壊したい衝動
「ゴホッゴホッ・・・」
「大丈夫かい?最近咳き込む事が多いね・・・。」
「最近むせる事が多くてね。大丈夫!」
レナとラピは山道を登っていた。特に行き先は決めていない。
「また木ばかりね。せめて開けた場所に出たいな。」
「レナ、あれ村じゃない?」
木々の間から家らしい建物が見えた。山道を登りきると、草原が広がり煙突付きのかわいらしい家が点々と建っていた。大きな崖の上にある小さな村だが、絶景で日当たりがとても良い場所だった。
「大変だ!!サリエさんが魔物に襲われて怪我した。」
「なんだと!あそこに魔物が出現した事なんてないじゃないか!」
「急いで治療しないと・・・。薬草持ってこい!」
村人達が慌てた様子で行ったり来たりしている。
「あの・・・私達冒険者なのですが、怪我治せますよ・・・。」
「え!!!!!本当かい?」
「どこに行けば怪我の方いらっしゃいますか?」
「おっ、おおお・・・、あそこの赤い屋根の家だよ。案内するよ。」
レナ達は村人と赤い屋根の家に向かった。家の中には村人達が心配そうに集まっていた。
「おい、怪我を治せるっていう冒険者の方連れてきたぞ。」
「本当か!?」
レナは怪我をしている女性の側にいき、魔法で怪我を治した。
「おぉ!サリエさんの顔が穏やかになったぞ!!」
「ありがとう!!お姉さん。」
「こいつはサリエさんの息子のロリンだ。」
「どういたしまして。」
あれ?この子どっかで見たことあるような・・・・。
しばらくするとサリエは目を覚ました。レナはサリエの顔を改めてちゃんと見た。その瞬間頭の中が真っ白になった。
えっ・・・。どうしてこの女がこっちの世界にいるの・・・。
「母さん、あのお姉さんが治してくれたんだよ。」
「どうもありがとうございます。この御恩は一生忘れません。」
「・・・・。」
「レナ?どうかしたのかい?」
レナは返す言葉が何一つ浮かんでこなかった。顔は強張り無言のままだ。
「こちらはレナ。俺はラピです。魔物に何処で襲われたのですか?討伐に行ってくるので詳しく教えて下さい。」
レナ達は魔物が出た場所を教えてもらいその場所に向かった。この村程の大きさではないが、崖の下に更に崖があり、そこの草原に出たようだった。崖には原子的なエレベーターのようなものが作られており、それで下降した。
「レナ大丈夫かい?様子がおかしかったから、早くあの場から離れた方がいいような気がして勝手に討伐を受けてしまったが・・・。」
「うん・・・・。困っているなら助けたいし大丈夫だよ。」
レナは目を閉じ周りの様子を窺った。
「あそこら辺から嫌な感じがするわ。」
二人は気配がする方角へ向かった。
「レナ危ない!!」
レナの前方から巨大な鳥の魔物が現れた。頭が二つあるダチョウを大きくしたような魔物だった。
やはりレナの様子がおかしい。前から襲ってきた敵にも気付かないないなんてありえない。
「レナ後ろに。」
ラピは剣を振るってあっという間に討伐した。
「これで大丈夫だろう。」
レナは上の空のままだった。
「村に戻ろうか。」
「うん。ごめんね。」
村に戻ると広場が賑わっていた。二人に感謝の気持ちを込めてたくさんの食事を用意してくれていたのだ。
「レナさんラピさん。本当に助かりました。何もない村ですがせめて食事だけでも召し上がって下さい。」
「ありがとうございます。元凶になっていた魔物は退治したので、もう大丈夫だと思いますよ。」
「何から何まで本当にありがとうございました。どうぞたくさん召し上がって下さい。」
二人がテーブルに着くと、村人達がお礼を伝えに二人の席に足を運び始めた。レナは村人達の顔を順々に目にする度に、更に青ざめていった。
えっ・・・・。あの女だけじゃない。この村の人ほとんどが私の知っている顔じゃない。あぁ・・・。息ができない。鼓動が速い。もう耐えられない・・・・。
「ラピ・・・、ちょっと一人になりたい。ごめんね。」
レナは立ち上がると人気がない家の裏の方へ歩いて行った。ラピは急いで追いかけた。
「レナ?」
レナはそのままスッと消えた。
◇◇◇◇◇
レナはこの世界に来て初めて降り立った場所に戻った。
あぁ・・・・、なんてことだ・・・。
レナはその場に倒れ込んだ。
あの人達はおそらく中身は違う人間。顔がそっくりなだけだろう。だけど私の古傷が疼く。痛くて痛くてたまらない。息ができない。前世の記憶が一気に自分の中に溢れ出た。あらゆる感情が暴れ回る。抑え込めない。
私が十代の頃、懸命につくった私の居場所をじわじわと奪っていったあの女。その時私は初めて女の嫉妬の怖さを知った。人間の汚さを知った。それがきっかけで人を信じる事が出来なくなっていった。自分の殻に籠るようになっていった。そんな人間ばかりの村。耐えられない・・・。私にどうしろというのだろう。
わかっている。自分が弱かったのだろう。心の傷をほったらかしにし目をそらし続けた結果だろう。人は嫌いだ。だから孤独を選んだ。繋がる事を避け続けてきた。人は怖い。化け物だ。自分も化け物だ。
父様残酷です・・・・。
レナは震えながらたくさんの涙を流した。レナは二日間ただ空を見つめ続けた。
◇◇◇◇◇
ラピはレナのことが心配で心配でたまらなかった。レナが魔法で移動してしまったら為す術がない。ここで待つ事
しかできない自分に憤りを覚えていた。そんな姿を心配したサリエはラピを散歩に誘った。
「元気がないですが大丈夫ですか?」
「・・・。」
「話したくなければ何も話さなくていいのです。」
「・・・俺はレナの力になれていない。」
「レナさんに何があったのかわかりませんが、魔法の言葉を教えてあげます。」
「魔法?」
「はい!心がすっと軽くなる魔法の言葉です。」
「・・・。」
サリエはにこっと微笑んで、
「大丈夫!!大丈夫!!」
「大丈夫・・・。」
「そう、大丈夫!!」
サリエはラピの顔を覗き込んだ瞬間つまずいて転びそうになった。ラピはそれを抱きしめるような形で支えた。村を出る為にラピを迎えにきたレナは、その光景を目の当たりにしてしまった。
あぁ・・・、あの女はまた私の居場所を奪おうとするのか・・・。
レナの心の中で何かが「プチッ」っと音をたてて切れた。レナの目から涙が溢れ出た。そして感情のない顔になり、少しづつ赤く光だした。
あぁ、もういらない。何もいらない。こんな村滅んでしまえばいい。ラピもいらない。何も、何もいらない・・・。
ラピは殺気を感じ取り振り返ると、赤く光ったレナが屋根の上に立っていた。
「レナ!!」
ラピは急いでレナのもとへ向かった。
「レナ!レナ!」
レナの赤い光はおさまらない。ラピはレナを抱きしめた。
「他の女に触れた手でさわるな!!汚い!!」
レナはラピを魔法で吹き飛ばした。ラピはたくさん切り傷をおい、身体中から血が滲み出た。それでもラピはレナのもとへ這って行った。
「レナ!レナ!大丈夫。大丈夫。俺はここにいる。」
レナにはラピの声が届かなくなっていた。
このままではいけない。レナが罪のない人を殺めるなんてあってはならない。どうしたら・・・。
ラピはレナの顔を自分の顔の方へ向けた。
「レナ!どんなレナだって大好きだよ。絶対に離れたりしない。一人にしないよ。レナ、証が欲しいならレナの大好きなこの瞳をあげるから。だからもとのレナに戻って・・・。」
ラピは自分の目に指を突っ込んだ。大量の赤い血がレナの顔に飛び散った。
「レナ大好きだよ。大丈夫。大丈夫。」
レナは顔に生暖かい何かを感じ、ハッと我に返った。目に入ってきたのは血だらけのラピの姿。
「イヤー!!」
レナはラピを力いっぱい止めた。
「やめて!やめてラピ!ごめんなさい。ごめんなさい。」
ラピはレナを優しく抱きしめた。
「い、いま治すから・・・、治すから・・・・。」
「レナ、何があったんだい?」
「この村の人達、私の、私の心をえぐる原因の人達と全く同じ顔しているの。鼓動が速くなって、息ができなくなって、だから、だから逃げたわ。村を離れたくてラピを迎えに来たら、あの女がまた私の居場所を奪おうとしていた。ラピまでとられたら私・・・、私・・・。」
「レナ、よく見てごらん。この村には老人しかいないよ。サリエさんはおばあさんだよ。倒れそうになったから支えただけだよ。」
「えっ・・・・・」
レナは村を見渡した。すると村にはほとんど老人しかいなかった。知っている顔も一つもない。全く違う顔だった。
「どういうこと・・・・。」
「きっと何かにとりつかれていたんだ、僕の時みたいにね。きっと心の病さ。」
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
「いいんだよ。大丈夫さ!みんなに挨拶して村を出よう。ねっ!」
レナとラピは、村人全員に謝罪と感謝を伝え村を後にした。
「村の人達に迷惑かけたのに、みんな許してくれたわ。私、殺そうとしたのに・・・。」
「レナの気持ちは伝わっているさ。大丈夫だよ。」
「それに私、ラピも殺そうとしたのよ・・・。」
「レナになら殺されても構わないさ。それもレナと出逢えた証になるから。」
「何を言っているの・・・・。」
「さぁ、もう気にしないで、ねっ!どこへ行こうか?」
「しばらくの間、私が初めてこの世界に降り立った場所にいたい。」
「うん。」
レナはラピの手を取り魔法で移動した。
「二日間ここにいたのかい?」
「うん・・・。」
「あっ、スモーキー・・・。」
「大丈夫。スモーキーなら真上を飛んでるわ。」
ラピはスモーキーを見つめた。
レナに幻覚を見せたのは父上なのでしょう?何の為に追い詰める。何の為に苦しめる。レナの心は守り抜きますよ。絶対に・・・。絶対に・・・。




