新たな決意
「レナ、今日こそたくさん魚釣ってくるから待っていて。」
「うふふ、期待して待ってるわ。」
ラピはここに来てから魚釣りにはまっていた。最初は全く釣ることができなかった。それが相当悔しかったのか、毎日川で糸を垂らしている。少しずつ釣れる様になってからは、段々楽しくなってきたようだ。
「気分転換に少し山に入ってくるわ。」
「気をつけてね!」
レナは山の中をただ歩いていた。ここに来てからの日課になっている。あんなにうんざりだった木々がとても心地良く、リラックスできた。
そういえば私の妙な勘だけれど、あの彼岸花畑には、やはり意味があったのかしらね。前兆というかなんというか・・・。悲しい思い出、諦め・・・。あの村の出来事を予知するように咲き誇っていたんだわ。もしかしたら見落としていただけで、他にもそういう予知みたいなものがあったのかもしれない。今後も何かあるのかもしれない。私はもっと強くならなければいけない。今更この性格や考え方は変えられないだろう。ならば、ラピだけの為に強くなろう。ラピだけを守ろう。ラピとの時間を大切にしよう。ラピの事だけは何が起きても信じ抜こう。ラピだけは、ラピだけは幸せになって欲しい。
私の時間はもう少ないだろう。ここに籠っていればずっとラピと一緒に居れる。永遠に生きられる。でも、私の都合にラピを巻き込んではいけない。ラピにはラピの帰る場所があるはず。どうにか記憶が戻ればいいのだけれど・・・。もし、もしラピの記憶が戻った時は、感謝を伝えて潔くラピの前から姿を消そう。それだけは誓おう。
◇◇◇◇◇
「お帰りレナ。」
「たくさん釣れたの?」
「あはは、三匹位かな・・・。」
「でもこの三匹大きいよ。美味しそう!」
「あぁ!みんなで食べよう!」
二人と一羽は、ラピが釣った大きな魚を美味しそうに食べた。
「この魚身がたくさん!最高に美味しいよ!」
「じゃあ、明日また頑張ろうかな。」
「うん!頑張って。」
「あぁ。」
二人は他愛のない話で盛り上がった。ここに来てから毎晩こんな感じだ。
「さぁ、もう寝ようか。」
「ねぇラピ、今日から一緒のテントで寝てもいいかしら?」
「えっ!!!」
「あっ、ごめん。なんでもない。」
レナが顔を赤くしたまま立とうとすると、ラピはレナの腕をつかんで抱きかかえた。
「びっくりしただけだよ。喜んで!!!」
二人は同じテントの中で横になった。
「ラピが近くにいると落ち着くわ。」
「俺はずっとこうしたかったよ。」
ラピはレナを抱きしめ離そうとしなかった。
「本当にいつもありがとう。でも・・・どんな事があっても、もうあんな事はしないでね。その瞳はラピの一部だからこそ綺麗なんだよ。私これからは、何があってもラピのことだけは信じ抜くわ。」
「うん。約束するよ。」
「うん・・・。ねぇ、でもどうして私の魔法ラピを傷つける事ができたのかしら?以前渡したブレスレットにあらゆる攻撃魔法から守るように魔法をかけたわ。それなのにどうしてラピは傷だらけになったの?ブレスレットの魔法が失敗してたって事?」
「それは違うと思うよ。レナがブレスレットに魔法をかけた。だからレナからの魔法を攻撃とみなさなかったのだろう。なんて言うか、同じ波動のモノだったから受け入れたというか・・・。」
「・・・・なんとなくわかったわ。」
確か・・・ギルドに初めて行った時波動を登録したな。前世の世界の指紋認証と一緒なのだろう。
ブレスレットの魔法は、魔法をかけた人間と、攻撃してきた魔法の指紋が一緒だったからロックをかけなかった・・・みたいな認識でいいのかしら。
「本当にごめんなさい。」
「レナが綺麗に治してくれたし大丈夫さ。レナももう気にしないで!」
「うん。本当にごめんなさい。ありがとう。」
「うん。」
「ラピの匂いは優しくて少し甘い香りがする。なんていうか、私とても幸せだわ。」
「俺はレナが側に居てくれるだけで幸せだよ。レナの声も顔も匂いも性格も、全部全部愛おしくてたまらないんだ。」
「・・・。」
レナは顔を真っ赤にした。ラピはレナの顔を自分の顔の方へ向け、おでこをコツンと付けた。二人はそのまま深い眠りに落ちていった。
この日から二人は一緒に眠りにつくようになたったが、離ればなれになるその日まで、決して肌を重ねる事はなかった。
◇◇◇◇◇
この場所に来てから半月程経っていた。レナは毎日山を歩き、何気ない日常を二人と一羽で過ごした。そのおかげでレナの心は少しずつ安定していった。
「ラピ、そろそろ旅の続きをしなくちゃね。」
「ずっとここに居る選択肢もあるんじゃないかな・・・。」
「ずっとここに居ては、ラピの記憶が戻らないわ。色々な刺激があった方が戻りやすいと思うの。」
「・・・うん、そうだね。そろそろ出発しないとだね。」
「うん。きっと今後も楽しい旅になるわ。」
「あぁ。」
◇◇◇◇◇
二人は『サンの街』に向かう事にした。
「サンの街って一番大きいらしいよ。」
「へぇー、お店も宿もたくさんあるといいなぁ。あとボーっとできる場所とか・・・。」
「あはは、そうだね。あんまりゴミゴミしていなきゃいいんだけど・・・。」
「そうね、比較的静かな街だとありがたいけどね。」
「あの場所の生活が心地良過ぎたよ。」
「私も楽しかったわ。それに、うん。とても心地良かった。」
そんな会話をしながら歩いていると、道の隅に座り込んでいる少年を見つけた。どうやら足を痛めているようだ。
「君大丈夫かい?足を痛めた?」
「うん。くじいちゃったみたいなんだ。」
「大丈夫。私が治してあげる。」
レナが少年の足に向かって手をかざすと、あっという間に足の痛みが引いていった。
「はい、これで大丈夫。」
「本当だ!もう痛くないや!」
「私はレナ、こちらはラピよ。よろしくね。」
「僕はソラン。よろしくお願いします。」
「綺麗な髪の色ね。まるで草原みたいな緑色。瞳もお月さまみたいで綺麗だわ。」
「ありがとう。」
「一人で旅かい?」
「うん。僕はサルス村出身なんですが、村自体あまり裕福ではなくって・・・。両親も体があまり丈夫ではなくて、幼い弟もいるので、丈夫な僕がどうにかしなきゃって思った。だから出稼ぎに、サンの街に仕事を見つけに行く途中なんです。」
「サルス村・・・、ラピ知ってる?」
「ごめんわからない。」
「まだまだ知らない村や街がたくさんあるのね。縁があったら行ってみたいわ。何か力になれる事があるかもしれないしね。」
「あぁ、そうだね。」
「ありがとうございます。そんな風に言ってもらえて嬉しいです。」
「俺達もサンの街に行く途中だから一緒に行くかい?」
「いいのですか?実は一人じゃ不安で・・・。」
「目的地は一緒なんだから一緒に行きましょう!ね!」
「はい!ありがとうございます。」
三人は一緒にサンの街に向かって歩きだした。
「ところで歳はいくつなの?」
「十二歳です。」
「まだ幼いのに尊敬するよ。君はとても優しくて強い子だね。」
「どんな仕事を探しているの?」
「家に仕送りさえできれば何でも頑張ります!少しでも多くお金が貰える仕事を見つけたいです。」
「いい仕事が見つかるといいわね!」
「はい!」
「あっそうだ!ポシェットにビスケットがあったような・・・。」
レナはポシェットの中に手を入れた。
「えーっと・・・、これかな・・・。」
「レナ、いつお菓子を買ったんだい?たくさん入っていそうだよ。」
「えっ、行った街で少しづつ買い足していったけど・・・。もう!笑わないで!甘いものは必要です!!」
「あはは。」
「あった!はい!これあげる。ビスケットと干し肉ね。甘い物の後にはしょっぱい物が食べたくなるからさっ。」
「ありがとうございます。」
「レナのポシェットには何でも入ってそうだ。」
「何でも入ってるわよ。もう、ラピは意地悪だなぁ。」
「あはは、ごめんごめん。」
「はい!ラピにもビスケットと干し肉あげる。食べながら行くのです!」
「うんうん。そうしよう!」
三人は楽しい時間を過ごしながらサンの街を目指した。
レナとラピはサンの街に行くことによって、この穏やかな日々が突然失われてしまう事を知る由もなかった。




