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銀狼物語 ~森で出会った銀狼と紡ぐ運命の物語~  作者: ななお
第二部 第二章 ネヴァリア王国編

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第四十一話 命を祝う者たち

リリアから赤子の名を託されたあと、ラシードは再び戦場へ戻りました。


腕の中に残る赤子の温もりを思い返しながらも、今は大地の眷属として、蒼月のもとへ戻らなければなりませんでした。


ラシードが雪原へ降り立つと、蒼月とディグラード、黒が激しく刃を交えています。

白銀と漆黒の光が幾度もぶつかり合い、そのたびに凄まじい衝撃が大地を揺らしていました。


ディグラードと黒が左右から蒼月へ斬り込んだ瞬間、ラシードは雪を蹴り、三人の間へ飛び込みました。

振り抜いた冥霞で二本の剣を受け止めると、蒼月も下から剣を押し上げる。


三本の剣と一振りの刀が激突し、火花と白銀の光が雪原へ飛び散った。

四人は互いの刃を押しつけたまま動きを止め、至近距離で睨み合いました。


ラシードはディグラードと黒へ冥霞を向けたまま、蒼月へ報告しました。


「大地様、リリア様の子が無事に生まれました」


蒼月は、リリアの魂の揺らぎから、すでに新しい命が生まれたことを感じ取っていました。

それでも、ラシードの口から無事を知らされると、蒼い瞳に喜びが広がりました。


「そうか!」


ディグラードは蒼月とラシードを見比べると、押し合わせていた剣を引きました。

黒もそれに続き、剣を下ろしました。


「子の誕生を祝して、今回は引いてやろう」


ディグラードが剣を収めると、黒も頷きました。


「そうだな。めでたいことだ」


黒は剣を肩へ担ぎ、蒼月へ笑みを向けました。


「俺も祝福してよいか?」


「いらん」


蒼月が即座に断ると、黒は口元をつり上げました。


「くくっ、そうか」


黒の身体が濃い霧となってほどけ、雪原を吹き抜ける風の中へ消えていきました。

ディグラードも黒い瘴気に包まれ、その場から姿を消しました。


離れた場所からその様子を見ていた賢者と武神は、二人が消えた場所を見つめていました。

魔物を放ち、数え切れないほどの人の命を奪わせている者たちが、新たな命の誕生を祝う。

二人には、その矛盾を理解することができませんでした。


蒼月は、魔物を食い止めている賢者と武神へ目を向けました。


「賢者、武神。ここを任せてもよいか」


二人は蒼月へ向き直り、揃って頭を下げました。


「承知いたしました」


「大地様がお戻りになるまで、ここから先へは進ませません」


蒼月は二人へ頷くと、ラシードの肩へ手を置きました。

白銀の光が二人を包み、その姿は雪原から消えていく。


蒼月とラシードはリリアの部屋を訪れました。


扉が開くと、寝台の上にいたリリアが二人へ顔を向けました。

その傍らでは、柔らかな布に包まれた赤子が、小さな寝息を立てている。


蒼月は寝台へ歩み寄り、リリアと赤子の無事な姿を確かめました。

張りつめていた表情が崩れ、リリアの身体を腕の中へ抱き寄せました。


「リリア、よかったな。無事で本当によかった」


「はい。心配をかけました」


蒼月はリリアから身体を離すと、その傍らで眠る赤子へ目を向けました。

あまりにも小さな身体を前にして、伸ばしかけた手が止まりました。


リリアは蒼月の様子を見て、笑みを浮かべました。


「蒼月も、抱いてみますか」


「大丈夫なのか。あまりにも小さくて、壊れてしまいそうだ」


「ふふ、大丈夫です。優しく抱いてください」


リリアは赤子の頭と身体を支えながら、蒼月の腕へ預けました。

蒼月は教えられたとおりに両腕を構え、力を加えすぎないように赤子を受け取りました。


腕の中へ収まった身体は軽く、触れているだけで確かな温もりが伝わってきました。

小さな胸は規則正しく上下し、閉じられた瞼の下で瞳が動いている。

蒼月は息を止めるようにして、赤子の顔を見つめました。


リリアとラシードの間に生まれた命でした。

蒼月が手に入れられなかった想いと、蒼月自身が眷属に変えてしまった友。

その二人の先に宿った命が、今、蒼月の腕の中で眠っていました。


温もりが胸へ広がるほど、その奥が締めつけられました。

それでも、腕の中の命から視線を外すことはできませんでした。


守りたい、と思いました。

この子を、リリアやラシードとともに。


その思いは、幸福とも痛みともつかないまま、考えるよりも先に蒼月の中へ生まれていました。


「この子に、祝福を授けよう」


蒼月は赤子の額へ口づけました。

触れた場所から淡い白銀の光が広がり、小さな身体を柔らかく包みました。


光は赤子の内側へ溶けるように消えていきました。

赤子は目を覚ますことなく、蒼月の腕の中で穏やかな寝息を立てていました。


リリアは蒼月の後ろに控えていたラシードへ目を向けました。


「蒼月、ラシードにも抱かせてあげて」


蒼月は赤子を支えたまま振り返り、ラシードへ腕を差し出しました。

ラシードは前日よりも落ち着いた手つきで赤子を受け取り、その小さな顔を見つめました。


蒼月はラシードの腕に抱かれた赤子へ目を向けました。


「名は、どうするのだ」


リリアはラシードを見つめました。


「ラシードにお願いしています」


蒼月は赤子とラシードを見比べ、頷きました。


「そうか」


ラシードは腕の中の赤子を見つめたまま、その小さな命にふさわしい名を考えていました。


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