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銀狼物語 ~森で出会った銀狼と紡ぐ運命の物語~  作者: ななお
第二部 第一章 柱

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第二部 プロローグ

挿絵(By みてみん)

私は、光様に命じられ、邪神を崇める人々に改宗を促すため、眷属となってから初めて地上へ降りていました。


人の悪しき心は、大きくなれば世界の理にまで影響を与えてしまう。

光の宮では、そのように聞かされていました。


難しいことは、当時の私にはよく分かりませんでした。

私は、ある街にそびえ立つ、邪神を崇める宗教の正殿へと実直に向かっていました。


人の世界で暮らすには、名がないと不便なものです。

だから私は、慈悲深い光様から「沙良」という、大切な名をいただいていました。


光り輝く、薄緑の髪。

どこまでも澄んだ、サファイアブルーの瞳。


柱の眷属といっても、その力の強さは様々です。

私は、それほど強い方ではありませんでした。


それに、眷属は、世の中に大きな影響を与えない程度でしか使ってはならない。

人や動物に対して、直接その力を行使してはならない。

この世界には、そのような理がありました。


――正殿に着くと、一人の神官が、こちらへ歩み寄ってきました。


「あなたは、大変魔力が強いですね」


「何をしに、ここへ来られたのですか」


「私は、光様に命じられ、みなさんに改宗を勧めるために来ました」


男は、冷酷な笑みを浮かべました。


「私も、あなたと同じ気持ちです。奥に仲間が集まっています。どうか、私たちにお力添えを」


そうして案内された場所は、冷たい地下の神殿でした。

そこは、天にいる光の気配すら届かないよう、古い術式によって完全に閉ざされた空間だったのです。


沙良は、ある部屋の入口から、容赦なく中へと突き飛ばされました。

床に転がり込んだ瞬間、足元に刻まれていた古い魔法陣が、不気味に赤く光を放ちます。

沙良が持っていた、眷属としての清らかな力は、その場ですべて封印されてしまいました。


それからの長い日々、沙良は、人としても、眷属としても、その尊厳を無残に踏みにじられ続けました。


それでも、沙良は信じていました。

いつか、きっと、この人たちも自分の犯した過ちに気づき、改心してくれるはずだと。


人間の時間で、百年ほどが過ぎた頃。


一人の物静かな少年が、沙良の身の回りの世話をよくしてくれるようになりました。

少年が運んでくる食事はいつも温かく、水はどこまでも清く、時折添えられた柔らかな布が、沙良の傷ついた体を少しずつ綺麗に拭ってくれました。


そんな日々が、五年ほど続いた頃でした。


少年は、囚われの沙良に親切にしているところを他の信徒に見咎められ、沙良の目の前で容赦なく命を奪われました。

少年が命を懸けて運んできた水が、石の床に、こぼれていきました。


その水面に映った自分の姿を見た瞬間、沙良は愕然としました。

かつて神々しかった光は完全に消え去り、目は落ちくぼみ、澄んでいたはずのサファイアブルーの瞳は濁り、美しい髪は抜け落ちていました。

そこに、かつてあれほど美しかった光の眷属の姿は、どこにも残っていませんでした。


沙良の魂は、深い闇へと堕ちました。


人間め。


人間め。


絶対に、許さない。


その強い呪詛が響いた瞬間、邪神の神殿と、その周囲に広がっていた街ひとつが、跡形もなく消え去りました。

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