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間延びしたチャイムの音色が放課後を知らせる。
クラスメイトたちが慌ただしく全体練習場所へと移動をはじめ、私は斜め前の氷坂さんをそろりと眺める。
周りの騒がしさなどどこ吹く風といった素振りで、氷坂さんは鞄に荷物を詰め込んでいまにも帰宅しそうな雰囲気だった。
「あ、あの……」
「どうしたの?」
さすがにこのまま黙って見送るわけにもいかず、私は慌てて腰を浮かせた氷坂さんを呼び止めた。
鞄を肩にかけて私を見下ろしてくるその視線は、いきなり声をかけられて不愉快そうな感じではなかったけれどどこまでも感情の読めない無表情だった。
二重のラインがくっきり綺麗に伸びた大きな目でじっと見つめられ、そんなつもりではないのだろうけれど圧迫感で仰け反ってしまいそうになる。
「放課後、チアの全体練習なんだけど……」
「今日?」
「うん。朝のホームルームで先生が言ってたし、実行委員の人の連絡も……」
昼休憩に氷坂さんに連れられて出て行った後に書かれたのだろう、戻った教室の黒板に体育祭実行委員によって集合場所が大きく書き出されていた。
もちろん午後の授業の直前には消されてしまったけれど、あれを見逃してしまうだなんていったいどれだけ興味がないのだろう。
仮病で休もうとしていたのはその場しのぎの冗談なんかではなく疑いようのない事実だったみたいで、改めてパートナーになってほしいなどと頼んでしまったことが迷惑だったのではと不安に駆られてしまう。
「そうだったのね、ごめんなさい。どこに行けばいいの?」
「あ、えっと、私たちのクラスは白組だから前庭広場に集合だけど……」
「わかったわ。じゃあ一緒に行きましょう」
小さく肩を竦めて見せて氷坂さんがほんのわずかに首を傾げる。たったそれだけの動作で耳から零れた髪の束がさらりと揺れた。
朝のホームルーム時には、氷坂さんはしんどそうに俯いていたから担任の話を聞いていなかったのだろう。黒板に書き出されていた集合場所の表記も、誰かに確認するよう促されたわけではなかったので、うっかり見過ごしてしまったに違いない。
氷坂さんは半端な弁明を口にしたりせず、私に一歩近付いて隣にぴったり並んできた。
私の肩が制服越しの氷坂さんの腕に触れる。
スラリとして見るからにスタイルの良い氷坂さんはもちろん私よりも背が高い。すぐ隣に並ばれると陽仁と同じくらいあるように感じた。
顔色を窺おうとすると必然的に見上げる格好になり、その角度から見た氷坂さんの凜々しさにドキドキしてしまう。
前庭広場に向かって廊下を歩く私たちは、それなりに人目を引いているようだった。
私みたいな何の取り柄もない目立たない小柄な女が、対極に位置しているような完成された美人の氷坂さんと並んで歩いているのはきっと滑稽に映るのだろう。
そんな自分ではいまさらどうすることもできない無駄なことを悶々と考えていると、うっかり足が縺れて転びそうになってしまう。
一歩ずつしっかりと踏みしめながら俯いて歩く私の姿は余計に滑稽さが増していたに違いない。
氷坂さんの隣にいるだけで人目を引いてしまうのは、集合場所に着いてからのほうがより顕著に感じることとなった。
周りの女子たちからじろじろと不躾に注がれる視線はまるで突き刺してくるみたいで痛みさえ感じた。
氷坂さんは普段から何もしていなくても目立つ存在なので、たぶんこの程度の視線なんて慣れっこで気にしてなどいないのだろう。私の隣に並びぴったりとくっ付いてずっと腕が触れていた。
「全体練習ってなにをするのかしら?」
「え、っと、なんだろうねっ、いきなりチアやらされたら、ちょっとびっくりだね……」
ふいに頭上から降り注いだ声に驚いて首が埋まってしまいそうなくらい肩を竦めてしまった。
そろりと見上げた氷坂さんは私の挙動にきょとんと瞬きしていて、みっともなくて俯いてしまう。
周りからの不躾な視線のせいで落ち着かず、過剰に意識しすぎているのは私だけなのだろう。
こうしているいまだって、注がれ続けているはずの視線が気になって仕方ない。
程度の差はあるだろうけれど、自意識過剰なわけではなく私も有名人ではあることが原因だった。
氷坂さんみたいにすごく綺麗で羨望の眼差しを注がれるなんて意味ではもちろんなく、幼馴染みの陽仁の窓口としてだ。
学年で一番の美人と、いけ好かない態度の窓口が一緒に並んでいるのだ。否が応でも興味を引かれるだろうし、心中穏やかでいられない子だって少なからずいるはずだった。




