嫉妬と独占欲と劣等感(前編)
二人は予定通り海に出た。そこには白い砂浜と青い海、雲一つない青空が広がっていた。
「ねぇ海!綺麗だよー。ずっと森と岩だったから、少し窮屈に感じてたんだよねー。やっぱり海はいいなー!でっかいなぁ。そして叫びたくなるよね!」
「あはは、叫んでいいよ。」
「ラピも一緒に叫んでくれるなら・・・。」
二人は顔を見合わせ笑った。
「ねぇ、海の水とても綺麗ね。透き通ってるよ。可愛い貝殻がたくさん落ちてる。おぉ、サンゴも流れついてるよ。」
レナはゆっくり歩きながら、たくさんの貝殻やサンゴを拾い集めた。
「レナ、あそこ街みたいだよ。」
ラピが指差す方角へ目を向けると、少し高台になっている場所に街が見えた。
「うわぁ、海鮮料理たくさんあるかなぁ?どこから入るんだろう?」
街に向かって砂浜を歩いて行くと、砂浜から高台へ上がって行く階段を見つけた。
「えぇ・・・、ここ上がってくの?」
「海鮮料理、海鮮料理。ほら、頑張ろう!」
「そうね、頑張る!」
長い階段を上ると街の入口に着いた。
「大した事なかったわ、あはは・・・・。」
「よく頑張ったね、ははは。」
二人は身分証を見せ街に入った。
「あっ!猫耳?犬耳?の人間が結構いる。初めて見た。」
レナはニコニコ顔で街を見渡した。とても活気のある街で、海鮮のスープや串焼きの露店がたくさんあった。
「満足そうだね!」
「うふふ、早く色々と食べたい!その前に宿探さないとね!海が見える宿がいいわ。もしかしたら人気があって部屋空いてないかしら・・・。」
「海が見える部屋ならこの道沿いにあるんじゃないかい?」
二人は海がよく見えそうな宿を探しそこに入っていった。運良く海が見える部屋が二部屋空いていたので、そこに即決した。レナは荷物を置き、窓を開けて海風を感じ海を眺めていると、ラピが部屋にやってきた。
「これからどうする予定だい?」
「ここに泊まっている間は別行動にしてみましょう。人間一人になる時間も大切よ!旅を始めてからずっと一緒だったでしょ?離れてみるのも大事かもよ。」
「えっ・・・。」
「大丈夫よ、部屋は隣なんだしね。一人で行動してみたら、ラピの記憶にいい刺激になるかもしれないし?」
「・・・うん。・・・わかったよ。」
淋しそうに部屋を後にしたラピを見て、レナは鳥笛を吹いた。するとスモーキーがレナの部屋の窓に飛んできた。
「スモーキー、私とラピね、この街にいる間は別行動にしたの。ラピを見守っててくれるかしら?お願いできる?」
するとスモーキーは「ピーヒヨロロロ・・・」と鳴きながら飛んで行った。
◇◇◇◇◇
レナは色々な露店をはしごしていた。
「もうお腹いっぱい。この街は素敵ね!海の物をモーチーフにした雑貨屋さんや洋服屋さん、色々あって楽しいわ。」
レナは何の店なのか一軒一軒確認しながら歩いていた。
「えっ・・・・・・・・。」
食堂の窓際の席に、ラピと綺麗な女性が一緒に座って、楽しそうに話込んでいる光景が突然目に入り込んできた。レナは頭の中が真っ白になった。持ってた貝の串焼きをその場に落とし、そのまま走って宿に戻った。レナはベットに横になったり窓から海を眺めたり落ち着かない様子で気持ちの整理を試みた。
えっ、何?どういう事?とても美しい女性だった。長い黒髪で赤いルビーみたいな瞳。見た目だけでもとても魅力的な女性だった・・・。ラピにとてもお似合いで・・・。ラピはソフィーが触れた際、あんなに怒っていたのに、あの人には簡単に何度も触れさせていたわ・・・。
えっ・・・。ラピの恋人?想い人?
でも・・・。まさか記憶が戻ったとか?
どうしよう・・・。ラピがとられちゃうかもしれない・・・・。離れて行っちゃうかもしれない・・・・。
誰にも渡したくないし触られたくない!えっ、この感情は何?私ラピを男性として好きだったの?確かに好きだけど家族みたいなそういう・・・。
えっ・・・。
レナは混乱していた。気持ちを落ち着かせようとしたが、レナの性格上やはり無理な話だった。レナはとりあえずベットに潜った。そして眠るよう試みた。
◇◇◇◇◇
次の日の朝ラピが部屋を訪ねてきた。
「レナおはよう。昨夜も訪ねたけどもう眠っていたようだったから・・・。」
「あっ、うん。昨日は食べ過ぎちゃって・・・。」
レナはラピの顔が見れなくなっていた。
「レナ?具合良くないのかい?大丈夫?」
ラピがレナに触れようとした瞬間、レナは反射的に拒んだ。
「大丈夫だから気にしないで。私もう少し休みたいからごめんね。」
「うん・・・・。ゆっくり休んでね。」
ラピは部屋から出て行った。レナは最後までラピの顔を見る事ができなかった。それにレナは潔癖だ。異性に対しては特に潔癖だった。他の女性に何度も触れているところを目の当たりにした後っだったから、余計に拒絶反応が起こったのだろう。
あぁ、何とかしなくては・・・。レナは大きなため息をついた。
◇◇◇◇◇
レナは近くの海岸に座り、海をずっと眺めていた。
あぁ、どうしよう・・・。こっちの世界に来て、人を救う事が出来て、なんでも魔法が使えて・・・・。
この綺麗な顔も魔法も、皆父様がくれたもの。現在の私は本当の私じゃない。本当の私は無力で、こんなに綺麗な容姿をしていなくて、ただ息をしているだけの人間だった。特別な物を授かって、きっと自分は変われたのだと無意識に勘違いしていたんだわ。場所が変わっても、容姿が変わっても自分は自分。中身は一緒。他の誰にもなれないのにね・・・。愚かだな・・・・。
それに・・・・。ラピを恋愛感情として好きだったなんて笑えないわ・・・。私が一番コントロールできない感情じゃない。嫉妬も独占欲も人一倍強い。あぁ、どうしたらいいのだろう・・・。ラピと離れるべきなのか・・・・。
「あの・・・、どうかしましたか?具合でも悪いの?」
急に声をかけられレナはびっくりした。振り向くと、こげ茶の髪に水色の瞳、綺麗な顔立ちで優しそうな雰囲気の男性が立っていた。
「いいえ、ちょっと考え事していただけで・・・。」
「そうなんだ。後ろ姿が妹に似ていてさ、なんか妙に淋しそうに見えたから思わず声かけちゃったよ。俺の名前はザンクで冒険者。よろしく。」
「私の名前はレナ。同じ冒険者よ。よろしく。」
「この街に出稼ぎに来たんだ。妹が病気でその薬代の為にね。怪しいもんじゃないから安心してよ!って言われても信じられないか・・・。」
「あはは。信じるわ。」
「それで・・・、良かったら話してみなよ?なんかほっとけなくてさ、通りすがりの俺になら何も考えず話せるだろ?誰かに話しただけですっきりするかもよ?」
「うん・・・・。ありがとう。」
「うん。なんでも聞くよ。」
「えっと、ザンクには好きな人いる?私ね、ラピって男性と一緒に旅をしているの。ラピのことはすごく好きだわ。でもね、昨日綺麗な女性と楽しそうにしている姿を見ちゃってね、頭真っ白になっちゃって、ラピの事家族みたいで好きなんだなって思っていたんだけど、男性として好きなんだなって気付いたの。昨夜は色々考えちゃって一睡もできなかった。恋愛はしたくなかったの・・・。嫉妬したり欲張りになったり、自分の中が汚い感情でいっぱいになる。それがいつもうまくコントロールできなくって、態度に出過ぎちゃうし、矛盾だらけになるの。今朝もラピを拒絶してしまったわ。」
「嫉妬とか、こうしたいとか、そういうのって人を好きになったら当たり前じゃないのかな?俺も昔好きな女がいてさ、誰にもとられたくなかったし、自分だけのものにしたかったよ。嫉妬もすごくしたしね。結局叶わなかったけどね。兄貴の女だったから。」
「えっ・・・。」
「もう吹っ切れているから全然平気だよ。兄貴の嫁さんさ。」
「そうなの・・・・。」
「そういう汚い感情って誰でも持っているよ。百人中百人がそうじゃないかな?レナだけじゃないよ。まぁ、コントロール苦手なのは大変かもしれないけどね・・・。」
「うん・・・。それに私、人の目が凄く気になってね。全く自分に自信ないの、些細な事も他の女性と自分比べちゃて・・・。勝てるところなんて一つもないんだ。自分の劣ってる所しか目に入らない。実際劣ってるんだよね。それに心の何か欠落してるし・・・、あはは。」
「レナは綺麗でかわいいよ。振り向いた時びっくりしたもん。」
「お世辞でも嬉しいわ。ありがとう。」
「でもそいつ・・・ラピ?羨ましいよ。レナにそんなに思われてさ。」
「そうかな・・・。ラピも私を好いてくれている事はわかるの。でも多分・・・家族みたいな感じに思ってくれてるんだと思う。妹とか?妙に過保護だし。」
「伝えてみたら?」
「ううん。ラピは生活する上で支障はないのだけれど、過去の怪我のせいで記憶がないの。記憶を取り戻す為に一緒に旅を始めたの。だから余計な事は言えないよ。」
そうだそれに・・・、私は確実に死ぬ。その事を決して忘れてはいけない。だからなおさら言えないし言わない。決して言葉にしてはならない。残された言葉程重いものはない。私はそれを知っているのだから・・・。欲を持ってはいけない。そう、この感情は殺してしまおう。諦めるのは得意なはずだ。
「そうなんだ・・・。」
「なんだかごめんなさい。余計な事も話しちゃったかも・・・。でも、おかげで少しすっきりしたわ。」
「またここにおいでよ。色んな話をしよう。」
「うん!じゃ明日も来るわ。」
「あぁ。気を付けて帰りなよ。レナは人間が誰しも持っている感情に向き合ってる。他の人はそんな事にも気付かずに生きてるよ。誰にでもできる事じゃないと思う。君は真っ直ぐですごいと思うよ。」
「ありがとう。また明日ね!」
「また明日!」




