↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀狼物語 ~森で出会った銀狼と紡ぐ運命の物語~  作者: ななお
第二部 第一章 柱

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/223

第六話 封印の地

挿絵(By みてみん)


リリアの回復が、目に見えて進み始めた頃。


蒼月、ラシード、アステル、数名の星術師、そしてエレナを含む三十人ほどの騎士が、王都を発つことになりました。

目的は、かつて黒い力が封じられた地――ソフィアとアルヴァンが、あの戦いの果てに封印を成した場所へ向かい、再び封印を施すことでした。


黒い結晶によって、封じられていたものが力を取り戻しつつあるのなら、完全に復活する前に、もう一度封じなければなりません。


会議室で、蒼月は告げました。


「封印の地へ向かう。ラシードの術で、もう一度封じる」


アレクシス王は、深く頷きました。


「そうだな」


出立の朝、王宮の前庭には、重い空気が満ちていました。

三十人ほどの騎士団が、隊列を組んでいます。

蒼月たちも、すでに出立の支度を終えていました。


その様子を、リリアは離宮の窓から見つめていました。

体はまだ本調子には遠いものの、椅子に座って外を見られるくらいには回復していました。


騎士団が出立の準備を進める中、ラシードと蒼月は、リリアの部屋へ最後の挨拶に訪れました。


「無理はしないでくださいね」


ラシードはリリアの前に膝をつき、その手を取りました。


「すぐ戻る」


「はい。待っています」


リリアは、握られた手を握り返しました。


ラシードが立ち上がると、蒼月がリリアの前へ進みました。


「リリア、行ってくる」


「行ってらっしゃい、蒼月」


その言葉に、蒼月の表情が緩みました。


失われたと思っていたリリアの声が、今はこうして自分を送り出している。

そのことを胸に刻み、蒼月はリリアを見つめました。


蒼月の案内で転送機を使い、封印の地に最も近い祠へ順次移動しました。

そこから先は、徒歩で進むことになります。

荒野を進むにつれ、空気が変わっていくのが分かりました。

乾いた風の中に、かすかな瘴気の匂いが混じり始めます。


「近いな」


蒼月が、低く呟きました。


やがて、荒野の向こうに、朽ちかけた城の輪郭が見えてきました。

千年の時を経て、なお崩れきらずに立ち続けるその城は、かつてソフィアが結界で覆った場所でした。


「あれが……」


ラシードが、思わず呟きました。

蒼月は、その城を見据えたまま、足を止めました。


「気をつけろ」


その声には、これまでにない硬さがありました。


「何かが、おかしい」


城の中心へたどり着いた一行は、息を呑んで動きを止めた。


封印の陣の中心には、繭のような黒い塊があり、その前に二人の男が立っている。

周囲を巡る陣の光が、いくつも消えかかっていた。


「ヴァイド……?」


蒼月が、掠れた声で呼びかけた。


「ふっ」


ディグラードが、低く笑った。


「その名は、捨てた」


蒼月が、叫んだ。


「封印が、解かれるぞ!」


その言葉が終わるより早く、魔法陣の最後の円が、音もなく消えた。


次の瞬間、凄まじい風が巻き起こる。

雷鳴が轟き、厚い雲が空を覆い、あたりは昼だというのに、夜のように暗くなっていく。


繭が、黒い炎のように揺らめき始めた。

燃え上がるようなその輪郭の中から、やがて人の姿が現れる。


漆黒の髪。

赤い瞳。

その女の周りには、絶えず瘴気が舞い、黒いオーラが揺らめいていた。


「ここにいると、巻き込まれるな」


ディグラードが、シェザールへ短く言った。


「行くぞ」


二人の姿は、そのまま闇の中へ溶けるように消えていった。


残された女は、ゆらりと体を揺らし、あたりかまわず瘴気を放ち始めた。


「蒼月、どうするんだよ!」


ラシードの声が、緊迫した空気を裂いた。


かつて白かったヴァイドが真っ黒な姿へ変わり果てた光景は、蒼月の胸に重い衝撃を残していました。


けれど、立ち尽くしている時間はありません。

蒼月は、黒い女を見据えたまま、低く告げた。


「私とあれがぶつかれば、衝撃で周辺のすべてが消え去る。瘴気が濃くなれば、この場にいる人間たちも、無事では済まない」


蒼月は、眉を寄せた。


「いったん、下がれ」


低く、鋭い声だった。


「このままでは、駄目だ。ひとまず、結界に閉じ込める」


ラシードが頷いた。


「分かった。その間に皆を撤退させる」


ラシードは後方へ振り返り、鋭く声を張った。


「騎士団、星術師を先に下げろ! 撤退だ!」


騎士たちが隊列を組み直し、後方へ下がり始める。


蒼月が、両腕を大きく広げた。


淡い光が、蒼月を中心に、大きく円を描いて広がっていく。

その光は、朽ちた城とその周辺一帯を、まるごと包み込むように、大きな結界を張り巡らせた。


女が投げつける魔力と瘴気が、次々と結界にぶつかる。


そのたびに、結界の表面が、稲妻のように激しく光った。


「持ちこたえている……」


アステルが、震える声で呟いた。


けれど、その安堵も、長くは続かなかった。


「蒼月様、結界に、亀裂が……!」


星術師の一人が、声を上げた。


結界の一部が、女の攻撃を受けるたびに、細かく軋み始めている。

蒼月の指先で、結界の光が震えた。


「結界の強度を上げる。早く下がれ」


蒼月は最初の結界を覆うように、もう一重の結界を張りなおした。

やがて、騎士団と星術師たちの撤退が完了する。


「蒼月様、皆、下がりました!」


エレナの声が、遠くから届いた。


その声を聞いた蒼月は、二重の結界へさらに力を注いだ。


「よし……私たちも、退くぞ」


蒼月は、女の姿を、もう一度だけ見つめた。

赤い瞳が、こちらを見返していた。


蒼月とラシードは、荒野を戻り始めました。


一行が、転送機がある祠へ辿り着いたのは、日が完全に沈んだ後のことでした。

すぐさま転送機が起動され、順次王都へと帰還しました。


「……全員、無事か」


蒼月が、低く尋ねました。


エレナが、頷きます。


「はい。負傷者もいません」


その言葉に、蒼月は、小さく息を吐きました。


「そうか」


けれど、その表情には、安堵よりも、深い疲労と、まだ晴れない緊張が残っていました。


封じられていた女は、すでに解き放たれていました。

今はただ、蒼月の結界によって、あの地に留められているだけでした。


そして、ヴァイドだったあの男も、今もどこかで動いていました。


あの男が、今、何と名乗っているのかは、蒼月には知る由もありませんでした。


蒼月は、夜の空を見上げました。


千年前と、同じ夜だった。


そう思わずにはいられませんでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。