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また学校が終わった頃にメッセージを送れば良いと考え通話を終えようとしたのに、
「いま昼休憩だよね? お話しよう?」
私の語尾を遮っている自覚があるのかないのか、氷坂さんはそんな甘えた声音で囁いてきた。
どうしようかと狼狽えてしまい、隣の桐ヶ谷くんに視線を移すとにっこり微笑んで手のひらを差し向けてきた。
無言でどうぞと促された挙げ句、そのままひらひらと手を振って離れていってしまう。気を利かせたつもりなのだろうけれど、通話とはいえ二人きりにされてしまって緊張してしまう。
「あ、えっと……、氷坂さん、ほんとに大丈夫なの……?」
「ええ。寝過ぎちゃって暇だったの。休憩の間だけでいいから付き合って」
画面の向こうで氷坂さんがごろんと横になる。
大きくてふわふわな枕に顔が半分くらい隠れて、とろんとした表情と囁くほどの細い声が届けられるだけで無性にドキドキしてしまう。
「今日は何の授業だったかしら?」
促されるまま今日の授業の内容を掻い摘まんで答えた。けれど、すぐに話題が途切れて無言の間が生まれてしまう。
私にはまともにお喋りできるくらいの話題がまるでないことに、会話が途切れるたびに思い知らされた。
学校内にわずかでも取り留めのない会話ができるような友達がいれば、話題が途切れたとしてもすぐに別の話を切り出せるのだろう。
休憩時間になるたび、そのわずかな一分一秒を逃してなるものかと仲良しのグループになってお喋りに興じているクラスメイトたちであれば、いまの私みたいに記憶の引き出しを片っ端から探ったりしなくても楽しい話題を提供できるのだろう。
なんて私はつまらない人間なんだろう。
自宅で寝ていた氷坂さんのほうからばかり、話題が途切れるたびにすらすら次の話を促してくれているのに、登校してきて半日が過ぎている私にはつまらない授業内容くらいしか答えられることがないのだ。
沈黙が訪れる。これで会話が途切れるのは何度目だろうか。
スマホの画面越しに、横になったまま私を見つめてくる氷坂さんの視線を見つめ返して、私は意を決して口火を切る。
「氷坂さん、……私とのチアのパートナー、やっぱりなかったことに出来るかな」
「……どうして?」
とろんと眠そうに目を細めていた氷坂さんが大きく目を見開く。
ただでさえ大きな黒目が強調されるみたいに広がって、画面越しなのにまるで飲み込まれそうな錯覚に仰け反ってしまう。
「え、っと……、私と一緒にいると、氷坂さんに迷惑がかかるんだよ……」
「昨日言っていた、悪目立ちするっていう話と関係あるのかしら?」
「……うん。だから、パートナーになってくれたのは本当に嬉しかったんだけど――」
「ちゃんと話を聞かせて」
ぴしゃりと私を遮って画面の向こうで氷坂さんが身体を起こした。ベッドに腰掛けてきちんと聞く体勢になり乱れた髪をかき上げる。
少しだけ不機嫌そうに伏し目がちになり、精緻な彫刻みたいに整った造形のせいで静かな怒りが研ぎ澄まされているみたいに見えてしまう。
その迫力に逡巡して狼狽えてしまう私を、氷坂さんは画面越しに無言で見つめてくる。その視線だけできちんと話すまで引かない意思がありありと見て取れて、やがて私は根負けしてしまった。
「……わかった。ちゃんと、話すね」
大きく息を吐いて気持ちを落ち着け、言葉を選びながらゆっくりと口を開く。
「昨日言った成海陽仁って家が隣同士の幼馴染みで、家族同士の付き合いもある本当に腐れ縁なの。その陽仁なんだけど、いわゆるイケメン扱いされてすごくモテるんだよ。いまは二組なんだけど、氷坂さん本当に知らない?」
「隣のクラス? 知らないわ。名前も聞いたことない」
即答する氷坂さんの断言はまるで容赦なかった。
昨日も同じことを思ったけれど、あれだけ女子たちからチヤホヤ騒がれている陽仁のことを知らないと言い切れるのは、本当に心の底から興味がない証拠なのだろう。
「私と陽仁ってね、幼稚園からずっと一緒で、ちょっと遊びに行くのも一緒で片時も離れない本当の姉弟みたいな関係だったんだ。私はそれが普通だったし、それ以上の感情なんてなかった。けど、私たちのまわりの子たちはそうじゃなかったんだ……」
画面越しに頼りない説明をしながら、いまよりずっと子供だった頃を思い出す。




