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夢見るアリスと白兎アイホート  作者: 潮田しお
第3章『熟れた果実は苔むして』
19/35

Dream.19『ハートの女王』

「どうしてこんなことをしたんだ」

 リーフがカルミアに優しく問いかける。

 

「だって!だって……!」

 カルミアは涙を拭い、止めようとするが尚も溢れ出てくる。肺がしゃくり上げてうまく言葉にならない。



ーー私は物事ついた時から1人でした。

 絶縁した娘の子だから、母の死に姿が異様だったから。……生きるためには仕方ないじゃないですか。

 そのような理由で私は親族から嫌われ、召使いも蔑まれ日々の鬱憤晴らしにされていたのです。下民も私を見て後ろ指をさします。


 私が食虫を始めたのだってそうです。いつもお腹が空いて仕方がなかったから。

 

 そんな私にもウンが巡ってきました。ナーサリー殿が私様を拾ってくれたンです。そうして私様は人柱になりました。

 今まで私様を白い目で見ていた下民は手のひらを返し私様を崇め始めた。


 私様ね、その時言い表しようのない高揚カンを感じたンですよ。これが人に認められる、愛されることなんだってわかりました。


 それから私様はモットモット愛が欲しくなりました。足りない、足りない。まだ足りない。私様はその穴を埋めようと頑張りました。そして出会ったのです。


ーー朱の王座教団に。


 私様は彼らを利用して、この世界の人々全てを私様の信者にしようとしようと企みました。


 そして私様は信者に命じ下民を殺し、彼らからそのための力を奪いました。ダッテ、彼らは私様が人柱になった後でも私様をいじめていたから。問題アリません。


 そうして頑張って頑張って、結局負けてしまったのです。


「…………ヨホホ、無様ですね」


 カルミアは話すのを諦めテレパシーで私達の脳内に直接語りかける。彼女の顔は依然袖で隠され窺えないが、その声は震えていた。


「カルミア……」リーフが小さな声で妹の名を呟く。


ーー今更兄貴ズラですか?いや、いとこでしたね。私様がいじめられていても助けてくれなかったのに。


 カルミアがリーフに悪態をつく。


「あぁ、そうだ。だからお前を今助けさせてくれ。もう、弱い自分ではいたくないんだ。お前のしたことは俺のしたことだ。あの時お前を守れなかった分、俺に石を受けさせてくれ」


「………うっ……ぐっ…、うわぁぁぁあああん!!」


 その言葉を聞いたカルミアは我慢の糸が切れた子供のように泣きじゃくる。


 アリスはそんな2人の姿を見て安堵し、つられて流れた涙を拭い、イヴは取り出しかけた笛を仕舞った。


 しかし、しんみりとした雰囲気はそう長くは続かなかった。


「ウッグァ……ァアアアア!!!」


 カルミアの泣き声を聞いた信者が暴れだしたのだ。


ーーしまった、命令を解除していない……!


 何度も芳香を嗅いだ信者に理性は無く、イヴに向かって行動を再開する。2人を守ろうと猫が廃人に立ちはだかろうとすると……


「……念の為に持ってきてよかった」


 イヴが笛を鳴らすと、旧き印が刻まれた石の笛の音は夜に響き渡り、そして夜の世界の者が姿を現す。


 大きな牛の角に長く垂れた尾、蝙蝠のような翼に、目も鼻も口も無いのっぺらぼう。


「……夜鬼(ナイトゴーント)か!」


 夜鬼の群れが破壊された壁の外から侵入し、素早く信者の背後に回り込み組み付いた。


「それが出来るなら最初からやれよ!」

「戦闘中で外を窺う余裕が無かった」


 夜鬼は新月の夜、イヴの持つ笛でしか呼び寄せられない。

 

 カルミアはホッと息をつく。

「カルミア、あなたに聞きたい。朱の王座教団って何?」

 イヴがカルミアに問う。


「……朱の王座教団はハートの女王が治めるカルトです。そして、その目的は世(・)界(・)の(・)破(・)壊(・)と(・)再(・)構(・)築(・)」

 

 深く深呼吸すると、泣き止んだカルミアは答えた。


「ハートの女王!?」


 アリスは思わぬキャラクターの登場に驚き、カルミアはそれに頷く。


「彼女がそう名乗っていましたわ」


「拠点はどこ!?裁判所?どうしたら引き止められるの!?」


「彼女はカディフォネク山を根城としています。……止める方法は、人柱の死亡の阻止……ですかね?」


 アリスはあの時出会った狂信者のセリフを思い出す。救い……世界を正しい姿に戻す。正しい姿って、どんな姿なんだろう。


「構成員は誰」アリスに続いてイヴが尋ねる。


「さぁ?ナシュトとカマン=ターはいましたが。あれは本気でこの世界を終わらせようとしてるから、中心人物となるとシタッパの私様にはさっぱり。少なくとも人柱から解放された邪神共はいるでしょうね」


 カルミアは、それ以上は本当に知らない様子だった。しかし、これは大きな前進だった。霧がかった教団の真相に少し近づいたような気がした。



「さて、俺らは町のやつらに詫び入れてリンチにされてくるとするか」


 リーフは帽子を床に置き、カルミアの少し先を行き手を差し出す。


「ほら、こういうのは早い方がいい」

「そうですね、ボコられる愚兄が見れると思うとワクワクします」


 相変わらず減らず口を叩くカルミアだがその表情はとてもスッキリしたもので、自然な笑みを浮かべていた。


 カルミアはリーフに手を伸ばす。カルミアの本当の愛を見つけた。




ーーーーザクリ




「あ……、……え…………?」


 カルミアの背中に熱く硬い衝撃が走った。彼女の胸元に銀色の刃先が僅かに光る。


 そして、刃は天上に向かって駆け、彼女を2つに切り裂いた。


「カルミアーーーー!!!!」


 惨劇を目の当たりにしたリーフが悲鳴を上げる。

「青い鳥は見つかったッスか?カルミアっち〜?」

 白いローブを着た狂信者が軽薄な言葉遣いで言うと、短剣を地に振るい刃についた血を払う。ローブにはクラブにJの意匠が施されていた。


「まぁ〜、裏切り者はせいっさいしちゃうんで。イヴっちもリーフっちも殺せてない無能はいらないっス。そもそも人柱な時点で生かす気は無かったっスけどね〜、アハ!」


 狂信者が笑いフードを脱ぐ。そこに居たのはイス人、ステラ・ナート・シンクレアだった。


「ステラ貴様ッッ!!!」

 リーフは命を失い力無く倒れるカルミアを受け止める。カルミアの鮮血で黄色の衣類が赤く染まった。


「顔も体も真っ赤っかっスよ〜リーフっち!タコさんみたいっスね!」


 ステラは青筋を立てるリーフを指差しその様子をいじる。


「ステラ、どうしてこんな非道いことするの!」

 アリスはステラを非難する。

 

「非道い?そりゃあたしが教団員だからじゃないっスか。あ〜殺し方?しゃあないしゃあない!こうでもしないと死なないんスもん、人柱って!これでもあたし、殺しは効(・)率(・)的(・)に(・)がモットーなんスよ。そういう趣味無いんで!」と、ステラに悪びれる様子はない。


「……その、短剣。どこで」

 イヴがステラの持つ武器を指さす。

 ステラの短剣は柄がトキの頭部のようなデザインで二等辺三角形のような刃をつけていた。


「まさか、あなたが……!」

 イヴは拳を握りしめステラを睨みつける。


「あ〜、はい。そッスね。ナサっち殺したのもあたしっス。仲良しのおばさんに乗(・)り(・)移(・)っ(・)て(・)ザクっと」

 ステラは剣を持つ反対の手で首を掻き切るようなジェスチャーをした。


「だから、あのおばさんはあの後……、首を……。最低!最低だよ!」

 アリスは真実に慄き、ステラに嫌悪の情を向ける。


「だ〜か〜ら〜、あたしはそんな非道いやつじゃないっスよ。全て効率的に、完全に任務を果たせる最短ルートをっスね〜……まぁ、いいや」

「やること終わったし、帰るわ。あんま長いしたらそこのお兄ちゃんに殺されちまいそうっスからね!」


 ステラは鉤爪を向けるリーフにウインクをして別れを告げる。


 ステラはローブの中に消えていき、抜け殻だけが残された。ローブの内側にはあの日と同じ魔法陣が描かれていた。



「クソ!!アイツ絶対殺してやる!!!」リーフは残されたローブを握り締める。


「まさか、ステラが狂信者だったなんて……」

「それも、シュブ姉を殺した真犯人」


 アリスとイヴの心臓は未だ酷く波打っていた。信じたくない事実を、リーフの腕の中で眠るカルミアの遺体が現実のものだと語る。


「……フィランソが何か知ってるかもしれねぇ。俺、そっち行ってみるわ」

 リーフは愛おしい妹をゆっくりと横にさせ、立ち上がり外へ向かう。


「1人は危険。大祭司様もグルだったら……」

 イヴがリーフを引き留めようとするが、聞かず。


「俺にはこれがあるから構わねぇよ。何かあったら連絡する」と、さよなら代わりに不定形の触手をうねらせ出ていった。



 

 カディフォネク山の洞窟を抜けた場所に王座はあった。ハート型の赤く輝き、異様な脈動を見せる岩をくり抜いた王座だった。


 王座に導く階段からゴロリと何かが落ちてくる。ステラが拾い上げると、それは血の気が引いて真っ白になった人間の男の生首だった。首は生命を失うことなく、荒い呼吸をしている。


 「うっへぇ、キッショ!!」

 思わずステラはそれを投げ捨てようとしたが、毅然とした女の声が制止する。


「我の夫に何をするか、イス人。疾く疾く我の下に返納せよ。そなたに貸した剣も共に」


「……これが夫とかマジあたおかっスね」


 ステラは女王に生首と短剣を返却すると、女王は短剣を腰元の鞘に戻し、首を杖の先に吊るされた鳥籠に押し込んだ。


「ヴルトゥームの殺害に成功したようだな」


 女王は再び王座に腰を下ろしステラを見下ろす。


「ウィッス、ナイスタイミングでいい感じに盛り上がったんじゃないっすか?」


「そうだな。父上もさぞ喜んでいることであろう」


「朱の王座教団第1条〜計(・)画(・)は(・)面(・)白(・)く(・)狡(・)猾(・)に(・)〜!ちゃんとやってるっスよ!あたし超エラい!」

 ハートの女王は頬ずえを付き意地悪な笑みを浮かべている。


「だが、アイホートとハスターは殺せなかったようだな」


「そ……それは、まだ計画に無いんで……イヴっちは殺しちゃいけないんじゃありませんでしたっけ?」


 ステラが尻込みしながら伺いを立てる。


「そのようなことは申しておらぬが」


「でもあたしの腕折ったじゃん!最近やっとギプス外れたんスよ!」

 そう主張するステラは右手を振り抗議する。


「次は切り落とされたいか?」女王が低く、冷ややかな声で脅す。


「な、なんでもないっス……。あ〜じゃ、報告終わったんで帰るっスね」


 そしてステラは逃げるようにその場を後にした。

女王はそれをクスクスと笑いながら見送り、足を組み直した。

シナリオ【熟れた果実は苔むして】


[犠牲者] カルミア、一般市民13名以上


[背景] 事件は宗教に狂い人々から注目を集めることに快感を抱いたカルミアにより始まります。カルミアは朱の王座教団を後ろ盾に利用し気に食わない町中の人々を呪殺していき、彼らから力を奪っていっきました。その力を利用しドリームランド中の人々を洗脳し自身の信者にしようとしていたのです。さらに、教団員である彼女は人柱を殺害するためイヴを屋敷に呼び込みました。一方で、朱の王座教団は彼女の思惑をわかった上で泳がせ、裏切り者を断つという理由をつけて人柱を排除するためにその時を待っていました。


[使用アイテム、呪文、魔道書]


・エイボンの書:緑の崩壊について記されている

・緑の崩壊:人をカビの山に変える

・トートの短剣:1章にて記述

・夜鬼の召喚:月の無い夜、旧き印を刻んだ石を媒介に召喚する


[登場神話生物]

・アイホート:迷路の神。赤い目玉が無数にあるブヨブヨの白い体に節足動物のような足がある。


・ヴルトゥーム:火星に住む花の邪神。声がいい。


・ハスター:黄衣の王は実は本人ではなく化身。本人は後ろ姿がタコみたいな見た目をしている。


・チョウドラゴン:蝶とカマキリとドラゴンを足して2で割った綺麗なクリーチャー


・アイハイ族:ヴルトゥームを信仰する種族


・夜鬼:角としっぽ、蝙蝠の翼を生やしたのっぺらぼう


・グラーキ:ナメクジの邪神。緑の崩壊はこれに祈りを捧げる


・ヨグ=ソトース:虹色の球体の姿がよく知られている。門にして鍵。どんな空間にもいる。


・ナシュトとカマン=ター:炎の洞窟にいる2人組の神官。夢見る人を覚醒の世界に返すことが出来る。


[補足]

・神話生物に関する呪文はその神話生物が存在していないと使えません。緑の崩壊を使用できたということはその為に祈りを捧げられるグラーキが復活していることを示しています。


[小話]

・エイボンの書はドリームランドの大図書館からカルミアが借りてきたもの


・与えられたローブのマークには意味がある。各々トランプのマークで相応しいであろう番号とマークを割り振っている。カルミアはハート(聖職者→教祖のイメージ)の1、信者はスペード(騎士→カルミアを守るもの)、ステラはクラブのJ(ランスロット)。


・イヴは戦闘中ファンブルしダメージを受けた。技能値的に仕方ないことだが寄りにもよってクリティカルダメージを受けた時回避でファンブルした。


・イヴの戦闘中信者3人がファンブルしてた


・またアリス聞き耳失敗した。

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