第十一話 沙良との戦い
封印の地には、岩と乾いた大地がどこまでも続く荒野が広がっていました。
蒼月と空の眷属が荒野へ降り立つと、光から派遣された三人の眷属が待っていました。
三人は蒼月の姿を認め、揃って深く頭を下げました。
先頭に立っていた男が顔を上げます。
「私は光輝と申します。こちらの二人は、耀真と澄光です」
光輝に続き、耀真と澄光も改めて一礼しました。
「光様から、事情は伺っております」
光輝たちにとって、沙良は自分たちよりも前に光の眷属となった存在でした。
地上での任務中に何があったのか、詳しいことは聞かされていません。
ただ、沙良は深い絶望に呑まれ、堕ちてしまったと伝えられていました。
眷属である以上、それは決して他人事ではありません。
今は光様に仕えている自分たちも、何かをきっかけに同じ道を辿る可能性がありました。
沙良が堕ちて以降、光様は女性を眷属に迎えなくなったと聞いています。
恐らく、その辺りが関係しているのでしょう。
蒼月は六人の眷属を見渡しました。
「作戦を伝える」
眷属たちの視線が、蒼月へ集まりました。
「私は、沙良の瘴気と魔力が外へ漏れないように結界を張る。沙良は、お前たち六人とソフィアの写しで倒してくれ」
空の女神が、驚いたように蒼月を見ました。
「ソフィア様の写しですか?」
「ああ、これだ」
蒼月が胸元から人形を取り出すと、淡い光がその表面を包み、ソフィアの姿を形作りました。
「ソフィアといっても、実際のソフィアの八割程度の力らしい。そして、どれほど強力といっても所詮は人だ。封印ならまだしも、戦闘となれば微々たるものかもしれん」
空の眷属の女神が、ソフィアの写しを見つめました。
「まあ、お姿はそっくりですね」
光輝も、その姿を見ながら口を開きました。
「眷属となっていれば、さぞ強かったでしょうね」
蒼月は、すぐには答えませんでした。
「沙良を封印し、ソフィアが人としての生涯を全うした時、私はソフィアを眷属として迎えるつもりだった。ただそれは、私が呪われたことで叶わなかった」
空の眷属も光の眷属も、それぞれの宮で見ていた光景を思い出していました。
その後、柱様たちは大地様たちを見ることをやめたため、以降に何があったのかは分かりませんでした。
光輝が、ソフィアの写しへ目を向けました。
かつて同じ光様の眷属だった沙良を討つことに、ためらいがありました。
「この写しで、再び封印することはできないのでしょうか」
蒼月は首を横に振りました。
「所詮はソフィアを模した写しだ。本物のソフィアほどの封印は施せまい」
蒼月は、結界の中にいる沙良を見ました。
「封印するにも、沙良の力を弱らせなければならない。それに、先ほども言ったが、もう一度封印するのではなく、沙良を楽にしてやりたい」
重い沈黙が、その場を包みました。
憎しみに囚われ続けてきた沙良を救うには、もうこの方法しかないのだと、全員が理解していました。
蒼月たちは、結界に包まれた沙良の目の前まで進んだ。
沙良はこちらに気づくと、獣のように吠え、黒く濁った魔力の塊を何度も結界へ投げつける。
そのたびに、結界の表面へ稲妻のような光が走った。
蒼月が外側から重ねた結界は、沙良の力を受け止めながら、強く張り詰めていた。
蒼月は六人の眷属へ告げた。
「私が、今あるものよりも大きく強力な結界を張る。お前たちは中に入り、あれを抑えてくれ」
空の女神が深く頭を下げる。
「では、まず五星の縛りで動きを封じます。その後は、お願いいたします」
蒼月は頷いた。
六人の眷属は結界の内側へ入った。
蒼月はソフィアの写しへ視線を向ける。
「お前も入って、加勢しろ」
「承知」
ソフィアの写しも、六人のあとを追って結界の中へ入っていった。
次の瞬間、五つの光が走った。
五つの星を描くように、眷属たちの力が沙良を囲む。
白い鎖のような術式が沙良の四肢と喉元を縛り、黒い魔力を押さえ込んだ。
けれど、それは一瞬のことだった。
沙良が低く笑う。
その身から噴き上がった黒い気が、五星の縛りを内側から食い破った。
六人の眷属が息を呑み、すぐに一斉に動く。
槍が突き出され、剣が振るわれ、光の魔法が降り注いだ。
それでも、沙良には届かない。
刃は黒い気に弾かれ、魔法は飲み込まれた。
傷を負わせても、次の瞬間には傷口の肉が盛り上がるように塞がっていく。
六人の眷属とソフィアの写しを合わせた七人がかりでも、まるで通用していない。
前衛で戦っていた武神が膝をついた。
肩口から血を流しながら、蒼月を振り返る。
「大地様、申し訳ありません。傷を負わせても、即座に回復してしまいます」
光輝が、沙良の全身を覆う瘴気へ目を向けた。
「傷を治しているのは、あの瘴気です。先にあれをどうにかしなければ、倒すことはできません」
六人の眷属にソフィアの写しを加えても敵わないとは、沙良はどれほどの憎しみに囚われているのだ。
これほどの力を、千年前は封印という形でしか抑えられなかった。
この瘴気の中で封印の術を唱えられるのは、ソフィアただ一人。
結界で封じても、いずれは破られ、この地は瘴気の渦に呑まれてしまう。
その時、沙良の背後で黒い気が揺れ、濃い闇の中から、黒髪の男が姿を現す。
その顔を見た瞬間、蒼月の表情が変わっていきました。




