花園で
二人は街を出てからすぐ森に入り、目的地も決めずに歩き続けていた。
「だいぶ歩いて来たわよね。なんだか微妙にずっと上り坂だわ。」
「あぁ、そうだね。緩やかに上がっていってるね。そのうちどこか開けた場所に出るだろう。」
「こんなに長い間森の中を歩いているなんて初めてじゃないかしら!?空気は美味しいし、木漏れ日は綺麗だし、最高だわ!た・だ・し、微妙に上り坂じゃなければね・・・。」
「あはは、もう疲れたのかい?」
「ううん、大丈夫!体は若いから!」
「あはは、レナは面白いね!」
「スモーキーはちゃんとついてきているかしら?」
二人は空を見上げたが、森の木々でスモーキーは見えなかった。
「う~ん・・・。大丈夫よね?今までもちゃんとついてきていたんだから!」
「レナ、ほら、どうやらどこかに出たようだよ。」
「わぁ、やっと空が見れるのね!」
二人が進んで行くと少し開けた場所に出た。そこは小さい草原のようになっていたが、崖の上のようだった。
「うわぁ、気持ちいい。あそこは街?村?低い岩山に囲まれているようだわ。」
「レナ下を見て!」
レナが下に目を向けると、そこには赤い花が一面に広がっていた。
「まるで花の絨毯みたいだ。」
「うわぁ、なんて綺麗なの!ラピ、下に降りましょう。」
レナ達は魔法を使って下に降りた。
「この花は彼岸花?」
「彼岸花?」
「私のいた世界にもあるお花よ!」
「綺麗な花だね!」
「ねぇ、この崖の上で数日野宿してもいいかしら?しばらく眺めていたいわ。」
「うん、そうしよう。」
二人は崖の上にテントを張り、数日過ごす準備を整えた。
「あっ!スモーキーここに数日留まるわよ~。」
レナはスモーキーに向かって叫んだ。そして思い出したように
「バカヤロー!」
「えっ?なに?どうしたの?」
「あはは、私さ、以前の世界でずっと思ってたんだよね。海に行って思いっきり叫びたいって!まぁ、人いるから恥ずかしくてさすがにできなかったけど・・・。ほら、大声で叫びたい時ってあるでしょ?なんだかすっきりしそうだしね。ラピもやってみたら?」
「えっ!でも、まぁやってみるか・・・。」
「バカヤローじゃなくてもいいのよ。」
「じゃ・・・、うぉー!うぉー!」
「あはは、いい感じ!」
二人はしばらくの間、崖の上から叫び続けた。
「うん!すっきりした気がする。」
「うん!確かに。」
二人はお互いの顔を見ながら笑い合った。そんな事をしている間に日が暮れ、二人は夕食を済ませた後、暖かい飲み物を片手に崖淵に腰を下ろし無数の花を見つめていた。
「ねぇラピ、やっぱり人間って自分勝手な生き物よね・・・。ロキやソフィーを見ていたら、なんだか色々思ったわ。これは自分を含めた人間の話だけど、人間って自分が差別されると狂ったように怒るのに、どうして何にでも差別するのかしら。花はただ咲いているだけ。なのにこれは何用に向いているとか向いていないとか。縁起がいいとか不吉とか。こんなくだらないこと、人間が生きてきた歴史の中で、少しづつ積み重ねられてきた不要のものだと思うの。そんなこと花からしたら関係ないのにね。花はただ懸命に咲くだけ。動物だってそう。カラスは不吉だとか、黒猫は不吉だとかそんなのはおかしい。色で差別している。全てを人間の価値観だけで勝手に決めている。本当に何に対しても勝手よね。見下される事を最も嫌うのに、必ず何かを見下すわ。人間て何なのかしらね・・・。どうして負の感情に快楽を感じるのかしら・・・。人間が全滅したところで、誰も何も困りはしない・・・。」
「・・・。」
「人間は学び変えていく力があると言う人がいるけれど、私は不可能だと思うの。人間は人間だもの。根本が変わらないのだから変わらないわ。それに、人間は変わらないってとっくに証明されていると思うの。だって『歴史は繰り返される』って言葉があるんだもの。現に私の世界では戦争がなくならなかった。過去の過ちから何一つ学んでない証拠だわ。しかも人間の欲から始まっているのよ。本当に人間には失望する・・・。不完全過ぎで、もっとも醜く愚かで悲しい生き物だと思うの。私、生まれ変われるなら、二度と人間になどに生まれたくないわ。花とか鳥がいい。」
「レナ・・・。」
「あっ、私生まれ変ってるのよね・・・。また人間。あはは。ごめんね、突然変な話しちゃって。」
レナは横になり夜空を眺めた。たくさんの星がキラキラと輝いている。
「ラピ、星きれいよ!」
ラピも横になり星を眺めた。
「ラピの瞳は夜空みたいよね。本当に綺麗だわ。人間として生まれ変わって、唯一良かったと思えた事は、ラピに出会えた事と、この景色を一緒に見れた事かしら。」
レナはラピをみて優しく微笑んだ。二人は無言のまま夜空を眺め続かけた。ラピは何かを考えていたようだが、ゆっくりと静かに眠りに落ちていった。レナはその様子をずっと見ていた。
私はラピが好きだわ。でも以前の人生でも思っていたけれど、自分は本当に人を愛せるのだろうか?自分の事も愛せず嫌悪感しか持っていない。それとも、矛盾しているけれど、実は自分の事しか愛せない人間ではないのだろうか?だから自分の事を、心を守ってばかりいる。私の心はいったいどうなっているのだろう?私という人間はいったい何なのだろう?自分は何処にいるのだろう・・・?
レナは夜空を眺めた。そしてレナも静かに眠りに落ちていった。
◇◇◇◇◇
それからの数日は花を堪能したり、他愛のない話をしたり、料理に挑戦してみたりと、のんびり過ごした。
「そろそろ出発しなきゃね。」
「次はどこに向かおうか?」
「そうね・・・。あそこに見える街?村?に向かってみようと思うの。」
「うん、そうしよう。」
「レナ・・・。渡すタイミングが分からなくて、なかなか渡せないでいたんだけど・・・。」
「・・・なに?」
「二の街の店で作らせてもらったんだ。レナは俺の瞳が綺麗だと言ってくれるから、えっと、その・・・。俺の瞳にそっくりな石の耳飾りなんだけど・・・。受け取ってくれるかい?」
「えっ、本当?もちろん欲しいわ!!」
「あぁ、良かった。」
「はい、これをレナに。」
「ありがとう!うわぁ、なんて綺麗なの?ラピの瞳をそのままピアスにしたみたいじゃない!ラピの瞳は本当に綺麗なのよ!ラピスみたいで神秘的!どうもありがとう!何があっても大切にするわ!絶対に無くさない!」
「あぁ、喜んでくれて嬉しいよ!」
それは本物のラピスの石だった。石の大きさもラピの瞳の大きさと一緒だった。そのピアスにはラピの想いと願いが込められていた。レナの両耳にシルバー色と青い石がキラッと光った。
このピアスがあればずっとラピと一緒だわ。一人になったとしても大丈夫。ありがとうラピ。
レナは空を見た。いつもより澄んだ青い空に感じた。
「よし出発よ!」
「あぁ。」
二人は笑顔で歩きだした。一面の彼岸花を抜け森に入りかけた瞬間、レナはふと思った。
確か赤い彼岸花の花言葉には『悲しい思い出』『あきらめ』などがあったはず。何か意味があるのかしら?全くの偶然かしら?父様はどうして赤い彼岸花にしたのだろう・・・?
二人の頭上でスモーキーが静かに鳴いていた。




