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銀狼物語 ~森で出会った銀狼と紡ぐ運命の物語~  作者: ななお
第二部 第一章 柱

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第二十二話 再会

リリアは、ラシードの腕の中で泣き続けていました。

ラシードはその身体を抱きしめたまま、涙に濡れた頬へ手を添えました。


「リリア。あの判断は正しかった。あの者たちには、もう命がなかった」


「あのまま魔物として操られ続けるより、ずっとよかったはずだ」


リリアは、ラシードの顔を見つめました。

その頬には、止めどなく涙があふれていました。


「分かっています。でも……でも、心が追いつきません」


「分かっている」


ラシードは、リリアの背に回した腕へ力を込めました。


「俺が、全部受け止めてやる」


リリアはラシードの胸に縋り、しばらく泣き続けました。

やがて泣き疲れ、抱きしめられたまま眠りに落ちました。


ラシードは、眠るリリアを寝台へ横たえました。

頬に残った涙を拭い、乱れた金の髪を何度も優しく撫でます。


「俺が代われるものなら、代わってやりたい」


扉を叩く音がして、蒼月が部屋へ入ってきました。


ラシードは、眠るリリアへ視線を落としたまま、声を潜めました。


「今、眠ったところだ。リリアには、耐えられない」


蒼月は、寝台の上のリリアを見つめました。


「分かっている。だが、知らせないわけにもいかなかった」


蒼月は、ラシードへ視線を戻しました。


「リリアとラシードは、しばらくここで休んでいろ」


「残りの者たちは、私と眷属たちで探す」


ラシードは、頷きました。


「分かった」


一度、眠るリリアを振り返ってから、蒼月を見ました。


「頼む」


「ああ」


蒼月の声が、やわらぎました。


「リリアのためだ」


そうして、蒼月と六人の眷属たちは、散り散りとなった者たちを探しに向かいました。


転送機に残された魔力の跡を一つずつ辿り、各地へ転送されていた者たちを見つけ出していきました。


転送先の近くに留まっていた者たちは、すぐに見つかりました。

けれど、助けを求めてその場を離れた者たちは行方が分からなくなっており、周辺の街や森まで捜さなければなりませんでした。


三か月ほどがたった頃、蒼月たちは、転送機に残されていたすべての座標を巡り終えました。

各地へ転送されていた生存者たちも、ようやく一か所へ集められました。


その捜索で見つかった主だった生存者は、ハインリヒ、アステル、セシリア、ミラ、エレナ、ガレス、ルーク、ヴィクトル、ローガン、そしてリリアの母でした。


異変に気づいた重臣たちは、館へ騎士を走らせ、家族や使用人たちを王宮へ呼び寄せていました。

ハインリヒの家族と、その館に身を寄せていたリリアの母も、そうして転送機へ辿り着いた者たちでした。


そのほかにも、重臣たちの家族、王宮に勤めていた侍女や使用人、避難の列へ駆け込んだ街の人々の一部が、各地で見つかりました。

生存者たちは、順にハルディア王都の離宮へ移されていきました。


ある日、リリアは呼ばれて広間へ向かいました。

扉が開いた瞬間、リリアの足が止まりました。


「リリア!」


母の声でした。

駆け寄ってきた母に、リリアは飛び込むように抱きつきました。


「お母さん……!」


言葉は、それ以上続きませんでした。

母の温もりに、堪えていたものが一度にあふれました。


ハインリヒが、二人のそばへ歩み寄りました。


「無事で、よかった」


その声は、いつもの公爵らしくないほど震えていました。

リリアは母に抱かれたまま、父へ手を伸ばしました。

ハインリヒはその手を握り、二人をまとめて抱きしめました。


「リリア様」


少し離れた場所から、セシリアが頭を下げました。

その目は赤く、頬には涙の跡が残っていました。


「セシリア……無事だったのですね」


「はい。エレナ様も、ミラも、皆おります」


リリアは、涙を拭って笑いました。


「また、あなたの温かいご飯が食べたいです」


「はい。いくらでも、お作りいたします」


セシリアの声も、途中から涙に濡れていました。


再会の輪の中で、リリアの心に沈んでいた重みが、ほんの少しだけやわらぎました。

失われた命は戻りません。

けれど、守られた命も、確かにここにありました。


散り散りになった人を探しつつ、六人の眷属たちは、グランヴァルド王国の王都グランリューネを修復していました。

崩れていた建物は元の形を取り戻し、焼け焦げて黒く染まっていた壁も、眷属たちの力に包まれながら、本来の姿へ戻っていきます。


王都の入口付近では、周辺の街や村から、新たに移り住んでくる人々の姿も見られるようになっていました。

荷車に家財を積み、家族で手を取り合いながら、これからの暮らしを始めるために王都へ入っていきます。


その姿を見つめていた澄光が、口を開きました。


「人とは、強いものですね」


隣に立っていた女神が、微笑みました。


「私たちも、もとは人だったのですけれどね」


澄光は、目を細めました。


「ああ。もう、あまりにも昔のことで、思い出すこともなくなりました」


女神は、遠くなった記憶を辿るように目を細めました。

澄光もその隣で、眷属たちとともに夕日を見つめていました。


サハルディア王国からも人手を借り、王都グランリューネに皆戻ってきていました。

そして、街並みだけでなく、人々の暮らしも立て直されようとしていました。

失われたものの大きさは、今も王都の至るところに残っています。

それでも、その中には確かに、新しい営みが芽吹き始めていました。


王宮の高台からその様子を見下ろしながら、リリアは胸の前で手を重ねました。


「街が、少しずつ戻ってきていますね」


隣に立つラシードが、修復の進む大通りへ目を向けました。


「ああ。だからこそ、今度こそ守りきらなければならない」


蒼月は、遠くに広がる空を見つめていました。


王都には、蒼月と女神による強固な結界が張られていました。

二度と、あのようなことを起こさせてはなりませんでした。


「そろそろ、決着をつけなければならない」


蒼月が告げました。


「ああ」


ラシードが短く答えました。


闇に言われてから、ラシードはこの三か月、空の女神から結界の張り方を教わっていました。

濃い瘴気の中でも、自らの身を守りながら動くためでした。


「濃い瘴気の中でも動けるだけの結界は、張れるようになったのか」


「完全ではないが、張れるようにはなった」


「では、ともに行こう」


ラシードは、蒼月の言葉を受け止めるように頷きました。

リリアは二人を見つめ、胸の前で重ねていた手に力を込めました。


眼下では、再び人の暮らしを取り戻し始めた王都が、夕日の中に広がっています。

その営みを守るためにも、終わらせなければなりませんでした。


蒼月は遠くの空へ目を向けました。

決着の時は、もう目前まで迫っていました。


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