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「どうかしたの?」
ただでさえ小さな身体をさらに小さく縮こまらせようともじもじしている私に氷坂さんが声をかけてきた。
さすがに周りからの視線が普段とは違うことを察知したのだろう、私の耳元にだけ届くくらいの小声だった。
「あ、ううん……、なんか、ごめんね。私のせいで悪目立ちしちゃって……」
「佐倉さんのせい? どういうこと?」
問い詰めているわけではなく、どこまでも純粋に素朴な疑問を口にしているみたいな氷坂さんの声は優しかった。
「ねえねえ、氷白姫と一緒にいるのって成海くんの窓口でしょ?」
「え、てことは、成海くんに取り次ぐつもりじゃないの?」
「は? 去年からずっと誰にも取り次ぎしなかったくせにいまさら?」
周りの子たちがひそひそと、けれどどれくらい隠す気があるのか、ほとんど聞こえる声量で耳打ちし合っている。
その、滲み出すみたいなやっかみを耳にして私は息を呑んでしまう。
確かにそうだ。我ながらうっかりしていた。
そもそも氷坂さんが昼休憩に声をかけてきた段階で、陽仁を狙って窓口である私に接してきたと噂されていたのだ。
そんな氷坂さんと私がこうして一緒にいる姿を目にすれば、これまで頑なに断り続けていた窓口業務、つまり陽仁へと取り次いだと勘違いされても仕方ない。
特に、これまで私に接してきて感じ悪く断られた子たちにしてみれば、そうとしか見えないのだろう。
本当はそんなことない。なにしろ氷坂さんは陽仁のことをまるで認識すらしていないのだ。
かといって、陽仁に取り次いだわけじゃないと訊ねられてもいないのに弁解して回るのもおかしい。
「……周りの子たちがなにか言ってるけれど、それが原因かしら?」
ぐるりと周囲を見回した氷坂さんが、遠巻きに注目されてあらぬ噂を囁かれている状況を察して改めて問い掛けてくる。
「えっと……、ご、ごめんね……。と、とにかく、氷坂さんには迷惑かけないから」
そう言って引き攣った笑みを浮かべて誤魔化すしかなかった。
具体的に迷惑をかけないように何をどうすればいいのかはわからない。黙って俯きやり過ごすこと以外に出来ることなんてないのだ。
私の誤魔化しを受け入れてくれたのか深入りする気なんてそもそもなかったのか、ちらりと横目で見上げた氷坂さんは元の無表情に戻って前に向き直っていた。
ほっとした。変に心配されて詮索されたりしたとして、いったいどんな顔をして自分が陽仁の窓口として女子たちから利用されているだなんて説明できるだろう。
なにしろみっともないし、それ以上に氷坂さんから呆れられることが怖かった。
「はーい、それじゃあ練習はじめまーす」
各クラスの体育祭実行委員の子たちが前方に集まり、その中の代表らしき子が頭の上で手を叩いてよく通る声を張る。
応援チアの振り付けとリーダーを務めますと簡潔な自己紹介を済ませると、全体練習初日ということでひとまず代表の女子たちが全体の振り付けを演じ始めた。
すぐにスマホを構えて動画を撮り、全体のダンスパートとペアでの振り付けのお手本をしっかりと収める。
参考動画があったところでどれだけ踊れるかは自信がなかったけれど、参考すらなかったらまるでお手上げだったに違いない。
ほとんど全ての子たちがスマホを構える中、隣の氷坂さんはぼんやり代表の子たちの振り付けを眺めているだけだった。
眉一つ動かさないで眺めている姿は欠片も興味を示していないように見えてしまい、ちゃんと振り付けを覚えられるのだろうかと自分のことを差し置いて心配になってしまった。
その後の説明で、各自それぞれに部活があったり都合の悪い者もいるはずなので全体練習の回数はそう多く取れないため、基本的には個別に振り付けを覚えて練習しておいてと丸投げされた。
みっともない姿を衆目に晒される回数が最小限で済むのはありがたかったけれど、逆を返せばしっかり練習をしておかないと次の全体練習の場で大恥をかく羽目になるということだ。そして本番の体育祭では全校生徒の前で大恥どころか公開処刑となってしまう。
そんな説明の最中にはまるっきり興味を失ってしまったのか、氷坂さんは俯き気味に視線を落として指先を小さく動かしていた。なんだか退屈でもじもじと暇を持て余しているように見えた。
もともと仮病で体育祭は休むつもりでいたのだから、そもそもやる気なんてないのだろう。
それでもお礼という形で私の無理なお願いに答えてくれたのだから、せめて二人揃って棒立ちになったりしないように気を配らなければ。周りの邪魔にだけはならないようにしなければ。
そんな私のささやかな意気込みを余所に、今日の全体練習はダンスと振り付けの説明だけで解散となった。




