他種族の願い(後編)
翌朝、クーラが二人のテントにやってきた。
「レナ様ラピ様、昨日は助けて頂き本当にありがとうございました。」
「ゆっくり休めたかい?」
「はい・・。」
「それは良かったわ!」
「あの・・・、何かお返しをさせて下さい!」
「いいよいいよそんなの!」
「でも命を救って頂きました。だから何かお返しを・・・。」
クーラの体は綺麗に治っていたが、精神的にだいぶ参っている様に見えた。ちゃんと眠れていないのか、急にやつれたように見える。あんな恐怖を与えられたのだから当然の事だった。ラピは話を変えようとした。
「お返しなんて必要ないさ。ところでずっと気になっていたんだけど、君達のリュックの中には何が入っているんだい?」
「あっ!私も気になってたの。良かったら教えてくれる?」
「はい。このリュックの中には術を発動させる際に必要な粉が入っています。私達兎は術を発動させる際に、ニンジンの葉を乾燥させ粉末にした特別な粉が必要なのです。」
「なるほど!!だからみんなリュックを背負っているのね!」
「はい。」
「とってもかわいいわ!」
「・・・術に関しては決まりがあって何もお話できないのです。申し訳ないです。」
「うん、大丈夫よ。」
「ありがとうございます。」
「いいよいいよ。もう気にしないで!」
「そうだね。こんな素敵な広場を貸してくれたんだ。それだけで満足さ。」
クーラは何度も何度も頭を下げお礼を言った。
「・・・やはり何か、何かお役にたちたいのですが・・・。」
二人は顔を合わせ困った顔をした。
「うーん。じゃあさ、今夜テントで私と一緒に寝てくれる?そのふわふわの体気持ち良さそうだもの。」
レナはニヤッと笑った。ラピはその顔を見てクスクス笑った。
「は、はい。そんな事でよろしいのですか?」
クーラは恥ずかしそうに顔を赤くした。
「そのふわふわは、私の癒しになるわ!」
「は、はい。承知しました。」
昼から夜にかけて兎達が宴会を開いてくれた。たくさんのご馳走やデザートを用意してくれ、皆でダンスをしたり色々な話をして楽しんだ。レナとラピは、ハートの形をした黄色い果物がとても気に入った。甘いけど嫌な甘さではなく、後味がさっぱりしていて、水分たっぷり栄養たっぷりのとても美味しい果物だった。その様子に気付いた兎達は、自分達にとってもとても貴重な果物だったが、少しでも恩を返したい一心から、出し惜しみなく採ってきてくれた。それは数年に一度しか採れない貴重な果物だった。レナは深く頭を下げマジックバックのポシェットにしまった。二人と兎達は夜まで楽しく過ごした。
◇◇◇◇◇
「失礼します。」
クーラがレナのテントにやってきた。
「うふふ。一緒に眠ってくれてありがとう!」
クーラは頬を赤らめ恥ずかしそうにレナの隣りに寄り添った。
「うわ!思ったとおりふわふわだわ!なんて気持ちいいのかしら!」
レナはクーラを優しくなで頬を寄せた。クーラはレナの優しさに、幼い頃亡くした自分の母親を思い出していた。
ずっとずっとレナ様と一緒に居れたらいいな。
「レナ様。レナ様が助けに来て下さった時、とても嬉しかったのです。もう死ぬのだと思っていました。本当に女神様が来て下さったと思ったのですよ。ありがとうございます。この御恩は一生忘れません。」
「それは言い過ぎだわ。でもありがとう。」
◇◇◇◇◇
「やめて!やめて!ギャー!!!!」
「痛い痛い・・・。誰か、誰か助けて、助けて・・・」
突然叫び声が聞こえ、レナはびっくりして目が覚めた。クーラが泣きながら震えていた。うなされていたのだ。
「レナ、レナ、大丈夫かい?」
「ラピ?」
ラピにも叫び声が聞こえたらしく、心配してレナのテントにやってきた。
「クーラの傷は深すぎるわ。」
レナはクーラを優しくなでながら、何とかしてやりたいと思った。
「ラピ、日が昇ったら私ニの街に行ってくるわ。クーラをお願い!」
「ニの街に行ってどうするんだい?」
「兎達に渡したい物があるの。お店に行ってすぐに戻ってくるわ。」
「あぁ、わかったよ。」
日が昇るとレナはニの街に向かった。アクセサリーショップに行って必要な物を揃えた。
兎といったら月よね、えっと・・・、黄色い石っと・・・。あとは革紐と・・・・。うーん・・・。いちいち店まで来るのは面倒だからたくさん色んな素材を買っておこう。うん、そうしよう!マジックバックなんだから、何でもたくさん入るうえに重くならないしね!マジックバックってなんて素敵なのかしら!
レナは帰り途中、森の中で切り株に座り込み、アクセサリーを大量に作成した。
「ただいま!」
「お帰りレナ!」
「レナ様お帰りなさいませ。昨夜はありがとうございました。あの日からなかなか眠りにつけず困っていたのですが、レナ様になでて頂いた手がとてもとても暖かくて安心できました。死んでしまった母上を思い出して安心できたのです。ですが、お見苦しいところを見せてしまったようで・・・。」
「何言ってるの!謝る必要なんてないのよ!
クーラ、私・・・あなたの力になれるかもしれないわ。あなたのあの日の記憶を消すことができる。それが助けになればいいのだけれど・・・。」
「ですが・・・、それはレナ様達と出会った事も忘れてしまうのですか?」
「そうね・・・、そうなるわ。」
「レナ様達を忘れるなんて絶対にイヤです!!大丈夫です。負けません!」
「私達はそろそろ行かなきゃならないわ。だからその・・・。」
「えっ!?それでは僕も一緒に連れていって下さい!何かお役にたてるかもしれません!たってみせます!だからどうか、どうか・・・。」
「ごめんなさい。それはできない・・・。」
「そんな・・・。レナ様達とずっと一緒にいたいです。」
クーラの目には沢山の涙が今にも溢れ出しそうになっていた。クーラは項垂れ、そしてそのままテントから出て行ってしまった。
「クーラ・・・。」
「レナ、きっと大丈夫さ。今は混乱しているだけだろう。明日になれば落ち着くよ。」
「えぇ、そうだといいのだけれど・・・。」
◇◇◇◇◇
次の日の朝二人は出発する事にした。兎達は広場に輪を作るように並び、その中に二人は立っていた。
「レナ様。ラピ様。この度は助けて頂きありがとうございました。この御恩は一生忘れません。何か私達がお力になれる事がありましたら、いつでもこの森までお尋ね下さい。」
ウーギが話終わると、兎達は一斉に頭を深く下げた。
「こちらこそ素敵な広場に泊めてくれてありがとう。貴重な果物を分けてくれてありがとう。」
二人も深々と頭を下げた。
「これは良かったら貰ってほしいのだけど・・・。」
それは革紐に黄色にも白にも見える石がついたブレスレットだった。
「これは人間からあなた達が認識できなくなる魔法がかけてある。腕か足に付けてくれたら邪魔にならないと思うの。用事があって街に行く時などは体から外せば人間から認識してもらえる様になるわ。良かったら使って欲しい。今回の事は誰にでも起こりうる事だったから、不安かと思ってね・・・。」
「おぉ!ありがとうございますレナ様。」
「これで安心だ!」
「何というお力だ!」
「本当にお世話になりっぱなしで申し訳ありません。」
兎達は交互に声を上げた。レナはこのブレスレットを兎達の腕に付けてまわった。ラピもそれを手伝った。二人は最後にクーラの前に立った。クーラはずっと下を向いたまま項垂れていた。
「クーラ、一緒に連れていけなくてごめんね。」
レナはクーラの腕にブレスレットを付けた。
「それとこれ、クーラに作ったの。良かったら付けてくれる?」
それは、レナとラピの髪色と同じ石が付いたピアスだった。
「これは、心の傷を徐々に軽くしてくれるわ。付ける際は耳に小さな穴をあけてしまう事になるけど、クーラが必要なくなったと感じた時に外してくれれば自然に穴が塞がる様になっているからね。私とラピの想いも詰まっているわ。つけてもいいかしら?」
クーラは涙をポロポロ流しながら頷いた。
「痛みはないからね。」
レナはクーラの左耳の先端の方にピアスをつけた。銀と紺の石がキラッと輝いた。
「それと・・・、自分で渡すのはなんだか恥ずかしいけど・・・、私とラピの人形よ。良かったら一緒に寝てあげてね!」
レナはクーラを抱きしめた。
「クーラ大好きよ。」
次にラピもクーラを抱きしめた。
「クーラ、心は共にある。」
「クーラ、私とラピはあなたが元気に笑顔で過ごしていく事を切に願っているわ。」
二人とクーラは再び抱き合った。
「どうか・・・、どうか元気でね!」
「笑顔でいるんだよ。」
二人は兎達全員に手を振った。
「いつまでも元気でねー!」
兎達も二人に手を振った。クーラも精一杯手を振り、二人の人形を力強く抱きしめた。




