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夢見るアリスと白兎アイホート  作者: 潮田しお
第2章『血の杯を毒と共にめしあがれ』
11/35

Dream.11『白の部屋』

玄武石の扉を若い穏和そうな青年が開ける。

「おや、君達がダイラス=リーンの眼かい?」


 どうやら、私達をフィランソからの遣いだと勘違いしているのだろう。この様子だとステラは引き継ぎもサボっているようだ。イヴがこちらにアイコンタクトを送る。あながち間違いではないのでそういうことにしておいて、本題に入ろう。


「全員揃ってるよ、さぁ掛けてください」

 青年に促され2人は椅子に腰掛ける。

 テーブルを挟んだ向かいのにはあの青年を含め4人が揃っていた。男性3名に女性1名。男性2名が友人関係であることを除けば、彼らの職種、住む地域等に一貫性は無かった。資料を見る限り、強いて言うなら、20代前後の若者が多い傾向にあるくらい。そんな彼らが、どうしてあの夢の被害に遭ってしまったのだろうか。


「俺らはある噂を試したんだよ、異世界に行けるとかいう噂さ。肝試しがてら、ワンチャン行けたら話の種になるかなってさ。そしたらあの白い部屋に、ねぇ?」


 作業着の男性が言う。他の3人も頷いて同意する。


「その噂は誰から聞いた?」


 イヴの問いに全員は、友人から聞いた、友人の知人に聞いた、誰かがその噂について話しているのを聞いたなどと噂を流した張本人に繋がるようなものは無かった。


「どうやってみなさんはその白い部屋に行けたんですか?」

「えっと、確か……鏡と、水の入ったコップを用意するの。そして、午前2時に鏡の前でコップに自分の血を1滴垂らして、『イサダク テ ベタヲシ タワ』って3回唱えるの」


 アリスの問いに女性は答え、それにアリスは「なんか、都市伝説みたい」と、口走る。


「そーそー、せやからつい試しちまったんやよなぁ。騙されてもうたわ」


 訛りの強い男性が愚痴を零す。



 ……こうして聴取は終わり、アリスとイヴは帰路に着こうとしていた時……、飛ばされた新聞がアリスの顔に引っかかった。アリスは新聞を顔から剥がして内容を見てみた。


「サーカス団……解体?」

 新聞には悲報を悲しむ文面が見受けられた。


「サーカス団と言えば、チャウグナー・フォーンの人柱が団長をしていたところかもしれない。私も1度ニャル兄に連れて行ってもらったことがある。すごかった」

 イヴは懐かしそうに語っていた。



 そして時刻は午前2時、2人は脱衣場の洗面台の前にいた。


「アリスまで来なくていいのに」


「ダーメ!私が居ないと時間わからないでしょ?それに、私達はずっと一緒なんだから」


 微笑むアリスに、イヴは物言いたげな目を向けるが、すぐに目線を自身のコップに落とす。


「よし、じゃあ始めるよ!」アリスの言葉を合図に2人は指先をピンで刺し、コップに血を垂らし、呪文を唱える。



……イサダク テ ベタヲシ タワ


…………イサダク テ ベタヲシ タワ


………………イサダク テ ベタヲシ タワ



 呪文を唱え終えると、急激な眠気に襲われ、視界は暗転した。



 目を覚ますと、二人は白い部屋に居た。他2名、噂を試したのであろう犠牲者も近くで横たわっていた。部屋には中央にテーブルと椅子、皿が人数分あり、東西南北に扉がある真っ白な部屋だった。


 大人しそうな少女が怯えた様子で動揺している。

 一方で、快活な男性は部屋を見るなり喜んでいた。

 

「おっしゃあ!これで願いが叶う!」


 男は勢いよく立ち上がり、皿に注がれた真っ赤な液体を飲み始めた。


「ちょ、ちょっと何してるんですか!?」


 アリスは突然の自体に困惑する。


「何って、願いを叶えるんだよ。アンタらもその為に来たんだろ?」

 男はスープを飲み干しアリスに言う。


「願い?なんの事?さっぱりわからないよ」

「そんな話は聞いていない」

 アリスに続けてイヴも言う。


「アタシもよく、わからないです。というかここ、どこなんですか?……やだ、怖い!」

 女性は依然うずくまって震えたままだ。


 男性が言うには、この部屋で毒入りのスープを飲むと願いが叶うというものだ。勿論、そんな効果は無い。そもそも、スープに毒は入っていないのだから。それを伝えると男性は酷く落ち込んでいた。

 そして、少女が落ち着いた辺りで各々少女の周りに座り、自己紹介をすることにした。


「私はアリス!探偵だよ、隣のイヴちゃんも」

 アリスの紹介にイヴは頷く。


「俺はサーカス団をしてる!いや、してた……だな。ここに来たのもそのサーカス団を立て直すためだったんだが……やっぱ、こういうのは自分の力でやらないといけないんだな」

 男は頭をかいてため息を着く。


「アタシは、ただの学生です。皆さんは目的があって来たみたいですけど……アタシがどうしてこんな場所にいるのかは、さっぱり」


 話を聞くと、本当に突然この場所に呼び出されてしまったらしい。噂の内容を伝えると、あぁ……と納得していた。どうやらいじめっ子がその噂を試そうとしていたが怖気づいて、代わりに自身の血を求められたそうだ。

 アリスは女学生を励ます。


「大丈夫だよ、ちゃんと手順を踏めば帰れるはずだから」

 書類の内容を思い出す。被害者の中には心身共に健康なまま帰還できたものもいる。さっき会った人達もその1部だ。


「とにかく、この部屋を調査しないと。その為に来たんだから」

 イヴは立ち上がり、スープの中を確認する。

赤黒い血とそれに混じって肉片も入っていた。アリスもイヴに付いていくようにテーブルに向かう。


「本当に血…だね、鉄臭い」


 アリスもスープを覗き込んで感想を述べる。他に何かないかテーブルを見ると、一枚のメモ紙が落ちていた。


『毒を食らわば皿までも 死こそ生の始まりなれば』


 そう紙には書かれていた。裏を捲ると、『温情は昇り経つ白い煙が止まるまで』とも書かれていた。


「それって、どういう意味……何でしょうか?」


 いつの間にか女学生がアリスの隣に立ち、紙を覗き込んでいた。


「うわぁ、ビックリした!」アリスは驚き横にずれる。

「あ、す……すいません……」女学生はビクビクしながら、とても申し訳なさそうに謝っていた。


「毒を食らわば……は多分、毒入りのスープを飲んで死んだら帰れる」

 イヴは事前知識から考察する。


「温情、白い煙……わかった!スープの温度だよ、ほらスープから湯気が立ってる!これが冷めたら悪いことが起こるんだと思う」


 アリスの閃きにイヴと男性は納得する。


「他に何か無さそう……すね、とりあえず北から時計回りに見ていこうぜ」


「せっかく4人いるのだから手分けした方が効率的」

 と、イヴは男の提案に反対する。


「私はサーカスの人に賛成だな。一応死傷者が出てるんだし、一緒に見て行った方が安心だよ」

 イヴはアリスの意見に納得し、男の提案に従う事にした。


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