物語1 王女と公爵令嬢。
刺繍は淑女の嗜み。
現代に生まれてよかったー!
この国の第一王女の名前はリリアナ。
王族らしい金の髪に碧眼。
吸い込まれるような美しい色の瞳だ。
ちなみに今世の私の容姿は濃いブラウンの髪にエメラルドグリーンの瞳だ。
レイモンドからは髪色が地味だとか色々言われた。
そう言えば、王子の側近の護衛騎士の1人に瞳の色を誉められたな。
あの人どうしてるんだろう。
「レティ?」
「・・・・・」
「レティーシア!」
「わっ」
考えに耽っていたら王女・・・リリアナの声に驚いて飛んでいた意識が戻る。
「あなたって本当イメージや噂と違うのね」
「それは他人が勝手につけたものだからね」
私はリリアナと一緒にハンカチに刺繍を刺していた。
レイモンドを貶め隊の作戦に使う予定だ。
「今度の馬上槍試合で兄が優勝したら婚約破棄を勝手にしたことは許すとか言ってるのよ」
王と王妃マジありえんて。甘過ぎ。
「絶対優勝しないように手を回さないと」
「手を回さなくても優勝できるような実力持ってないでしょう?」
鍛錬が嫌だと言って逃げ回っていた男だ。
日頃鍛錬に勤しむ騎士に勝てる訳がない。
「実力がなくても権力とお金があればなんとかなるのよ」
「権力やお金で動かない人もいるよね?」
「そんな時は人質をとるのよ」
「うわ、最低の極み」
「あなた面白い言葉を知っているわね」
クスクスとリリアナは笑うが、手元の刺繍はすごいスピードで進んでいる。
私はといえば、全然だ。
これ人にあげられるもんじゃないな。
作戦に使うハンカチはリリアナのものを採用だ!
馬上槍試合では勝って欲しい出場者の安全を祈って未婚女性が自ら刺繍したハンカチを渡す。
ちなみに出場者は皆未婚男性である。
結婚相手をお互いに探す会とも言う。
そこで私はこれで最後というわけでさよならのハンカチをレイモンドに渡す、という。
そのハンカチに無味無臭の薬品を染み込ませておくのだ。
ハンカチから揮発した薬品を吸い込んだらめっちゃお腹が痛くなるという恐ろしい薬だ。
誰がそんなもん作ったんだ本当に恐ろしい。
「私からのハンカチなんて受け取ると思う?」
「兄は虚栄心は強いから下手に出て渡せば受け取るはずよ」
「はぁ・・・面倒臭いな」
「国外追放と死刑を免れるためなんだから文句言わない」
私とリリアナは随分と仲良くなった。
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ついにやってきた馬上槍試合の当日。
やはり刺繍したハンカチはリリアナが刺した王家の家紋のものを使うことにした。
「レイモンド王子」
意を決して私は護衛騎士や側近を連れて歩いているレイモンドに声を掛けた。
「なんだレティーシア?婚約者探しにでもきたのか?」
「・・・こちらをどうぞ。今日でわたくしが王子と共に公務をなすのが最後ですので・・・」
試合開始前の挨拶で一緒に行かなければならないのだ。
正直行きたくないし面倒くさいけど。
「ふん、殊勝なことだな。最後の思い出ということか」
「そのように」
余計なことは言わない。
レイモンドは奪い取るようにしてハンカチを手にする。
「王家の家紋か。私に相応しいな」
ぐいっと懐にハンカチを押し込んだ。
自分から自滅しに向かっててナイスすぎる。
思わずにやけてしまいそうになるが、口元を引き締める。
そしてそのままレイモンドは立ち去って行く。
その後をついていく側近たちだが、その中の一人がこちらへ戻ってくる。
何か、勘づかれた?
表面上は平静を装いつつ背中には冷や汗が伝う。
「レティーシア様」
あ、あの護衛騎士だ。
以前私の瞳が綺麗だと言ってくれた・・・
「何か?」
「あの、厚かましいことを申し上げるのですが・・・」
「?」
「私にもハンカチを頂けないでしょうか?」
「え?」
なになになに!?
本当に何が目的なの!?
怪しまれてる!?
「わたくしのハンカチは先ほど王子にお渡ししてしまったので・・・」
「あれは王女の作品ですよね?」
「え」
本当になんなのこの人!?
なんか怖いんだけど!
「以前に何度か王女の作品も、あなたの作品も見たことがあるのです」
ちょっと照れたようにいうけど私の警戒心は鰻登りだ。
「その・・・あなたの独創的な刺繍のファンでして」
「わ、わたくしの刺繍のファンですって?」
私は今、信じられないものを見ている気分だ。
あんなものを好む殿方がいるなんて・・・
私が刺したハンカチ、持ってないとは言わないけど・・・
あげるの?
王子の護衛騎士に?
あれ?他の側近の名前はわかるのにこの人だけ分からない。
婚約者として王子の側近の名前や家門がわからないなんてありえないんだけど。
「名前・・・」
「スタンと申します。レティーシア様」
まぁ、もう婚約者じゃなくなるしいいか。
「では、拙い刺繍のハンカチですがあなたの無事と勝利を願って」
スカートのポケットから取り出したハンカチを差し出した。
スタンは片膝をついて恭しく受け取る。
「あなたの思いを胸に」
嬉しそうにはにかんだ顔に少し、ドキリとした。
私はその場からそそくさと退散した。




