嫉妬と独占欲と劣等感(後編)
ラピもまた混乱していた。この三日間レナの顔を見ていないのだ。
レナは部屋に帰って来てない。あの日からレナの様子がおかしい。レナは俺と目を合わせようとしなかった。避けられてる。現在までこんな事は一度もなかった。俺は何かしたのか?それとも記憶がある事を知ったのか?まさか父上が・・・。
スモーキーがじっとラピを見つめていた。ラピもじっとスモーキーを見つめた。
いや、それはない。じゃあ何故?蟲の神だと知ったのか?いや、それもありえない。じゃあ何故・・・。
ラピはおかしくなりそうだった。初めての感情ばかりでわからないのだ。そもそも神と人間の心の在り方が根本的に違うのだ。ラピはこの世界に降り立った瞬間、人間になったが、心は人間として育っていなかった。レナを見つけてから、ラピの心の中には感じた事のない感情ばかり芽生え始めていた。
レナはどこにいるんだ?部屋に荷物が置いたあったから消えた訳じゃない。なら何処へ?
ラピは街の端から端まで探し続けた。睡眠もとらず混乱したまま、三日間も探し続けていたのだ。
◇◇◇◇◇
レナはどうしても勇気が湧かず、白い砂浜近くの森の中でテントを張って過ごしていた。
「ラピ心配してるかな・・・。それとも・・・。」
私には覚悟というものがない。覚悟できない。あぁ、情けない・・・。この気持ちを、どうかどうかなくして欲しい。
「そうよ、別れが早くなっただけ。私は死ぬのよ。ラピが幸せになるのなら、私の気持ちなんてどうでもいいじゃない!覚悟しなさい!」
レナは自分の顔を、パンパンと思い切り叩いた。
「私の心は無。私の心は無。私の心は無・・・・。」呪いの様に何度も唱え続けた。
レナの頬は真っ赤になっていた。
「よし!いつまでも逃げていられないわ。今夜帰りましょう。」
◇◇◇◇◇
「ザンクー!」
レナは手を振りながらザンクのもとまで走ってた。
「なんか吹っ切れた顔してるね。」
「うん。今夜は宿に帰るわ。いつまでも逃げていられないしね。どうにもならないから無になるの。」
「なんだそれ・・・。でもレナなら大丈夫さ。」
「ザンクとの何気ない時間は、とても心が楽になったわ。」
「俺も妹の病気の事ばかり考えていたから、凄く心が楽になったよ。」
二人は砂浜に並んで座り、いつも通り他愛のない話を始めた。
◇◇◇◇◇
「やっと見つけた・・・。」
ラピはしばらくの間、離れた場所から二人の様子を窺っていた。
「誰だあいつは・・・。レナがあいつと笑っている・・・。俺じゃダメなのか・・・。
いいや、隣に居ていいのは俺だけだ・・・。許せない・・・。許せない・・・。レナは渡さない。渡さない・・・。絶対に渡さない!!!。」
ラピの瞳が不気味に光った。ラピは人間の心の闇に一気に飲み込まれたのだ。ラピは2人に向かってゆっくりと歩き出した。
ザンクがレナの頭を撫でようと手を伸ばした瞬間、レナは殺気を感じ急いでにバリアを張った。
「レナに触れるな!!!!」
ラピは剣を抜きザンクに向けて振り下ろしたが、レナのバリアによって弾き返された。
「ラピ!?何しているの!!」
レナはザンクを守るようにラピの前に立った。
「レナは渡さない・・・・。レナは渡さない・・・・。」
ラピはずっと呟いていた。その異常な姿を目の当たりにしたレナは、
「ザンク迷惑かけてごめんなさい。」
そう言い残すと、瞬間移動の魔法を発動させ、ラピと共にザンクの前から姿を消した。
「・・・・レナ?」
◇◇◇◇◇
レナはラピと共に部屋に戻った。
「ラピ!いったいどうしたの?」
「あの男は誰だ!!どうして俺を避ける・・・。」
「えっ・・・。」
ラピは急に倒れ込んだ。なんて酷い顔色かしら・・・。とりあえず寝かせなくては・・・。
レナはラピを自分のベットに寝かせ回復魔法をかけた。
「レナ・・・。レナ・・・・。どこにも行かないで・・・・。」
ラピは何度も呟いていた。
こんなラピ初めて見た・・・。本当にあれがラピなの?あんなに綺麗な瞳なのに不気味な光を発していた。いったい何があったの・・・。
ラピは二日間眠ったままだった。レナは片時も離れずラピの側にいた。
「ラピ、大好きよ。」
レナはラピの唇にそっと口付けた。
「これは私だけの秘密よ。」
レナも疲れが溜まっていたのか、ラピと一緒に眠ってしまった。
◇◇◇◇◇
翌朝目が覚めると、レナの目の前に綺麗な瞳の綺麗な顔が微笑んでいた。
「ぎゃーーーーー!!!!」
レナはびっくりしてベットから飛び出した。
「おはようレナ。」
「お、おはよう・・・・」
レナは恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
「もう大丈夫?三日間も眠ったままだったのよ。」
「ずっと側に居てくれたのかい?」
「だって・・・、心配だもの。それに・・・、ラピのようすがおかしかったから不安で・・・。」
「ごめんね。どうかしてたみたいだ。でもね、夢の中で何かあたたかいものが唇に触れたんだ。そうしたら淀んだ景色が一気に美しい景色に変った。心がっパーっと晴れたみたいだ。」
「そう。よかったー!!いつものラピね!」
「うん。」
ラピは知っていた。レナが自分の唇に口付けてくれたこと。自分を大好きだと言ってくれたこと。レナがそれを秘密にすることを・・・。それでもラピは満たされた。この数日で空っぽになった心が満たされたのだ。
レナは窓を開け、
「今日もいい天気だな~!」
「ねぇレナ、どうして俺を避けていたんだい?」
「あぁ・・・、恥ずかしいけど話さないとね・・・。ラピが綺麗な黒髪の女の人と楽しそうに話しているのを見かけたの。ラピは楽しそうに笑って話しているし、たくさん触れられていて何だかショックだった。そうしたら頭の中真っ白になっちゃって・・・。ラピはああいう女の人が好きなのかなって思ったら、ラピを取られるかもしれないって不安になってね。ほら、ずっと一緒に旅していたから今更独りになるのが怖かったのかなぁ・・・。あはは・・・。ごめんね。別行動って言ったのは自分なのに、こうなったら怖気づくなんて・・・。だからラピの顔も見ることができなくなっちゃってね・・・。本当にごめんなさい。」
「レナ・・・・。エルメアは男だよ。」
「・・・えええええ!!!!!!」
「街をぶらついてたら声をかけられたんだ。レナと俺の顔を気に入ったみたいでね。絵のモデルになってくれないかと頼まれていたのさ。綺麗なものにしか興味がないみたいで、特にレナの顔が気に入ったと言っていた。「凄く好み!」とか言ってさ、目をキラキラさせながら熱く語るもんだから、なんだかおかしさと、レナへの評価が嬉しくてね、自然に笑顔になっていたのさ。勿論モデルの件は断ったけどね。あんな身なりだから女性と間違えても仕方ないよ。とにかく美しいものに執着してる男だよ。
「・・・・。」
レナの顔は恥ずかしさのあまり赤くなった。
え!私の勘違いだったの?じゃあ、あの時間はなんだったの?私は無駄にラピを傷つけたの?
「レナ、それと・・・、あの男は誰だい?」
「あの人は冒険者のザンク。妹が病気で薬を買うために出稼ぎにきているんだって。私が砂浜に一人で座っていたら、淋しそうに見えたからって声をかけてくれたの。後ろ姿が妹に似ていたからほっとけなかったんだって。ただ他愛のない話をしていただけだよ。」
「そっか・・・。」
「ごめんね、レナ・・・。ずっと一緒にいていいよね?」
「もちろん!ずっと一緒に旅したいもの。」
「お互い同じような事を感じていたんだね。」
「うん・・・。本当にごめんなさい。」
ラピはベットから立ち上がり両手を広げた。
「ん?」
「これで仲直り。喧嘩はしてないけどね・・。」
レナは思いっきりラピに抱きついた。
「ラピの匂いがする。安心する。いい匂い。」
ラピはレナをぎゅっと抱きしめた。
◇◇◇◇◇
「ザンクー!」
レナは手を振りながらザンクのもとへ走って行った。ラピはザンクに深く頭を下げてからゆっくり歩き始めた。
「この前はごめんなさい。心配かけたよね・・・。」
「いいさ。でも気になって、毎日ここで待ってた。」
「うん・・・。どうもありがとう!」
レナは深く頭を下げた。そこにラピがやってきた。
「こちらラピよ。」
「ザンク、この前は本当に申し訳ない事をした。どうか許して欲しい。」
ラピは深々と頭を下げた。
「いいよいいよ。レナに助けてもらっちゃたし、大丈夫だよ。」
「感謝する。ありがとう。」
「ザンク私達街を出発することにしたの。」
「・・・・そっか。淋しくなるなぁ。」
「それでね、これ・・・、妹さんになんだけど・・・。」
レナはポシェットから貝殻の首飾りを出した。
「これで病気が日に日に良くなっていくと思うの。ほとんど寝たきりと言っていたから、急に治すのは身体に余計な負担がかかるかもしれないと思ってね、毎日少しづつ確実に治るように魔法をかけておいたわ。だからこれからは、薬代の事は気にしないで好きな事して欲しい。」
「え!レナはいったい・・・・。」
「それと、これはあなたになんだけど、えっと・・・、単純な願いだけど、幸せになれるように魔法をかけておいたわ。何の魔法かは秘密ね!」
それは、ザンクの瞳の色と同じ貝殻で作られたキーホルダーだった。
「ベルトに付けてくれたら嬉しいな。きっと悪いモノから守ってくれるわ。」
「うん、ありがとう!一生大切にする。」
「一生なんて大袈裟ね。」
レナは嬉しそうに微笑んだ。
「私達そろそろ行かなきゃ。」
「レナ、君はいったい・・・・・、いや、淋しくなるよ。またいつか会えたらいいな。」
「うん!その時は、私と後ろ姿が似ている妹さんも一緒にね!」
「あぁ!元気でな!」
「うん!元気で!」
ザンクは2人が見えなくなるまで手を振り続けた。
「なんだ・・・、本当にいい男じゃないか。レナもあいつも本当に想い合っているのがよくわかる。なんて優しい目でレナを見守っているんだ。あれじゃ、誰も勝てないさ・・・。せめて、レナの頭を撫でたかったな・・・。」
ザンクは腰のベルトにキーホルダーを付けた。
「レナ本当にありがとう。さようなら。」




