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夢見るアリスと白兎アイホート  作者: 潮田しお
第2章『血の杯を毒と共にめしあがれ』
13/35

Dream.13『私を頼って』

 3人は最後の部屋の扉を開ける。その部屋の奥に、女学生を襲った怪物と瓜二つな巨大な像は居た。


「この野郎!!」男性が憎らしい邪神の腹を殴りつけるが、硬い石像はビクともせず、拳から血が流れるのみだった。


 「…………」アリスは邪神の象を取り囲むように咲く雛芥子の中にシダ植物を見つけた。


「早くそれ持って行くぞ」

 男性は流し目でアリスが握り締めたものを見て、足早に退室した。


 イヴは像に近寄り手を当て、何かを見た後、彼に続く。


「……イヴちゃん、どこに居るかわかった?」

 アリスが問い掛ける。


「……大荒涼山脈、9合目。トロス川が見下ろせる洞窟」

 イヴは感情の無い声で答えた。




 そして、最初の部屋に戻った3人は全員分の毒入りスープを揃えて佇んでいた。

 早く帰らないといけないのに、なかなか手は進まなかった。


 アリスはぼーっと赤く光る皿上の湖面を見つめる。

あの子は私だった。ここに来る前の私。どうしても助けたかった。あの子の笑顔が私の笑顔だった。……でもダメだった。私のように、いや、人に恵まれてる私はあの子よりずっとマシかもしれない。もう少しであの子も、私と同じようになれたかもしれないのに。


 あの時の照れた少女の表情を思い浮かべて、隣にいるイヴを見る。

 目線をスープに戻して口に当てた瞬間、思い出した。夢の中のことを。


 夢の中、ゾンビが血の池を啜ると、ゾンビは象の神……チャウグナー・フォーンに掬い取られ、その血を吸われ朽ちたのだ。


 アリスは口元に含んだスープを吐き出し叫ぶ。


「スープを飲んじゃダメ!!」


 男性は既にスープを飲み干した後だった。イヴはアリスの声に驚く。スープに口は付けていなかった。


 また、間に合わなかった……。


 男性は胸を押さえ付ける様に倒れ、体が揺らぐようにして消えた。

 一部始終を見ていたイヴはある事に気づく。


「生命力を吸われてる……?」


「やっぱり……何か仕掛けがあったんだ」


「どういうこと?」


 疑問を隠せないイヴに夢のゾンビの事を伝えた。イヴは納得し、同時に安堵した。


「ありがとう、アリス。わたしがスープを飲んでいたら大変なことになっていた」


 チャウグナー・フォーンに復活のエネルギーを搾り取られるところだった。


「スープを飲むのはダメ……じゃあどうすればいいんだろ……」


 本当はわかってる、でも口には出せなかった。しかし、それをイヴは口にする。


「……自殺」


 キッチンに刃物があった。そう言って北の部屋へ向かうイヴの手をアリスは掴む。


「アリスなら、スープを飲んでもギリギリ大丈夫だと思う」


アリスに背を向けてイヴは言う。それにアリスは耐えられなくなって吐き出した。


「どうして!どうしていつも自分で抱え込もうとするの!?自分を傷付けようとするの!?……私が、頼りないから?」


「違う。それはアリスも同じ。わたしはアリスのこと何も知らない。アリスは本音を教えてくれない!」


 振り返ったイヴは今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「……アリスは本当に、ずっとわたしと居てくれるの?」


 アリスはその言葉に動揺した。


「わたしにはわからない。帰る方法を探しながら、わたしにずっと一緒だと言うあなたの気持ちが」


 ハッとして今までの言動を振り返る。私には今、現実の世界を取るか、夢の世界を取るか試されている。


 いや、試されるまでもない。私は、自分の心に正直になるべきだ。義務感からでも、恐怖からでもなく、どんな形であれ自分の意志を尊重すべきだ。


 アリスはイヴを抱き寄せる。


「私ね、お母さんにあんまり好かれてないんだよね。早く帰ってご飯の準備をして、洗濯物を取り込まないと怒られるの。学校にもお友達は居ない。」


「イヴちゃんがね、私の初めての大切な友達なの」


 イヴが瞳を震わせる。


「つまり、どういう……」


 アリスは誓う。心の底から。


「私、イ(・)ヴ(・)とずっとずっと一緒にいたい!たとえ逃避だと非難されても。何よりもあなたのことが大事だから。……私を、あなたの隣に居させて」


 イヴはアリスの背に手を回してポツリと零す。


「……構わない。わたしも、アリスと一緒がいい」


 そしてイヴはアリスにお願い事をする。


「わたし、本当は死ぬのが怖い。痛いのも嫌い」


 アリスはただ聴いている。


「無茶なことだと思うけど、わたしを殺して欲しい」


 アリスも口を開く。


「私も無茶なこと言っていい?私もね、イヴに殺して欲しい」


 2人は笑い、手を取り合ってキッチンへと向かう。銀色のナイフがスプーンと同じ場所に入っていた。

 2人はナイフを互いの首筋に当てがう。


「それじゃあ、逝こっか」


「うん」


 部屋の鮮血に乙女の愛が上書きされる。2人は満足そうに笑みを浮かべたまま、地に倒れた。



 アリスは先に目を覚ましていた。イヴはアリスの膝の上ですやすやと眠っている。懐から通信機を取り出し、ボタンを押す。


『どうやら戻ってきたようだね』

 通話先の主はフィランソのようだ。


『チャウグナー・フォーンは大荒涼山脈の9合目、トロス川が見下ろせる洞窟に居ます』


『ありがとう、助かるよ』

 そう言い残し、フィランソは通話を切る。


 少しして、イヴも目を覚ました。イヴに微笑みかけてアリスは言う。


「おはよう、イヴ」



 大荒涼山脈の洞窟にて、男と少年が居た。


「……応じてくれて助かるよ」


「いやいや、この上ない光栄っすよ!俺が人柱に選ばれるなんて!」


 それは、フィランソとあのサーカス団の男性だった。


「でも、なんで俺なんすか?」


「君はチャウグナー・フォーンの試練をパスした。そして、君は前チャウグナー・フォーンの人柱の弟子だ。これ以上にない適正人物だろう?」


「なるほど……確かにそうだ。……俺が人柱になりゃ、あいつらもきっと戻ってきてくれるはず……!師匠の芸を絶やすわけにはいかない……」


 男は開いた手を握り締め覚悟を新たにする。2人は洞窟の奥へ奥へと進んでいくと、夢に見たのと同じ像がそこにはあった。フィランソはその前方に古びた紙を敷く。


「これより、契約の儀を行う。そこに掛けよ」


 そして、ノーデンスが重々しい口調で言う。男は拝聴して促される通り、紙の陣の上に座った。ノーデンスが聞くにも恐ろしい呪文を唱えると、男の意識はチャウグナー・フォーンの元へ飛ぶ。象の邪神が意味深な笑みを浮かべた後、男の意識は現実へと引き戻された。


「凄げぇ……力が漲ってくる!これなら!」


 男は強大な力に思わず口角を上げる。


「……ああ、そうだな」


 フィランソが踵を返していくのと同時に、彼とは異なる足音が暗闇から響いてきた。

 闇に慣れてきた男の目に忌々しき怪物らが姿を表す。


 彼らはピンクがかった色をした外骨格に覆われた昆虫のような外見をしており、扇のような大きな羽を背に携え、頭部は顔のない皺だらけのものだった。


「やれ、ミ=ゴ」


フィランソがミ=ゴと呼ばれたエイリアンに指示を出すと、彼らは電気銃を構え一斉に男に放った。


 洞窟の外、朝日が照らす風が少年の頬を撫でる。


「……物語を彩るのは死でも絶望でも、希望でもない。その根底にある想定外のトラブルよ」


 ノーデンスは語る。


「計画通りというのも些か詰まらなかろう」


「ええ、主のおっしゃる通りでございます」


 フィランソがそれに同意する。


「彼には脳缶になってもらう。人柱は生きてさえいればいい」

シナリオ【血の杯を毒と共にめしあがれ】


[犠牲者] 女学生(心臓発作)、サーカス団の男(脳缶済)



[背景]

事件は朱の王座教団によりチャウグナー・フォーンの人柱が殺害されたことから始まります。解放されたチャウグナー・フォーンは人を夢の中に誘い、その精神力を奪うことで2重にかけられた封印を解き活性状態になることを企てました。それを知った教団はそれに協力し噂を広めていたのです。そして、その噂を知ったフィランソはSNSに仕事を出すが探偵を始めたアリスとイヴに小手調べとして投げたのでした。


[夢の部屋]

チャウグナー・フォーンが用意したものです。ここでスープを冷ましてしまった者、門の外に出た者はチャウグナー・フォーンの兄弟(本体の精神的な分身)により襲われ殺害。精神力を奪われます。この方法で死亡した場合、心臓発作を起こし実際に死んでしまいます。身体が欠損してしまった場合も欠損した先の感覚が無くなってしまいます。


損害無く帰ることができる方法は自死のみ。チャウグナー・フォーンは自死をとても勇気のある行動だと捉えているからです。


しかし、ただ指示通りスープを飲んでしまうと、現実世界には帰れますが精神力を吸われてしまいます。


彼を復活させないためにはスープを飲む以外の方法で死を選ぶしかありません。


[ノーデンスとフィランソの目的]


ノーデンスは朱の王座教団の邪魔をしようとしています。それは自らに与えられた"宿命"であり"役割"です。筆者はノーデンスについて善神だとは思っておらず、敵の敵は味方くらいの認識です。ラブクラフト原作『未知なるカダスを夢に求めて』ではニャルラトホテプによりノーデンスがニャルラトホテプに対して邪魔をし恥をかかせ激怒させていました。


そして、そんな主神を信仰するフィランソはノーデンスに従いサーカス団の男を脳缶にしたのです。


[登場神話生物]

・シャンタク鳥:モンハンに出てきそうな化け物。ニャルラトホテプなどの外なる神の馬代わり。

・ウルタールの猫:普通の猫と変わらない。

・土星からの猫:PCの光る配線を猫の形にしたもの。

・天王星からの猫:足が6本ある。つまり肉球天国。

・レンの男:あのひったくり犯。ある種族に奴隷にされてる可哀想なやつら。

・チャウグナー・フォーン:探索者に試練与えがちガネーシャ。

・イス人:別の生命体に乗り移り時空移動をする。天才科学者種族。

・ノーデンス:髭を蓄えた如何にもな神。

・ミ=ゴ:科学力に優れたエイリアン。人の脳みそを集めてる。食用ではない。


[小話]


・ウルタール編は完全に想定外の癒し編


・ウルタールの猫vs土星からの猫vs天王星からの猫の構図は 仮面ライダーの#混沌を極めていた が突如筆者の脳内に浮かんだことで実装された


・夢の中へ行く呪文は『私を食べてください』のアナグラム。他は特に意味は無い


・北の部屋の前で聞き耳を振ったらファンブルしたので血溜りで転けさせました


・キッチンで吊るされていた死体、スープの中身はチャウグナー・フォーンの人柱


・女学生は最初、部屋から逃げるために門の外に飛び出す予定でした。

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