物語2 魔女と街
社交性に乏しかった魔女がいざ街へ!
1日だけ滞在したアレクは、翌朝、素材リストを持って一旦この森を出た。
アレクが帰り、1人になると肩の力が抜けた。
やれやれ・・・
令嬢であることを意識しなくていい立場だから、つい好き勝手に喋ってしまった。
久しぶりに、人との会話が楽しいと思えた。
でも、出入りの商人たちに、以前とは性格が変わったと思われないようにしないといけない。
それとも転生チート補正がかかってるのかな?
今回はアレクに回数制限付きの魔札を渡した。
魔札とは魔法陣が描いてあるお札のことだ。
私の家が見える場所まで戻ると、自動的に消える優れもの。
いろんな事に応用が効きそうなんだけど、祖母の代からの研究日誌には、札の研究よりも薬草関係のことばかり記載してあった。
私は街へ出かけるための服を、クローゼットの中から探す。
「・・・街に行くために着る服がない」
ローブとかマントとか同じものが数着しかない。
そりゃそうか。
街に出ることなかったもんね。
うーん、と悩んでいると魔女の記憶が頭の中に甦る。
「あ、母の荷物」
母が亡くなった時に片付けた荷物の中にいくつか服があったと思う。
それを引っ張り出してみると、少し型は古いけど今でも十分に着られるものだった。
町娘風のものと、ちょっとオシャレを意識した白地に黄色の花柄のワンピースがあった。
ショートブーツと白のヒールの靴もあった。
「この2着、使わせていただきます」
パンッと顔の前で手を合わせた。
これは、まじないでも何でもなく、日本人だった頃の名残りだ。
久しぶりに母の遺品箱を開けたので、他にも色々と見てみた。すると、見覚えのあるものがいくつか出て来て楽しかった。
気がつくと結構時間が過ぎていた。
「いけないいけない。出かけなくちゃ」
次に出入りの商人が来るまで、まだ2週間はある。
それまでに必要な物資を買いに、街へ出てみようと思ったのだ。
たった1日とはいえ、男性の食事量は1食で私の3食分レベルで驚いた。
あの時作ったスープは、夜と翌朝の分もと思っていたのに全部なくなったのだ。
私はローブとボロの服を脱いで母の町娘風の服を着る。
うーん、髪がボサボサだ。
櫛で髪をすいてサイドで緩く三つ編みにする。
「何か羽織るものが欲しいけどローブは・・・ないな。魔女すぎる」
もう一度母の荷物を漁るとフード付きのケープが出てきた。
可愛い。
ケープを羽織り、斜めがけのバッグを肩にかける。
ひったくり対策は万全だ。多分。
それと、幾つかの薬を直接店に売るために用意した。
今の私は、何もかも人任せにする薬師ではない。
もう利益を吸い取られてなるものか。
薬が安く買い叩かれているのは分かっていた。
でも、以前の魔女は商人に文句を言うこともできなかったのだ。
「よし!出発だ!」
家を出て坂を下る。
頭の中で街への道を思い浮かべながら歩く。
隠蔽魔法の外に出た感覚がした。
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右を見て、左を見て、前を見て・・・
思った以上に街は賑わっていた。フードを目深に被った私はビクビクとしながら街の中を歩いていた。
このビクビクした感覚は私のものではない。
前の魔女の感情だ。
冒険者や傭兵、巡回中の騎士や兵士、町人、商売人・・・
いくつか入った路地裏には浮浪者や目つきの悪い人が潜んでいた。
はぁ・・・とため息が出る。
魔女は以前、一度だけ街に来たことがあったみたい。
記憶の引き出しから出て来た記憶がある。
言わずもがな、である。
今の私のように身なりを整えずそのまま来たのだから。
とりあえずお金を調達したくて門番に薬を買い取ってくれる店を尋ねて教えてもらった。
今はそこを目指していて、もうすぐ着くと思う。
スマホないから地図のナビがなくて不便すぎる・・・
店にかかる看板が見えた。
聞いた店の名前だ。
扉を開けて入ると、年配の女性がカウンターの向こうにいた。
「いらっしゃい!」
「すみません、買取をお願いします」
「買取?何をだい?」
「傷の塗り薬と咳止めとお腹が下ってる時に飲む薬です」
カウンターに順番に並べて置いた。
「何だあんた薬師かい?見たことないね。顔見せな」
「う、はい・・・」
確かに顔を見せないような怪しい人から薬なんて買いたくないよね・・・
「その髪色・・・あんた魔女か」
女性の顔が厳しい物になる。
「・・・それが何か?」
魔女のイメージってやっぱり良くないのかな・・・。
薬売れない?
それに髪色で魔女って判断されたよね?
今の私の髪の色は漆黒だ。
日本人には馴染みがあり過ぎて違和感とか全然なかった。
「ちょっと味見するよ」
「え?味見?」
女性は薬を全部少しだけ口に入れて味見していった。
塗り薬まで・・・
「・・・この味・・・」
何かを考えるように顎に手をやる。
「買取価格はこれでどうだい?」
チャリチャリとカウンターに小銭が並ぶ。
「え!?こんなにいいんですか!?」
私の一ヶ月分の食費だ。
「はぁ?あんた、一体どれだけの値段で買い叩かれてたんだい!?」
「これのじゅうぶんのいちくらい・・・」
以前の魔女の記憶から商人に買われた金額を思い出す。
「はぁ・・・全く常識を知らないねぇ」
商人に対してか私に対してか理解しかねる。
でも多分私に対して言ってるんだろうな。
「あんた、これから薬は直接うちに持ってきな!正規の値段で買い取ってやるよ」
「それはありがたいですけど、出入りの商人に全く売らないというのも・・・」
「それなら一番原価のひくい薬を5つだけ売るようにしな。文句言われたらそれも売らないといえば黙るだろう」
「なるほど・・・」
私はお金を皮袋に入れる。
改めて店内を見回すと、薬だけじゃなくて日用品なども置いていた。
「あ、石鹸とかジャンプー欲しいかも」
「コンディショナーとトリートメントも買って行きな!髪がバサバサじゃないか」
身の回りを清潔にするアイテムをお買い上げ!!
新しいタオルとハンカチ、下着も靴下も買う。
「ここ何でも置いてるんですね」
「専門店もあるにはあるが、あちこち歩いて買いにいけない人もいるからね」
合理的である。
ふと、店の隅にかかっているローブが視界に入る。
「あの、女将さん。あそこにあるローブは」
「ああ、あれね?仕入れたは良いけど全然売れなくてね。買うなら安くしとくよ」
深い緑に黄色と白を使った糸で花や蔦の刺繍がさりげなく施されている。
「このローブ着てなら街に来ても不審者にならない・・・?」
「何だい、前に不審者扱いされたのかい?」
独り言なのに聞こえたようだ。
「う、はい。身の回りに頓着してなくて・・・」
「その割には今日はちゃんとしてるじゃないか」
「母が着ていた服を借りました」
「あんた本人の外出着はないのかい?」
「・・・ないですけど特段困らないので」
「数着は持っときなよ」
「今日はいいです。他に買うものもあるので」
「じゃぁ次に来るまでに何着か似合いそうなの仕入れといてやるよ」
「お願いします」
なんだかんだで女将さんとは仲良くなった気がする。
ローブも思ったより安く売ってくれた。
ちょっとウキウキしちゃう。
私はその後、女将さんに食材を売っているいい店を教えてもらい不足した分を買いに行ったのだった。
以前の魔女とは本当に別人です。
でも全くの別人の魂というわけではなく、根本的なところでは「私」と繋がっています。




