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鬼の花嫁  作者: 露爛
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番外編

2010年2月3日。

本日は節分である。

鬼は外に出され、福は家に呼び込まれるという日本の伝統的な行事を行う日であり、普段は穏やかな性格の私の家族が、少しばかり不機嫌そうになる日でもある。

世の中が平成と呼ばれる時代に移り変わってから改築した我が家の居間で、私の伴侶は少し眉間にシワを寄せ、こたつでテレビを見ている。

こたつの上には豆の袋があり、彼はその綺麗な指で豆を摘み上げては、絶えず口元へと運んでいる。

正直、ちょっと違和感だ。

私は元は普通の人間であり、節分の行事も経験してきているためか、豆をぶつけられて追い出される側の彼が、平気な顔(いや、不機嫌ではあるのだが…)で、豆を食べているというのは何年経っても違和感が拭えない。

やはり、古い人間は頭が堅いということなのだろうか…。

第二次世界大戦の終戦以降、この国は私が考えもつかなかったほどの進化を遂げ、若者達が奇抜な格好で外を練り歩いている姿が、よくテレビに映し出されている。

かくいう私の実家でもある鈴置家の現当主孝一殿の愛娘である愛佳殿も、ビジュアル系バンドというものに傾倒し、数世紀前の和と洋が融合したような姿で、ライヴとやらに行っているらしい。

近頃のモボ、モガは、溢れる情報の波の中から自分の好みのものを選びだし、極めているため、実に多種多様だ。

私が人として生きた時代も、文明開花と言って、いろいろなものを受け入れ始めた時代ではあったが、今ほど柔軟な思考で、新しいものを受け入れる大勢には至っていなかった。

だからなのか、私は自分が比較的柔軟な思考の持ち主であると自負していたのだが、最近の変化には着いていけていない感が拭えない。

やはり、寄る年波には敵わないということだろうか…。

その点、私の伴侶の方が、若い分柔軟なのかもしれない。

鬼のくせして、豆を食べてるくらいだし。

「紅葉。豆はおいしいですか?」

私が聞くと、

「うまい。これを投げるというのが、私には解せない」

と、怒りながらも答えてくれる。

相変わらず可愛い人…いや、鬼だ。

「お母様も豆は好きなんですか?」

「ん~。好んで食べているというほどではないが、普通に食べてはいたな」

「………」

では、何故豆を投げる風習が出来たんだ?

ああ。また、私の探求心が疼き始めた。

後できちんと文献を探してみなければ!

「何か楽しいものでも見つけたのか?」

不思議そうに紅葉が私を見つめてくる。

「え?何故です?」

驚いて見つめると、くすりと笑んで、優しく頬を撫でられる。

愛しい。という想いが、ひしひしと伝わってくる。

「気になることを見つけて、調べたくてしかたがない時の顔をしている」

「…そんなに表情に出てました?」

恥ずかしい…。

「貴方のことだけをいつも見つめているから。だから、解るんだ」

私に向ける笑顔が眩しい。

ああ。敵わない。

私の鬼はどうしてこんなにも愛しいのだろうか。

私が溢れる想いを言葉で伝える代わりに、そっと頬を撫でると、柔らかく目を細める。

穏やかな情愛が流れるこの空気に、幸せを感じる。

彼は鬼だが、自分にとって彼こそが福の源である。

彼が居なければ、幸せも感じることなどできはしない。

だから、我が家では、二月三日は何でもない日。変わらぬ日常があるのみである。

その変わらぬ日常が末永く訪れることを願うだけ。

いつまでも彼の横には、自分がいれますように………。


この作品は2010年の節分に投稿した者のため、冒頭で2010年となっておりますが、特に深い意味はございません。この作品は、この番外編で一応完結とさせていただきますが、気が向いたら、増えるかもしれません(笑)ここまで読んでくださった方に、多大なる感謝の気持ちを込めて。

2012年4月8日投稿。

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