物語2 森の魔女
剣とおまじないと薬の世界
ハッと気がつくと私は森の中にいた。
しゃがみ込んで何やら草を手に持っている。
この人物の今までの生き様が脳裏に流れ込んでくる。
今回の世界では「魔女」と言う存在は希少であるがゆえに得体が知れないと恐れられている。
ただ、魔女の作る薬は効果が絶大なので排斥することもできない状態。
魔女の家系は女しか生まれない。
祖母の代から住んでいる街から少し離れた森の家に住んでいる。
祖母も母も亡くなり、今は私1人。
排他的な世界にいる魔女かぁ。
今回は悪役令嬢とはちょっとテイスト変わる感じかな。
今までの魔女である私は社交性に乏しく、出入りの商人に薬を卸している。
魔女の薬として売りに出されているのかどうかは不明だし、売値も買い叩かれていそう。
一度街の薬屋に市場調査に行ってもいいかも知れない。
これから私がここで生きていくなら少しでも生活は潤わせたい。
今日必要な薬草の採取を手早く済ませ、森の家に帰る。
この世界には魔女の魔法が存在する。
ファンタジー世界のように攻撃魔法とか回復魔法がバンバン使えるというのではなく、基本的な生活魔法とおまじない程度、その家系の魔女に引き継がれる特性魔法だ。
我が家の特性魔法は「隠蔽」である。
森の家の正確な位置を来訪者に認識させない魔法である。
偶然なんらかの条件が揃って迷い込む人と、来訪者としてこちらが通行証を渡している商人は辿り着ける。
そして、強い意志を持ってここを訪れたいと願う人には、道がつながる。
私は家へと続くやや上り坂の泉の横の道を登っていく。
この泉は生活に必須の水場である。
それと同時に色々なものが流れ着く場所でもある。
今回も何やら流れ着いている模様・・・
「って、人!?」
人のようなものが浮いている。
私は薬草の入ったカゴを置いて慌てて泉に駆け寄る。
浅瀬に引っかかっていた人を引き寄せる。
全身が濡れるのも厭わない。
「うっ、重い・・・」
水を含んだ衣類に、自分とは体格の違う男性だった。
幸い息はあるようで意識がないだけみたいだ。
なんとか岸まで引き上げることはできたけどどうやって家の中に運ぼうか。
浮遊させる魔法でも使えたらなぁ。
「・・・浮遊」
言うだけ言ってみた。
すると、ふわっと意識のない男性が浮いた。
そんなに高度はないけど引きずって行かなくても良さそうだ。
「おお、転生チート!?」
いつまで持つかわからないので急いで家の中へ男性を運んだ。
剣を腰に下げているので傭兵か、それとも騎士だろうか?
服装もそれなりに整っているし、ただの平民や傭兵というわけではなさそうだ。
客室もない小さな家なので私のベッドを使うしかない。
「生活魔法か・・・どのくらい色々できるんだろう?」
元の魔女の知識では火を熾す、コップ一杯の飲み水を出す、鍋に水を張る、お湯の保温とかそんなの。
結局はこの世界の魔法ってイメージが大事っぽいんだよね。
「・・・洗浄、乾燥」
頭の中で衣類が綺麗になるイメージと、乾くイメージを思い浮かべて呟く。
うまくいったみたいで男性の衣類が綺麗になった。
衛生観念は現代人としては外せないんだよね。
男性をそっとベッドに下ろした。
呼吸や顔色を確認する。
特に異常は無さそうだったので置いてきた薬草のカゴやその他男性の荷物などが流れついてないか泉に見に行った。
皮袋が浮いていたので回収する。
その後は家に戻り夕飯作り。
起きるかも知れないからスープをメインに作る。
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何度目かの確認の時、ようやく目を覚ました。
「う・・・」
ローソクの薄明かりの中で目を瞬かせてからゆっくりとこっちをみた。
「魔女・・・!?」
一気に覚醒したように男性は飛び起きて腰に手をやる。
「あ、剣は邪魔だったのであっちに置いてます」
外しておいてよかった・・・。
そばに置いてたら剣を突きつけられただろう。
「な、あ」
男性は剣の置いてある方向と自分の手元に視線を行ったり来たりした後、私も頭の先からつま先までジロジロ見る。
「失礼な人」
私は少し気分を害した。
今、元の魔女の知識が頭の中に入ってきたけど魔女の外見は特徴的なようだ。
一目見てわかる黒髪に金色の瞳。
どの家系の魔女でもこの色は一緒らしい。
「とりあえず何か食べられそう?スープとパンならあるけど」
「魔女からの施しなど」
「あのね!あなた私に助けられたのよ?その時点で施しがどうとかどうでも良くない?あなたたち人間は魔女を得体の知れない存在だと思ってるかも知れないけど、私からしたら同じ人間だからね!?」
もー!ごちゃごちゃうるさい!!
めんどくさい!!
こーいうくだりいらないわ。
「人間だって剣が上手い人、料理が上手い人、絵が上手い人いるでしょ?魔女は薬を作るのが上手いだけよ」
ぐ・・・ぐうぅううう
盛大な腹の音が響いたので、私はスープとパンを持って来ることにした。
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食事をとって落ち着いたのか、先ほどの非礼を詫びられる。
「恩人に失礼した。身なりの整えや食事の世話まで感謝する」
「いえ。私の泉で人が死ぬのも嫌だったので」
私はまだ許す気はない。
それが通じたのか、男性は気まずそうにする。
「俺の名はアレク。貴族に仕える剣士だ」
まぁ、そーいう設定なんだろうな〜とか思っちゃう。
多分フラグなんだよね。
この剣士と魔女が恋仲になるのか、この人の上司と何か起こるのか。
「私のことは森の魔女とか魔女とお呼びください」
名前は明かさないのが魔女のセオリーだよね!
「では・・・その、魔女殿」
「なんでしょう」
「俺は主人に命じられてここに来た。というか流れ着いたわけなんだが・・・」
「私の家には許可証を持っているものか強い意志を持ってここに辿り着きたいと思う者しか来れません」
「ああ、それで同じような所を何日もぐるぐると・・・」
落ち込んだような顔で項垂れる剣士。
「剣士様は私に何か用があったのですか」
「そんな堅苦しく呼ばずにアレクと呼んでくれ」
「いえ、魔女は軽々しく人の名を呼びません」
今思いついたことだけどね。
この人の距離の詰め方が早いよ。
「そ、そうか。それで、魔女殿に頼みたい薬があるんだ」
はいきたー。
これきっと惚れ薬だよ!!
「人の心の声が聞こえる薬を頼む!」
「えー!?惚れ薬とか媚薬じゃなくて!?」
「なんでだ」
セオリー外してくるじゃん。
面白い。
「いえ、こちらの話です。で、人の心の声が聞こえる薬ですか」
一般や表向きには風邪薬や喉の薬、咳止めやお腹の薬とか整腸剤を作っている。
裏では魔女の秘薬としてちょっと怪しい薬も作っている。
「効果範囲や対象人数は選べません」
「それはどういう?」
「この人の心の声だけ聞きたいとか100m離れた人の声を聞きたいとかは無理です。不特定多数の声が一斉に聞こえます」
それは精神的にとても負担が強いと思う。
「しかも効果の持続時間は人によって様々です。同じ薬を飲んでも5分で終わる人、丸1日たっても終わらない人など」
ついでに言うと丸1日経っても効果が消えなかった人は発狂して死んだらしい。
相談してくれたら眠薬を処方して薬が抜けるようにとか色々できたのに。
ちなみに私が作った薬じゃないからね!
どこかのよその魔女が作った薬だよ。
「後、素材集めをお願いします。私はこの森しか知らないので。森以外で採取しなくてはならないものもあります」
「わかった。素材集めは任せてくれ」
「後、お代金ですが」
「これでどうだろうか」
チャリ、とテーブルに置かれたのは小さな皮袋。
中を改めると金貨がたっぷり。
これは5年は働かなくても生活できそう。
「いいでしょう。素材採取と試作品作りと合わせて三ヶ月ほどかかります」
「そんなに!?」
「素材集めが早く済めばもっと短くなりますよ」
「よし!リストをくれないか」
「構いませんけど、あなた死にかけたようなものなので数日は安静にしている方がいいですよ」
「全然平気だが」
「せめて1日は薬師として様子見させてほしいですね」
「そうか。では頼む」
お世話代も上乗せしたい・・・
今回はかなり「私」が自由奔放になりそうです




