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枝崎さんは一年の時から、いわゆるギラギラしたギャルな子だった。
明るい髪をツインテールにして胸元を大きく開き、短くしたスカートから伸びる脚は健康的で活発な印象を与えた。誰にでも分け隔てなく接していつも笑っている人だった。
そんな枝崎さんは陽仁に近付きたくて私に声をかけてきた、高校に入って最初の一人だった。
私は高校入学を期に根本的に態度を改めようと誓っていたので、開口一番に陽仁のことを訊ねてきた枝崎さんに向かって「陽仁の連絡先だったら口止めされてるので教えられません」と突き放した。
結果、浮かべていた笑顔がすぅっと波みたいに引いて露骨に睨まれ「は? 感じ悪っ」と小声で罵られた。
私と枝崎さんの関係はたったそれだけだったけれど、陽仁のことを名前呼びしていたと噂になり関係性を疑われる事態を招いた。
噂を広めたのは枝崎さんに違いない。だって陽仁を名前呼びしてしまったのは彼女の前が最初だったのだから。
その後、二年生になって枝崎さんと同じクラスになってしまった。
だからといって途端にいじめに発展するようなことはなかった。
その代わり、私は存在しないものみたいに扱われて声をかけられることも視界に入れられることもなかった。
私としては相手にされないことはむしろ気が休まって嬉しいくらいだったけれど、枝崎さんは陽仁が私に接してくるタイミングには率先して近付いてきた。
私のことを利用できなくとも陽仁に声をかけるきっかけの材料くらいに思っているのだろう。結局、私に気の休まる暇なんてなかった。
「ねーねー、何の話ー?」
「あ? いま由と話してんだ。お前には関係ないって」
「うわ、冷たーい。いいじゃんあたしも混ぜてよー」
ぞんざいな態度の陽仁に腕を振り解こうとされ、わりと粘り強く縋りつく枝崎さんの姿は、見ようによってはじゃれ合っているみたいでお似合いに見えた。
そんなことをこの場で口にしたって皮肉としか受け取られないだろうから黙っておくけれど。
「あ、そうだ。今日の放課後みんなでカラオケいくんだけど成海くんも行こうよー」
「カラオケ? 由が行くなら行くわ」
「なんでー、たまにはいいじゃんー」
ぼそっと口にした陽仁の言葉に、枝崎さんがほんのわずかに肩を揺らして反応を示す。けれどすぐに笑顔を浮かべ直してしな垂れかかる。
私を引き合いに出して誘いを断る陽仁の言い草に鳥肌が立った。
けれど口を挟んだってろくなことにはならないので、私は二人の会話が耳に届いていない風を装ってやり過ごす。
枝崎さんはギャルらしい派手めなメイクが際立って見えていたけれど、皮肉でもなんでもなく可愛い顔をしている。
そんな枝崎さんからこれだけわかりやすいアプローチを受けているのだから、陽仁もお試しでも何でも付き合ってみれば良いのにと思う。
付き合わないにしてもカラオケくらい行けばいい。きっとそれだけのことで私がいま被っている損害のいくつかくらいは解消されるのだから。
けれどやっぱり、付き合えば良いなんてもちろん、カラオケに行ってこいとも口が裂けても言えるはずがない。曲解されて皮肉に受け取られるのがオチだ。
小さく溜息を零し、目の前でじゃれ合う二人を残して今度こそこの場を離れようとそろそろと腰を浮かせたところで、
「あ、佐倉さん。ちょっといいかな?」
穏やかな口調で申し訳なさそうに首を伸ばして、もつれ合っている陽仁と枝崎さん越しに声をかけてきたのは桐ヶ谷くんだった。
きっと氷坂さんから確認が取れて伝えに来てくれたのだ。そう思い至っただけで後光が差して見えた。
「はい、だいじょうぶですっ」
「取り込み中、だったかな……?」
「あ、ぜんぜん平気ですっ。気にしないでください」
「えっと、例の件のことなんだけど……」
「はい。……ちょっと場所を変えましょう。良いですか?」
「僕は良いけど……」
桐ヶ谷くんが滑らせた視線の先に、威嚇するみたいに睨み付けている陽仁とその腕にぶら下がる枝崎さんの姿があった。
「じゃあ、行きましょうっ」
私はそれ以上の返事を待たずにそそくさと教室を出た。
陽仁に続いて桐ヶ谷くんまでが私の元にやって来たことが不愉快で仕方ないのだろう、クラスの女子たちからやっかみ混じりな視線に炙られたけれど、なんとか顔を俯けて足早にやり過ごした。




