表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/18

一一 喰われもの②


「裏切り? そんな言われをする覚えはないな······!」


 呼気をととのえ、袖を鳴らして李鷹が臨戦態勢にはいった。普段の様子からは想像もつかない険しい表情に、盈秋は息を呑む。

 かつては同輩だったという彼等。その間になにがあったというのだ。ここまで激しくぶつかり合うなんて。


 腰を落として構えた李鷹の足元からは、金色の光が吸いあげれられ、全身を伝わって両の掌へと収束していく。

 一方、布帛は重みゆたかな偃月刀(えんげつとう)を、その細身のどこに秘めるのかという程の力で、楽々と車輪のごとくに振りわます。


「無駄だと思うよ? いくら君が『還す力』を駆使しようともさ。──この、亜鋼特製の刀の前ではなにも出来ない。そうとも、しょせん君は祈禱具(ぎょく)でしかないんだから!」


 玉と鉄。祈りと実益。相反するといってもいいふたつの極み。だが、こと暴力においてその優劣は語るまでもない。

 鉄で割れぬ玉など、古今通じて存在しない。


「······どうかな。やってみるがいいッ!」


 有無をいわさず李鷹が突っ込む。剛力を奮って打ちつけてくる奴を二度、三度と躱す。

 裏拳の要領で、突いてくる一撃を避け様、後ろ手に柄をつかむ。

 だが。


「ちっ」

「残ぁん念。こいつは現代(いま)で拵えた物でしたっ!」


 ぐいとひき戻して足元を脅かす。太腿をわずかに掠り、李鷹の顔に苦痛の表情が浮かぶ。


「姐様っ、みたっ!?」


 盈秋は襲いくる影鬼へと、投石で必死に抗いながら叫ぶ。

 あいかわらずよく当てる。が、いつぞやと違い効果は薄い。逃げまどう助けになるのがせいぜいだ。


「やっぱり彼ら同士だと傷つけられるんだ!」


「むう! これはやっぱり──」


瞬迅に突きつけられた影鬼どもの槍先をヒラリと躱し、桃霞は盈秋のもとへ跳ぶ。

 刹那、彼女らへと李鷹の意識がむいた隙を、布帛は見逃さない。猛然と間を詰める。


「ほぅらほら、他に気を取られている場合かなっ!?」

「!」


 自身が烈しく打ちかかるだけでは終わらない。周囲をとりまく影鬼どもが襲いかかってくる。

 李鷹が吠える。躍動し、ついに全力を奮う。首元を斬りつけた刃を併せどる。


 ──!──


 輝く掌に挟まれた古めかしい剣から、急激に暗気が抜けていく。勢いは武器だけに留まらない。握った影鬼をも諸共に呑みこんだ。


「!?」


「ッ! オオオオッッ!!」


 影鬼どもは、得物であろうが身体であろうが、李鷹の掌に触れられるだけで結びを解かれ、霧散していく。

 しかし布帛だけは勝手が違う。

 苛烈な膂力(りょりょく)で振るわれる偃月刀は、もちろん素手で受けることなど敵わない。

 躱しつづけるしかない。素手の李鷹にとってはあまりにも不利だった。

 布帛は勢いに任せてビョウビョウと振り回す。ふたつ、みっつと、李鷹の身に傷が増えていく。


「残念だけど李鷹。君とじゃ、真っ当にいけば俺は分が悪い。けど今なら! この状況ならッ! 俺たちの悲願のため──消えてくれよォッ!!」


 勝機とみた。必殺の気合をこめた一撃が振り抜かれる。


「──それが。傲慢だというんだッ!!」


 瞬間。李鷹が身を沈めて(かわ)しざま、空を駆けあがるかと思えるような身軽さで跳躍をみせた。

 布帛の肩を蹴上げ、頭上から両掌で頭を挟みこむ。

 そのまま逆立ちで留まった。



「······終わりだぞ、布帛······」


「··················」



 ながい、ながい間をおいて。やっと布帛は答えた。


「······そのようだ······けどね、李鷹。これでいいんだ。俺はけっして敗けた訳じゃない」


「······布帛よ」


「負け惜しみだと? げんに君は俺にばかり気を払っているじゃないか」


「なに──」


そこまできて李鷹はようやく悟る。


「······やってくれたな」


「ハハハッ!」



『去レ』



 李鷹の掌が無情の輝きを放ち、布帛という存在は頭から光に呑まれ、霧散して消えた。



 影鬼らから逃げ回っていた盈秋と桃霞は、ほっと息をつく。

 だが李鷹の様子には微塵も安堵の色がなかった。せわしく背を翻す。盈秋はあわてて呼びかけた。


「どうしたの!?」


「──よくある手だ!」


李鷹は叫ぶ。


「狙いは私とみせて、やはり関西軍だ!!」 


 そう、誘導されていた。別動隊がいる。そして今このとき、馬超らの陣に襲いかかっているかも知れない。

 執着していたのはむしろ自分の方で。彼らはしかと現実(いま)をみた行動をとっていたのだ。


 我に似合わず叫んでから、李鷹の足がはたと止まった。

 ふたりは依然、影鬼の群れに囲まれていた。

 彼奴(きゃつ)らがどこまで先行しているのか判らないいま、一刻が争われる。しかし。そちらを優先するということは、つまり──



「じゃあ······行って!」



 あまりにも思い切りのよい言葉に、李鷹は目を見開いた。盈秋は桃霞と頷きあうと、確信をこめてもう一度いった。

 瞳に決然とした意思と、奇妙なことには自信をのぞかせて。


「こっちは大丈夫! 大丈夫だからッ!」


「もうお前いなくても平気! 足手まといにはならない!」



「······恨みたまうなっ!?」


 迷う時も惜しい。

 せめてうまく逃げてくれるよう願いながら、やむなく李鷹は、空へと一歩を踏みきった。





 李鷹を見送ったふたりは、あらためておし迫る影鬼どもの群れに向かいあう。

 瘴気はいまもって強く、一帯を天蓋のごとく覆っているだろう。地上を逃げ回るならまだしも、空を駆けて遠方へ避難することはもう叶うまい。

 さらに、このままこの者らを放っておく、などということは出来ない。

 最低限、李鷹が別動隊を片付けて戻るまで、引きつけ、足留めして置かなければならないのだ。みずからの身をもってしてもだ。

 それでもふたりには、李鷹の帰還をまつ、などという後ろ向きな目算は初めからない。


「じゃあ試そう姐様。······くれぐれも無茶だけはしないでね」


「分かってる。盈秋も離れすぎないで!」


 桃霞が咆哮する。

 宙へと踏みきると、くるりと一転する間に黒の戦袍姿へと変じた。

 たなびく黒の袖と裾、そして尾。

 左肩には、衣へ化した黒虎の名残りの頭。

 一体となった頭巾の下からのぞく瞳は、赤金の強い輝きに燃えたつ。


『お前たちは私が送ってやる!!』


 迫る影鬼ども顔を容赦なく踏んまえて、地に降りたった。

 間髪入れず振り下ろされる手斧を、自慢の黒爪が迎え撃つ。

 以前なら相反する衝撃で、ともに吹き飛ばされていたろう。



 ──!──



 すっ飛んでいったのは、影鬼のもつ肉厚の刃物だけだった。



『ぬゥゥゥゥウウゥンッッッ!!!』



 一斉に襲いかかってくる左右の刃物を、両の爪で突き止める。またも軽々と受けきった。

 息もつかせず、柔軟な動きでとんぼを切る。今度は前後の者を双蹴りで仕留めた。


 ───ォオオオオっ───


 不可解だ、といわんばかりに陰鬱な唸り声をあげ、一撃をうけた影鬼らが霧散していく。



 攻勢はとおる。こうなれば。

 いかに相手が十人並みの力を備えていようと、桃霞が遅れをとるはずはなかった。

 荒ぶる猛虎そのままに桃霞は躍動し、爪を、拳を、蹴りをはなつ。


 それほども時をかけず、一方的蹂躙という形で。

 影鬼の残党をまとめて霧散させてしまった。



「姐様やったね! 大丈夫?」


『もちろん。これも盈秋のお陰っ』


 ふたりは駆けよって手を握りあう。

 桃霞はごぞごそと襟元から、首にかけていた紐を手繰った。その先にさがる、淡い翠波を圧し固めたような三角の薄片。

 小憎らしいとばかり、コツンと指先ではじいた。


このサブタイ、まだ続きます。


誤表記を修正いたしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ