Dream.20『代用ウミガメの観光案内』
アリスは再び夢の中にいた。恐らく、この夢は私への警告。チャウグナー・フォーンのときは彼の手口を、カルミアちゃんの時は彼女の動機を私に伝えようとしていた。……じゃあ、最初のは何だったんだろう。あれも彼が見せた夢?
今日は何を見せられるのだろうか。暗闇に目が慣れてきたかのように薄らと周囲の輪郭がハッキリとしてくる。
どこかの薄暗い部屋。張り巡らされた蜘蛛の糸がおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。天井からは何かの生き物を糸でぐるぐる巻きにしたものがぶら下がっていた。そして、床にはバラバラになった人間の死体が転がっている。
そんな部屋の中心にあれはいた。巨大な蜘蛛の怪物がバラバラになった人体の一部を寄せ集めて糸で縫い付け修復しようとしている。いや、人を作ろうとしている。
私はこの光景からヒントを得ようとじっと見続けた。蜘蛛が私の視線に気づきこちらを見る。
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蜘蛛がこちらへ近づくき人の顔のような頭部が眼前に迫ると、アリスは幾重もの糸に絡め取られ夢はそこで終わった。
「…………今日も無い」
イヴは郵便受けを開け中を確認するがいつ見てもその仲は空っぽだ。心配と不安で表情が曇る。
「イヴ、どうだった?」
アリスの問いかけにイヴは首を横に振る。
「あれからしばらく経つ。……やっぱり、1人で行かせてはいけなかった。カルミアが言っていたカディフォネク山も気になる」
イヴは後の言葉を言いかけるがそれをアリスが遮って、
「最近さ、大変なことばかりで疲れてない?確かに、リーフさんのことも教団のことも気になるよ。でも、あれに関わる度にイヴがボロボロになってく。私そんな姿見たくない。少しくらい羽でも伸ばそうよ、それで誰も怒ったりなんてしないからさ」
……ね?と、アリスはイヴに微笑む。それからイヴは少し考えてアリスに提案をした。
「羽を伸ばす……観光?それならムタールがいいかもしれない」
「ムタールってどんなとこ?」
「水晶みたいに透明な海に囲まれてて、色んな貝類が採れる観光名所。最近水族館が出来てその付近には出店もあって結構賑わってる……らしい」
イヴは手を顎にあて思い出すようにして話す。
「海!?いいねいいね!水着着ていっぱい泳いで遊んで、水族館でゆっくりしようよ〜!」
アリスは興奮した様子で喜び、まだ見ぬムタールに思いを馳せる。
「らしいってことは誰かに聞いたの?」
「ニャル兄が仕事の土産話に教えてくれた」
と、アリスの問いにイヴは自身が度々語る名前を口にする。
「そうなんだ〜!それって本当に仕事だったのかな……」
ジャックがビーチベッドに寝そべりハワイアンカクテル片手にくつろぐ姿しか想像出来ない。絵画??
「イヴってジャックさんと随分仲がいいんだね」
「ニャル兄は忙しくてあんまり会えないけど、会う度よく面白い話とかお土産くれるから好き」
子供の懐き方だ〜〜!
アリスはイヴの普段の落ち着いた口調に見合わない外見相応の発言に思わず頬を緩ませる。
「でもアリスはもっと好き」
イヴは首を傾けアリスを覗き込むようにし優しく微笑んだ。
「んんんん〜っ、そういう意味で聞いたんじゃないけどありがとう!私もイヴのこと大好きだよ!」
アリスはイヴが愛おしくなり頬を擦り寄せて抱擁する。こうしてジャックもイヴのことを好きになっていったんだろうなとアリスは想像し納得した。
こうして私達はムタールの地へ降り立った。
「青い空!白い砂浜!光輝く海!最高ーー!!」
アリスは両腕を太陽に掲げバカンスを賛美する。2人はアリスの創造した可愛らしい水着に着替え他の観光客からも視線を集めていた。通りすがりの観光客からは2人に話しかけようか思案する声も聞こえるが、その度にイヴが彼らを睨みつけ威圧するので誰も近寄ろうとはしなかった。
そしてもう一人、アリスとイヴと行動を共にする者がいた。
「今日は2人がムタールに遊びに来てくれて嬉しいですぞ〜!ムタールは綺麗な海に美味しい海産物がいっぱいあるから楽しんでいって欲しいですぞ〜!」
彼女はクトゥルフの人柱、ルルだ。このムタールにある水族館の館長であり、2人が島に来ると聞き案内役を買って出たのだ。
「よろしく、ルルちゃん!」アリスはルルの小さく丸みを帯びた手を取り挨拶する。イヴもペコりと会釈する。
「よーし、今日はいっぱい遊ぶぞー!」アリスは大はしゃぎで海に飛び込む。
「1人だけずるいですぞ〜!アリスどの〜!」ルルもアリスに続き海へ勢いよく飛び込み、アリスに海水を掛ける。2人の笑い声が響く。一方、イヴは波打ち際でしゃがみこんでいた。それ見たアリスがイヴも海へ誘うが、イヴは戸惑った様子で寄せては返す波を見つめながらじっとしている。
「……入るタイミングがわからない。吸い込まれてしまいそう」
イヴの言葉を聞いて2人は目をぱちくりとし、見合わせ笑った。
「それならルルに任せるですぞ〜!ど〜ん!」
ルルが海から上がり、右往左往するイヴの背を押し海へ突き落とす。
大きな水しぶきが上がりイヴが水面から顔を出す。頬を膨らませたイヴは再び海に入るルルに海水をぶつけた。
「ぶあっっ、水を掛けるってレベルじゃないですぞ!?」
「やられたらやり返す」イヴは闘志を燃やした目をルルに向ける。
「じゃあ私もやり返すぞ〜!」アリスもルルへ水しぶきを掛ける。
「うおー!?2対1はずるいですぞ!」ルルは両腕を振り回し2人へ反撃を試みる。その場にいた全員が楽しそうに笑っていた。
その後、3人は素潜りや生物観察、砂遊びを心ゆくまで楽しんだ。そして、お腹を空かせた3人は海の家で食事をとることにした。
「ここは貝類が豊かで特にハマグリが美味なんですぞ〜!」
ルルが見せるメニューには確かにどれも海産物を和えた料理が多く、ハマグリの料理が人気のようで大きく宣伝されていた。
「ハマグリかぁ〜。パスタにパエリア、いっぱいあるね。イヴはどれにする?」アリスは手に持つメニューをイヴが見えるように広げる。
「ウミガメのスープもある。あれって食べれるんだ」
イヴはあまり見かけない珍味に興味を示す。
「それは代用のスープですぞ。流石にウミガメは希少だから本物は高級レストランが主ですぞ。因みに仔牛の頭の肉が使われていますぞ」
その回答にイヴは少しガッカリした様子で再びメニュー決めに悩む。
「私決めた!パスタにするよ」
「……やっぱりスープにする」
「じゃあルルはパエリアにしますぞ。せっかくだから皆で分けて食べるっていうのはどうですぞ?」
全員の料理が決まった所でルルが3人に提案する。
「いいね、そうしよう!他のも美味しそうで気になってたし!」
アリスは喜んで賛成し、イヴも頷いて同意した。
数十分後、店員が料理を席まで運んで来た。仄かな磯の美味しそうな香りが三人を包む。取り皿にそれぞれ分けて食べる。
「おいしー!」
「採れたて新鮮だから当然ですぞ!うまっ」
「どれも美味しい。貝殻もきれい」
イヴは身を剥がしたハマグリの縞模様の美しい貝殻に目を奪われていた。
「本当、持って帰って飾りたいぐらいだよ!」
「それなら、通りのお土産屋に貝殻のアクセサリーがいっぱいありますぞ!是非寄っていくといいですぞ〜!」
「だって、イヴ!帰りに寄って可愛いのオソロしよ!」
イヴは頷き、3人は美味しい料理に舌鼓を打ちながら会話を弾ませた。
こうして食事を済ませた彼女らは、砂浜の上で勇ましい顔つきで向かい合っていた。長方形に線を引き、中央には背丈ほどの高さのある網が貼られている。
「ビーチバレーじゃー!ですぞー!」
ルルがボールを脇に抱え拳を天に突き上げる。
「本当に2対1で大丈夫なの、ルルちゃん?」
不公平ではないかとアリスは心配に思う。
「それなら問題ないですぞ!寧ろアリスどのらが心配……。何故ならルルはビーチバレーの魔王!幾人もの挑戦者の腕をへし折ってきたのだからですぞーー!」
アー、ハッハッハ!と、ルルは悪役のような顔つきで笑い声を上げる。
「いや、折っちゃダメだよ!?てかビーチバレーで怪我なんてするの!?」常軌を逸した発言にアリスは思わずツッコミを入れる。
「デスバレー」ルルの宣戦布告にイヴは言葉を零す。
「イヴも嫌な命名やめてね!?」
島の住人がゴングを鳴らしデスバレーの開始を合図する。ジャンケンに負け、先制はルル。
「喰らえーーー!!ですぞ!!」
ルルの放ったアタックはアリスの頬を掠め弾丸のように砂浜へ一直線に激突し、回転し謎の蒸気を放ちながら深く埋まりこみそして静止する。
それを見たアリスはワナワナと震え上がり顔を青くする。
「アリス、ちゃんと弾上げてくれないと困る」
「いや、無理だって!死ぬよ!?てか、イヴも弾って言っちゃってるし!」
アリスはイヴの指摘に食い気味に反論する。
「じゃあ、最初のはわたしが受ける。そしたらアリスがトス上げて……
そして、殺す」
イヴの目は獲物を捉える鷹そのものだった。
「殺さないでーーー!?!?」
人柱特有の物騒なノリについていけないアリスは思わず叫ぶ。
弾丸、もといビーチバレーボールが空を飛び交う。ルルの攻撃を受けつつイヴが弾を上げ、アリスがイヴへトスを上げ、ルルに一撃を放つ。
「流石は人柱、物凄い身体能力だ」
「何であのボール破裂しないんだ?」
「あの娘すごいな、俺絶対あの二人の間に入りたくねぇよ」
偶然彼女らの死闘に居合わせた通りすがりの人々が賛辞や驚嘆、恐れを口にする。
こうして、アリスとイヴ、ルルは体力尽きるまで島の住人や観光客に見守られながら激闘を繰り広げていた。
「もう無理、疲れた……」
「体を動かしてとてもスッキリ」
「こんなに派手にやれたのは久々ですぞー!」
三人はコートに寝そべり大空を見上げていた。空は赤みがかり夕暮れが近づいていることを告げている。
「アリス、楽しかった?」イヴが体を起こしアリスに尋ねる。
「うん、とっても!嫌なこと全部吹き飛んじゃうくらい」
アリスの言葉に、よかったとイヴが呟く。
「まだまだムタール観光は終わっておりませんぞ!ルルの水族館が待っているであります!」
ルルが跳ね起きて自身の胸に拳を当てる。
「そうだったね!どんな水族館なんだろ、楽しみ〜!」
アリスも起き上がって体についた砂を払う。
「脱衣場はこっちですぞ〜!」ルルは待ちきれないといった風に二人を急かせる。アリスとイヴは手を繋いでその後をついて行った。




