Dream.23『絶望』
…………視点は移り、時は過去に遡る。
ダイラス=リーン、教会内部にて。リーフは触手を振るい、ステラは銃に赤の弾を装填し撃ち応戦していた。
「おい、ステラ開けろ!一体何がどうなってるんだ!」
フィランソが堅く閉じられた扉を叩きステラに呼びかける。ステラはその扉を背に戦っていた。
「奴を出せ、お前の主人だろ。お前を殺して奴からも知ってること全部吐かせてやる!」
「残念、うちの主は何も知らない。裏切り者はあたしだけッスよ、陰キャ!」
「ステラ!?」フィランソはステラが何をしようとしてるのかわからないというように幼馴染の名を叫ぶ。
ステラは器用に鉤爪の攻撃を避けながらリーフを煽る。
「イカレ殺人鬼が一丁前に忠誠を果たそうとしてんじゃねぇよ!!……クッソ、ちょこまかと!!お前だけは絶対に許さねぇ!!」
敬愛する義母と妹を惨殺した憎い仇を再び前にしたリーフはその後のことなど考えず触手を振るう。しかし、それはヒラリと躱されてしまう。相手はイス人。この短い間にリーフの戦闘の癖を分析したのか、既にしてあったのか、彼女はリーフの僅かな予備動作から先の行動を予測し回避している。
「だから〜好きでやってるわけじゃ無いって何回言ったらわかるんスか単細胞!あっはっは!てか肩に力入りすぎなんじゃないっスか?全然当たりませんヨーダ!」
ステラが放つ弾丸をリーフは触手で弾き粉砕する。このままでは埒が明かないとリーフはステラに呪文を放った。それは悲嘆の歌だった。
ハスターの歌。それは対象者を内部から破壊する苦悶の呪い。
「はぁ!?それ卑怯だって!」
ステラも歌い効果を中和しようとするが正しい音程をとることが出来なかった。
「最悪!最悪!アンタまじ殺す気ぢゃん!!」
さっきまでの余裕ぶりはどこへやら、冷や汗がステラの頬を伝う。
あぁ、あと数分の命か〜。じゃあ、その間にやることやんないとな。ステラはフィランソを閉じ込めた扉を流し目で見て、脳内で計画を組み直す。覚悟を決めたステラはリーフを挑発する。
「鬼さんコチラ〜手の鳴る方へ〜!」ステラは頭上で手を叩き道化のように振る舞い、窓から飛び降りリーフを誘導する。
「コイツーーーーッ!!!」リーフは激昂しその後を追っていった。
ステラは入り組んだ路地の真ん中で足を止める。
「こんな場所に俺を呼ぶとは、早々に死にたいみたいだな!」
「さーて、それはどうっスかね〜」ステラが明後日の方向に発砲すると、跳弾しリーフの腕に当たる。
「……んなっ!?」予想外の動きにリーフは動揺する。
「スーパーアサシンターイム!地の利じゃこっちが有利っスよ!」ステラの乱射した弾がリーフの身体を貫く。ステラの足にはいくつもの発疹ができ、膿がソックスに滲んでいた。
「とっどめ〜〜!!」ステラが得意げな顔でリーフの頭を狙い、撃つ。
しかし、リーフの頬を掠め地面に銃弾が打ち込まれた。
「いっったぁぁあああ!?!?」ステラが激痛に叫ぶ。
ステラの足は呪いにより破裂していた。異様な不快感が発疹が腹部にまで渡っているのを理解させる。
「はは、ざまぁねぇな!」
足を庇いうずくまるステラにリーフは鉤爪を振り下ろす。
「……カルミアにしたみたいに切り裂いてやる!!」
ステラは目をつぶって来る死に備えるが、数秒経ってもステラは無事のままだった。その代わりに……
おびただしい血液が玄武石の石畳に血溜まりを作る。ステラの目の前には、フィランソが居た。
「……おまっ!?」リーフが驚き声を上げる。
フィランソが魔道書を落とし、そして自身も倒れる。
「なんで、こんなやつ庇うんだよ!?お前教団の者じゃないんだろ!?」
リーフは動揺し声を荒らげる。敵であるはずの教団の者を庇う必要なんて無いはずだ。
フィランソは乾いた笑いをし、最期の力を振り絞り述べる。
「いや、教団の者で合ってるよ。……君達から見たら、とんだ……犯罪者だろうね」
加えて、してやられてしまったなともフィランソは力なく呟いていた。
「じゃあ、なんで……自殺でもしようってか?お前らは人柱を殺して回ってるからな!」
「……そうだね、でも僕はそういうポジションじゃ、ない。自分の死は望んで……いない」
フィランソは血を吐く。
「なら尚更わかんねぇよ!ポジションって何だ!何が目的なんだよ!」
「…………ただ、好きな人を守りたかった。それだけだよ」
フィランソはただ一言、そう言い残して動かなくなった。それ以上は教えてあげられないといった風に。
…………は?
リーフは混乱していた。なんだよそれ、ただ意中の相手を庇って死んだだ?……そんな、
「……俺が悪者みたいな」
リーフは再び仇の女に目を向ける。ステラは目を見開きピクリとも動かなかった。そしていきなり立ち上がり苦しみ呻き始める。呪いの効果ではない。
ステラは泣いていた。そして、口を開く。
「……バカやろ、こんな時にうちに告るやなんて。……そう思わん?」
ステラがリーフに笑みを向ける。
「本当に、本当にすまんな。うちがもっとしっかりしてりゃ……いや、このあんぽんたんがもっと早くうちに告ってくれとりゃな」
ステラがフィランソの亡骸を見下ろして言う。
「それやったらアイツから解放されて、うちも好きやって言えたかもしれんのに」
ステラは鼻水をすすって袖で涙を拭く。ステラは今までイス人に体を乗っ取られ無理矢理動かされていたのだ。
「スカッとした復讐させてやれんで、すまんな。うちの分もうちを恨んでくれてありがとな」
ステラ自身もまた、イス人を憎んでいた。
ステラは新たに赤い弾を1つ装填し、銃口をこめかみに当てる。最期は人の形を保ったまま死にたいから。
パンっと銃声が路地に響き、死体がまた1つ増えた。リーフは力が抜けたようにその場に膝をつく。二人分の血の池がズボンに滲み、血の乾いた茶色を再び赤く染めた。
「……なんだよ、それ」
リーフは絶望していた。救いようのない現実に。
「もうわけわかんねぇよ!!!」
怒りを向ける矛先を失い、リーフの振り上げた拳は地を突く。
そして何者かがヒールを鳴らし、リーフの背後に近づく。
「……重畳。良い絶望、そして破滅だ。きっと我が主は喜び安眠の中寝返りをうっていることだろう。イス人よ、そなたは非常に優秀だ」
その主とやらも含めた他者を蔑み嘲笑うかのような口振りで背後の影が言う。
「……お前はッ!?」
リーフが後方を振り向いた瞬間、直線がリーフの首と交わり、その断面から血が吹き出す。女王が大鎌を振り下ろしたのだ。
「女王にお前などと呼びつけるとは不敬であるぞ、帽子屋」
深紅のドレスに血しぶきが掛かる。元から血の色で染められたのか布地と鮮血の境はわからない。
「何時まで横になっている、イス人よ」
ハートの女王がステラの中にいる者に呼び掛けると、ステラから特徴的な円錐型のエイリアンが幽体離脱でもするように起き上がる。
「ちと働きすぎたんで休憩をばと」
「まぁいい。そなたが時間稼ぎをしてくれたおかげでこれも手に入った。」
ハートの女王はもう片方の手に持った円柱型の缶から手を離し床に落とすと缶は凹み、亀裂の入った接合部分から液体と脳髄の欠片が流れる。
「あとはヨグ=ソトース様だけっスね」
「あと1柱、これで13の召喚者が揃う」
女王とその付き人は踵を返し、ダイラス=リーンの闇に溶け込んでいった。




