Dream.16『緑の崩壊』
視点がB班に移る。彼らは遺体が発見された現場や遺族、通りすがりの住人に聞き込みを行う事にした。
遺体発見現場は人気の無い裏路地で、冷ややかな空気が流れていた。アリスは十字を切って祈りを捧げる。
アリスが現場を隈無く見ていると緑色のカビの欠片と綺麗な葉を閉じ込めたイヤリングが落ちているのを見つけた。
「このカビ……犠牲者のかな」
「多分ね、他には何も無いみたいよ。次行きましょ」
他の現場も同様で、カルミアの言っていたことに嘘のない事がわかった。やっぱり、事件は起こっている。イヴに無理を言って来てよかった、と胸を撫で下ろす。
そして、アリスとリーフは遺族の家の前にいた。勢いに任せてカルミアから遺族について聞くのを忘れていたためどうなる事かと思っていたら、リーフが家まで案内してくれたのだ。
「……アポ無しで突然家に訪ねちゃって大丈夫かなぁ?」アリスは緊張で胸に手を重ねる。
「心配要らないわ、モタモタしていると日が暮れちゃうわよ」
リーフはそう言うなり扉をノックする。中から男性が出てくると男性はリーフを見るなり驚いた。
「アーケプラスチダ家の当主様!?どうして我が家に」
「この子が探偵でね。亡くなった奥さんについて聞きたいことがあってね、奥さんが巻き込まれた事件について調べているのよ」
リーフがアリスに視線を落とす。
もしかしてリーフさんって……独自に事件について調べていたのだろうか。
「えぇ、構いませんが……」
リーフが肘でアリスの左腕をつつき促す。
「えっと……奥さんの件はお悔やみ申し上げます。事件の前に奥さんに異変や、怪しいこと、その他気になる点があったら伺いたいのですが」
「異変……そうだな、最初は緑色の染みが腕にあって……本人も変だなって思ってたんだけど、そしたらみるみる染みが広がっていって…変な毛も伸びていって不気味だったよ。妻は日が経つ度にヒステリックになってね。他には……あぁ、綺麗なイヤリングをプレゼントした。道端で旅人が売っていてね。」
男性は悲しそうにため息を着いていた。イヤリングについて思い当たる点があったので、現場から見つけた物を男性に差し出すと「あぁ、これだ!これを、プレゼントしたんだ。ありがとう」と形見のように大事に握り締めた。
リーフは厳しい目付きで考え事をし、発言した。
「犯人の殺害方法がわかったわ。犯人はきっと犠牲者を呪殺したのよ、その葉でね」
イヤリングに視線が集まる。
「そ、そんな……じゃあ、私が妻を……」
「残念だけど、あたいの憶測が正しければね。犯人は『緑の崩壊』っていう呪文を使ったのよ」
緑の崩壊、それは人をカビの山に変える呪文。丸1日呪いを掛ける対象にエネルギーを集中させ、邪神に祈りを捧げる。そして次の24時間のうちに術者は緑色の葉を1枚対象に渡さなくてはならない。その後、効果は7日の内に現れ、対象はカビになって死亡する。
「呪文の性質上、計画的な犯行でしょうね。貴方が奥さんにイヤリングを渡すことも含めて」
「……クソ!あの野郎!」男は握りしめたイヤリングを地面に振り下ろし壊そうとしたが、出来なかった。
「その旅人って……どんな人でしたか?」
「……白いローブを着たやつだ。スペードのマークに7の数字が付いていた」
アリスはトランプを模したローブを来た不審者について思い当たる節があった。あの日、イヴと初めて出会ったときのことだ。
「……朱の王座教団」アリスがポツリと呟く。
「何?これもあのカルトの仕業なの?」
「カルトだろうがなんでもいい、私の妻を殺した奴を捕まえてくれ!頼む!」男は憎悪を燃やして
「任せてください!絶対奥さんの無念とあなたの思い、晴らしてみせます」
その後、旅人について調べるべく、2人は聴取に出た。道中、アリスは先程から気になっていたことをリーフに尋ねる。
「リーフさんって当主だったんですね……、てっきりカルミアちゃんかと」
「一応、あたいが長男だから。まぁ、アンタがそう思うのも仕方ないわね」
「長男??……はっ!あれ、そう言えばお2人って孤児院にいましたよね?」
アリスが疑問に頭を埋め尽くされていると、リーフは語り出した。
「カルミアが母さん、ナーサリーに人柱候補として孤児院に連れていったのよ。……虐待されていたから。あの子は勘当された母の妹の子でね、身分違いの恋ってやつで叔母さんはその旦那さんと駆け落ちして亡くなったんだけど、お腹にいたカルミアは運良く助かった。その助かり方ってのが異質で、叔母は見つかったとき、ミイラみたいになっていたそうなのよ。それにあの子、変な食癖あるから余計に不気味で。」
「そうだったんだ……リーフさんはどうして?」
引き取られたのがカルミアだけならリーフが孤児院にいる理由がわからない。
「ただ、心配で着いて行っただけよ。あたいもあの家嫌いだったから、虐められるカルミアに手を差し伸べてあげられなかった弱い自分はもっと嫌いだけど」
そんなことより今の事件に集中しなさいと注意され、足早に先を歩いていくリーフの背をアリスは追いかけた。
日は傾き、夕日が二人を照らしていた。
同時刻、A班はミサをしていた。カルミアは付き人、いや信者の杯に蜜を注いで回っていた。
「その蜜は何?」侍るイヴがカルミアに尋ねる。
「シンセイな儀式の最中よ、静かにしてくださいませ」カルミアはジョウロのようなポットから輝く蜜を信者に注ぐ。
全員に回り終えると、カルミアは厳かな祝詞を唱え始め、信者はカルミアの美声に包まれながら杯の蜜を喉に流し込んでいた。
イヴは冷たい眼差しカルミアから離さなかった。




