他種族の願い(前編)
岩山地帯を抜け再び森に入った二人は、海岸沿いを目指していた。
「海はまだなのー?」
「だいぶ歩いて来たからそろそろ海岸に出るよ。ほら、塩の香りだよ。」
「あっ!本当だ!もうすぐもうすぐ。」
二人がご機嫌で歩いていると、突然辺りが霧に包まれた。
「えっ、なに?」
二人が身構えた瞬間、森の景色が変わり知らない広場に立ったいた。そこには木の根元の方や、草土の中に小さな家らしき穴がたくさんあった。
「こんにちは。突然連れてきてしまい、申し訳ないです。」
声がする方へ視線を向けると、そこには兎が立っていた。
「えっ!蝶ネクタイに小さいリュックを背負ってる兎?しかもちゃんと普通に話せてる・・・。」
「レナ、他種族だよ。」
「他種族って、見た目が動物のまんまで話せるのが他種族って事なの?・・・。私が思っていた他種族とは違うわ。」
「レナの嫌いな爬虫類、虫の他種族もいるかもね。」
「いやぁ・・・、絶対会いたくないわ!」
「他種族は術を使えると聞いたよ。どんなものかは知らないけどね。」
「へぇーそうなんだ。魔法と何が違うのかしら。」
二人が話しに夢中になっていると、兎は困ったように話しかけてきた。
「あっ、あの・・・。すみません!!」
「あっ、ごめんなさい。何か用事かしら?」
「実はお願いしたい事がありまして。」
「どうして僕らなんだい?」
「洞窟の一件をたまたま見てしまいました。お二人はかなりお強いし、優しい人間だと思いましたので、思い切ってお願いしようと思い、私達の縄張りに呼ばせて頂きました。」
「うーん、突然連れてこられたのはちょっと困るけど、話しなら取り敢えず聞くわ。」
気がつくと多くの兎に囲まれていた。全員小さいリュックを背負っている。
「ありがとうございます。あっ、名前を名乗っていませんでした。申し訳けありません。私の名前はウーギと申します。」
「私がレナ。こちらはラピよ。」
「レナ様とラピ様。ありがとうございます。ではお話させて頂きますね。私達の仲間のクーラが人間に捕まってしまったのです。どうやら一部の人間の間で、他種族を焼いて灰にし、その灰を使用する事で、他種族の術が使えるようになるといった誤った話があるようなのです。このままでは、クーラは殺され焼かれてしまうでしょう。私達には攻撃をする手段がありません。どうか、どうか助けて頂けないでしょうか・・・。」
「事情は分かったわ。いつ捕まったの?」
「今日の午前中です。どうしたものかと考えている際にレナ様達の事を思い出し、探させてい頂きました。」
「現在はお昼から数時間経った頃ね。間に合うかしら?」
「大丈夫だと思います。夜に灰にしないといけないと言っていたそうです。」
「レナ様ラピ様。僕はターラと言います。クーラが捕まったのに隠れて見ている事しかできませんでした。どうかクーラを助けて下さい!」
レナ達を囲んでいたご五十匹程の兎が一斉に頭を下げた。
「大丈夫よ。必ず助けるから!ねっ、ラピ。」
「そうだね。必ず助けるよ。それでクーラの居場所はわかっているのかい?」
「情けないのですが・・・。」
「ここは特別な場所なのかしら?取り敢えず私達がいた場所まで戻してくれる?」
「わかりました。私も一瞬に連れていって頂けますか?」
「じゃぁ、俺の肩に乗るといいよ。」
ラピはウーギを肩に乗せた。ウーギは粉を撒いて言葉を唱えた。すると霧に包まれ、景色が一瞬にして変わった。元いた場所に戻ると、レナは手をかざし森全体の気配を探った。
「五百メートル先に大きな洞穴がある。そこから気配を感じるわ。だいたいの場所を把握できたから魔法で移動するわね。」
レナ達は深い森の中にある洞穴の前に移動した。
「この洞穴だわ。さぁ、急ぎましょう。」
急いで洞穴の中へ入っていった。
「ギャーーーッ、やめて下さい。痛い痛い。」
「どうせ殺して焼くんだ。暇潰しにいたぶってやる。全く兎のくせに人間様の言葉を話すなんて気持ち悪いんだよ!許せないんだよ!」
「やめて!やめて!ギャーーーッ!!!」
レナは声を聞いた瞬間、頭が真っ白になり、クーラの場所まですごい速さで移動して行った。
「レナ様!」
「急いで追いかけよう。」
洞穴を五十メートルほど走って行くと、人相の悪い三人の男と、傷だらけのクーラを抱きかかえたレナが立っていた。クーラの体は骨が折られ、色々な所が傷付けられ、血だらけで意識を失っていた。かろうじて息をしているような状態だった。レナは回復魔法をかけるとラピに任せた。
「なんだぁ?お前ら!そのうさこー返せよ。」
「おい、聞いてるのか!」
「どうしてこんな酷い事ができるの・・・。」
「はぁ?たかがうさこー一匹に何言ってんだ?人間様が活用してやるんだから、うさこーも幸せだろうよ。ガハハハハッ。だいたい人間様の言葉話すなんて気持ちわりぃーんだよ。」
「よく見たらお前いい女じゃないか!首輪付けて飼ってやろうか?」
「毎日可愛がってやるよ。アハハハハッ。」
「・・・許さない。」
「はぁ?聞こえねーなー。」
「よくも・・・。よくも・・・。」
レナは突然赤い光に包まれた。そして呟いた。
「全く人間という生き物は・・・。目には目よね・・・。」
レナは手をかざした。
「クーラと同じ痛みを味わった後死ね。」
すると男達の体中の骨が音をたて折れ始めた。
「ギャーーーッ!!!」
「なんだよこれ!!!」
男達の悲鳴が飛び交った。次に体中がナイフで深く切られたように切れ始め、大量の血が流れ出した。
「こっ、この怪物ヤローッ!!!」
「ははっ、怪物で結構。クーラの痛みを知れ。」
それはとても残酷な光景だったが、レナは冷めた目で男達の最後を見送った。
「レナ!!」
レナはラピの声が耳に入りようやく我に返った。すると突然咳き込み始めた。レナは瞳の色が金色に変わったのだと悟った。レナはフードを深くかぶり目を隠した。
「レナ様大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。戻りましょう!」
◇◇◇◇◇
「レナ様ラピ様本当にありがとうございました。」
「ありがとうございました!!」
兎達は一斉に頭を下げた。
「いいのよ。気にしないで!」
「俺はほとんど何もしていないから。」
「そんな事ないわ!!」
「お二人に何かお礼をさせて下さい!」
「本当に大丈夫よ。」
「ですがそういう訳にも・・・。」
「うーん・・・じゃあ今夜この広場に泊まってもいいかしら?テントはあるから野宿できるし、クーラも心配だからいい?」
「そんな事で良いのですか?もちろん泊まっていって下さい。こんな所でよければ何日でも居て下さい!」
「うん、ありがとう!」
「ところでレナ様、瞳の色が変わったように思うのですが、気のせいでしょうか?」
「あぁこれね、さっき気分転換に魔法で変えたの。これからはこの色でいくわ。」
レナはラピに聞こえるように、大きな声で話した。
「ねえ、私から一つお願いがあるの。」
「はい。何なりと申し付けてください。」
「私の力の事絶対秘密にして欲しいの。お願いできる?じゃないと・・・。」
「そんな事でしたか!大丈夫です。決して口外いたしません。皆分かったな。」
「はい!」
兎達がレナに向かって敬礼した。
「レナ、その瞳の色も綺麗だよ。」
「ふふ、ありがとう。」
ラピはレナに背を向けた。悲しそうに笑った。
◇◇◇◇◇
二人は広場の真ん中にテントを張った。
「ねぇラピ、とっても星が綺麗だよ。」
「レナの瞳の色みたいだね。」
「私の瞳はそんな綺麗なものじゃないわ・・・。私、人を殺めてしまった・・・。」
「あれは仕方のないことだよ。俺だって同じ事をしたさ。」
「私ね、本気で人を殺してやりたいと思った事があるの。本当に首を絞めてやろうかと思ったわ。結局できなかったけど・・・。精神的に追い詰められていたとはいえ、人に殺意を持った瞬間に自分という人間に絶望したわ。そこからね、自分を含めた人間の汚い部分しか目に入らなくなったのは・・・。人間は心の中に負の感情を覚醒させた瞬間から、人に対して負の感情を簡単に向けるようになるわ。私みたいに人に対して殺意を持った瞬間から、簡単にそう考えるようになる。次第にその事に対して何も感じなくなっていくわ。殺意なんて誰でも持っていて、ずっと眠っている感情なのかもしれないけれど、一度覚醒させてしまうと、目覚めたままになり止まらなくなるわ。人を憎む感情も一緒ね。できれば覚醒させたくなかった・・・。決して覚醒させてはならなかった・・・。殺意や憎しみや嫉妬、他にも負の感情はたくさんあるけれど、どれも自分自身を縛り苦しめる感情ばかりだわ。人間はやはり、自分で自分の首を絞める愚かな生き物だわ。」
「でもレナはずっと忘れず、苦しみ、もがいているじゃないか・・・。そんな人間を愚かだとは思えない。ただ思う事と、実行に移してしまう事は別の話しだよ。レナは首を絞めなかった。それからずっと苦しんでいる。忘れないようにしている。答えを探している。そんなレナは凄いと思うし、愛おしく思うよ。」
「私は現実逃避してきただけ。ラピは人を見る目がないわね。」
「あはは。」
知っているよ。君が何度も同じ運命を繰り返してきたことを。
知っているよ。君がいつも遠い目をしていることを。
知っているよ。君が隠れて涙を流していることを。
知っているよ。君が愛に飢えていることを。
知っているよ。君がガラスのように繊細で傷つきやすいことを。
知っているよ。君がとても優しいことを。
全部全部知っているんだ・・・。




