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高額クエスト

 起きたくなくても朝はやってくる。

 昨日の事は悪い夢だったんだと思いたかったけれど、朝いつも起こしてくれていた兄の姿もなく、昨日バルクが残して行った男が朝からやって来たので、受け入れたくないが、これが現実なんだと目に涙を滲ませてギルドに行く支度をする。


「どこに行くの?」


 バルクが残してった男は名をセイルと言い、バルクが連れていた男たちの中では一番細身で、目付きは悪い上に女性の口調でこんな事がなければ年頃の少女としてはお近付きになりたくはない存在だった。


「ギルド。お金稼がないといけないから」

「あら、そう。頑張ってね」


 そう答えればセイルはそれ以上何かを言う事もなくそのまま椅子に座ったので、ついて来ないのかとシュティは思った。


 ついて来ないのならついて来ないでいいやと思い直す。こんなのがついて来たら目立って仕方がない。シュティは家の中の物に勝手に触らないようにとだけ言うと家を出た。




 ギルドに着くと騒がしい。

 何まさか昨日の事がバレたんじゃと思いドキリとしたが、誰もシュティに注目しておらず、まだ誰にもバレてないんだと少しだけホッとした。


「あ、シュティ見た?」

「ノエル! おはよう。何が?」


 ノエルは隣に住む兄と同い年の幼馴染の少女だ。

 亜麻色の長い髪は動きやすいように後ろでポニーテールに括って垂らしている。

 昔は男の子みたいだったのにいつの間にか女の子らしく髪を伸ばしたり、胸も大きくなって自分だってと思いたいがなかなか大きく育ってくれない自分の胸を恨みたくなる。

 いや、もしかしたら18になれば自分だってとない胸を期待に膨らませてノエルの話に耳を傾ける。


「すんごいクエスト入ったんだよ。あたしらじゃ無理だけどさ、報酬が凄いのなんのって!」

「どれ!?」


 そんなシュティの葛藤を知らずノエルは興奮気味に新しく入ったクエストが貼ってある掲示場に連れてってくれる。

 確かノエルはお兄ちゃんが好きだったからお兄ちゃんの事教えたらショック受けるんじゃないかとか昨日の騒ぎはノエルの家に聞こえてなかったか? と心配していたが、それよりも高額のクエストと言われてしまえば、お金の必要なシュティとしては例え受けられなくても気になるというものだ。


『至急                      


討伐依頼

半獣の青年によりいくつもの町や村が壊滅状態に陥っている

相次ぐ被害により死傷者は後を絶たず、今後も被害は拡大する恐れが非常にある

これを防ぐ為、各ギルドから半獣の青年を見かけた者は討伐するように


依頼受付ランク不問


依頼報酬

1億4000万ルペ


討伐対象の特徴

獣人の種類不明。青銀の長い髪を1つに縛り、背中には大剣を背負っており、かなりの怪力を誇っているが、細身。金色の瞳に青銀の細長い尻尾がある。

俊敏でもある為、討伐に行く者は十分注意されたし。


                                        』


「……何、これ」

「ねっ、凄いでしょ」

「うん」


 何故か威張ったまま言うノエルをからかう事もせず、シュティは口をあんぐりと開けたままクエストの紙が貼ってある掲示板を食い入るように見つめてる。


「これ、昨日の夜に入って来たクエストなんだけどさ、この半獣の青年ってとてつもなく強いらしいんだよ。何でも……」

「ねえ、これってランク不問って何で!?」


 ノエルが興奮して喋ってるのを遮って興奮気味に一番気になった事を聞く。


「え? ああ、それは……」

「この青年が強すぎてもうどうしようもなくて討伐出来るなら誰でも良いから討伐してくれってお偉方が」

「じゃあ、あたしでも受けられるの?!」


 ノエルが話を中断されたのを不満に思ってなかなか話さなかったけど、近くにいたおじさんが親切にも教えてくれたので、シュティはそちらをターゲットにして矢継ぎ早に質問していく。


 おじさんは最初シュティの勢いに目を白黒させていたが、シュティがあまりの剣幕で急かすので自分の知ってる事はそれだけだと言ってそそくさと去って行ってしまった。


「ああ……」

「何、シュティ受けるつもり?」


 もっと詳しく話を聞きたかったのにおじさんが行ってしまった事にショックを受けてる時にノエルが訝しげな顔で尋ねて来たので、シュティはうんと小さく頷いた。


「何考えてんの?! あたしらじゃ無理だって言ってんじゃん! シュティが怪我でもしたらソールだって悲しむよ。ね、だからほら、自分が受けれる……確か九級だったよね。そっち受けよう。何だったらあたしが今日稽古してあげてもいいから」

「ヤダ、絶対受ける。だってこんだけ報酬あるんだもん」

「報酬?」


 確かに高額と言えば高額だが、シュティが今までこんなにお金に拘った事はあっただろうか? 詳しく聞いた方がいいと感じたノエルは休憩スペースにまでシュティを引っ張って行く。


「何かあったの? いつものシュティらしくないじゃん」

「……」


 ノエルの気遣うような口調にじわりと涙が出て来る。ノエルに協力してもらう? いや、こんな事頼むべきじゃない。


思うけどちらりとノエルを見ればシュティの事を心配してくれているのが分かるだけに辛い。


どうしようかと迷っていたが、もう一度どうしたのと聞かれてしまっては無理だった。シュティの涙は決壊したダムのようにあっという間にこぼれ出した。


そしてシュティは兄が借金で連れてかれた事や借金が13億近くある事を告げればノエルの顔はあっという間に驚愕へと変わっていった。


その顔を見てやっぱり言うんじゃなかったと思うが言葉は止まらず、あのクエストを受けたいと半ば叫ぶように言う。


「だからお金がいるの。ノエル、止めたって無駄だからね。あたしは無謀でもあのクエスト受けなきゃいけないんだから!」


 早く借金を返したい。あの報酬ならば一気に十分の一返せる。


 そう意気込むシュティにノエルは口をパクパクとさせていたが、流石にシュティは今すぐにでもクエストを受けに行こうとするのを見て我に返った。


「いや、ちょっと待って!」

「ヤダ。これ以上いてもあたしの意見は変わんないもん!」

「相手は格上だって分かってるでしょうが! 何でわざわざ死にに行くような真似すんの!? シュティが無鉄砲に飛び出して死んじゃったら一番悲しむのはソールなんだよ!! ちょっとは考えなよ!」

「でも……」

「ね、あたしも協力するからさ」


 言いよどむシュティにチャンスとばかりに畳み掛けるとシュティはしばし考え込んでしまった。


 ノエルはこのままシュティが諦めてくれるのを期待して言葉を尽くして説得した。


「ノエル……」


 そうやって説得し続けて小一時間程経った頃ようやく涙の止まったシュティは顔を上げてノエルを睨んだ。


「じゃあ、どうすんの!? 普通に働いたって13億なんて冒険者になりたてのひよっこに稼げる訳ないじゃん!! それにノエルが協力してくれたってノエルも五級くらいでしょ! そんなに報酬のいいクエストなんてこんな田舎まで回ってくる事なんて殆どないって聞いたし、これからこんな額のクエストあると思う?! あったとしてもあたしらのランクじゃ受けられる訳ないじゃん!!」

「そ、そうだけどさ……!」

「それにお兄ちゃんが悲しむったって借金したのお兄ちゃんじゃん! お兄ちゃんが借金してなかったらこのクエスト受けようとも思わなかったんだよ! ちょっとぐらいお兄ちゃんに迷惑掛けたっていいよ! お兄ちゃんだってちょっとは反省すればいいんだ!!」


 昨日からの怒涛の展開で擦り切れていたシュティの精神はノエルが横からずっと諦めるように言われ続けた事でついにキレた。


「協力してくれるって言うならクエストの手伝いして!」

「あ、はい……」


 ノエルはシュティの剣幕に押されて頷いてしまったものの、なんとかしてシュティを止めるべきだと思っていたので事ある事にシュティに依頼を辞めさせようとしたり、他に止めてくれる人はいないかと捜していたらば、その内シュティに先程と同じように怒鳴りつけられ大人しく言う事を聞く羽目になってしまった。


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