを含んでいた。


「……じゃあ、まさか」


「本物のルルは、ルルが殺したんですぞ」


 つまり、ルルちゃんを牢から解放した何者かはルルちゃんの憎悪を利用して本物のルルちゃんを殺させたということだ。他の人柱より遥かに非力なルルちゃんを、わざわざ回りくどい方法で。


 アリスは怒りに震えていた。ルルちゃんの寂しさに付け込んで、本当は優しいこの子を狂わせて。最低だ。


「……誰、そんなことをしたのは」


 アリスの心中に収めきれなかった憤怒が、低く冷たい呟きに漏れていた。


「ハートの女王ですぞ」


 ハートの女王。カルミアちゃんが最期に教えてくれた朱の王座教団の教祖。

 無意識に、笛を握る拳に力が入る。


「でも、それは教団の王座に就く裏の顔。彼女の正体はニャルラトホテプの人柱、ジャックですぞ。そもそも、ルルに約束を持ちかけたのは彼。ずっとルルはやつの手のひらの上で踊らされていた。そのことに気づけたら、ルルは……ッ!」


 ジャックさんがルルちゃんの寂しさを煽ってこの悲劇を起こさせた。どこまで彼は冷酷なのだろう。

 アリスはいたたまれなくなってルルを抱きしめその頭を撫でた。


「自分を責めないで……しちゃったことは仕方ない。自分の罪に気づけたルルちゃんはエラいよ」


 ルルの瞳が潤み、ポロポロと涙が子供のように丸みを帯びた頬に伝う。


「人肌ってこんなにも温かかったんだ…………」


 ルルが声を震わせて言葉を零すと、アリスの懐から離れ袖で目元を擦る。


「早く、イヴどのを迎えに行くんですぞ。夜鬼ならきっとイヴどののところまで連れて行ってくれるはず」

 ルルがアリスの持つ笛に目を落とす。月の無い空に星がグリッターを散りばめたように輝いていた。


 その時、大地が揺れ断層から海水が吹き出し始めた。


「そろそろ沈むみたいですな」

「沈む!?どういうことなの!?」


 予想外の事態に狼狽するアリスにルルが荒廃した島の原因を説く。


「ジャックが化身アトゥの姿になってヨグ=ソトースの人柱様と戦闘を行った影響ですぞ。結果は……言わなくてもわかりますな」


 ヨグ=ソトース?まさか、ウェヤハさんまで……。もしかしたら、トランプの陣に囲まれていたあの中にも彼の姿があったのだろうか。


「早く、夜鬼を呼んで島から脱出するんですぞ!」


「でも!ルルちゃんはどうするの!そうだ……夜鬼に運んでもらえば……!」


「それは無理ですな。ルルの手足に掛かった枷を見るですぞ。これ、結構重くて。歩くのも精一杯なんですぞ」


 ルルは足枷の鎖をジャラリと揺らす。本物のルルにそれは着いていなかった。


「それじゃ、ルルちゃんが溺れ死んじゃうよ!」

「構いませんぞ!……それがルルの犯した罪の償いになるなら」


 そんなことって、ないよ。……どうしてルルちゃんばかりこんな辛い目に遭うの?


「アリスどのは本当にお人好しのいい人ですな。ルルよりずっと悲しんでくれてる」


「だって、悲しいもん!当たり前じゃん!」


 ルルは寂しさと満足した笑みを浮かべ、涙を拭うアリスから笛を取り軽く鳴らすと笛の音が辺り一帯に響き渡る。その音を聞いた夜鬼がどこからか湧いてきてアリスの体を持ち上げた。


「ルルちゃん!?なんで!?」


「このままだと、イヴどのが独りで寂しくなってしまいますぞ」


「でも、でもルルちゃん!!」


 音もなく夜鬼は羽ばたき、少しずつルルの姿が遠のいていく。ルルは夜鬼に連れ去られていくアリスに手を振り見送る。アリスはゴマ粒のように小さくなって空に溶け込んでいくまで手を振るのを止めなかった。



「……来世でまた会いましょうぞ。その時はいっぱいルルと遊んでくれですぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。